第340話 ドラゴンの司祭
南方大陸南端でポルタ人とオランダ人の植民市が、それぞれケープを名乗って争う中、現地人はポルタ人と同盟するズールー族と、オランダ人を味方につけた反ズールー連合に分かれて争う。
エンリ王子たちはこの争いを和解させるため、反ズールー連合の中心サン族のドラゴンの司祭ニカウを連れ戻そうと、彼の友人の牧場を目指した。
ドラゴンの司祭ニカウが居るというユーロ人の牧場らしき場所を見つけ、エンリたちは地上に降りた。
牧場主らしき一組の植民者カップルが、彼等を迎えた。
ドラゴンの背から降りた、どうやら友好的らしい約十名に、二人は握手の手を差し伸べ、それぞれ名乗る。
男性は「俺はスタイン、一応動物学者です」
女性は「私はケイト。ジャーナリストでした」
「・・・って事は、東インド会社を取材に?」
そうエンリが言うと、若狭が「いや、でした・・・って事は、その仕事は辞めた訳ですよね?」
ケイトは「マキシミリアン公爵の不倫疑惑を暴く特ダネを掴んだのですが」
「権力によって握り潰されたと?」
そうタルタが問うと、ケイトは「じゃなくて、他の新聞に先を越されて・・・」
「そりゃ、あの公爵は傀儡で、権力握ってるのはオレンジ公だもの」とニケ。
「しかもこっちは後追いなのに、激しい弾圧を受けまして」とケイト。
タルタが「やはり権力によって?」
「じゃなくて、マキシミリアン様命のファンの女性たちに・・・」
そうケイトが言うと、エンリが「けど不倫って、あの奥さんの目を盗むって、命がけだぞ」
「相手が男だったんです。コンサートの興行主やってた吟遊詩人ギルドのジャニーという・・・」とケイト。
カルロが「あの、配下のイケメン吟遊詩人をカマ奴隷にしてるっていう?」
「じゃ、マキシミリアン公爵も?」
そうリラが言うと、ジロキチが「けど、傀儡とはいえ公爵だぞ」
「・・・・・・」
「それでオランダに居られなくなって、海外にでも・・・と?」
そう若狭が言うと、ニケが「普通、国を出ると言っても、せいぜいイギリスとかフランスとかユーロ内の他国よね?」
「東インド会社の農業植民団に募集があったんです」とケイト。
ムラマサが「それで、心機一転農民エンドでござるか?」
ケイトは「いえ、植民地で取材の仕事をと思って応募して船に乗ったのですが、一緒に応募したスタインさんから、植民団の仕事にジャーナリストとか取材とかの仕事なんて無いって指摘されまして」
「そりゃそーだ」と一同。
「スタインさんは農民として?」
そうエンリがスタインに振ると、彼は「いえ、動植物の研究をと。それで募集に応募して船に乗ったのですが、植民団に動物学者としての仕事なんて無いってケイトさんに指摘されまして」
カルロが「そりゃ、取材の仕事が無いなら、研究の仕事だって無いよね」
スタインが、何やら愚痴めいた事を言い出す。
「それで結局農民に・・・。皆さん、俺のこと馬鹿だと思ってますよね? ケイトさんにもそう思われてるみたいだけど、そうじゃなくて、ケイトさんの前だと何故かうまくいかない」
「残念な行動する奴はみんなそう言うよね」と、タマがきつい事を言い出す。
「彼って、あなたの事が好きなの?」
そうリラがケイトに小声で言うと、ケイトは嬉しそうにのろけ出した。
「植民団を抜けたのも、こんな男ばっかりの中にこんな綺麗な女性が居るなんて、狼の群れに子羊を放り込むようなもので絶対見過ごせない・・・って言われたんです」
タマは「残念な恋愛脳の台詞の典型よね」
「そうなんですよ。こんな綺麗な女性を狼の群れに放り込むなんて見過ごせないって」とケイト。
エンリ達は各自の脳内で(二回言った)
「こんな綺麗な女性を・・・って」とケイト。
エンリ達は各自の脳内で(三回言った)
イチャイチャし始める二人を見て、まもなくお腹いっぱいになるエンリたち。
「俺たちお邪魔みたいなんで、ここで失礼します」
そう言って、その場を立ち去ろうとするエンリ達だったが・・・。
ジロキチが「ちょっと待て。俺たち何しに来たんだっけ?」と仲間たちに。
リラが「確か、ここに来てる現地人の人を探しに・・・ですよね?」
「それでしたら・・・」
そう言って、スタインは一人の現地人の若者を連れてきた。
「こちらは友達のニカウさん」
そうスタインが紹介し、「サン族のニカウです」と本人は名乗る。
「彼はどうしてここに?」
そうエンリが尋ねると、ニカウは「どうやら家畜泥棒という職業名が付与されたらしくて」
「・・・」
エンリたちが唖然としていると、ニカウは「どんな職業なのか解らないのですが」と付け足す。
エンリは困り顔で「それ、職業じゃないから」
「すると、ステータスとか称号とか?」
そうニカウが言うと、エンリは「それも違います・・・ってか、何やったの?」
本人に代わって、スタインが「うちのヤギを弓矢で殺して解体して」
「・・・」
「それで通報しようとしたんですが、慣れない土地で緊急通報センターの番号が解らず」
そう続けるスタインに、エンリは「ここに警察なんて無いですから」と突っ込む。
「それで話を聞いたら、家畜とか牧畜とかいうのを知らなかったと」と続けるスタイン。
「そりゃ、狩猟民族だものな」とジロキチが言い、全員頷く。
ニカウは言った。
「獲物を狩るのではなく、自ら育てて増やすというやり方があると聞いて感動しました。それで、村に戻って皆にやり方を教えてあげようと、ここに住み込んで牧畜を学ぶために再会を約束して、再び旅路に・・・」
「つまり旅の途中だったと・・・」
そうエンリが言うと、ニカウは「大切な使命があったのです。それはどんな使命かというと・・・」
「神の落とした秘宝を返しに行くのですよね?」
そう言葉を挟むリラに、ニカウは唖然顔で「何で知ってるの?」
「私たち、その件であなたを探しに来たんですよ」
そのリラの言葉に、彼女以外のエンリの仲間たちは、思い出し顔で「そーだった」
ケイトは「ニカウさんの旅ってそんな大切なものだったんですか?」
「それで秘宝って?」
そうスタインに言われて、ニカウは「これです」と言って取り出した物を見て、その場に居る全員唖然。
「これって・・・」
小型のガラス瓶である。
「聖地に着いたら神の使いのドラゴンが居て、そんなものは知らないと言われてしまいまして」
そう言って頭を掻くニカウに、ジロキチが「それ、レイコの瓶ですよ」
「礼子さんの?」
そうケイトが言うと、ニケは「じゃ無くて、アラビアで流行ってる、冷たく冷やしたコーヒーよ」
「あー、アイスコーヒーね。けどそれの短縮系だとアイコでは?」
そうスタインが言うと、ファフが「関西やとレイコゆーねん、あんた知らんのかいな・・・って、西の地方の人が言ってたよ」
「そーいやアリババがよく、空飛ぶ絨毯の上でラッパ飲みして瓶をポイ捨てするのを、アラジンがマナー違反だって注意してたっけ」とカルロ。
「そーいやこの間、あの三人がこのあたりで盗賊退治の仕事やってたよね?」とタルタ。
ケイトが「その時空の上からポイ捨てした瓶を、神様の落とし物だと・・・」
スタインは「どこかで聞いたような話だな」
「謎は全て解けた所で、我々はこれで・・・」
そう言って、その場を立ち去ろうとするエンリ達だったが・・・。
ジロキチが「ちょっと待て。俺たち、謎解きに来たんだっけ?」
エンリは思い出したように、言った。
「そーだった。彼を迎えに来たんだ。って訳でニカウさん。一旦、サン族の村に戻って欲しいんです。あなたはトカゲのドラゴンの司祭なんですよね?」
ニカウは怪訝顔で「ドラゴンは村を守っている筈ですが」
エンリは言った。
「それが大変な事になっていまして。サン族は他の部族と連合して、ズールー族との戦争中です。その和解のために、ドラゴンの声を受け取るあなたに戻って来て貰う必用があるんです」




