第316話 密林の抵抗者
ルソン島征服を開始したサルセード将軍の、猟兵戦の基地となる村を襲撃するやり方についていけないフェリペ王子たちは、現地の族長代理アギナルドが放った山猫の使い魔エミリオに襲撃計画を漏らして村人たちを救い、それが将軍に露見して、軍船の監禁室に収容された。
彼等はエミリオの助けで監禁室から脱出。
一方、サルセード将軍は、猟兵戦に有利な密林に闇魔法を使って枯野に変え、族長の拠点集落へと迫る。
現地兵を率いるアギナルドは、拠点集落を放棄して山の砦に立て籠もる事を決めた。
彼等が依頼したラプラプ王の援軍が到着するまで、あと十日。
エミリオを使って没収された各自の武器を取り戻し、フェリペたち九人は拠点を抜け出して、エミリオの案内で族長アギナルドの元へ辿り着いた。
「あなた達が味方になってくれると?」
五歳の幼児を含めて多くが子供の少人数の自称援軍に、アギナルド唖然。
彼はフェリペの前でしゃがみ、その頭を撫でて「君、奴らに親を殺された戦災孤児だね? 可哀想に」
そして彼は部下に「すぐ、この子を擁護施設へ」
そしてフェリペに「大丈夫。養育係のお姉さんは優しくて美人だし、お友達もたくさん居て、きっと楽しいぞ」
するとヤンが「お姉さんたちの平均年齢は?」
「みんな25才以下、フィリピーナは可愛いぞぉ」とアギナルド。
マーモが「いいなぁ」
そんな二人の大人男子に、ライナが不審そうな目で「あの、ヤンさんもマーモさんも、妻帯者ですよね?」
ヤンは「いーじゃん。船乗りは港港に女ありだ」
「最低!」とルナ。
「ってか、僕の父上も母上も生きてるし、僕はスパニア皇太子フェリペで、闇のヒーローのロキ仮面」
そうフェリペが困り顔で言うと、マゼランが「あの、皇子。ヒーローは正体を明かしてはいけません」
それを聞いてアギナルドは「するとこれは戦争ごっこ? そういえば聞いた事がある。ユーロの皇太子は戦争ごっこのために市街戦用の街を作って貰うとか」
「いや、違うから」とマゼランは困り顔で・・・。
そしてチャンダが「みんなを助けるために情報を漏らしているのが将軍にバレて、監禁されていたのを逃げて来たんです。将軍は魔眼というののせいで、変になって。僕たちは彼を止めたい」
「解った。協力してくれるのは有難い。ところであなた達は何故この島に?」
アギナルドがそう問うと、マゼランは「ここをスパニアの領地にしようと・・・」
そう彼が言いかけ、アギナルドは「つまり侵略者?・・・」
フェリペは慌てて「けど本当は、政治犯として殺されそうになっている、メアリという女性が逃げて暮らせる所を探しているんです」
「君の好きな子?」
そう問われてフェリペは「好きな人のお姉さんで二十歳の女性なんだけど」
「何てけなげな」とアギナルド涙目。
するとヤンが思い出したように「ところで、そのメアリ王女は?」
「置いて来ちゃった」とフェリペたち。
そしてマゼランは「まあいいや。あの人は監禁の対象にもなって無かったみたいだし」
そんな彼等を見て、アギナルドは思った。
(何なんだろう? こいつ等)
「ところでフェリペ皇子。これから戦いになるので、子供は安全な所で」
そうアギナルドに促されたフェリペは「僕はヒーローで強いんだぞ」
「そういうヒーローごっこは後にしてくれないかな」
困り顔でアギナルドがそう言うと、マゼランが「いえ、仮面をかぶると多分、この中で一番強いです」
「はぁ?」
「何せ俺が力を貸してるからな」
そう言いながらフェリペの隣に出現したロキを見て、アギナルドと部下たちがびっくり仰天。
「出たーーーーーーー! 悪霊退散。迷わず成仏ナンマイダー」
ロキは面白がって、両手を下に垂らした幽霊ホーズでアギナルドの部下たちに迫って「ほーらお化けだぞー怖いぞー」
「この非常時に、そういう悪ふざけは止めろ」
困り顔でフェリペがそう言うと、ロキは「そうだったな。という訳で、人を幽霊みたいに言うのは止めろ。俺はこう見えても神様だぞ」
「悪霊じゃないの?」と、アギナルドの部下の一人が・・・。
チャンダが「まあ、邪神だから悪霊みたいなもんか」
「けど下半身は蛇じゃないよね?」と、もう一人のアギナルドの部下が・・・。
ロキは「ああいう性悪女と一緒にするのは止めろ。ってか他所のアニメの話はいいから」
「そうだよね。北海道の時みたいに、下手なローカルネタでバッシングされたら敵わん」とマゼランも・・・。
アギナルド陣営の作戦会議。フェリペたちも参加する。
「あと十日で援軍が来ます」
そう説明するアギナルドの部下。
「援軍って強いの?」
フェリペがそう問うと、アギナルドは「ラプラプ王ですよ。一度あなた達の軍勢と戦って撃退した英雄です」
「そんな奴が居たの?」
そうチャンダが言うと、シャナが「陸戦隊の誰かを返り討ちにしたって事だろ?」
マゼランが「俺たちだったら負けなかったと思う」
「軍船の大砲の届かない遠浅の海岸に誘い込んで、鎧を着た敵の防護してない腿の部分を弓矢で狙って」
そうアギナルドが説明すると、チャンダが「弱点を突かれた訳だ」
シャナが「間抜けな指揮官だなぁ」
「軽装な三人がやたら強かったけど、王はもっと強くて」
そうアギナルドが説明すると、マゼランが「味方がやられ放題なのに、三人だけ戦えてもなぁ」
「変な空飛ぶ乗り物に乗った治癒魔法使いの助けで撤退したとか」
そうアギナルドが説明すると、三人の従者、互いに顔を見合わせる。
そして「それ、俺たちの事じゃん」
「あの王様かぁ」とマゼラン。
するとフェリペが「けど、サルセード将軍も強いよ」
チャンダが「魔眼使いだものな」
「それに鉄砲を使った集団戦で、魔導士も何人も居て」とマゼラン。
アギナルドは言った。
「我々は山の上に砦を築いて立て籠もります。マドレ山という所に。我々の軍勢で戦っている間に、住民をあそこに避難させるんです」
翌朝、スパニア軍が隊列を整え、進軍を開始しようとしていた。
サルセード将軍が全軍を前に、激を飛ばす。
「敵の軍勢が拠点を築こうとしているとの情報が届いた。これより進軍する。向うには恐らくフェリペ皇子が居ると思われる。遭遇したら、なるべく生かして捕えよ。だが、手に負えないようなら殺しても構わん。この私が責任を負う」
「ですが彼は女帝の一粒種です」と陸戦隊長が言う。
サルセードは更に言った。
「国家とは皇帝では無い。領土があり国民が居て、そこを治める主が居れば、それが国家だ。ポルタは通商国家として世界の海の半分を得ている。それに対して、スパニアは軍事国家として西方大陸を得た。更にその西のオケアノスの大洋を得るべく西へ進む事は、神が定めたる明白な天命。即ちマニュフィストジャスティスである。それに五歳の皇子が抗うというなら、私は軍人として、王族殺しを贖うギロチンにこの身を捧げて、その障害を排除する。これぞスパニア軍人の本懐。お前達には一切の咎を負わせない。心を一つにして軍務に専念せよ。では進軍開始!」
ヤマト号の甲板上で、進軍するスパニア陸戦隊を見送るメアリ王女。そしてヤマトと、留守番役の水兵たち。
「大丈夫でしようか?」
そうヤマトが心配そうに言うと、メアリは「あの子たちなら、きっとうまくやるわ」
「そうですね」とヤマト。
そしてメアリ王女は言った。
「だって、この私が、あのエリザベスから取り上げた小さな皇子様ですもの。もっと磨いて最高の男にして、あの生意気な妹に地団太踏ませてやるの。逃した大魚を見せびらかせ。これは女子会戦略の鉄則よ。ほーっほっほっほ」
そんなメアリを見て、ヤマトは思った。
(何だろう、この残念感)




