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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
306/562

第306話 茶席の騒乱

フェリペ皇子を追跡して世界を西へ向かう最中、ジパング追放の危機に瀕したポルタ商人たちを救うべく、豊臣秀吉を説得しようと、大阪に潜入したエンリ王子たち。

彼等は布教を禁止されたロヨラ会による秀吉暗殺計画の阻止に協力する事になった。

池田屋襲撃により壊滅したかに見えたロヨラ会だが、エンリは古田織部の趣味に付き合う中、ロヨラ会士が潜水艦を使ってジパングに潜入していた事を知る。



エンリと古田は、潜水艦の話をすぐに秀吉と幸村に報告した。


城内で作戦会議

「会士たちが入国する独自のルートがあるとしたら、把握は困難です。茶会は中止した方が・・・」

そう、多くの家来が進言する中、秀吉は言った。

「いや、逆にこれはチャンスだ。先日の襲撃で国内の会士は一掃されたと、我々は思って安心している・・・と彼等は思っているだろう。今度こそ彼等は俺を仕留める事が出来ると、強気になって総力を挙げて襲って来るだろう。そこを一網打尽だ」

「ですが危険な賭けですよ」

そう、軍師の黒田官兵衛が言うと、秀吉は「そういう賭けは、これまで何度もあった。その賭けに勝ち続けて、俺は天下を取った。賭けに勝つのは運だけじゃない。俺を誰だと思ってる?」

幸村は「とにかく、可能な限りの手を打ちましょう」


エンリは言った。

「彼等は魔法でいろんな策を用いるでしようね。アーサー、奴らがどんな魔法を使うか予想できるか? 襲撃に使えそうな魔法を出来る限り洗い出して、対抗策を用意するんだ」

幸村も「それと小介、潜水艦の目撃情報を集めておけ。但し、茶会が終わるまでは手を出すな。俺たちが潜水艦に気付いたと彼等が知ったら、警戒されて水の泡だ」



そして茶会の当日。

エンリと仲間たちは、秀吉とその家来たちと共に、会場で刺客をおびき出すための茶席の準備を始めた。

秀吉の茶席は、千利休が請け負って、その趣向の粋を凝らす。

その他、会場のあちこちに、多くの文人が各自の趣向を凝らした茶席を設ける。


会場は北野天満宮。広い境内に、多数の満開の桜の木が華やかさを競っている。

「これ、チェリーの木よね。けど凄く綺麗」

リラがそう言うと、若狭が「ジパングの風物ですよ」

するとニケが「これだけの花が咲くなら、さぞサクランボは豊作よね」

「ファフの好物なの」

そうファフが言うと、古田は「いえ、ジパングの桜は、食べるような実はならないですよ。あくまで観賞用ですから」

「そんなぁ。食べる宝石と呼ばれる高級果物なのよ。それが実らないなんて。私のお金ーーー」と地団太を踏むニケ。

アーサーは笑いながら「けど、チューリップみたいに宮殿の庭を飾る花は売れるよね」


「それに、朝顔は花がたくさんあっても駄目なんですよね?」

そうエンリが言うと、利休は言った。

「桜は小さな花がたくさんある事に意味がある。有り様が違うのです。朝顔と桜の違いは何だと思いますか?」

「色?」

そう若狭が言うと、エンリは「違うだろ」

「形?」

そうニケが言うと、エンリは「そういう話じゃないと思うぞ」


「桜って、葉がついていないですね」

そうリラが言うと、利休が言った。

「そうです。この桜の木そのものが花なのです。小さな花が固まって咲き、一つながりの大きな花となる。その多くの木が一か所に集まる事で、この場所自体がひとつながりの花となる。つまり、華やかさによって造られた一つの宇宙。それが桜です」



用意された秀吉と利休の茶席の周囲に、数人の警備と十勇士、そしてエンリの仲間を、茶席の雰囲気を壊さぬよう配慮しつつ配置。

会場の随所で警備が、不審な動きに目を光らせる。

そしてアーサーとリラ、三好兄弟が魔力の動きを監視する。


間もなく、多くの一般人が集まり、あちこちの茶席を訪れる。

「ああいう客に暗殺者が紛れる可能性とか、大丈夫なんだよな?」

そうエンリが言うと、剣豪として知られた由利鎌之介が「茶席とその周囲に居る者の殺気は、私が見逃しません」



上機嫌で自ら来客の相手をする秀吉の茶席を訪れ、揉み手でお世辞を言いつつ、その接待を受ける商人たち。

来客が空くと、秀吉は隣に居る利休に言った。

「黄金の茶器は出さないのか?」

「あれは詫び錆にそぐいません」

そう言う利休に秀吉は「華やかでいいと思うが」

「そういう華やかは方向性が違うのですよ」と利休。


「詫び錆って?」

そうエンリが問うと、利休は「深い趣きを作り出す有り様です」

「よく解らないのですが・・・」と言ってエンリは首をひねる。


向うにある古田織部の茶席を見ると、豪華な茶器に豪華な茶菓子。圧倒される来客を自慢顔で接待する古田が居た。

そんな彼を見て、利休は「あれはまだ未熟ですよ」


ニケが「あの、もしかして黄金の茶器って、茶碗が丸ごと金?」

「いや、瓦みたいに薄く塗ってあるだけだろ」とエンリ王子。

すると利休が「いや、丸ごと金で出来た茶器ですけどね」

「・・・」

秀吉が「丸ごと金で作った黄金の茶室というのもあるぞ」


「丸ごとお金、丸ごとお金・・・」

テンションMAXになるニケ。ドン引きするエンリたち。

「こうなるから駄目なのですよ」

そう利休が言うと、エンリは「何となく解ったような気がする」



その時、鎌之介が険しい顔で「何者かの殺気を感じる」

場に緊張が走り、警備の面々が身構える。


その時、隣の茶席に居た男が、左手の袖の中に右手を入れ、左肘をこちらに向けた。

その微妙に不自然な動きに佐助が気付いた。

「上様、危ない!」


佐助が秀吉を庇おうと動くより、一瞬早く銃声が響き、佐助の手裏剣が狙撃者を捕えると同時に、秀吉は銃弾を浴びた。

「秀吉様!」

幸村が叫び、周囲の家来たちが駆け寄る中、秀吉の姿は消えて一枚の式神札となった。


「やはり来たか」

警護の兵の一人に変装していた本物の秀吉が変装を脱ぎ、警備の武士たちが秀吉と幸村を囲んでガード。

佐助は手裏剣を受けた狙撃者を捕縛した。

「殺すな。後で吐かせる」と幸村。



その時、参加者に紛れて会場のあちこちに居る数十人が一斉に変装を脱ぎ捨てた。

ロヨラ会の会士や日本人信者らしき者たち。彼等は武器を持って叫んだ。

「オラショ!」


会場は大混乱となり、家来たちが一般参加者を退避させる中、1人の会士が放つサンダーボルトをアーサーが防御魔法で防ぎ、一瞬で間を詰めた佐助が切り伏せる。

二人の会士が放った炎魔法と氷魔法を、ジロキチが氷属性と炎属性の二本の刀で斬り防ぐ。

数人の日本人信者が武器を持って突撃。その前に立ち塞がった由利鎌之助が、二本の刀で一瞬で切り伏せた。

会場のあちこちで銃を構える者を、ニケの二挺の拳銃が撃ち出す麻酔弾が次々に仕留め、家来たちが取り抑える。


広域魔法を放とうとする三人の会士にアーサーが気付く。

「俺に任せろ」とタルタが叫び、鋼鉄砲弾でその三人を吹っ飛ばした。

上空のファイヤーレインの魔法陣にリラが気付き、イージスの防御魔法でこれを防ぐ。

「あらかた片付いたかな?」

そうタルタが言うと、エンリは「騒ぎが収まるまで油断するな」



会場の隅の茶席で大きな包みを解いている会士の気配に、清海が気付いた。

「あれは・・・」

その示す方向に視線を向けたエンリは叫んだ。

「破滅の魔道具だ。アーサー、転移魔法だ」

「間に合いません」

そう言うアーサーに、エンリは「俺が運んでやる。掴まれ」


エンリは風の巨人剣を縮めると、その切っ先を脇にあった桜の大木に当てて巨人剣を伸ばし、アーサーの手を掴んで一気に魔道具のある茶席へ。

巨人剣を縮めて、そこに居る会士を切り伏せる。

アーサーは転移魔法の呪句を唱えて魔道具を遥かな海上の小舟に乗せた転移座標へ飛ばした。


アーサーがほっとした表情で「やはり使いましたか」

「自分達ごと吹っ飛ばすつもりかよ」

そう言って首を竦めるエンリに、アーサーは「最後の手段だったのでしようね」


その時、そんな彼等の様子を見ている、二本の長刀を背負った剣士が、会場の片隅に居た。

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