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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
330/562

第330話 生物の単位

エンリ王子たちの追跡を逃れて、チャンダの実家のあるインドの元ダリッド地区に匿われた、フェリペ皇子とその部下たち。それを追って植民市に来たエンリたち。

彼等はそこで熱病の流行に遭遇し、フェリペの感染をきっかけに、合流したエンリとフェリペの部下たちは、協力してその病原菌を突き止め、ポーションを完成させて疫病禍を終息へと導いた。



その夜、彼等の宿となった植民市の庁舎の客室で、熱病から回復したフェリペがエンリとリラの間で川の字になってベットに入る。


「リラ姉様って暖かい」

そう言って、布団の中でリラに甘えるフェリペ。

「エンリ様。子供って可愛いですね。私もこんな子供が欲しい」

そうリラが言うと、エンリは「こいつは俺の子だ。だからお前の子みたいなものだよ」



翌朝、庁舎の食堂で全員で朝食を食べる。

全員の視線が、昨夜、チャンダの実家で夕食を食べてから宿に戻った二人に集中する。

「チャンダ、夕べ何かあったのか?」

そうマゼランに問われて、チャンダは「いや、別に」

「リンナ?」

そうライナに問われて、リンナは「べべべ別に何も無かったわよ」


「何かあった訳ね。顔に書いてあるし」

そうライナが追及すると、リンナは「顔なんて見てないでしょ」

ルナが「見せたくないから、そんなのかぶってるのよね?」

頭からすっぽり紙袋をかぶってるチャンダとリンナ。

「つまり、お互い顔を合わせ辛い何かがあった訳だ」とマゼラン。

「何があったのよ」と、ライナとルナが声を揃えて追及すると・・・。


リンナは「べべべ別にキスとかしてないからね」

全員、声を揃えて「えーーーーっ?」

思わず墓穴を掘ったと気付き、リンナは慌てて「あれは単なる気の迷いというか」

そんなリンナの弁解モードに、チャンダは「知ってる」

「・・・」


残念な空気の中、ライナは言った。

「あの、チャンダ様。ここは嘘でも、お前は俺のものだとか絶対離さないとか・・・」

リンナは口を尖らせて「あんた等、面白がってるわよね?」

「当然だろ。他人の恋愛に首突っ込む事ほど面白い事は無い」

そうマゼランが笑いながら言うと、チャンダは「あのなぁ!」



チャンダは食事を終えて席を立つ。

そして紙袋をとると「リンナ。俺はきっと海賊王になって、お前を迎えに行く」

そう言って食堂を出ようとするチャンダに、リンナは「そんなの待たない」

そしてリンナは紙袋をとって「海賊王には二人でなるの。私もついて行く」

フェリペは困り顔で「あのさ、海賊王には僕が・・・」

「あ・・・」


漂う残念な空気を笑い飛ばすように、エンリは言った。

「いいんじゃないかな。王の形なんていろいろだし、そもそもあの秘宝は航路図で、交易のためにあるんだ。交易商として大きくなって奴だって立派な王だ。そんな奴は世界に何人居てもいい」

「それに、王様なんて飾り物だってイザベラ様が言ってたし・・・」

そうタマが言うと、エンリは「俺が即位しても飾り物か?」

タマは「飾り物でしょ。だってポルタは商人の持ちたる国なんだから」


エンリは頭を掻いて誤魔化すと、リンナとチャンダに言った。

「それと二人とも、顔を洗ってこい。顔に何か書いてあるぞ」

チャンダは困り顔で「そういう比喩表現は要らないから」

 ライナとルナが手鏡を持って二人に見せる。

「あ・・・」

チャンダとルナの顔に盛大な落書き。

二人、声を揃えて「何じゃこりゃー」

そして慌てて顔を洗いに行った。


「ロキ、またやったのか」

そうエンリが溜息をついて言うと、ロキがマジックペンを片手に姿を現わし、そして言った。

「何しろ、俺は主から悪戯の特許状を貰っているからな」



ヤナルガ王国内では熱病がすっかり沈静化し、ニケはマーモを連れて謝礼を要求しに王宮へ。


しこたまお金をせしめて意気揚々と王宮を出ると、ニケはマーモに言った。

「あなた、医術をどこで学んだの?」

「ギリシャだよ。親が医者でね。けど、オッタマへの反乱を疑われて、村が軍に襲われてイタリアに逃げたんだ。いろんな医術師がイタリアで随分と医術を発展させたって聞いてる」

そうマーモが言うと、ニケは「それで、あちこちで情報を集める訳よね? けど、人体に関する体系立った知識は必用よね?」


「それなんだよなぁ」

そう言ってマーモが溜息をつくと、ニケは一冊の本を出して「これをあげる」

出された本を見てマーモは驚きの声を上げた。

「これは・・・。解剖学のターヘルアナトミアじゃないか。いいのか?」

「金貨六十枚よ」

そう言って手を出すニケに、マーモはあきれ顔で「金とるのかよ」

「当然でしょ」とドヤ顔のニケ。


「中身は全部頭に入ってるって訳か?」とマーモ。

「私、そこまで勉強家じゃないわよ。これよ」

そう言って、記憶の魔道具を取り出すニケ。

「これで画像として記憶って訳か。なるほど、コピーすればただだものな」

マーモがそう言うと、ニケは「その知識で皇子を助けてあげて」

「任せろ」


そしてニケは話題を転じた。

「ところで、あの虫も他の動物と同じように繁殖するのよね?」

「分裂で増えるんだけどな」とマーモ。

「随分といろんな虫が居たけど、その性質はやっぱり遺伝するのよね?」

そうニケが言うと、マーモは「それって形相だよな?」

ニケは語った。

「古代の賢者アリストテレスが言っていた、全ての生き物の種類の姿や構造や、その他あらゆる特質が形相。それを何等かの形で親から子へと受け継ぐ、その種類の特質を伝える因子が形質よね。それは親が子を産み落とす時、予定された成長の過程として何らかの形で、その個体のどこかに組み込まれている。それがその種の本質であり実在だと、彼は言ったわ。それが、こんな小さな虫にも、犬や馬と同じように、どんな形で収められているのかしら」



「なるほどな」

植民市庁舎の宿に戻ったニケの話を聞いて、エンリは興味深げに呟いた。

そして「もしその形質の在り方が解き明かされたら、それを操作する事で作物の品種を自在に変える事が出来ると・・・」


エンリはダーウィンが言った進化という概念を思い出した。

あの虫と獣や植物、そして人の、形質のその在り方に違いは無い筈だ。

生き物は様々な形に進化して、いろんな種に姿を変え、様々な生き物が現れた。

魚もトカゲも獣も人も、元は同じ生き物が進化した姿なのだ。だったら、あの虫だってそうなんじゃ無いだろうか。

あの虫の中にも、同じ在り方で形質は存在し、それと同じ在り方で、獣や人の形質も存在する筈だ。


エンリは思い出した。全ての物質は原子という小さな粒が集まって出来ているという。

生き物もそうなのだろう。獣も、そしてあの虫も・・・。

だが、様々な物体と違って命がある。命のある生き物が、小さな命の無い原子という単位が集まって出来ている。

生き物も小さな単位が集まって出来ているのなら、どこからが命のある存在なのか。

切断された手首には、まだ命はある。だが、切った爪や髪に命は無い。つまり生き物も、命のある部分と無い部分が組み合わされて出来ているのだ。

だとしたら、命のある部分とは何なのか。それは命のある小さな何かが集まって出来ている?

そして、その何かとは、あの虫のようなものなのではないのか? だとしたら形質もその中に・・・。


「ところで、メアリ王女はどうした?」

そうエンリが話題を転じると、ニケは言った。

「底辺身分の村でいい事も無いし、病人の世話とか嫌だからと言って、船に引き籠ってヤマトさんに相手をさせているわ」

脇に居るアーサーは「どっちみち、あの船は接収する訳ですよね?」

「取り上げちゃうんですか?」

そう、脇に居るリラが言うと、エンリも「そうせざるを得ないだろうな。ポルタ大学から勝手に持ち出した訳だし・・・・・・」



インドを去る日が近づき、エンリはチャンダを連れて、ガンディラの所へ挨拶に行った。

師弟の別れを惜しむガンディラとチャンダ。


「ところでガンディラさんもバラモンなんですよね?」

そうエンリが言うと、チャンダは「本来は俺のような下層身分に修行させてはいけない事になっているんです。そんな戒律を乗り越えて、師匠は俺に接してくれます」

そしてガンディラは言った。

「本当は、カーストの弊害を多くの人が解っているのです。だから誰もが厳密に守っている訳ではないし、抜け道としてそれを破る罪を無効化する祈りもある。けれども厳密に守るべきだと主張する人達も居て、それが無用な争いを引き起こします」

「いつか、こんな差別は無くなるんだろうね。けど俺はそれを待つつもりは無い」

そんな事を言うチャンダに、ガンディラは言った。

「チャンダよ。あなたは広い世界に出て海賊王になりなさい。そして世界を変えて、人が人を見下さなくても幸せで居られる世界を創るのです。それこそが本当の意味で、穢れの無い清らかな状態なのだと、私は思います」



翌日、フェリペたちを集めて、エンリは改めて宣言した。

「今度こそ一緒にポルタに戻って貰うよ」

「まあ、そうなりますよね」とマゼラン。

フェリペは部下たちと顔を見合わせる。

そしてライナがわざとらしく、あさっての方向を指して「あんな所に、ユーフォーが・・・」


残念な空気が漂う中、エンリは溜息をついて言った。

「そういうのに引っかかる奴は居ないと思うぞ」

するとリンナが「あんな所に、裸の女の人が・・・」

エンリ、思わず「え、どこどこ?」

その隙にフェリペは仮面をかぶり、仮面分身で出した多数の鉄仮面を縦横に並べた上に部下たちと共に乗って、飛び去った。


残念な空気が漂う中、タルタは溜息をついて言った。

「ああいうのに引っかかる奴は居ないんじゃ無かったっけ?」

ニケも「男って最低」

エンリは口を尖らせて「だったらお前等が止めろよ。とにかく追うぞ」



その時、ヤナガルの大臣が慌ただしく部屋に駆け込んだ。

そして目一杯のお願い声で訴える。

「エンリ王子。実は隣国であの熱病が発生して、援助を求められていまして、是非またあのポーションを・・・」


ニケはノリノリで「謝礼ははずむのよね」

「隣国は必用なだけ費用を出すと言っています」

アーサーが「人助けですよ、王子」

リラが「行きましょう。人の命は球体地面より重いです」

カルロが「インドの女は可愛いですよ」


そしてエンリは悲鳴を上げた。

「勘弁してくれーーーーーー」

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