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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
312/562

第312話 連合の島弧

フェリペ皇子を追跡してオケアノス西端に来たエンリ王子たちは、ジパング追放の危機に瀕したポルタ商人たちを救うべく、豊臣秀吉の元を訪れ、彼を暗殺しようとしていた唯一神信仰布教のロヨラ会の壊滅に協力。

彼等の原城における反乱は鎮圧され、生き残った信者たちはエンリの説得により、踏み絵を踏む事で解放された。



反乱の後始末が終わると、エンリ王子はポルタ商人たちを集めて問い質した。

「この中で、奴隷の売買を知りながらロヨラ会の手助けをした者は居るか?」

商人たちは、互いに顔を見合わせると、全員口を揃えて「知らずに手助けを・・・」


そんな彼等を見て、エンリは「まあいいや。ともかく、彼らがそういう事をすると解った以上は、今後一切、教皇派の僧侶をジパング行きの船に乗せる事を禁じる」

「けど、ここの教会組織は壊滅したのですよね?」

そう商人の一人が言うと、エンリは「シーノでは皇帝に取り入って組織を維持している。そいつらがジパングに会士を送り込んで、侵略の先兵としようとするだろう。それにうっかり手を貸せば、この国に対する侵略に加担した事になり、今度こそ追放だ」



エンリたちは商人たちに書かせた誓約書を持って、秀吉にポルタ商人追放令の取り消しを求めた。

秀吉の脇に控えているのは、真田幸村と彼の配下の十勇士。そして淀という少女。


「皆さんの国が国教会を信仰しているという事は、教皇派は別の国の宗教なのですか?」

そう秀吉が問うと、エンリは「元はユーロ全体で権威を振るい、政治に介入していました。私たちはそうした介入を受けないために、国が宗教を管理する独自の教会を立ち上げたのです。坊主は国の予算で保護されますから、生き残るための無理な布教の必要は無い」

「つまり、坊主がおとなしいと?・・・」

そう幸村が言うと、エンリは「やる気が無い・・・とも言いますけどね」

秀吉は言った。

「だから、こんな所に布教に来ない。それで代わりに教皇派が・・・という訳ですか。ジパングでも、勢力のある寺が武装した僧兵を抱えて領地を争い、利権を求めて乱暴の限りを尽くすと、信長様も苦慮していたなぁ」


「僧兵って、十勇士の中の三好兄弟みたいな?・・・」

そうエンリが言うと、三好伊佐が口を尖らせて「俺たち、乱暴なんてしてませんから」

「そーいやお前等も僧兵だったな」と猿飛佐助が三好兄弟に・・・。

三好清海が口を尖らせて反論。

「いや、かっこいい正義の味方な僧兵だって居ますよ。義経に仕えた弁慶とか」

「けど彼、最初は千本の刀を集める強盗だったんじゃ・・・」と筧重蔵。

「・・・いいんだよ、そういう昔の事は。未来志向で行きましょうよ」

そう三好清海が言うと、エンリが「それ、どこぞの半島国の詐欺師な大統領の常套句なんだが」

「・・・」


残念な空気が漂う中、タルタが言った。

「けどさ、魔王と戦う冒険者パーティーの戦力として、僧侶は必須だよね?」

「確かに・・・」と全員頷く。

「バックオーバーという国に、ブラックバードという盗賊が仲間を集めて攻め込んだ事があったそうだ。その時、ヨシツナという武士が各地の領主を集めて、その盗賊軍を破ったんだが、彼の部下の中にも戦う僧侶が居たそうだ。その僧侶が建てたという寺があって、その裏山に彼が造った城の跡がある。地元の人たちは立派な僧侶だったと言って、今でも尊敬しているそうですよ」

そんな話をアーサーが語ると、エンリは頷いて、言った。

「社会が混沌とした中で聖地と崇める場所が無法者勢力の脅威に晒されれば、平和な時代とは違う考え方が必用になる。それに従った人たちを、平和な時代の常識で悪く言うのは、確かに間違っているよね。必要なのは、そういう考え方の違いから来る不幸を防ぐ事さ」


そんな会話を聞きながら、秀吉は思った。

(平和な時代が来る中で、我が国の寺社も、そうした統制が必用なのだろうな。そういえば家康の奴が寺請とかいうのを始めたとか言ってたな。戸籍みたいなのを作って、どの寺の檀家なのかを登録させるとか)



「それで、国教会って教義的にはどうなのですか? ジパングの神仏を否定したりとか・・・」

そう幸村が言うと、エンリは「そんなのはありません。信仰の自由を認めていますから」

「緩いですね」と穴山小介。

「緩いですよ。恋愛自由だし・・・」

そうエンリが言うと、秀吉が「自分たちは性に厳しい清潔な宗教だとか、それを受け入れないジパングは世界一男性の性欲に寛大な不潔な国だとか」

「言いません」とエンリはきっぱり・・・。


「側室とかも認めたりする?」

そう秀吉が言うと、エンリは隣に居る恋人を見て「このリラは側室・・・って事になるのか?」

そう言われたリラは「私はたとえ小間使いでも、王子様を愛しています」

エンリはリラの手を執って「姫」

「王子様」

「姫」

いきなり二人の世界に入るエンリとリラに、アーサーは困り顔で「そういうのは後にして」



秀吉は、隣に居る淀を見て、エンリに言った。

「実は、この淀を側室に迎えた件について、周囲の信者が"貞潔の教えに反する"とか言い出して、やれ不潔だのキモい性欲オヤジだの、本妻のねねに悪いと思わないのかだの・・・」

「そりゃ大変でしたね」と言って溜息をつくエンリ王子。

「全くだ」と言って溜息をつく秀吉。

「けど・・・、あなたの場合、手を出してるのはその二人だけじゃないですよね?」とエンリは秀吉に・・・。

「当たり前だ。俺は天下人だぞ。英雄色を好む、という言葉を、奴らは知らないのだ」と、開き直りモードの秀吉を見て、溜息をつくエンリ。


「そもそも、まだ世継ぎだって生まれていないのだぞ」

そう不満顔で言う秀吉に、エンリは言った。

「けど・・・、もしかして、唯一神を禁教にした本当の理由って、それ?」

「それは・・・・・・・・・」


残念な空気の中、カルロは秀吉の手を執って、言った。

「秀吉様。浮気というのは、障害があってこそ燃えるものです。嫁や周囲の目を盗み、気に入った女を口説いてモノにして、こっそりと逢瀬を楽しむ。そのスリルにこそ価値があるのではないでしょうか?」

「確かに・・・」と納得顔で頷く秀吉。

カルロは「今夜あたり街に繰り出しますか?」

秀吉は「ええのう」


その時、襖がガラリと開いて、正妻のねね登場。

「殿、またそのような」

秀吉は慌て顔で「ねね、これはな」

「異国からの客人の前で、我がジパングの恥を晒すような真似はお止め下さい」

小一時間説教される秀吉。



秀吉が説教から解放されると、重臣たちを集めて戦略会議。エンリ王子も参加した。

「シーノの動向についてですが、タカサゴ島のミン帝に対しての侵攻が続いています。そのシーノから我が国に、一つの中華の実現のために協力せよとの要求が・・・」

そう小西行長が報告すると、秀吉は「このジパングも勢力下に入れ、との要求か?」

「かつてミンに朝貢していた属国だと」

そう小西が言うと、秀吉は「京に将軍が居た二百年も前の話だ。あの時だって、属国と呼べるような支配は受けていない」


「これを見て欲しいのですが」

そう言ってエンリは世界地図を示した。

「これは?・・・」

「信長様にお会いした時に触れた、"一つながりの大秘宝"です」

そうエンリが言うと、「これが・・・」と一同、唸り声を上げる。

そして古田織部が「ご覧下さい。この海岸線を現わす細く複雑なライン。これぞ美の極致」

「いや、そういうのはいいから」と困り顔のエンリ。


「それより、これが世界の海を支配すると言うのか?」

そう秀吉が問うと、エンリは言った。

「この航路に乗れば、世界のどこにでも行けます。交易で大きな富を得、友誼を求めて同盟を組む事も」

秀吉は「確かに、他国との関わりは武力で覇を唱えるだけでは無い、という事か」


そしてエンリは地図上の大陸東端と大洋の西端を指して言う。

「この部分をご覧ください。シーノは大陸のこの部分を版図とした広大な国ですが、その海岸と大洋との間に、転々と続く島々が連なっています」

「これがタカサゴ島。ここがナハの島々。南にルソン島。北に我等のジパング」

そう小西が地図上に連なる島々を確認すると、秀吉は言った。

「つまり、彼等が大洋に進出する時、まるで蓋をするように、それを妨げる事が可能という事か?」


エンリは更に言った。

「シーノは、かつて形だけの朝貢で"世界の主"を気取る精神勝利の国でした。それが北方の異民族が武力で皇帝となり、武力による本物の世界支配を目指している。その際、先ず、この島々が侵略の標的となります」

「あの超大国の覇権を、このジパングにも及ぼそうという訳か。いったいどうすれば・・・」

そう言って、秀吉は苦悩の表情を浮かべる。

それに対してエンリは「同じ脅威を受けている国々で、連合を組んで対抗するのです。タカサゴ島の海軍力となっているのは、ジパング海賊です」



秀吉は命じた。

「小西、すぐに交渉の手筈を整えろ」


「ところで、九州の北にある半島はどう致しますか?」

そう、武将の一人の加藤清正が言うと、エンリは「あそこは既にシーノの属国・・・というより領地です。王は居ますが、三田渡という所で自らシーノの使者を土下座で迎える行事を強いられているとか」

「民の間で反発は起きないのか?」と秀吉は問う。

「中華が世界の中心だという迷信を、本気で信じている人達ですから。そこからの地理的距離がイコール国の格付けだと主張し、ジパングは格下の野蛮国だと真顔で言うような輩です。相手にしたら絶対駄目!」

そうエンリが指摘すると、秀吉は「無視するに限るという事か?」

「それに、あの国と同盟して戦うと、同盟した側が必ず負けるので、"不名誉なバランサー"と呼ばれています。かのタタール帝国が攻め込んだ時もそうでした。下手に対シーノ連合に加えると、足を引っ張られます」と、エンリは更に指摘した。


「小西はどう思う?」

そう秀吉が問うと、小西は「あの国は外交文書を偽造するのですよ。友好関係を求めた書簡が、まるで朝貢を申し出たかのように改竄され、話し合ってもいない譲歩案件を、あたかも内々で合意したかのように発表されるなんて日常茶飯事です。シーノに反撃するための通り道として攻め込もう・・・なんて絶対考えない方がいいと思いますよ」

秀吉は「肝に銘じよう」



そして小西は報告した。

「ところでこのルソン島ですが、助左衛門という商人がここに出入りしているのですが」

「あのルソン壺を輸入した者か?」

そう秀吉が言うと、エンリは「まさか先祖の祟りとかって話?」

「いや、ただの茶器として輸入したのですが、彼がもたらした情報で、あの島が外敵に襲われていると」と小西行長。

「まさかシーノが」と、一同の間に緊張が走る。


「いや、東から大洋を越えてきた四隻の軍船だそうです」

小西のその一言で、エンリは「フェリペたちだ」

「誰なんですか?」

そう秀吉が問うと、エンリは残念そうに「うちの家出息子ですよ。あいつを連れ戻しに、ってのが、実は我々の最大の目的なんです」

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