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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
338/562

第338話 部族と部族

エンリ王子に追われたフェリペ皇子の一行、そして追うエンリ王子の一行が辿り着いた南方大陸南端では、ポルタ人の元祖ケープ港とオランダ人の本家ケープ港が植民都市として勢力を競い、そして元祖ケープは現地人のズールー族と、本家ケープは反ズールー部族連合と同盟していた。

現地人部族どうしの争いの中、オランダ人が支援する反ズールー側にズールー族が破れれば、ポルタ人たちはこの拠点を失う。エンリは預言者ベルベド率いるズールー族に加担しつつ、反ズールー連合との和解の画策を開始した。

彼が追うフェリペ皇子が本家ケープに身を寄せている事を、エンリはまだ知らない。



エンリは元祖ケープの街に戻ると、庁舎の会議室に、市長や他の有力者を集めた。


彼等はエンリの話を聞いて、困り顔を見せる。

「現地人と共闘ですか?」

有力商人の一人がそう言うと、エンリは言った。

「ズールーが破れれば、お前等は部族連合の奴らに追い出される事になるぞ。そしてそうなった場合、彼らにも未来は無い」

「とりあえず王子は、フェリペ皇子たちを連れ戻すために来ているのですよね?」と別の有力商人が・・・。

「ベルベドにはファフを助けて貰った恩もある。それで、状況はどうなっている?」

エンリがそう問うと、市長は「オランダは部族連合に加担して、大量に武器を供給しています」

「戦っているのは、あくまで現地人たちなんだよな?」とエンリは確認。

「ズールー族はここで最大の部族で、他は小さいですけど、集まる事で勢力は互角ですね」と市民軍隊長。

「本拠地は?」

そうエンリが問うと、商館長が「中心になってる部族は、サン族という奴らですよ」


エンリは「とにかく、どうにかして交渉に持ち込みたい」

「けど、彼等はズールーの支配から脱しようとして戦っているんですよね?」

そう言う市長に、エンリは「だから、そういう部族間の支配関係をどうにかしようって話になるだろうな」



翌日、現地人両軍の戦闘が始まったとの知らせが届いた。


エンリたちが現場に行くと、凄惨な戦いが始まっていた。

両軍が鉄砲を構えて撃ち合い、槍を構えて突撃する。

まもなく反ズールー軍側にドラゴンが出現した。

「あいつらドラゴンなんて持ってたのかよ」

そうジロキチが言うと、タルタが「ズールー、圧倒的に不利じゃん」

「主様、ファフが加勢する」

そう言い出すファフを、エンリは一旦止めた。

「いや、確かベルベド爺さんもドラゴンを持ってた筈だぞ。俺たちが初めてここに来た時に戦った奴が居ただろ」


その時、ズールー側にもドラゴンが出現。

「あの時の奴だ」とエンリは呟く。


二頭のドラゴンが取っ組み合いを始めると、やがて反ズールー側に、もう一頭のドラゴンが出現した。

そのドラゴンを見て、エンリたち唖然。

「アラストールじゃないか」

そしてエンリは「やっぱりフェリペ達が来てたんだ」と呟く。


火力の強いアラストールの炎に押されるベルベドのドラゴン。

「ファフ、応援に行って来るね」

そう言って、ドラゴン化したファフがベルベドのドラゴンに加勢し、ドラゴンの二対二の戦いとなる。

ファフが楯と剣を装着し、反ズールー軍のドラゴンに斬りつけた。

やがて反ズールー軍は撤退した。



部族連合を撃退したズールー軍が戦場の後始末を始める中、ベルベドはエンリたちの所に来て、助太刀への感謝を述べた。

「助かりました。奴らが二頭ものドラゴンを持っていたなんて」

「実は、あの二頭目は、私の家出息子の部下のドラゴンでしてね。私たちは彼等を連れ戻しに来たのですよ」

エンリがそう説明すると、ベルベドは「お互い、子供を持つ親は苦労しますね」


「全くです」

そう言ってエンリが同調すると、ベルベドは家族の愚痴を言い始める。

「私にも不良息子が居まして」

「それは大変ですね」

「部下を引き連れてシマウマに乗って騒音を鳴らしながらヒャッハーと叫んで村の中を暴走するんです」とベルベドの愚痴は続く。

「・・・」

「改造民族衣装を着て、額に剃り込みを入れ、わざとらしく肩を揺すってのし歩き、"ジーマーシクヨロ"とか"ハンパじゃねーぞ"とか意味不明な台詞を連呼して・・・」と、更にベルベドの愚痴は続く。


延々と愚痴を続けるベルベドに、困り顔のエンリ。

「うちの子は、そういうのとは方向性が違うんですけどね」

そうエンリが言うと、ベルベドは「それは失礼。他の子供たちはまともで、彼の兄たちが諫めてくれていまして」

「それは良かった」

「上の兄とその上の兄とそのまた上の兄が、年上の言う事は聞くものだと」と、ベルベドは続ける。

「・・・」

ベルベドは「ところが彼は、自分の方が実は年上だとか言い出しまして」

「末っ子なんですよね?」

そうエンリが確認すると、ベルベドは「いえ、下の弟とその下の弟とそのまた下の・・・」

「もういいです。つまり全員男なんですよね?」

そうエンリが確認すると、ベルベドは「いえ、妹が三人と姉が三人居ます」

「・・・」


そしてベルベドは言った。

「けど、ああいうのって何なんでしょうね? 変な妄想癖があって、自分は魔界から来た十万四十三才の悪魔なんだとか」

「もしかして実年齢は43才?」

そうエンリが確認すると、ベルベドは「何で解ったんですか?」

「いや、何となく。まあ、そういうのを中二病と言いましてね」

そうエンリが言うと、ベルベドは「まあ、親が子供に期待しても仕方ないですけど、ああいう極端なのはちょっと。親や祖父に死ねとか言うんですよ」

「まあ、うちの子は私には懐いているんですけどね」

そうエンリが言うと、ベルベドは「それは良かった。ところで戦場で五歳の子供が居たんですが」

「・・・」

更にベルベドは「鉄の仮面をかぶって闇のヒーローだとか」

エンリは盛大に噴いた。



ようやく家族の愚痴祭りが終り、エンリは話を本筋へ・・・。

「それで本題なのですが」

「部族連合との和解の件・・・ですよね?」

そうベルベドが言うと、エンリは「とりあえず、ここの状況を知りたいのですが。乱暴な支配と仰っていましたよね?」



金の鉱山に案内される。

坑道から鉱石の袋を背負って出て来る、二人の粗末な身なりの労働者。

よろよろと歩いたと思ったら、一人が、がっくりと膝をつく。

監督らしき男が棍棒を振り上げて「キリキリ働け」

一緒に居た労働者が「彼は病気なんです。どうかご慈悲を」

ベルベドが見かねて監督の所へ行き、彼を窘める。


そんな様子を見て、エンリは戻って来たベルベドに「何ですか? あれは」

「奴隷ですよ」

そう答えるベルベドに、エンリは「もしかして周辺部族の・・・」

ベルベドは言った。

「来るべき侵略者に備えるために、地域が結束して立ち向かおうと統一するため、他部族を配下に組み込もうとしたのです。そして、それに抗う部族を制圧したのですが、そういう戦争で捕虜になった者を奴隷として、金山採掘に・・・」


「奴隷なんて制度、廃止してはどうですか?」

そうエンリが言うと、ベルベドは「元々は家族労働に使うための制度です。普通は家族の一員として優しく接する主人も多い。けれども鉱山で金の採掘のため集団で動かせるとなると、そうもいかない」

「だから彼らは反発し結束する訳ですよね?」とエンリ。


ベルベドは言った.

「彼らだって奴隷を使っています。けれども、オランダ人が彼等に自由を教え、我々の支配に抗う事を考えるようになった」

「なるほど、それは有り得ますね」

そう言って考え込むエンリに、ベルベドは「オランダ人は彼等をそそのかしたのです」

「いや、暴力や支配からの自由は大切な事ですよ。ユーロでは多くの国が争う中で、それを学びました」

そう解くエンリに、ベルベドは反論した。

「そんな筈は無い。オランダ人は自らの農場を切り開くために奴隷を使っているのですから」

エンリは「いいえ、自らの行いを免罪しつつ他者の同じ行為を非難する事を可能とする特別な魔法があるのです」

「それはどんな・・・」


「ダブルスタンダードの呪文です」と答えるエンリ王子.

ベルベドは困り顔で「それは魔法じやなくて、ただ言い張ってるだけなのでは?」と突っ込む。

残念な空気が漂う何、エンリは言った。

「奴隷制、廃止しませんか?」



ズールーの人たちが族長集落の集会棟に集まって部族会議が開かれた。

草葺屋根の大きな建物で、奥の壁際の一画に、怪異な像を祀った祭壇がある。

エンリとその仲間たちも会議に参加する。

奴隷制度廃止の提案に、多くの部族員が反対した。


「奴隷として奉仕するのは美しい自己犠牲であり、人と獣を分かつ唯一の基準です」

そう一人の部族員が反対意見を言い、エンリが「いや、この問題でその理屈を使うと、北斎波の人にぶっ飛ばされますよ」

「奴隷は他者への従属という、誰もが嫌がる事を受け入れる事で重宝されて勝ち組になるのです。即ち"奴隷の尊厳"。バービー加山の言葉です」

別の部族員がそう意見し、それに対してエンリは「あの人は、同国人を貶めて外国に媚びるだけのヘイトスピーカーですよ」

「先祖から受け継いだ伝統は守るべきだ。中華に奉仕する美しい秩序と同じです。それを捨ててユーロの夷狄に媚びて大礼服なんてものを着込んで馬鹿にされたどこぞの列島国とは違うのだから」

更に別の部族員がそう発言すると,エンリは「いや、それは時代遅れな価値観で近代外交を拒んだ、どこぞの半島国の妄言ですよ。彼等はそうやって近代化を拒んだくせに、後になって"自力で近代化する予定だった"とか矛盾した事を言ってたじゃ無いですか」

アーサーが困り顔で「俺たち、何時の時代の話をしているんでしたっけ?」

残念な空気が漂う。


すると、一人の部族員が言った。

「彼らだって戦争で我々の仲間を捕虜にして奴隷にしているんだから、お相子じゃ無いでしょうか?」

「・・・」

「捕虜交換というのはどうですか? お互いに奴隷を解放するんですよ」

そうエンリが言うと、他の部族員たちは「それでは我々が不利ですよ。我々が抱える奴隷の方が多いんだから」

「そういう問題では無いと思うんだが・・・」と、エンリは溜息をつく。


もう一人の部族員がベルベドに言った。

「それより、預言の問題があるのですよね? オランダ人が、やがてこの地を支配して我々全員を奴隷にするという」

「そう言って説得したのですが、こう言われてしまいまして」とベルベドは答える。

「どう言われたのですか?」

そうエンリが問うと、ベルベドは「"そういうカルトは要らないから"と」

残念な空気が漂う。



会議は不調に終わった。

そして、今後について相談するエンリたちとベルベド。


「ところで、部族連合の中心になってるサン族って、どんな奴らなんですか?」

そうエンリが尋ねると、ベルベドは「あの部族はそう強い訳でも無いですが、ドラゴンが居るんですよ」

エンリは「どこかで見つけたんでしょうか。そういえば、あなたもドラゴンを持ってますよね?」

「聖地で修行中に契約しまして。その時に、この預言の力が覚醒しました」

そうベルベドが答えると、エンリは「そのドラゴンなら、彼らを説得できるんじゃ無いでしょうか?」

「それは・・・」


するとファフが言った。

「本人に聞いたらどうかな?」

「本人って?」

怪訝顔でそう問うエンリに、ファフは壁際の祭壇を指して「そこに居るの」

「いや、あの巨大ドラゴンが建物の中に?・・・・・」

そうエンリ達が怪訝顔で言う中、そこに居る見えない何者かがファフに答えた。

「お嬢さん、私が見えるのかい?」

「ファフもドラゴンなの」


壁際の祭壇に一匹のカメレオンが姿を現わした。

驚くエンリの仲間たち。

ジロキチが「カメレオンアーミー、本当に居たんだ」

ムラマサが「いや、けどこんな爺さんの? あれは、おピンクなレディーの親衛隊の筈でござるが」

若狭が困り顔で「そういう古いネタはいいから」

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