第33話 本気で芸能
モロッコの海岸で難破し、財布を流されて無一文になったエンリ王子たち一行は、現地の街で見世物により滞在費を稼ぐ。
今度はファフの番だ。
エンリたちは道端に立って客寄せを始めた。
アーサーが通行人に向けて口上を囃す。
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。ネス湖のネッシーも真っ青な未確認生物UМAをその目で見てみないか? 一見可憐なこの幼女、ファフちゃんの正体が実は何と!・・・ここからはネタバレ不要。お代は見てのお帰りだぁ」
集まった見物人の前で、元気いっぱいのファフ登場。
「みんなー、こんにちわー」
そう言って手を振るファフに「ファフたんモェー」
そう叫んでエンリたち男子四人が、盛り上げ役でオタ芸を披露。
「L・О・V・E、ファフたーん」
そんな男子四人の声援を背にに、ファフは嬉々としたはしゃぎ声で、客たちに向けて言った。
「ありがとう、みんなー。実はファフねー、こんな格好してるけどー、本当は人間じゃないのー。みんなぁ、モンスター娘は好きかなぁー」
「大好きー」とエンリたち四人。
「じゃ、いっくよー」
そう叫んでドラゴンの姿になるファフ。
それを見て観客たちは肝を潰して「ど・・・ドラゴンだぁ」
「逃げろー」
そして客は誰も居なくなった。
枯れ葉の舞う路傍でアーサーが「みんな逃げちゃったね」
「今夜は野宿だね」とニケ。
「それより腹減った」とタルタ。
「魚でも食うか」とエンリ。
海岸で焚火をするエンリ王子たち一行。
ファフがしょんぼりして膝を抱えている。
エンリがその肩に手を置いて「ファフ、どうした?」
「主様、ファフ、嫌われちゃった」とファフ。
「お前は頑張った」とエンリ。
「ファフ、可愛い?」とファフ。
「可愛いぞ」とエンリ。
ファフは「じゃ、いい子いい子して」
ファフの頭を撫でるエンリ。気持ち良さそうなファフ。
そんな二人を眺めてタルタは「やっぱり王子ってロリコン・・・」
「違うから」とエンリは言って口を尖らせる。
その時、海の方から「お魚取ってきました」と人魚姫リラの声。
人魚の姿で海から上がってきたリラが人間に戻る。
それを、そっと物陰で見ている女性が居た。
エンリ王子たちが海岸で輪になり、リラがとってきた魚を焚火で焼いてみんなで食べる。
そんな彼等に「あの、ちょっといいですか?」と声をかけた人が居た。
若い女性と中年の男性。女性はさっき物陰から彼等を見ていた人だ。
「その娘さん、人魚なんですよね?」と女性は言った。
「そうですけど」とリラ。
中年男性が「私、そこで見世物小屋をやっているんですけど、うちの出し物に出て頂けませんでしょうか。十分な報酬をお約束します」
「またUМAですか?」とエンリ。
女性が言った。
「曲芸です。人魚なら絶対出来る筈です。うちの子の芸ですごい人気なんですけど、病気で寝込んでしまいまして、お客さんが楽しみにしているんです」
翌日。
小屋の前に大きなプール。その前に並ぶ観客席には既に客がぎっしり。
客たちの前で昨日の女性がアナウンス。
「ようこそ、スーラ曲芸団の水上ショーへ。今日は珍しいスターが来てくれました。なんと人魚のリラちゃんです」
水面に上半身を出して手を振るリラ。
「ではリラちゃん 皆さんに人魚の姿を」とアナウンス。
リラは水上でジャンプして宙に舞う。水飛沫の中に浮かぶ魚の下半身。
観客の間にどよめきが起こる。
「ではリラちゃん。先ずはいつもの輪くぐり」とアナウンス。
女性が捧げ持つ輪を目掛けてリラがジャンプ。空中で輪の中を抜けるリラの姿に観客の拍手。
「では円盤とり」とアナウンス。
女性が投げた円盤をジャンプして宙を舞うリラが口で咥えて受け止める。
観客の拍手。
「では立ち泳ぎ」とアナウンス。
水中に残した下半身のしっぽの先だけで泳ぐ力で全身を支え、体の大部分を水上に出して立ち上がりながら笑顔で観客に手を振るリラ。
観客の拍手。
そんなリラを眺めつつ、アーサーはエンリに「人魚姫大人気ですね」
「そうだね。けど、何だろう。微妙に人間扱いされてない気がするんだが」とエンリ王子。
その時、数人の男が曲芸小屋に乗り込んできた。
彼等のボスが客たちの前で団員たちに「お前ら、誰の許可受けてこんな出し物をやってるんだ」と凄む。
「何ですか、あなた達は」とスーラ団長。
「見世物なら、このエルビダ曲芸団の俺様に話を通すってのが礼儀だろーが」
エンリはアナウンスの女性に、乗り込んできた男たちを指して「何だよあれ」
「あいつ等、近くで曲芸やってるんですけど、うちに客を取られたからって」と女性は顔を曇らせる。
タルタもジロキチも「とんでもない奴等だな」
ジロキチが男たちの横暴を糾すべく、彼等の前に進み出て・・・。
「おい、お前等、商売敵だか何だか知らんが、芸で負けたからって暴力で締め出そうとか、どういう了見だ! 客を呼べるように精進して芸で勝つのが・・・」
「お前、ジロキチじゃないか」と男たちのボス。
「・・・」
「イザベラ姫の護衛になったと聞いたが、こんな所で何やってる」と更にボスはジロキチに・・・。
「・・・」
「それで客を呼べるように・・・何だって?」とボスは、固まるジロキチに・・・。
「・・・」
「犬は三日餌をやったら恩を忘れない・・・って、お前の国の格言だよな?」と更にボスは困り顔で俯くジロキチに上から目線で・・・。
「・・・」
王子たち唖然。そしてタルタがジロキチに「なあジロキチ、もしかしてこいつら」
「俺を拾った曲芸団」とジロキチは残念そうに言った。
タルタはあきれ顔でジロキチに「こんな奴の下で働いてたのかよ」
その時、アーサーがジロキチの肩をポンと叩いて、言った。
「こんな奴等、俺一人で十分だ」
「やっちまえ」と、ボスの掛け声とともに、男たちはアーサーに殴りかかる。
水魔法で彼らをなぎ倒すアーサー。
そしてアーサーは彼等に「芸人なら、芸を磨いて客を呼ぶのが芸人魂だ。出直してこい!」
タルタは逃げて行く男たちに「おととい来やがれ」
観客たちはやんやの喝采。
その日の公演を終えると、団長はエンリ王子たちの手を執って感謝を述べた。
「ありがとうございます。お客さんたち、あんなに喜んでくれて」
エンリたちは報酬を受け取り、その夜、水上曲芸団の人たちの歓待を受けた。
翌日。
「おかげでうちの子もすっかり元気になりました。また芸に戻れます」とアナウンスの女性は嬉しそうに言った。
「良かったですね」と人魚姫リラ。
女性はプールに向けて「みんな、挨拶なさい」
プールの水面からイルカが顔を出す。
そして「うちの子、可愛いでしょ?」
エンリ王子、唖然。
そして「あれってイルカの芸だったの?」
「賢いんですよ、いろんな芸を憶えるんです」と女性は笑顔で言った。
「どうりで人間扱いに見えない訳だよ」とエンリは言って溜息をついた。
スーラ曲芸団を後にしたエンリたち。
「これからどうしますか?」とアーサーがエンリに・・・。
エンリは「そうだな」と思案顔。
その時。
「あの・・・」
そう言って声をかけて来たのは、昨日、殴り込みをかけに来たエルビダ団長だ。
タルタが腕をまくって「また懲りずに来たのかよ」と身構える。
団長は慌てて「いえ、昨日アーサーさんに言われた事が心に染みまして」
「だったら精進しろよ」とアーサーはあきれ顔で突き放す。
すると団長は「それで、アーサーさんに、うちに来て、あの手品の芸を客に見せて欲しいんです」
アーサー唖然。
そして困り顔で「いや、手品じゃなくて魔法なんだが」
「世界を股にかけた芸人アーサーさんの芸人魂をぜひ」と団長は食い下がる。
「いや、俺、芸人じゃなくて魔導士だから」と、ますます困り顔のアーサー。
「お客様に、ぜひ、あなたの芸を」と、諦めの悪い団長。
「魔法は見世物じゃなくて、戦いとか実用的なものなんだけどなぁ」と、更に困り顔のアーサー。
その時「あの、アーサーさん」と、リラがアーサーの上着の裾を握って、言った。
「火薬って基本戦争の道具ですよね? けど、火薬の一番人を幸せにする使い方って、見せて楽しませる花火じゃないでしょうか」
「そうだね」とアーサー。
曲芸団が入口で客を呼び込む。
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。エルビダ曲芸団今日のお題は魔法ショー。そんじょそこらの種も仕掛けもある手品の類とは訳が違う。本物の魔法が貴方をイリュージョンの世界に御招待だ。今ここにあるファンタジーをその目で見なきゃ人生大損。さぁ入った入った」
大きな芝居テント中央の舞台。客席には多くの観客。
アーサーが舞台に立ち、光の呪文を唱える。
空中に無数の光の玉が浮かび、それは観客たちの目の前で、蝶や小鳥となって飛び回り、植物になって枝を伸ばし、大輪の花を咲かせ、少女の姿に羽の生えた妖精となって観客たちに微笑む。
公演が終わり、団長はアーサーに報酬を渡しながら、言った。
「今日の公演は素晴らしかった。このままうちの団員になりませんか?」
「それはちょっと」とアーサーはタジタジ。
するとジロキチが「何なら俺が」
「お前はいい。三日で飽きられたんだよな」と団長はジロキチに・・・。
ジロキチは「そんなぁ」
その時、団員の一人が駆け込んできて、言った。
「あの、団長、イザベラ妃が」
「何だって?」と団長は驚き顔。
エンリたちが唖然とする中、ポルタに居た筈のイザベラ妃が来て、アーサーに言った。
「アーサー、こんな所で何をしているのよ」
「どうしてイザベラがここに」とエンリ。
「停戦交渉に来てたのよ。終わったんで帰国する所だったけど、面白い見世物をやってるというんで来てみれば、王子はここで何をしているの?」とイザベラ。
エンリは「難破して船が壊れたんだよ。財布も食料も全部流されて一文無しに。仕方ないので見世物で滞在費を稼いでたんだ」
一緒にポルタに戻って船を用立てる事になる。
イザベラは言った。
「東の海での対立は面倒な事になってるみたいよ。それより、財布を流されたんなら魔法で探せばいいじゃない」
「どうやって?」とエンリ。
「魔道庁長官から、これを預かってきたの」
そう言ってイザベラが出した箱の中には、ダウジング棒。
そして「人魚姫にこれを持たせたら、沈んだ財布、見つかるんじゃないの?」
みんなで、船が遭難した、あの海岸に行く。
そして・・・。
全員が見守る中、人魚姫リラが海から上がってくる。
「ありました。みんなの財布」と言うリラの手に、いくつもの財布。
ニケは自分の財布を受け取って中味を確認し、大喜びで「私のハーピーの涙とガイエの短剣ね」
それを見てイザベラはニケに「あなたが宝物蔵から持ち出したのね」
ニケは慌てて「いえ、ネズミが咥えていたのを拾っただけで、けして宝物蔵の第三収蔵室五番棚にあった訳じゃ・・・」
「言い訳は帰国してから司法官の尋問室で聞くわ」と、あきれ顔でイザベラは言った。
エンリ王子は溜息をつくと、ニケを指してアーサーに言った。
「こいつに窃盗行為が出来なくなる呪い、かけてやってくれ」
「止めてよ。私の唯一の小遣い稼ぎの手段」とニケは口を尖らせる。
エンリは「窃盗行為が唯一の小遣い稼ぎの手段とか人として駄目だろ」




