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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
309/562

第309話 領地と農民

ジパングでのポルタ商人追放を回避するため、豊臣秀吉暗殺を企てる教皇派のロヨラ会の討滅に協力するエンリ王子たち。

追い詰められたロヨラ会は、信者を集めて九州の原城で蜂起。そこには地元の領主板倉氏の苛政に苦しめられた農民たちも参加していた。

そして、ロヨラ会士の幻覚魔法を破り、三の丸の守りは突破された。



三の丸から二の丸に攻め込もうと、突撃する秀吉軍。

二の丸の正門を目指して詰め寄る攻め手に対して、城壁の上から鉄砲と弓矢、そして攻撃魔法で防戦する反乱兵。


「シーナからの援軍が到着する前に攻め落とさなければ」

そう呟く秀吉に、エンリ王子は言った。

「けど、信者じゃない一揆の農民も、反乱に参加しているんですよね?」

「可哀そう」と呟くリラ。

タルタも「重税の取り立てのために拷問で苦しめて、追い詰められて・・・とか」


「そんなのは、とりあえず後回しだ」

そう言い捨てる秀吉に、エンリは言った。

「それで、板倉の後釜として、誰がここを治めるんですか?」

「それは、これから決める事だ」と秀吉。

「秀吉様の直轄地にするというのは?」

エンリがそう言うと、秀吉は「それも悪くないな」


「けど、大勢の農民が殺されて、誰が田畑を耕すんですか?」とエンリ王子。

「それは・・・・・・」

そう秀吉が言葉を詰まらせると、エンリは言った。

「私が彼等に投降するよう、説得してみます」



攻勢が中断される。

二の丸の門の前で睨み合う、籠城の兵たちと秀吉軍。


そんな中、エンリが拡声の魔道具で、城壁の上に居る農民兵たちに語りかけた。

「そこに居る農民の皆さん。あなた達の中に、信者でない人が居ますね? 巻き添えを喰って死ぬ必用はありません。投降すれば殺されずに村に帰れます。あなた達を苦しめていた領主の板倉は、改易されました。新しい領主は、ずっとましな筈です」


口々に不信を叫ぶ農民兵たち。

「それで情けをかけたつもりか?」

「信用できるか!」

「侍ってのは利益のために、逆らった者を殺す奴らだろーが!」


エンリは言った。

「はい、これは情けではなく利益です。暴政で民が逃げ出した村には、人が居ない。それでは年貢が入らない。皆さんに生きて戻って貰わないと、新しい領主が困るのです」

「・・・・・・・・」

考え込む農民たち。


すると、一緒に城壁の上に居る信者兵たちが叫んだ。

「騙されちゃ駄目だ。農民なんて、他所から連れて来ればいいだけじゃないか」

エンリは言った。

「余分な農民なんて居ません。平和になったこの国では、どこでも新たな農地の開墾のため、人手を必用としている。他から呼ぼうにも、そこの領主が手放さない」



それを聞いて考え込む農民兵たち。そして彼等は口々に言った。

「俺たち、生き残れるのか?」

「村に還れるんだ」


それを見た信者兵がエンリに向けて叫ぶ。

「信用できるか。そもそもあんた何物だ? 外国人だろ」

エンリは「はい、外国人です。けど、この国に悪意を持つ、どこぞの半島国の人間ではありません。交易を続けてきたポルタという国の者です」

「贅沢品を売りつけて金儲けをする、領主の手先だろーが」と信者兵。


エンリは言った。

「その金儲けのために、この国が豊かになって貰わないと困るんです。豊かになるという事は、この国に住む人たちみんな、つまりあなた達が、少しでも豊かになるという事です。私たちの国では、織物を安く大量に作る仕組みがあります。それで織物が金持ちではなく、みんなが買えるものになっています。そういう商売で物が売れるには、皆さんが豊かになってくれると実に好都合」


一人のユーロ人の男が叫ぶ。

「お前は豊臣のお友達のエンリ王子だろ?」

そんな彼にエンリは「私の事を知っているあなたは、ロヨラ会士ですね?」

「全ての民族とともに世界を統一して、愛と共に暮らす平和の使徒だ」と、その会士は言った。

「その能書きのために、全ての異教を排斥して、宗教戦争を起こしているのですよね?」とエンリ王子。


「異教は悪魔の教えだ」

そう叫ぶ会士に、エンリは「この国の仏教という教えも・・・ですか?」

会士は言った。

「あれは忌むべき偶像崇拝者。"この像を拝めば商売が成功して金儲けができる"という不潔な金銭欲に満ちた邪教だ。地上の蔵に宝を蓄えるなかれ。我等唯一神の信徒こそ、清貧なる道徳の使徒だ」

「で、その宝を天国の蔵・・・つまりあなた達の教会に寄進せよと? あなた達はそうやって信者から寄進を脅し取り、商人たちの努力の成果を否定して、都市の業者から嫌われた」とエンリは指摘した。


そんなやり取りを聞いて、農民兵たちが口々に言う。

「パーデレ様たちがやってる事って、もしかして金儲け主義の坊主と同じ?」

それを聞いた会士は、焦りの声でエンリを罵る。

「黙れ! 偶像崇拝者を擁護するあなたは背教者だ」

「では何故あなた達は踏み絵を踏めない? それが、あなた達が拝んでいる聖像や聖画像と同じ偶像だからではないのか?」

そうエンリが反論すると、会士は「それは・・・」



「もういいです。俺たち、投降します。門を開けて下さい」

そう言って投降の意を示し始めた農民兵に、会士たちは「駄目だ。敵が入って来る」

「これって信者の戦争ですよね? 俺たち信者じゃない」

そう農民兵が言うと、会士は「お前達は神のために戦った同志だ。神の祝福を受ける資格がある」

「そんなの要らない。俺は寺の御本尊を有難いと思っている。それを悪魔呼ばわりして欲しくない」と農民兵たち。

「もうすぐシーノに居るロヨラ会の同志が、シーノからの援軍を連れて来て、我々は救われるんだ」


そう言って農民兵たちを説得しようとする会士に、エンリは言った。

「それでジパングはシーノの支配下に入って、チベットやウイグルと同様のジェノサイドを受ける訳ですか?」

「ジェノサイドって何ですか?」

そう農民兵たちが言うと、エンリは「みんな殺されるって事だよ」


「ここを出してくれ」

そう言って城内で騒ぎ始めた農民兵を、会士たちは「駄目だ」と抑え込もうとする。

そんな様子を見て、エンリは号令した。

「ファフ、門を破壊しろ」

「了解」



ファフがドラゴンに変身し、翼を広げて宙を舞い、門を破壊しようと・・・。

「させるか!」

そう言って、会士の一人が精神攻撃の呪文を唱え、ドラゴンのファフを、バットを振りかざす巨大なイジメ女子中学生の幻が襲う。

「お前達なんかに負けるもんか」と叫んで、気力を振り絞るファフ。

「アーサー、魔法防御の楯だ」とエンリは号令。


剣と楯がドラゴンの両手に転送された。

楯は精神魔法の影響力を削ぎ、ファフは、いじめっ子の幻の脳天に剣を振り下ろした。

幻は消え、剣の切っ先が振り下ろされた所にあった二の丸の門は破壊。

そこから蜘蛛の子を散らすように逃げ出る農民兵たち。



秀吉軍の陣地に駆け込んだ農民兵たちは、口々に言った。

「俺たち、村に返ってお咎め無しですよね?」

「やっぱり処刑だ、なんて言いませんよね?」

秀吉の家来たちはタジタジ顔で「それは、これから決まる新領主が・・・」



「大丈夫よ」

猫の姿のタマがそう言うのを見て、青くなる秀吉配下の武士たち。

「ね・・・猫が喋った」

目を白黒させる彼らを他所に、タマは農民たちに言った。

「そうならないよう、私たちが監視しているわ」


「お前、化け猫か?」

震える声でそう言いながら、刀の束に手をかけて構える一人の武士に、タマは言った。

「私は猫神の使いよ。猫は人間を見ているわ。約束を破ってこの人たちに危害を加えたら、猫神が怒って何をするか」

「ありがたや」と口々に言ってタマを拝む農民たち。


そんなタマにエンリは小声で「おい、タマ。猫神って何だよ」

「作り話よ」と、しれっと言うタマ。

エンリはあきれ顔で「あいつ等騙したのか?」

タマは「これであの人達、酷い事されなくなるわ」


「お前ってそんなキャラだっけ?」

そう疑問顔で言うエンリに、タマは言った。

「農民が飢えると、猫は餌を貰えなくなるのよ。ここにだってケットシーは居るわ」

「化け猫ってのがそれかよ」

そうエンリが言うと、タマは「ここはペロ子爵のご先祖の故郷だものね」

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