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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
310/562

第310話 剣と十字架

ジパングにて、豊臣秀吉暗殺を企てるロヨラ会の討滅に協力するエンリ王子たち。

追い詰められたロヨラ会が九州の原城で蜂起し、そこには信者だけではなく、苛政に苦しめられた地元の農民たちも参加していた。

エンリは彼等農民兵を説得し、投降させる事に成功。その中で二の丸の守りは突破された。



破壊された二の丸の城門跡から、なだれ込んだ秀吉軍の兵たちの前に、1人の若い武士が立ち塞がった。

「炎の波濤!」

その掛け声とともに、翳した右手の小さな魔法陣から灼熱の炎が噴き出し、群がる兵を薙ぎ払う。

彼は叫んだ。

「我は天草四郎。神より与えられた奇跡の技に命を捧げたくば、かかって来るがよい」


鉄砲隊が距離をとって一斉射撃。

だが、四郎は左手でイージスの防御魔法を展開して銃弾を防ぎ、右手の光の散弾で鉄砲隊を抑え込んだ。

その様子を見て、エンリの仲間たちが口々に言う。

「あいつ、呪文を詠唱してないぞ」

そうエンリが言うと、リラも「無詠唱であんな強力な魔法を、しかも二つ同時に」



「俺が行きます」

そう言ってアーサーが立ち上がると、四郎の前に進み出た。

「俺はエンリ王子の部下、魔導士のアーサー。魔法での一騎打ちを申し込みたい」

「いいだろう。我が魔法の威力をその身に刻むがいい」

そう四郎が言うと、アーサーは「生憎と、ここは神様ボーナスが効く転生用異世界じゃ無いんでね」


アーサーは防魔の短剣を翳し、四郎は炎の波濤を放った。

四郎の強力な炎の攻撃魔法は、アーサーの目の前で消滅。

「何だと?」

四郎は焦り顔でそう呟く。そして次々に攻撃魔法を放つ。

サンダーボルト、ウォーターカッター、ウインドブレード・・・。

その全てがアーサーの目の前で消滅。


「どうなってる」

困惑する四郎に、アーサーは「魔力自慢はお前だけじゃ無いって事さ」

四郎は「神から授かった魔力に叶う奴なんて、居る筈が無い」

全力の魔法攻撃を連打し、全てアーサーの防魔の短剣の前に消滅する中、焦りの表情とともに四郎の息が荒くなる。

「そろそろ魔力切れか?」

そうアーサーが言うと、四郎は「黙れ! 俺は魔力だけじゃ無いぞ」


刀を抜いてアーサーに襲いかかる天草四郎を見て、エンリは慌てた。

「まずい。アーサーは肉弾戦には無力だ」

その時、1人の忍者が飛び出し、四郎の刀を忍刀で受け止める。

そして「真田十勇士の一人、猿飛佐助」

「助太刀とは卑怯な」

そう四郎が言うと、佐助は「卑怯なのはお前だ。魔法勝負に剣を持ち込むのは反則だぞ」



激しく切り結ぶ四郎と佐助。

「四郎様を守れ」

そう叫んで信者兵たちが本丸門から駆け出ると、それに向って秀吉軍が突撃。

二の丸で壮絶な乱戦となった。


「鉄砲隊で援護を」

本陣でそう言う秀吉に、軍師の黒田が「味方に当たります」

「主様、ファフも」

そう言うファフに、エンリが「味方が巻き添えを喰うぞ」


生き残った会士たちが攻撃魔法を乱射する。

それに妨害魔法をかけるアーサー。

呪縛の呪法で会士たちを取り抑える三好清海と伊佐。

光魔法を放つ会士の攻撃を闇の魔剣で防ぐエンリ。その背後でウォーターランスを放つリラ。

剣を振るう会士を霧隠才蔵が分身の術で取り囲み、望月六郎が止めを刺す。

十勇士の武士たちと共に剣を振るうジロキチ、若狭、タルタ、カルロ。


激しく四郎と切り結ぶ佐助は、右手の忍刀で四郎の刀を受け止め、左手のくないを四郎の胸に叩き込んだ。

「四郎様!」

信者兵たちの悲痛な叫びに応え、四郎は残る力を振り絞って光魔法の目晦ましを放って、味方に向けて叫んだ。

「お前達は逃げろ」

「だったらあなたも」

そう言って周囲の数名の信者兵が、深手を負った四郎を抱えて本丸へ逃げ込む。


「このまま攻め落とすぞ」

そう秀吉は号令を下し、破壊された門の跡から全軍が突入。

二の丸を占領する秀吉軍。そして信者たちは本丸に追い詰められた。



原城の本丸では・・・。

会士のパーデレは全員討ち死に。天草四郎も重傷を負った。


一様に悲痛な声を上げる信者兵たち。

「この城はもう駄目だ」

「私たちは終わりだ」

天草四郎は苦しい息の中、そんな信者兵たちに言った。

「いいえ、きっと神が奇跡を起こして下さる」


その時、海側の崖上に居た信者兵が声を上げた。

「あれを見ろ。シーノの援軍だ」

水平線の向うを埋め尽くすように並ぶ、膨大な数の軍船。

「神は見捨てなかった」と、涙を流す信者兵たち。



秀吉の本陣でも、その報告が届いていた。

「秀吉様、シーノの水軍です」

「間に合わなかったか」と落胆の声を上げる秀吉。


だが、エンリ王子は言った。

「撃退しましょう。彼らは海戦に慣れていません。タカサゴ島にミンの残党が居ます。シーノから攻め込もうとして何度も撃退した。撃退したのはジパング海賊です」

それを聞いて秀吉も立ち上がる。

「私が安宅船で出よう。このあたりは海賊の拠点だ。駆り集めろ」

「我々も出ます。砲撃のため集まったポルタの商船も居る」とエンリ王子。

「ですが、相手は膨大な数の軍船ですよ。この数で対抗できるのでしょうか?」

そう、奉行の小西行長が言うと、秀吉は「海賊船が集まるまでの足止めだ。安宅船は防護鉄板で守られている。時間を稼げればいい」

「なら、やる事は牽制ですね?」とエンリ王子。



出撃する安宅船と配下の軍船、そしてタルタ号率いるポルタ商船隊。


シーノ船団の左側面に回って、射程ギリギリから砲撃。

反撃の砲弾が雨のように降って来ると、後退する。敵が追撃すると更に後退。

誘われて原城から引き離させるシーノ船団。

「いいぞ、このままついて来い」

そう呟くエンリに、アーサーが「そのうち気付くと思いますよ」

「そうなる前に次の手を打つさ」とエンリ王子。


ファフのドラゴンが海中を進み、敵船団のただ中に現れ、炎を吐いて大暴れ。

船団はたちまち混乱する。


「次の手だ」とエンリは号令。

リラのウォータードラゴンに人魚のリラとエンリが入って、敵船団のただ中に表れる。

もたげた鎌首の頭上から、リラの攻撃魔法とエンリの炎の巨人剣攻撃。

船団はたちまち混乱する。


隠身魔法で姿を消したタルタ号が敵船団に接近してニケが大砲を連射。

何も居ない筈の海上からの砲撃で次々に撃破されるシーノ船。

タルタの鋼鉄砲弾が一隻を大破させ、そこから次の船に鋼鉄砲弾。


姿の見えないタルタ号から、接舷した船に乗り移って切りまくるジロキチ、若狭、カルロ。

「手ごたえが無いでござるな」

そう若狭の手の中の妖刀姿のムラマサが言うと、若狭は「駆り集めただけの、ろくに訓練もされてない水兵ですからね」

そんな彼等にジロキチは「次の船に行くぞ」


「指揮官船はまだ解らぬか?」

そう言って、姿を隠したタルタ号の甲板で周囲を見回すのは十勇士の穴山小介

その時、マストの展望台の筧十蔵が一隻の大型船を指して「あの船、シーノの旗が幾つも」

「いや、この船全部シーノのものではないのか?」と猿飛佐助。

海野六郎がその船を見て「この船の殆どは船運の盛んな南中華からの徴発船だ。水軍も投降した者達だろう。そんな他の船より大きく、周囲を見渡す櫓もある」

「あれを我等が乗っ取るぞ」と穴山が号令を下した。


霧隠才蔵が召喚した大烏と根津甚八の式神烏に、五人づつ分乗。

混乱のただ中にあるシーノ船団の上空へ飛び立ち、一隻の船に急降下。

甲板に飛び降りた十人の勇士が、船に居た兵士たちに斬りかかる。

数人の会士の魔法を三好清海のマントラが封じ、佐助が次々に切り伏せる。

シーノの軍人たちに刀を抜いて襲いかかるサムライたちが次々に敵を切り伏せ、指揮船はまもなく制圧された。


その時、混乱するシーノ船団を砲撃している安宅船で、見張りが声を上げた。

「来たぞ、五島の海賊団だ」

多数のジパング海賊船が水平線から姿を現わし、高速で混乱したシーノ大船団に突入。

小型の船が大砲を連射しつつ、敵船に急迫し、乗り移って切りまくり占拠していく。



その様子を原城の本丸から見て、信者兵たちは茫然とした。

「シーノの救援軍が・・・」

「あれは神の奇跡では無かったのか?」

そう呟きながら、がっくりと膝を落とす信者兵たち。


「神よ」

そう呟きながら、天草四郎は絶望の中で力尽きた。

「四郎様!」

そう叫んで信者たちは彼の亡骸に縋る。


重苦しい空気の中、一人の信者兵が言った。

「自決しよう」

隣に居る信者兵は彼に「けど、神の教えでは自殺は罪だ」

「なら、お前が俺を刺してくれ。俺がお前を刺す」

そう言われた信者兵は「解った。頼む」



二人一組で刃物を突き付け合い、信者兵たちは刃物を持つ手に力を込めて叫んだ。

「神に栄光あれ」

その時、彼等の耳に、不思議な歌が聞こえた。

死を選ぼうとしていた信者たちは強烈な睡魔に襲われ、バタバタと倒れて眠りについた。

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