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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
337/562

第337話 二つのケープ

エンリ王子の追跡を逃れてペルシャから更に西を目指すフェリペ皇子たち。

ヤマト号に乗ってアラビアの海の西側、南方大陸の東岸を南下する。



ヤマト号が大陸南端に近付いた頃、ヤンが言った。

「南方大陸南端のケープを抜ければ、西の大洋だ」

するとチャンダが「抜けちゃっていいのか? その先はユーロだぞ。地球を一周して戻っちゃうのでは?」

「ま、行けば何とかなるさ」と、お気楽な事を言うマーモ。

マゼランは「いいのかなぁ」


そんな彼等に、ライナが「それより、いい加減に寄港しようよ」

「ケープに? ポルタの植民都市は王子の手配書が回ってるぞ」と、ストップをかけるマゼラン。

ルナが「魚以外のご飯が食べたい」

リンナが「お茶とお砂糖がもう無いよ」

メアリ王女が「化粧品に下着にオシャレな小物」

そしてライナが「"週間私の騎士様"の最新号」


タジタジとなる男性陣に、シャナが「仕方ない。寄港するぞ」

「シャナは一番こういうのに抵抗力があると思ったんだが」

そうチャンダが困り顔で言うと、シャナは「もう長い事メロンパン食べてないぞ」

「そっちかよ」とあきれ顔のマゼラン。


するとフェリペが「要は、僕たちだとバレなきゃいいんじゃ無いかな?」

「だったら変装ね」とメアリ王女。

ライナが「魔女服だね」

ルナが「ナース服よ」

リンナが「セーラー服でしょ」

「だから仮装やコスプレは止めて」と、困り顔のマゼラン。



「それより、前方から変な船が来るんですけど」

そう言ってヤマトが指す方向に見える船を見て、あれこれ言うフェリペの部下たち。

ヤンが「海賊船かな?」

マーモが「エンリ王子が手配した捜索隊では?」

リンナが「いや、呪いの幽霊船・・・」

「そういうのとは方向性が逆みたいなんですけど」とヤマトが・・・。


楽器を鳴らし、派手な飾り付けと派手な昇り旗。

そしてその旗には、大きく書かれた文字に曰く「おいでませ本家ケープへ」

「何だありゃ」と全員唖然。


「所謂客引きって奴?」

そうチャンダが言うと、マーモが「ああいうのに掴まると怪しい店に連行されて、ケバいお姉さんが出て来て、ぼったくり価格の酒やつまみを勝手に出されて、法外な請求書を突き付けられて、足りないと怖いお兄さんに奥に引っ張り込まれて腕をポッキリ」

「要は、返り討ちにしてやればいいんじゃ無いの?」

そうフェリペが言うと、マゼランは「けど、ケープってポルタの植民都市だよね? エンリ王子の手配書が廻ってる筈ですよ」


そんな彼等を他所に、拡声の魔道具でヤマト号に呼び掛ける、怪しい船。

「そちらの商船の皆さん。寄港は是非、我が本家ケープ港へ。ポルタの偽ケープ港と違い、安心なポッキリ価格で高品質な補給と休息を提供します」


「思いっきり怪しい客引きだな」

そう不審顔で言うマゼランに、ライナは「けど、ポルタの港じゃないみたいですよ」

「だったら・・・」



本家ケープと称する怪しい客引き船に先導されるヤマト号。


案内役にと、ヤマト号に乗り込んだ営業船員に、マゼランは尋ねた。

「皆さんの港って、どこの国が創ったんですか?」

「オランダですよ。ポルタに対抗して自前の植民市を・・・って事で、ようやくここまで来れました」

「別にケープを名乗らなくても・・・」

そう疑問顔で言うリンナに、営業船員は「ブランドイメージって大事じゃないですか。我々はポルタ人の元祖ケープなんかに負けません」

「向うも元祖とか言って張り合ってる訳かよ」とあきれ顔のチャンダ。

マゼランも「老舗のお菓子屋じゃないんだから」



喜望峰の東にポルタ人の元祖ケープの港と都市。

その反対側にオランダ人の本家ケープの港と都市がある。


船の上から港の様子を見つつ、マゼランは営業船員に言った。

「ポルタ人は、ここのズールー族と盟約を結んでますよね?」

「現地人とは、我々も友好関係を保っていますよ」と、本家ケープの営業船員。

マゼランは思った。

(ここには預言者ベルベドが居る。彼は、ここに移住して侵略するユーロ人を予知したという。それはオランダ人だと思っていたんだが・・・)



入港して宿を決めるフェリペたち。そして酒場で食事。

ヤンとマーモは補給物資を手配し、ヤマトの助けで積み込み作業。

メアリは三人の女官を連れてお買い物。

「くれぐれも買い過ぎないで下さいね」

そうマゼランが釘を刺すと、メアリは「大丈夫よ。支払いは実家に廻すから」

マゼラン、慌てて「それは止めて。イギリス王家にツケなんて回したら、一瞬で居所がバレて流刑地に逆戻りですよ」



間もなく請求書の山が届き、頭を抱えるマゼラン。

ヤマト号の船室で、マゼランは女子たちに言い渡す。

「今後当分、買い物禁止ですよ」


「そんなぁ」と三人の女官。

「けど、この借金どうしたら・・・」

そうマゼランが言うと、チャンダも「これじゃ、宿代だって払えないよ」

ヤンが「船室に泊まったらどうなんだ?」

「せっかく陸で落ち着けると思ったのに」とルナが膨れっ面。


その時、ヤマトが言った。

「あの、借金なんだけど、食堂を開いたらどうでしょうか。私が料理して船を食堂として、港に居る人たちに料理を出すというのは」

「あの、ペルシャでもやってた奴ね」と、ヤンとマーモ。



停泊中のヤマト号の甲板にテーブルと椅子を並べる。

持ち前の料理スキルで大量の注文をこなすヤマト。三人の女官はウェイトレスとして大忙し。

ヤマト食堂は大人気となり、ヤンとマーモは仕入れを担当、アラストールは海で食材の魚を調達した。



閉店後の船室で賄いを食べながら、わいわいやるフェリペと部下たち。

「当分、ここに落ち着けるんじゃないかな?」

そうフェリペが言うと、チャンダが「そのうちエンリ王子が連れ戻しに来ますよ」

「けど、ポルタ商人と対立しているイギリスやオランダの商人の街なら、他よりは安全じゃないかと」とヤンが楽観的な事を言う。


そんな仲間たちの会話を聞きながら、マゼランの脳裏を正体不明の不安が過る。

その不安の正体に気付いた彼は、疑問の言葉を口にした。

「それより、ここの食材って・・・」

マーモは気楽な口調で「内陸部に移住したオランダ人の農場から仕入れているんですよ」

「それって・・・」


マゼランは思った。

(農民として移住し、ここを侵略するユーロ人って、やっぱりオランダ人だったんだ。それを預言者ベルベドが許すのか?)



エンリ王子たちがフェリペを追ってケープの港へ。

「ようこそ元祖ケープへ」

そう言って港で出迎える市長に、エンリは疑問顔で「何だよ、その元祖って」

「オランダ人たちが喜望峰の反対側に作った港を、本家ケープと称して勝手にケープを名乗っておりまして、それに対抗して・・・」

そんな市長の説明を聞き、エンリはあきれ顔で「いや、老舗のお菓子屋じゃないんだから。それで、現地人は彼等をどう扱っているんだ?」


市長は言った。

「現地人が二派に分かれて争っているんです。その一方がオランダ側と組んでいまして」

「もしかして、俺たちが同盟しているズールーは・・・」

そうエンリが言うと、市長は「もう一方という事になります」

エンリの表情が曇る。

そして「って事は、現地人どうしの争いに巻き込まれているって事か? それじゃ、ズールーが負けたら、俺たちここを追い出されるぞ」

「それにフェリペ皇子の事もありますし・・・」と脇でアーサーが付け足す。



とりあえず、エンリたちはベルベドに会いに行った。

ズールーの族長集落に行くと、すっかり老け込んだベルベドが居た。


「どうしたらいいか解らないのです」

そんな弱音を吐くベルベドに、エンリは「あなたには未来が見えるのですよね?」

ベルベドは言った。

「悪い未来を避けようと、金を採掘して、その力で他の部族を統合して、敵に負けない国を作ろうと・・・。だが部族員たちは他の部族に対して乱暴な支配に走り、諫めても聞く耳を持ちません。反感を持った他部族が連合を組んで、彼らと・・・」

「彼等って、オランダ人たちですよね?」

そうエンリが言うと、ベルベドは「そうです。ここに農民として移住し、我々を支配する未来が待っている」

エンリは「彼らが侵略者として自分たちを奴隷にする存在なのだと、他部族に伝えてはどうなのですか?」

「警告はしましたが、聞く耳を持ちません」とベルベド。


エンリは横に居る部下に言った。

「アーサー。彼らを助ける必要があるな」

するとベルベドは「これは我々の問題です。あなた方に迷惑はかけられません」

「これは、あなた達だけの問題ではありません。あなた達が負ければ、我々もここの拠点を失います」

そう言うと、エンリは脳内で呟いた。

(オランダ人はともかく、小部族連合とは和解に持ち込む必要がある)

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