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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
335/562

第335話 交易の自由

フェリペ皇子が頼ったアッバース帝と、ポルタ人植民市の武力を頼るホラムズ王。

その争いを終わらせるためエンリは、アッバース帝に雇われていたシンドバッドたちに仲介を求めた。



エンリ王子はシンドバットに案内されてアッバース帝の王宮へ。

「皇帝陛下。シンドバッド氏が大事な要件があるとかで、お連れの方一名と一緒に、見えてますけど」

そう報告に来た家来に、アッバース帝は「通しなさい」



シンドバッドと一緒に執務室に入り、エンリは自己紹介。

「アッバース帝ですね? ポルタから来たエンリ王子です」

アッバース帝唖然。

そして、不意を突かれたような慌て声で「シンドバットさん、これは・・・」


エンリ、いきなり感情丸出しでまくし立てる。

「言っとくけど、私がどこぞの半島国と同じとかいうのは嘘ですから。あんなのと同じとか言われるくらいなら、猿やゴキブリと同じと言われた方がまだマシです。ほんと勘弁して欲しい」

「メアリ王女が、あなたがあの国と同じと言ったのは、デマなのですか?」

そう問うアッバース帝に、エンリは「完全に一分の実も無いデマですよ。私がやりたい対話は、あの国が関係改善のためとか騙し目的で持ちかけたような密室談合じゃ無くて、彼等が本物の解決から逃れるために拒み続けた"紛争解決手続き"というあの条約に規定されたものと同じ性格のものです」


アッバース帝、済まなそうに「あの時は失礼しました」

「高い所から落とされましたけどね」とエンリは恨みがましく・・・。

「・・・」

「あれは痛かった」とエンリ、更に追い打ち。

「・・・」

シンドバッド、困り顔で「あの、エンリ王子。そういう追及はそれくらいにしませんか?」



そう言われて、エンリはようやく本来の目的を思い出した。

「そうだった。あのメアリ王女ですが、彼女はイギリスから逃げてきた政治犯で、我々は彼女を追ってここに来たのです」

「ホラムズのポルタ人の加勢に来たのではないのですか?」

そうアッバース帝が問うと、エンリは「行き掛り上、あなた方と戦う事にはなりましたけどね」

「ですが、イギリスの政治犯をポルタ人のあなたが、何故?」とアッバース帝。

エンリは「彼女と一緒にフェリペという五歳の子供が居ましたよね? あれはうちの家出息子でして、それを連れ帰るのが本来の目的です」


アッバース帝は「何やら複雑な家庭の事情がおありのようですが、メアリ王女は御子息の何なのですか?」

「恋人・・・」

そうエンリが言いかけると、アッバース帝は「そりゃ犯罪じゃないですか?」

「・・・の姉です」とエンリは続ける。

アッバース帝は「あーびっくりした。なるほど、彼女の幼い妹の涙を拭うためにと。それで彼女の妹って、さぞ可愛らしい幼女なのでしょうね?」

「エリザベス王女ですか? 即位を控えた15才のJKですが」とエンリ王子。

「それも犯罪のような気がしますが」

そうアッバース帝が不審顔で言うと、エンリも困り顔で「何せ、マセガキというのはどこにでも居ますから」

「心中お察しします。うちのハーレムで産ませた皇子皇女にも問題児が多くて・・・」

家庭の愚痴を小一時間続けるアッバース帝。



このままではらちが明かないと判断したシンドバットが、彼の愚痴にストップをかけ、エンリが話し合いの趣旨を説明する。

「それで、ホラムズ王とあなたの対立も、根っ子にあるのは教派問題なのですよね? スンナとシーアの共存はできないのですか?」

アッバース帝は言った。

「実は、共存はしています。ですが、少数派はどうしても不利になる。迫害される事もあります」

「多数派が迫害しなければ?」

そうエンリが問うと、アッバース帝は「少数派が被害者意識を以て、下手するとモンスター化します」

「・・・」

「"外国人では無い男性に死ねと言ってもそれはヘイトではない"と、少数派へのヘイト特権付与を要求して暴れるコータ・キキョーコという煽動家みたいな・・・」と、残念な空気に追い打ちをかけるアッバース帝。

「・・・」


そしてアッバース帝は本題に戻った。

「建前的には、我々の教えでは社会とは信者たちの自治組織なのですよ。だから、領主が納得しても民が他教派の排斥を叫べば、無視は出来ない」

「それは、その地域の中での問題ですよね? あのホラムズ王の領地をスンナの地と認めて自治に任せる・・・という事は出来ないのですか?」と、エンリ王子。

アッバース帝は語った。

「シーアは我がペルシャの文化の支柱です。それによって我々は融和できる。みんなが同じ教えの元で一つとなり、世界が平和になる」

エンリはそれに反論して「そのために我がユーロの民も唯一神信仰を捨ててあなた方の教えに改宗させるのだと? そんな事が可能だと思いますか?」


「風土が違うと言うのですよね? あなたがキルワの街で語った事は聞いています。ですが、この教えには一生に一度の中枢たる聖地への巡礼の義務があり、そこで世界中の信者が共に解り合える同胞なのだと実感できる。世界は一つ人類みな兄弟」

そう語るアッバース帝に、エンリは困り顔で「それ、親を背負って登山したとか言ってる意味不明な人の宣伝文句ですよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「それに、異なる国家や民族に兄弟関係を設定するのは、自分達の国はお前達の国にとって兄の国だ・・・などと、勝手に兄貴分を名乗って意味不明な優位を主張するどこぞの半島国の十八番で、隣国にとっては単なる嫌がらせです」と、エンリは更に追い打ちをかける。


アッバース帝は「まあ、友人は選べるけれども兄弟は選べませんからね。けど、結婚相手は選べます。あの半島国の人たちは、その隣国を妻で自分達は夫だとも言いますよね。リッケン外国主権党のパクシンクン議員は、自らの祖国である半島国が父の国で選挙民の国を母の国だ・・・といった国家間の夫婦関係主張が選挙のスローガンだった」

「それこそトーイツ狂会とかいう犯罪性カルトの、自分達半島国はアダムの国でお前達はエバの国だから妻として奉仕して全財産差し出せ・・・とか言ってるヘイトスピーチ教義の理屈ですよ。あの議員が信者かどうかは知りませんけどね」とエンリ王子。

「いや、信者でしょ。何せあのカルトに関しては、トランプ帝国大統領や国連事務総長のチンパンジーに依頼されて外交辞令な祝辞読んだってだけで信者って事になって、支部長の代わりに自作銃テロリストの標的になるくらいですから」とアッバース帝。

すると彼の後ろに控える家来は困り顔で「あの、皇帝陛下。そういう危ない話はそれくらいで・・・・・」


残念な空気が漂う中、アッバース帝は本来の話に戻した。

「私たちの社会では、全員に同じように考え行動させるために、生活を縛る多くの戒律がある。それで、考え方の違いによる争いは無くなります」

エンリは語った。

「我々の文明では、様々な考え方や行動様式を持つ人たちが、互いに協力し合い補い合う事で困難を突破する事が出来るんです」

「だから多くの争いがあるのではないのですか?」

そう反論するアッバース帝に、エンリは更に語った。

「けれどもそれを克服し、異なる考えから学ぶ事で、不可能だった事が可能になる。かの半島国のような、その多様性と称するものの実態が、隣国に対する捏造歴史に基く被害者意識や根拠無き優越感といったヘイト文化だとしたら、それは共存は不可能でしょう。けれども例えば、タオルを戒律で全員に左に絞らせるような、あなた方のやり方で社会は前に進みますか? 私たちは前に進みました。だから地理的困難を突破して、ここに来れたのです。あなた達のやり方はそれを否定している」

「・・・・・・」


「そして、あなた方のやり方で本当に争いは無くなりましたか? どんなに同じになろうとしても、人は違いを探します。だから同じ教えに従っても、異なる教派に分かれて争い合う。それがスンナとシーアの争いでは無いのですか?」と追い打ちをかけるエンリ王子。

「・・・・・・」

「ユーロと同じになれとは言わない。ですが、人の在り方を決めるのはその人自身です。同じアラビアの教えの徒として、彼らと共存は出来ないのですか?」

そうエンリが言うと、アッバース帝は言った。

「条件がある。ホラムズ王は我が臣下となる事。そして、ポルタ人には出て行って欲しい」

エンリは「それは彼ら自身と話し合って下さい。ホラムズで再度交渉を持ちましょう」



エンリは、ホラムズの要塞植民市に戻ると、大商人ボチボチデンナを呼んで、アッバース帝との交渉の結果を伝えた。

そして「あの皇帝は周囲の領主たちを完全に掌握して、ホラムズ王は孤立状態だ。今の状態が続くと思うか?」


「私たちに撤退しろと?」

そう不安顔で言うボチボチデンナに、エンリは「お前達に、現地商人と平和共存する気があるなら、この島の商人の街としての存続を承認させてやる」

「その前提で、ホルムズ王に交渉を持ちかけると言うのですね? けど、ここの宗派対立は解消出来るのですか? ユーロの教えでは信仰の基本は個人の心の内面ですが、生活全般を縛るここの教えでは、個人単位での信教の自由という訳にはいきませんよ」

「だから、ここをスンナの地と認めさせるのさ。ドイツではそのやり方で話し合いがまとまった」



ボチボチデンナを仲介に立てて、ホラムズ王と会見するエンリ王子。そしてアッバース帝の要求を伝えた。

「彼は、スンナの信仰を保ったままでいいと言っています。その代わり、あなたには彼の臣下であれと。それは周囲の地方領主と同格という事かと思いますが」

そう語るエンリに、ホラムズ王は「ですが、ここの交易の中枢としての利は、捨てるという事ですよね?」

エンリは「ここはペルシャ湾の出入口です。外洋に出る船は必ず通る。軍事力で独占などせずとも、街は繁栄する。そしてここにポルタの植民市がある事で、ユーロの産物を売り込む中心であり続ける」

「けど、ポルタ人には出て行って貰うと言うのですよね?」

そう問うボチボチデンナに、エンリは「ボルタ人の軍には・・・ね。けれども私は、ボルタ商人を立ち退かせるつもりは無いですよ」



エンリはアルブケルケに島からの撤退を命じた。

顔色を変え、アルブケルケは抗議声で言った。

「交易の拠点を捨てる気ですか?」


「交渉で植民市の存続を約束させるさ。交易は独占ではなく自由な取引でこそ大きな利益が上がる。商売は平和前提だ」

アルブケルケは反論する。

「それは違います。独占で値段を吊り上げる事でこそ、大きな利益が得られる」

「それでは相手が豊かになれない。ともに豊かになって、社会全体を豊かにしてこその商売だ」とエンリは反論。

アルブケルケは声を荒立てて「そんなのただの理想論です」

エンリは「では、機械織りの布はどうやって社会を豊かにした? 安く売って貧しい人でも買えるようになったからだろうが」


「ですが、全ての人には誰に何を売り、誰から何を買うかを自由に決める権利がある。我々が嫌いだから取引を止めると言い出すかも知れない」

そう抗弁するアルブケルケに、エンリは語った。

「相手が本当に自分に害を成し続けるというなら、それで加害を止めさせるのは合理的だろう。どちらかが悪意を向ける事で悪化する関係は、あの半島国のように、悪意を向ける側に責任がある。相手が当然の反発で返したからと"ネ〇ウ✕"とかレッテルを貼って責任転嫁したところで責任の所在は変わらない。そんな奴等が、科学的に無害な放流水を有害だとフェイクを言い張って、在りもしない被害を気取るとか、過去に何かあって戦後処理も終えた相手が自分達に恨みが残ってるのに言いなりにならないとか、そういう不合理な理由で"ノージパング"とか言って不買や輸入禁止を決め込むなら、悪いのは彼等自身。取引を自ら制限する事で自ら害を受ける自業自得が待っているだけだ」


アルブケルケはなお抗弁を続ける。

「ですが、ここは彼らの地元ですよ。南海とユーロの中間に居る彼らは、私たちを介さない貿易が可能です」

エンリは「ペルシャ湾からユーフラテス川を遡るとか、紅海からスエズに陸揚げするとか・・・って言う訳だろ? だが陸上交易はコストがかかり、その分がマイナスだ。それに、彼らの船は小型だ。大型船で一度に運ぶ我々は有利ではないのか?」

「ですが・・・・・・・・」

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