第332話 ペルシャとホラムズ
エンリ王子の追跡を逃れてペルシャに来たフェリペ皇子たちは、メアリ王女の発案でペルシャ皇帝アッバースを頼り、なし崩し的にホラムズ王と争う武力を提供する破目になった。
その一方でフェリペを追ってホラムズ植民市に来たエンリたちは、その地を牛耳るアルブケルケとホラムズ王の関係に疑問を感じ、カルロに調査を命じた。
城下を探っていたカルロがエンリ王子に報告に来た。
「どうやら平和的にあの島を貰った訳では無さそうですね。ここに来た時に戦闘があって、それ以来、あの王はアルブケルケの傀儡みたいになっているそうです」
「つまり、武力で脅されて言いなりって事かよ」
そう言って溜息をつくエンリに、カルロは「それだけじゃ無さそうですけどね。湾岸の港を征服してホラムズの領地を広げて、王に貢献しているんだとか」
支配下にある町に探りを入れようと、エンリたちはタルタ号でアラビア半島側へ向かった。
支配下の港に入り、上陸するエンリたち。
街では反対運動のデモ隊が気勢を上げていた。
「スンナは出て行け」
「俺たちの町を侵略すんな」
そんなスローガンを連呼するデモ隊を見て、あれこれ言うエンリの仲間たち。
「スンナって何ですかね?」
そうジロキチが言うと、タルタが「侵略者の事かな?」
ニケが「つまりホラムズに居るアルブケルケの軍の事よね?」
「あいつ、滅茶苦茶嫌われてるじゃん」
そうエンリが言うとアーサーが「つまり、占領軍が好き勝手やって、税が厳しいとか・・・」
ホラムズに戻って、エンリは港の征服についてアルブケルケに質す。
アルブケルケは言った。
「ここの王にもいろいろ事情がありましてね。頼られてこうなっていまして、けして、やましい事をやっている訳では無いので」
「で、スンナって何だよ」とエンリは問う。
「アラビアの宗教のやつらの二大勢力ですよ」
そう言いながら、アルブケルケは地図を広げた。
地図のあちこちを指しながら、彼は言った。
「ここがペルシャ湾で、東にペルシャ、西にオッタマ帝国が居るアラビア半島がありますよね」
「ここはペルシャ湾の入口のペルシャ側だよな」
そうエンリが言うと、アルブケルケは「大まかに言うと、ペルシャがシーアでオッタマがスンナです」
エンリは「アラビア半島は侵略者の国って事になると?」
「奴らは北方の砂漠から来た異民族ですので」とアルブケルケ。
エンリたちはまだ知らなかった。
スンナ派とシーア派という二大宗派の事を・・・。
翌日、酒場で朝食を食べながら、エンリは仲間たちに言った。
「どうも腑に落ちないんだが、スンナというのがアラビア半島を支配するオッタマだってんなら、あの街を占領したここの奴らは解放軍って事になるんだよな?」
「アルブケルケは、自分達は解放軍だと言ってますけどね」とアーサー。
エンリは「だったら何で侵略者出て行け・・・って話になる? 今現在支配してるのはアルブケルケだぞ」
「確かに・・・」と言って、みんなは互いに顔を見合わせる。
「事情があるって事でしょうか?」とリラ。
王宮に行って確認しようという事になる。
エンリたちが到着した時、王宮は異様に殺気立っていた。
多くの兵士たちが行き来し、武器が運び出されている。
大臣がエンリたちを見つけ、駆け寄って言った。
「良い所に来て下さいました。ペルシャ帝の軍が侵攻して来ていまして」
エンリ唖然。
そして「あなた方はペルシャの地方領主で、皇帝の臣下なのではないのですか?」
大臣は「皇帝は我々を敵視していまして、アルブケルケはそれと戦っているのです。是非、お力をお貸し下さい」
砂漠を進軍するペルシャ軍。それに加勢するフェリペたち。
迎え撃つホラムズ軍とアルブケルケの軍勢。それに加勢するエンリ王子たち。
砂漠の戦場で激突する両軍の上空に、ペルシャ軍側から飛来する、二つの飛行物。
それを望遠鏡で観察するアーサーは、その一方を見て「あれ、アリババの空飛ぶ絨毯じゃないか」
「あいつ等も来てたのかよ」とエンリ王子。
更にアーサーは、もう一方の飛行物を見て「あっちはヤンの飛行機械だぞ」
「フェリペたちが来てたのか」
そう言ってエンリは溜息をつくと、風の巨人剣を抜いて大気との一体化の呪文を唱えた。
戦場の空に延びる風の剣身。
ペルシャ軍側に居るフェリペは、それを見て叫んだ。
「あれは父上の魔剣だ」
風の巨人剣は巨大な竜巻を起こし、飛行機械と空飛ぶ絨毯がそれに巻き込まれて悪戦苦闘するのを、アーサーが雷の矢を連射して撃墜する。
戦場は既に混戦に突入している。
ホラムズ側では、両軍入り乱れて戦っている戦場に向けて、エンリは気勢を上げた。
「とにかくフェリペたちを確保するぞ」
そしてペルシャ軍側では、フェリペが部下たちに「父上にみんなの修行の成果を見せてやるんだ」
互いに反対方向から白兵戦の中に飛び込んだエンリとフェリペの部下たちは、やがて戦場で遭遇した。
フェリペの三人の従者が剣を抜き、ジロキチと若狭に斬りかかる。
三人の女官が背後から魔法で支援。彼女たちに妨害魔法で対抗するアーサー。
ジロキチは二本の刀でマゼランとチャンダを圧倒。
妖刀を抜いた若狭がシャナと切り結ぶ。
シャナの刀の灼熱の気を妖気で断ち切るムラマサの妖刀。次第に押されるシャナ。
「まだまだだな」
息の上がった三人にそう言って余裕を見せるジロキチ。
そんな中に三日月刀を抜いてアリババとシンドバットが切り込む。
「俺たちが相手だ」
そう言ってシンドバットがジロキチと、アリババが若狭と切り合うが、ほぼ互角だ。
仮面をかぶるフェリペは、風の魔剣を振るうエンリを見つける。
「ロキ仮面参上。父上・・・じゃなくて先代ロキ仮面、勝負だ」
そう言ってフェリペはエンリの前に立つと、仮面分身の呪句を唱え、いくつもの仮面が宙を舞う。
エンリは風の魔剣と一体化した素早さスキルで、襲い来る仮面を叩き落とす。
背後から迫る仮面を、エンリに寄り添うリラが水の盾で防ぎ、水の蛇のワイヤーでフェリペを捉えようとする。
フェリペは宙に浮く仮面を足掛かりに跳ねまわって、水のワイヤーを躱す。
巨大なジンが現れ、その肩に乗ったアラジンが攻撃魔法を連射。
「ファフ、奴の相手をしてくれ」
エンリにそう号令され、ファフは「了解」
ドラゴン化したファフが楯と剣を構え、ジンは三日月刀を構える。
ファフは楯でアラジンの魔法を防ぎつつ、ジンと切り結ぶ。
「アラジン、俺が加勢するぞ」
そう言って、アラストールがドラゴン化し、ジンと戦っているファフに向かう。
不利になるファフを見て「二体一かよ」と焦り顔を見せるエンリに、リラは言った。
「私がウォータードラゴンで出ます」
「アラストールの炎は強力だぞ」
そう案じ声で言うと、エンリは思考した。
(どうにかしてリラのウォータードラゴンを強化出来ないかな)
二本のナイフを持って敵を攪乱中のカルロに、エンリは「フェリペの相手を頼む」
フェリペの相手を彼に任せて後退するエンリに、フェリペは「父上、逃げるんですか?」
そんな彼にエンリは「俺は野暮用があるんでな」
リラがウォータードラゴンを召喚し、カルロがフェリペの前に立つ。
彼は持ち前の素早さで、襲い来る鉄の仮面を両手のナイフ防ぎ、その背後でニケの銃弾が仮面を叩き落とす。
その隙にエンリは水の巨人剣をリラのウォータードラコンの水の体に突き刺し、一体化の呪句を唱えた。
「汝、水の龍。水の魔素をその血とし、水の元素をその肉と成したる無敵の龍。マクロなる汝、ミクロなる我が水の剣とひとつながりの宇宙たれ。最強たるべく生まれし汝に我が無限の力を授けん。龍体強化」
リラが操る水の蛇龍は四肢と翼を持つドラゴンの姿へと変貌した。
水の巨人剣を持つエンリは水のドラゴンの右手に有って、リラも人魚の体でエンリと寄り添う。
巨人剣は巨大なドラゴンの剣へと姿を変える。
アラストールが吐く炎を水蒸気を上げながら防ぐドラゴンの水の剣。
そのままアラストールに斬りつけ、手傷を負わせた。
傷ついたアラストールにシャナが叫ぶ。
「アラストールは撤退しろ。こいつはシャナがやる」
「だが・・・」
そう躊躇いの声を上げるアラストールに、シャナは「大丈夫だ」
アラストールのドラゴンはペンダントの姿に戻り、シャナは灼熱の衝撃波で水のドラゴンに斬りつける。
小さな体で戦場を駆け回って灼熱の刀の衝撃波を放つシャナは、リラとエンリの水のドラゴンを翻弄した。
(これではらちが明かない。)
そう脳内で呟いたエンリは、リラに「ドラゴンを戻せ」
「ですが・・・」
エンリは敵兵たちの間を駆け回って牽制中のタマに「こいつの相手を頼む」
ケットシーの小さな体でシャナの周囲を跳ね回りながらタマが放つ攻撃魔法を、灼熱の剣で防ぐシャナ。
その隙に水のドラゴンの召喚を解くと、エンリは本陣に居るホラムズ王の元に行って進言。
「軍を下がらせて下さい。俺に秘策があります」
「解りました。全軍、一旦引くぞ」
ホラムズ王が軍に後退を指示。
エンリは風の魔剣を抜いて、大気との一体化の呪句を唱えた。そして激しい砂嵐を起こす。
目も空けられない猛烈な砂の嵐の中で後退してホラムズ軍が距離をとる。
身動きのとれないペルシャ軍の上にアーサーがファイヤーレインをお見舞いし、ペルシャ軍は炎の雨で大きな被害を受けて撤退した。
その頃、ヤマト号では・・・。
ヤマトは港で船上食堂を開いていた。
ヤンとマーモが手伝い、その美味しさが評判を呼んで、甲板にテーブルと椅子を並べた食堂は連日満席。
ヤンとマーモが戦場に出た、その日も食堂は賑わっていた。
「お姉さん、ケバブ大盛りで」
「トルコ風アイス二人前」
満席の中で次々に注文を出す客たちに、一人で対応するヤマトは、その忙しさに悲鳴を上げた。
「ヤンさんとマーモさん、早く帰って来て」




