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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第341話 永遠の意味

ポルタ人とオランダ人の二つのケープ植民市を巻き込んで争う、現地人のズールー族と反ズールー連合。

その戦いを終わらせるため、エンリ達は反ズールー連合の中心サン族のドラゴンの司祭ニカウを連れ帰るべく、彼の友人の牧場を訪れ、村への帰還を求めた。



ドラゴンのファフの背に乗ってサン族の村に向かうエンリたちとニカウ。

「司祭って事は、あのドラゴンって神様的な存在なの?」

ドラゴンの上でそう尋ねるエンリに、ニカウは「大精霊の使いです。それで、人々は神殿を造って祀ったそうですが、やがて信者が居なくなって、神殿は荒廃したと・・・」


「宗教ってのは流行りすたりがあるからなぁ」

そうジロキチが言うと、ニカウは「というか、彼がもたらした言葉が、あまり歓迎されなかったのだそうで」

「どんな言葉なんですか?」

そうリラに問われ、ニカウは答えた。

「人間は必ず死ぬという・・・」

「そりゃ歓迎されないわな」と一同、納得顔。

「それに、言葉を伝えるだけって事は、何かして助けてくれる訳じゃ無いのよね?」

そうタマが言うと、エンリは「いや、神様ってのはそういうものだよ」


「けど、ベルベドさんはカメレオンのドラゴンから預言の力を貰ったんですよね?」

そうリラが言うのを聞いて、エンリは思った。

(預言って、いったい何だろう)



サン族の村に着くと、村は戦闘態勢の状態になっていた。

エンリたちが様子を見に物陰から近付くと、連絡役として残っていたアーサーが、彼等を見つけて駆け寄った。


「どうなっている? ベルベドはどうした?」

そう問うエンリに、アーサーは「ベルベドさんの留守に反ズールー派が攻勢をかけたんです。多くの村が占領されて村人が人質にとられ、拠点の村が今、総攻撃を受けています。ベルベドさんとドラゴンは戻って防衛に・・・」

「トカゲのドラゴンは?」

そうエンリが問うと、アーサーは「戦闘を拒否して連合側の族長たちが説得中です」

ジロキチが「ドラゴンが投入されないのは、せめてもの救いだな」

タルタが「けど、向うにはアラストールが居るぞ」


そんな様子を見て、ニカウが言った。

「ドラゴンは事情を知っているのですよね? 族長たちは彼と一緒に自分が説得してみます。けど、どう説得していいのか・・・」

「誰か一緒に行ったほうがいいんじゃないかな」

そうアーサーが言うと、エンリは仲間たちに言った。

「俺が行こう。お前たちはファフに乗って、一足先にズールーに加勢してくれ」



仲間たちを乗せたファフのドラゴンを送り出すと、エンリはニカウと一緒に村へ。

村人たちが彼を見つけて集まってきた。


「ニカウ司祭じゃないですか。今まで何を・・・。ってか、そっちのユーロ人は?」

そう言う村人たちに、エンリは「私、東インド会社の社長さん。とっても偉い人」

ニカウは怪訝顔でエンリの耳元に「そうなの?」

エンリは小声で「私がポルタの人間だとバレると面倒なので」


そんなエンリを村人たちは「こちらにどうぞ。いろいろと要望があるという人が来ていまして」と言って、引っ張って行こうとする。

即興の誤魔化しが裏目に出たエンリは、焦り顔で「いや、彼と一緒の緊急の用事があるんだが」

村人たちは「そう急がなくても」

「大切な約束なんだ」

そう更なる焦り顔で言うエンリに、村人たちは「三日間くらいは待って貰えばいいじゃないですか」

「いや、そっちに待って貰って欲しいんだが。ってかお前ら、呑気過ぎだろ」とエンリ。


その時、一人の村人が「ところで社長は何というお名前でしたっけ?」

「オレンジ公だが」とエンリ。

「ちょっと待て。東インド会社のトップの役職名って、確か社長じゃなくてCEOって・・・」

即興の誤魔化しにボロが出たエンリは、焦り顔で「そーだっけ?」

その時、一人のオランダ人が彼等を見つけた。

「お前はポルタのエンリ王子」



遂に正体がバレたエンリは、風の巨人剣を地面に突き立て、ニカウの腕を掴むと、一気に巨人剣を伸ばして棒高跳びの要領で空へ・・・。

そして祭壇のある集会所の建物へと飛んだ。


中に入ると、各部族の族長たちがドラゴンのトカゲを説得中。

族長たちはニカウを見て「司祭ニカウよ、よく戻ってくれた。ドラゴンが戦いを拒んで動かないのです」

ニカウは彼等に言った。

「この戦いを止めて下さい。ズールーの預言は本物です。オランダ人たちは我々を支配しようとしている。ズールーとは和解すべきです」

「和解すれば彼等の支配は終わるのですか?」

そう問う族長たちに、ニカウは「私はそのために来ました」

一人の族長がニカウに「あのカメレオンの司祭を、あなたは御存じなのですか?」


その時、トカゲが口を開き、その言葉をニカウは長老たちに伝えた。

「彼が大精霊から受けた言葉は自分も知っている。それは、人は永遠に生きる方法がある・・・という事です」

族長たちは「まさか、そんな事が・・・」

そして、一人の族長が言った。

「けどそれは、あなたが言った事と矛盾するのではないですか?。そもそもそれと、預言とどう関係するのですか?」



エンリは思考した。永遠に生きるとは、どういう事なのか。

ベルベドにも寿命はある。だから彼は、自分を犠牲にして歴史を変えようとした。


永遠とは即ち、時の流れによる変化に制約されないという事だ。

そして予知とは、時を越えて未来を見通すという事だ。

それは、自分自身にとっての未来に生き続けるという事では無い。けれども、他者から見ればどうなのだろうか。


精霊の世界は、現世とは時の流れが異なる。

それは、そこに居れば現世の時の流れに制約されないという事だ。



エンリはその族長に言った。

「あなたは永遠に生きるという事がどういう事か解りますか?」

族長は「・・・トカゲのドラゴンはご存じなのですか?」

「いえ、大精霊からそれを聞かされたのはカメレオンの彼だけです」

そうトカゲのドラゴンは答え、ニカウがその言葉を伝える。


エンリは言った。

「カメレオンのドラゴンに伝えられた事が何なのか、私も知りません。ですが、推測する事は出来る。永遠とは、この世界とは時間の流れの異なる精霊の世界に生きる事ではないのでしょうか。そこに居る事で、時を越えて未来を知る。それは、過去や未来の人と触れるという事です。けして彼自身が長い時を楽しむ訳では無い。けれども、現世に居る他者から見れば、永遠に生きる人と同じです」

「つまり、本人にとって不老不死のようなメリットのある話では無いと」

そう言って族長が俯くと、エンリは「ベルベドさんは不老不死ではない。彼にはちゃんと寿命があります」

そしてトカゲのドラゴンは呟いた。

「私の言葉は、人々に不幸をもたらした訳では無い・・・という事なのか」


ニカウは族長たちに言った。

「ズールーの預言者ベルベドの警告は本物です。このまま彼等を倒せば、オランダ人たちはやがてこの土地を支配し、我々の子孫は彼等の奴隷となる。ズールーと和解し、この戦いを停止しましょう。東インド会社は我々に利益をもたらさない」



その頃・・・・・・。

エンリをサン族の村に残した彼の仲間たちは、ファフのドラゴンに乗って戦場に到着していた。

ベルベドのドラゴンはアラストールと戦い、その強力な炎に圧されている。

村を守るズールー側は、多くの村が占領されて人質をとられて戦えない兵が多く、明かに劣勢だ。

ベルベドが召喚したオーガやズンビーたちが東インド会社の兵と戦っている。

やがて、魔導士たちの光魔法がアンデッドを消滅させた。


そんな様子をファフの背中から見たエンリの部下たち。

「これ、制圧されるぞ」

そうタルタが言うと、アーサーは「とにかく俺たちも守り手に参加だ。ファフはカメレオンのドラゴンに加勢してくれ」

リラが「ポルタの市民兵にも加勢を呼びかけましょう」



ファフは村の広場に降り立ち、みんなを地上に降ろす。

そしてアーサーは通信魔道具で元祖ケープの市長と連絡をとった。


「市民兵でズールーに加勢して下さい」

だが、通信魔道具の向こう側に居る元祖ケープ市長は「戦況は知ってますが、巻き込まれたくないと言う奴が多くて・・・」

「ズールーが負けたら俺たち、どの道ここには居られなくなるぞ。ここは航路の要衝だ。インドへのルートをオランダに乗っ取られる」とアーサー。

「せめてエンリ王子の命令があれば・・・」と市長。

「王子はサン族と交渉中だ」とアーサー。

「だったらそれが終われば・・・」と市長。

「間に合いそうにない」とアーサー。


そんな押し問答にリラが割り込んだ。

「私が代わりに命じます、私はあの人の妻です」

市長は困り声で「いや、王子の妃はイザベラ女帝では・・・」

アーサーが「彼女はスパニアの代表でスパニアは外国だ。けどリラさんはポルタだけの代表だ」

「ですが・・・」


困り声を発する通信魔道具に、リラは「私のお腹に彼の子が居ます」

「本当ですか!」

そう驚き声を発する魔道具の向こう側の市長に、リラは言った。

「この子はエンリ王子の第二子です。長男はスパニア皇太子ですから、この子はポルタの王位継承者」

市長は「つまりリラさんは国母。解りました。全力でズールーを助けます」



魔道具の通信は切れ、唖然とした雰囲気の中で、アーサーは恐る恐る尋ねる。

「あの、リラさん。さっきのって・・・」


それにリラが答える前に、若狭が嬉しそうに叫んだ。

「おめでとうございます」

タルタが「ついに人魚姫が母親かぁ」

カルロが「フェリペ皇子の弟かな? 妹かな?」

ジロキチが「可愛いだろーなぁ」


困り顔のリラを囲んでお祝い気分で盛り上がる仲間たち。

それぞれ両手で扇子を持って小躍り状態の彼等をあきれ顔で見ながら、ニケはリラに言った。

「リラ、あれって嘘よね?」


一瞬で仲間たちの小躍りポーズは固まった。

そして怪訝顔でリラに「そうなの?」

ニケは溜息をつくと「いや、流れ聞いてれば解るでしょ? ケープの奴らを動かすための方便よ」

リラは恥ずかしそうに「エンリ様なら、きっとそうします」

全員、溜息をつき、そして言った。

「あの人との付き合いも長いからなぁ」


そんな中で、未だ状況を理解出来ないムラマサは「それで赤ちゃんはいつ生まれるでござるか?」

全員、溜息をついて「いや、産まれないから」

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