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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
308/562

第308話 幻覚の魔城

フェリペ皇子を追ってオケアノス西端に至ったエンリ王子たちは、ジパングでのポルタ商人追放を回避するため、豊臣秀吉暗殺を企てる教皇派のロヨラ会の討滅に協力した。

北野大茶会での襲撃に失敗して追い詰められたロヨラ会は、遂に残った信者を集めて九州の原城で蜂起。

そんな中でジロキチは、佐々木小次郎という剣士との決闘に付き合わされる破目になる。



エンリたちは、原城での反乱鎮圧に協力すべく、準備を整える。

船の装備を点検しながら、雑談に花を咲かせるエンリの仲間たち。


「原城に立て籠もった信者って?・・・」

そうジロキチが言うと、エンリは「多くは農民だよ」

「九州は彼らの布教の中心だものな」とアーサー。

「その信者を、生き残りのロヨラ会士が指揮している訳か」とタルタ。


エンリは言った。

「けど、大将の天草四郎は武士で、魔法も剣術も相当な使い手だそうだ。それと、いずれシーノからの支援が来る。ロヨラ会は大陸でも布教し、皇帝に取り入って、その統制の元で信者を増やし、南部への遠征にも協力した。奴らが来る前に決着をつける必用がある」

「ポルタの商船に砲撃させるわよね?」

そうニケが言うと、リラが「けど、遠距離魔法で反撃が来ると思いますよ」



エンリは大阪の港で、ポルタ商人たちを集めた。

「原城に対する砲撃で協力して欲しい。ただし、遠距離魔法による反撃の可能性もあるので、注意するように」


解散して、商人たちが各自の船で九州に向かう準備を始める。

彼等がその場を去ると、エンリは仲間たちに「こう言えば、反撃で被害が出ても、自己責任だからな」

仲間たちは一様に脳内で呟く。

(この男は・・・)



秀吉は大名たちの軍を率いて、安宅船で大阪の港を出撃する。


港で出撃前の安宅船を眺めて、タルタが言った。

「この船、まだあったのかよ」

隣に居た真田幸村が「天下は統一されたが、豊臣の権力が安泰という訳では無いですから。強大な力を持つ勢力はまだ居るんですよ」

「九州の勢力がシーノと結ぶという事ですか?」

そうエンリが言うと、幸村は「それより東国ですね。平和になって資源を開発に向けるようになると、開発する余地の多い東国が必ず力をつける」



安宅船とともに、西へ向かうタルタ号。

そして九州の手前まで来ると、エンリは秀吉に連絡した。

「寄る所があるんで、一日だけ別行動って事で。用事が終わったら合流しますんで」


そして巌流島へ向かうタルタ号。

だが・・・。


「佐々木さん、来ないね」

エンリたち以外に誰も居ない巌流島で半日待つ中で、若狭がそう呟く。

ムラマサが「怖気づいたでござるか?」

ファフが「お腹でも壊した?」

エンリが「旅費が尽きて宿代が払えず、肉体労働の皿洗いとか?」


そしてジロキチは言った。

「行こうか。俺たちは原城に行く途中だ」



関門海峡を出て九州北岸を西へ向かうタルタ号。

九州の西岸を南下しつつ、地図を見ながら陸地を観察していたニケが言った。

「あれが原城ね」

エンリが「ポルタの商船はどうした?」と言って周囲の海域を見回す。


沖合にポルタ商船が集まっている。

「お前等、どうした?」

そうタルタ号からエンリが商船に呼び掛けると、商人たちは「城からの魔法攻撃が、なかなか厄介でして」

エンリは「とりあえず、ファフで一撃かけてやるか」

「了解」



ファフはドラゴンに変身して、翼を広げて空へ。だが、まもなく戻って来て人に戻る。

「怖いよ、主様」

怯えた様子でそう訴えるファフに、エンリは「何があった?」

彼女は言った。

「ファフの前世を見せられたの。学校で怖い女の子たちが意地悪するの。トイレに入ってると上からバケツの水が落ちて来るの。靴を隠されたり、給食費が無くなって、女の子たちが、盗んだのはファフちゃんだって」


仲間たち唖然。

タルタが「こいつって異世界転生者だったのか?」

ジロキチが「けどドラゴンだぞ」

エンリが「いや、最近はスライムや魔剣や幼女や、下手すると自動販売機に転生する奴も居るからなぁ」


エンリは、怯えきったファフを宥めようと頭を撫でつつ、心に引っかかるものを感じた。

(何かがおかしい)


そしてエンリは、思い付いたように、言った。

「ちょっと待て。お前の名前って、ドラゴンのファフニールから来てるんだよな?」

「そうだけど」

そう怪訝顔で答えるファフに、エンリは「だったら、転生前の人間の女の子が同じ名前って、おかしいだろ」

「そういえば」と頷く仲間たち。


アーサーが言った。

「これはただの精神攻撃ですね。捏造した記憶を見せられたんですよ」

「そうか。歴史は捏造したらアウトだが、記憶は嘘を記憶しても記憶だ。だから記憶の正義(笑)連とか言って、捏造した歴史を歴史と言わずに記憶と称して正当化して・・・」とエンリ。

「"○○婦は○○人女衒が集めた売春婦ではなく軍による強制連行"なんてフェイク宣伝する宣伝戦争団体のインチキも、記憶って代物のいかがわしさ故ですからね」とアーサー。


そしてエンリはファフに号令する。

「そういう訳だ。お前の前世が苛め被害者女子中学生だというのは、真っ赤な捏造記憶だ。気にしないで暴れてこい」

「解った。ファフ頑張る」


ファフはドラゴンに変身して、翼を広げて空へ。だが、まもなく戻って来て人に。

「主様、やっぱり怖い」



上陸して秀吉軍と合流する、エンリ王子たち。

秀吉の本陣では、沈痛な空気に包まれていた。


現状の様子をエンリが訊ねると、真田幸村が言った。

「ここの領主の板倉殿が戦死されたのです」

「秀吉様の到着を待たず、兵の先頭に立って城壁を登って、敵の銃弾の直撃を受けて」と、涙ながらに訴える板倉の家来。

「何と天晴な」と感動顔の秀吉。

「けど、何でそこまで無理な特攻を?」

そうエンリが言うと、板倉の家来は「天下様の手を借りるのは己の非力。武士として面目が立たないと」


「そこまで武士の名誉を重んじるとは」

そんな感動顔の秀吉に、腹心の石田三成が「実は殿に報告が」

「どうした? 三成」

三成は言った。

「どうやら板倉殿は、農民に苛政を敷いて、追い詰められた民が一揆に走って、彼らに合流したとの事で」

「あれって、信者だけじゃなかったのか?」と、秀吉の家来たちは、城壁の上に居る反乱兵たちを見ながら唖然。

「税を払えない者に過酷な拷問を。それで死に物狂いで抵抗しているのだとか」

そう報告する三成に、秀吉は「つまり、愚かな政治で我々の足を引っ張ったという事か。板倉は改易だな」

「そんなぁ」と、板倉の家来たちは悲痛な声で・・・。


そんなやり取りを聞いて、エンリは感心顔で言った。

「政治というのは、事実に即した正しいもので無くてはいけない・・・という事ですよね? こういう家臣が居れば秀吉様も安泰」

すると幸村は「いえ、乱世が収まった中で、手柄を立てた者に褒美として領地を与えるには、誰かから没収する必用があるんですよ。それであの石田三成という男、いろんな大名を告げ口して、恨みを買いまくっているんです」

「・・・」

残念な空気が漂う中、エンリは脳内で呟いた。

(俺の感動、返してくれ・・・・・)



総攻撃が始まった。

だが、攻め寄せた兵たちは、何かに追いかけられるように逃げ帰る。


彼等は怯えきった表情で口々に言った。

「化物が出た」

「幽霊が・・・」

「頭に矢の刺さった落ち武者が・・・」

「嫉妬に狂ったうちの嫁が・・・」

「頭が饅頭の魔物が、"自分は正義の味方だから悪い権力者は修正してやる"と」

「どこかで聞いたような話だな」と困り顔で呟くエンリ。

「マンパンチという必殺技を繰り出して・・・」

そう訴える兵に、秀吉は「そういう時は、渋いお茶で対抗するといいぞ」


そんな様子を見て、アーサーは言った。

「奴らの幻覚魔法ですね。ファフがやられたのと同じです」

「妨害魔法で何とかならないかな?」とエンリ王子。

「そういう事なら」

そう言うと、三好清海伊佐の兄弟が、並んで経文を唱え始めた。

再度突入する兵たちに見える魔物たちの姿が薄れる。だが、やがて魔物の姿は回復。

二つの精神系の魔力がぶつかり合う。


「どうにかならんか?」

幸村が二人にそう言うと、三好清海は「敵の魔力の発生源が解れば、ありがたいのですが」

「そういう事なら・・・」

アーサーはそう言うと、看破の魔法を使って敵を探る。

そしてアーサーは敵兵の中に、幻覚魔法を使う会士を発見した。

「あそこに居る会士の仕業です。そこに集中的に妨害魔法をかければ、幻覚魔法を破れる筈です」

三好兄弟の対象を特定した妨害呪法により、幻覚魔法は完全に封じられた。



総攻撃は再開され、三の丸の守りは突破。


破った城門から兵たちが突入する。・・・が、彼等はまもなく撤退した。

「敵の中に、やたら強い奴が居るんです」

そう訴える兵たちに、秀吉は「大勢で囲んで仕留めろ」

すると兵の一人が「それが、バテレンから来たジロキチという武士と戦わせろと。他の兵に危害を加えるつもりは無いと・・・」



ジロキチが三の丸に乗り込むと、待っていたのは佐々木小次郎だった。


「指定した四月の最終日に何故、巌流島に来なかったのですか?」

そう主張する小次郎に、ジロキチは「いや、三十日の次の日なんだから、五月一日だろ?」

「あの時も武蔵は遅れて来た。待たされた苛立ちから、俺は実力を発揮できなかった。また同じ手を使う気ですか?」

そう訴える小次郎に、ジロキチはあきれ顔で「いや、知らないから」


「勝負だ。見よ、この日のために編み出した二刀流燕返し」

そう言って二本の長刀を抜いて構える小次郎に、ジロキチは「仕方ない。相手になってやる」


ジロキチは跳躍し、空中で四本の刀を抜いた。

二本は両手で、二本は両足の靴先からはみ出た足指が柄を握り、左足の刀の切っ先で地面に舞い降りた。

それを見て小次郎は唖然。

「お前、二刀流じゃなくて四刀流。そんな技を隠し持っていたなんて」

ジロキチは「いや、刀を四本背負ってるのを見れば解るだろ」

「両足で刀を持つ奴が居るなんて、普通思わないだろ」と佐々木小次郎。


二人は剣を交え、そして佐々木小次郎は再び敗れた。


「今度は四刀流燕返しを編み出して再戦です」

そう宣言する小次郎に、ジロキチは溜息をついて「止めた方がいい。刀や槍の時代はもう終わる」

そして佐々木小次郎は去った。



「迷惑な奴だなぁ」とうんざり顔で言うジロキチに、エンリは言った。

「そーいやお前、本当にレベルの高い奴とは二本の方が戦える・・・って言ってたよね?」

ジロキチは言った。

「あいつ、それほど強くないですよ。明倫館という道場で石垣という師範が始めた直角流というのがあるんですけど、太刀筋が直角を描いて、思わぬ方向から斬り込むんです。けど、刀が方向を変える一瞬に、その動く速度を殺す。燕返しというのは、それを反面教師にして、太刀筋が円を描く事で刀の速度を殺す事無く、刀を高速で振るうものなんですよ。けどその分、太刀筋が読みやすくなるんです」


エンリは「なるほどな。どこかで聞いたような話だが、そういえば、お前のその四刀流を教えた師匠って、どんな人なんだ?」

ジロキチは言った。

「湖南という人で、赤ん坊の時に残され島という無人島に漂着して、両手両足で木の枝に掴まって樹上生活する猿に育てられたんだそうです。それで足の指で器用に物を掴む技を身に着けなから育ったところで、羅那という女の子が海賊から逃げて来て、その子を助けて賽子団という海賊の追手と戦いながら身に付けたのが四刀流なんだそうです」

「それもどこかで聞いたような話だな」とエンリ王子。

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