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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
313/562

第313話 密林の惨劇

時はやや遡る。

メアリ王女を流刑地から救出して、オケアノスを西へ逃亡した、フェリペ皇子。

そして彼に従うサルセード将軍。

将軍の目的は、オケアノス西側にスパニア帝国の征服地を得て、広い大洋をスパニアのものとする事だった。



彼等を追うエンリ王子より、一足早くオケアノス西端に辿り着いた彼等が標的と定めたのは、未だ島の統一に至らず、複数の部族が割拠するルソン島だった。

フェリペたちの乗るヤマト号と、サルセード将軍率いる軍船三隻に乗った陸戦隊。

彼等が島に上陸すると、鎧に身を固めたコンキスタドール軍団が、現地人の村を次々に占領し、彼らの属する部族に服属を要求。

屈服させた幾つもの部族を支配下に収めた。


だが、彼等に抗う勢力が居た。ラプラプ王である。


「王って事は、この島を治める王様って事ですか?」

サルセード将軍を囲んでの作戦会議でマゼランがそう訊ねると、参謀が答えた。

「いや、この島には幾つもの部族があって、その中の族長の一人だそうだ」


そして陸戦隊長が説明する。

「島の西側に居るマニラ族という最大の部族の族長で、彼が抵抗を宣言したとか。そして決闘を挑むという手紙を送りつけて来たとか」

「決闘って一対一で?」

そうチャンダが言うと、参謀が「いや、ヤンキーがタイマン貼るってのとは違うんで。戦場と時間を指定して、部隊どうしの決戦を・・・って事です。マクタン海岸という所で」

「それで、受けるんですか?」

マゼランがそう問うと、サルセード将軍は反対した。

「恐らく、有利な地形を利用した罠が用意されている筈だ」

「けど、怖気づいたと思われて、服属した部族が離反しますよ」と陸戦隊長。


すると、フェリペが「僕たちが行く。出来るよね? マゼラン」

「もちろんです」とマゼランが答える。

「いや、たった十人じゃ、軍団相手の戦争にはならんだろ」

そう言って陸戦隊長は止めたが、将軍は「けど、そうだな。若者は経験を積んだ方がいい。兵を貸そう。重装歩兵を五十名。楯役として使うといい」



大掛かりな鎧に身を固めた陸戦兵50名を乗せて、ヤマト号が出港した。

地形を観測しながら沿岸を航行する。

「あそこがマクタン海岸ですね」

そうヤマトが言って沿岸の砂浜を指すと、マゼランは「先ず、射程まで近づいて艦砲射撃をかけよう」

するとヤマトは「それが、どうも無理みたいで」

「どうした?」

「沖まで浅瀬が続いて、射程に入るだけの接近が出来ないんです。ただでさえ遠浅の海な上に、干潮の時間で・・・」とヤマト。


小舟で上陸しようという事になる。

上陸の用意が出来ると、マゼランはフェリペに言った。

「兵は俺たち従者三人が率いて上陸します。どんな罠があるか解らないので、皇子は女官たちと船に残って下さい」

フェリペは不満顔で「僕はヒーローだぞ。ヒーローの居ない戦争なんて、マリームの無いコーヒーみたいなものじゃないか」

ライナが疑問顔で「銘柄が違うような気がするけど」と突っ込む。

そしてマゼランはフェリペに「危なくなったら、支援の手を考えて下さい」



マゼランたち三名と小隊長ピガフェッタ率いる重装歩兵が、数隻の小舟に分乗して上陸。

広い砂浜と草原の向うに、多くの現地人兵が陣を構えている。

全員が弓矢と槍を持ち、ラプラプ王らしき指揮官が居る。


ラプラプ王の陣営では・・・。

「あれがスパニア兵か」

そう一人の現地人兵が言うと、もう一人が「ロボットみたいなんですけど」

「あれは鎧だ。全身を鉄板で覆って、弓矢を跳ね返す代物だよ」とラプラプ王。

「そんなのどうやって戦えばいいんですか?」

そう兵が弱気顔で言うと、ラプラプ王は「よく見ろ。腰から下を覆っている鉄板の下の腿が空いてる。あそこを弓で射るんだ」



整列し鉄砲を構えて前進するスパニア兵。

ラプラプ王の陣では、簡単なバリケードの陰から兵たちが弓矢を構える。

「かかれ!」

そのラプラプの号令とともに、スパニア兵たちの周囲の草陰から、一斉に現地人兵たちが姿を現わして弓矢を放つ。

そして、腿を射抜かれた重装歩兵に槍を持って襲いかかる。


スパニア兵たちは剣を抜いて白兵戦となる。鎧に身を守られていても、足の矢傷の痛みで満足に戦えない。

その様子を見て、チャンダが「これじゃ楯役にならないぞ」

マゼランが「俺たちが斬り込んで敵を攪乱しよう」


マゼラン、チャンダ、シャナが混戦の中に突入。

数人の現地人兵が密集して槍を突き出すのを、シャナの炎の刀が薙ぎ払い、雨のように降って来る矢を叩き落とす。

何人もの現地人兵の槍を相手に剣を振るうチャンダ。

マゼランは、群がる現地人兵に風の散弾の呪文を使って、多くの現地兵をなぎ倒す。

だが、すぐに現地人呪術師の妨害魔法を受けた。


「今だ。一気に突き崩せ」

ラプラプを先頭にバリケードから飛び出す多くの現地人兵。

「アラストールを出すか?」

そうシャナが言うと、マゼランは「こんな乱戦では味方に被害が出るぞ」


現地人兵を相手に剣を振るうマゼランの前に、楯と槍を構える偉丈夫が立ちはだかった。

「お前が指揮官か?」

そう問いかける偉丈夫に、マゼランは名乗った。

「俺はマゼラン。フェリペ皇太子の筆頭従者だ」

「俺はラプラプ。この土地が欲しくば俺を倒してみろ」

そうラプラプ王は名乗ると、機関銃のような速さで槍を突く。そのラプラプの攻勢を剣で受け流しながら、マゼランは脳内で呟いた。

(こいつ、強い)


戦いながらラプラプは「お前、指揮官としては若いな」

「海賊として場数は踏んでいる」とマゼランは答える。

「だが、戦争の経験は乏しいのではないか?」

そのラプラプ王の言葉を聞いてマゼランは、サルセード将軍の言葉を思い出した。

その一瞬の隙をついて、ラプラプの槍がマゼランの腿を貫く。


気力を振り絞ってその槍の柄を剣で叩き折るマゼラン。

ラプラプは短剣を抜いて斬りつけ、マゼランを圧倒した。



その時、上空から銃の連射。見上げるとヤンの飛行機械だ。

「助けに来たぞ。撤退しろ」

そう叫ぶヤンにマゼランは「この人数がそれに乗るかよ」

「だから・・・」

ヤンの後ろに居るライナがそう叫ぶと、全体治癒の呪文を唱え、マゼランとスパニア兵たちの腿の傷を回復させる。

そして、一緒に乗っていた仮面をつけたフェリペの、仮面分身で出現した無数の鉄の仮面が、宙を舞って現地人兵を襲う。

「この隙に撤退しろ」とフェリペ。


十数個の鉄の仮面がラプラプを襲う。

これを短刀で全て叩き落とした時、マゼランたちは撤退していた。



「どうでしたかな?」

拠点に戻ったフェリペたちを迎えたサルセード将軍がそう問うと、マゼランは「現地人をあなどっていました」

サルセードは「とりあえず、ここを拠点に支配地を広げていくとしましょう」



だが・・・。

サルセード将軍は、支配下に入った筈の集落が無人となっているとの報告を受けた。

「各部族がラプラプ王の戦いを見て離反したようですね」

そう参謀が言うと、サルセードは「なら、ここの族長の拠点を制圧しよう」



族長の拠点集落に続く密林の細い道を、陸戦隊が隊列を組んで進軍する。

その隊列の中央部分が襲撃を受けた。

矢が雨のように降って来る。そして、両側の密林から斬り込む現地人兵。たちまち乱戦となった。


サルセード将軍が、先頭部分の兵をまとめて救援に駆け付けた時、襲撃隊は既に撤退していた。

後衛部分の兵に守りを固めさせ、先頭部分の兵で追撃をかける。

密林の繁みが濃くて見通しが悪い中を、高木の上から矢が飛んで来る。

飛んで来た方向を見定めて鉄砲で一斉射撃をかけた時には、既に襲撃者の気配は消えていた。


進軍を中断して、怪我人の手当てを始める。

周囲を無傷の兵が固めるが、隙をついて現地人の猟兵が密林に隠れて襲って来る。

サルセード将軍は参謀に言った。

「こんな密林の中の細い通路では不利だ。とりあえず撤退するぞ」



拠点に戻り、作戦会議。

地図を広げて、戦闘のあった場所と襲撃者が逃げた方向を確認する。


そして、地図に記載された集落の地点を指して、サルセードは言った。

「この村が猟兵の拠点で間違い無いだろうな。掃討に向かうぞ」

「掃討って?・・・。村は無人になってるんじゃ・・・」

そうマゼランが疑問を呈すると、サルセードは「彼らだって生活がある。ほとぼりが冷めれば戻って来る。住民が武器を執って襲撃者となるのが、彼等のやり方だ。私が軽装歩兵を連れて討伐する」

「俺たちも行きます」

そう申し出たマゼランとチャンダに、サルセードは「こういう戦いに慣れた者以外は足手纏いだ」



その夜、サルセード将軍は200人ほどの軽装備の兵を連れて出撃した。


拠点に残ったフェリペの仲間たちは、心配顔であれこれ言う。

「掃討ったって、普通の村なんだよね?」

そうリンナが言うと、フェリペも「居るのは普通の村人なんじゃないのか?」

仲間たちの脳裏に膨らむ、嫌な予感。

そんな空気を感じたマゼランは、フェリペに「俺たちが様子を見て来てます」



マゼランとチャンダがジャングルを抜けて村に着くと、既に戦いは終わっていた。

「これって戦いというより・・・」

そう呟いてマゼランが見た村の悲惨な光景・・・。

点々と散らばる死体の半分以上は女と子供だ。


住居を調べているサルセード将軍と参謀たちが居る。

「将軍、これって・・・」

そうマゼランが問いかけると、サルセードは「やはりここは猟兵の襲撃拠点だ。武器が蓄えられている。我々を襲った装備だ」

「けど、死んでるのは女と子供ですよ」

そう沈痛な表情でマゼランが言うと、サルセードは言った。

「女と子供だって、兵を養う支援要員だぞ」

「そんな・・・」

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