第304話 宣教の軍団
西へ逃走したフェリペ皇子を追う途中、シーノによるタカサゴ島侵攻にナハ国が加担する事を阻止する中で、エンリ王子はポルタ商人がジパングから追放されようとしている事を知った。
追放令を出した豊臣秀吉を説得するため、大阪に乗り込んだエンリ王子たちは、彼等を敵と誤認した真田十勇士の襲撃を受けた。
まもなくその誤解は解け、彼等は秀吉と会見する。
城の最上階で秀吉と向き合う、エンリ王子たち。
「秀吉様、この者らは?」
秀吉の傍に控える若い武士がそう言うと、秀吉は「ポルタという国の王の継嗣でな。信長様ご存命の頃から二度、この国を訪れておる」
「面妖な技を使う妖怪と聞きますが」
そう言う武士に、エンリは「大蝦蟇に乗り炎を操る、忍術使いも居ますけどね」
「で、あなたが彼等の主の?・・・」
そうエンリがその場に居並ぶ十人に目をやり、改めてその武士に問いかけると、彼は「真田幸村です」と名乗った。
「で、今回の用向きは・・・ポルタ人追放の件であろうな」
そう本題を切り出した秀吉に、エンリは「何故ですか?」
「宣教師が奴隷取引をやっておったのだ」と秀吉。
「それで唯一神信仰の布教を禁止・・・ですか?」
そうエンリが確認すると、秀吉は「だが、違法に布教を続け、彼等の組織は地下に潜った。あれは、あなた達の宗教なのですよね?」
エンリは言った。
「同じ唯一神信仰でも、宗派が違います。我々の宗派はスパニア国教会で、国家が保護しており、海外布教などやっていません。この国に来ているのは教皇派という宗派で、かつてユーロの宗教を支配していましたが、今は落ち目で、それで海外布教に活路を求めているのです」
「ロヨラ会というのも、それか?」と、幸村はエンリに・・・。
「あれは修道会を名乗っていますが、実質軍隊です。かつて、スパニアという国で内乱が起き、教皇派がその一方に加担しました。その戦いでロヨラという騎士が負傷し、生死を彷徨った。彼が回復した後、僧侶となって立ちあげたのが、ロヨラ会です。会士に軍隊式の訓練を施して、盛んに反対派を攻撃する、そういう人たちですよ」
そう説明するエンリに、幸村は言った。
「それが秀吉様の暗殺を目論んでいる。何としても阻止したい」
エンリは、そこに居並ぶ十人の男たちを見る。
そして「あなた達は忍者なのですか?」
「忍者はこの三名。猿飛佐助、霧隠才蔵、望月六郎です」と、最年長らしき武士が三人の忍者を紹介する。
「我等二人は僧兵。三好清海入道と申す。こちらの伊左は私の弟です」と名乗る僧侶。
そして、先ほどの最年長の武士が「残りの五名は侍です。私は穴山小助。彼等の指令役です」
アーサーが「先ほどの念話はあなたですね?」
小介は「それと由利鎌之助と海野六郎」と、更に二人の武士を・・・。
「俺は筧十蔵。侍といっても足軽だ」
そう一人の武士が名乗ると、ニケが「さっき鉄砲を使ってたのは、あなたね?」
「私は根津甚八。武士だが陰陽を使います。あの烏の一羽は私の式神でね」と、最後の一人が名乗る。
十勇士の紹介を終えると、幸村は言った。
「それで、どうにかしてロヨラ会を摘発したいのですが」
「心当たりがあります」
そう答えると、エンリはアーサーに言った。
「ジパングに来ているポルタ商人を集めろ」
大阪の港の商館に集まった商人たちに、エンリは言った。
「お前達、宣教師を乗せて密入国に協力したよね?」
「なななな何の事かなぁ?」と慌て声で口を揃える商人たち。
「奴らがジパング人奴隷を持ち出すのにも協力した」
そうエンリに追及されて、彼等は「いや、いくら一人あたりのマージンが高いからって、そんなのに釣られたりは・・・」
エンリは「俺、何も言ってないが」
残念な空気が漂う。
「・・・ですが、我々も唯一神の信者として・・・」
そう商人の一人が言うと、エンリは「教皇庁が出す布教予算のおこぼれに預かる権利があると?」
「それは・・・」
エンリは言った。
「輸送に協力したから関係者でイコール奴隷取引の当事者だとかいう、誰かさんの無理な理屈の立て方を真似るつもりは無いがな。ここが武力万能で人権無用な中世だってのは解るよね? ロヨラ会はユーロでも反宗教革命とか言って、反教皇派に争いを仕掛けてる武闘派だ。それがこんな外国で、現地の天下人を布教の邪魔だからと暗殺計画を立てている。それが実現したら、お前等全員協力者として処刑されるぞ」
そう言って脅すエンリに、商人たちは青くなる。
そして「我々はどうすれば・・・」
エンリ王子は彼等に命じた。
「船に乗せた会士の名簿を提出しろ」
そして大阪城で・・・・・。
「これがジパングに潜入した宣教師ですか?」
エンリが提出した入国ロヨラ会士の名簿を見て、溜息をつく幸村。
「魔法にも武術にも長けた手練れ揃いですよ」
そうエンリが言うと、幸村は「あちこちの隠れ信者に匿われていて、一掃するのは困難かと」
すると秀吉が言った。
「ならば、俺を餌にして誘い出すまでさ」
「やはりあの手で?」と幸村は言って、心配顔で秀吉を見る。
「あの手って?」
そうエンリが問うと、秀吉は言った。
「京の北野で大々的に茶会をやる。そこに俺が顔を出す。本人が公の場に出るとなれば、チャンスだと彼等は飛び付くだろうな。その襲撃準備に、どこかで集結する。そこを狙って一網打尽」
「大丈夫なんですか?」
そうエンリも心配顔で言うと、控えていた十勇士の中から「この望月六郎。甲賀衆の顔役です。忍者の情報網で必ずや・・・」
「こっちでも動いてみます」とエンリ王子。
京の街に出たエンリたち。
カルロがロヨラ会士捜索のダウジングを使うが・・・。
「追跡妨害がかかってますね。どうも一筋縄ではいかないらしい」
カルロがそう言って難しい顔をすると、タマが言った。
「こういう時こそ、猫の情報網の出番よ」
タマは猫の姿で街を歩き、猫たちから情報を集めた。
間もなく、奴らが京に集まる宿が判明した。店主が隠れ信者の、池田屋という宿屋。
打ち合わせのため会士が集まる日時が特定され、襲撃の準備が整う。
宿の周囲に武士たちを配置。逃走した者を追跡するため、何匹もの猫も待機した。
突入組は八人。廊下から四人と窓から四人。猿飛ら三人の忍者とともに、ジロキチと若狭がこれに参加する。
廊下から逃亡する者に備えて四人と、魔法対策としてアーサーも待機。
向かいの屋根に銃を構えた筧十蔵とニケ。そして魔法対策として清海が待機。
同時に、隠れ信者である店主を抑える役目として数名。
残りは路上で窓からの逃亡に備え、通りの両側と、近隣の店に逃げ込む者に備えて各店に配置。
「突入!」
その穴山の号令とともに、突入組が部屋に踏み込んで、一瞬で半数を仕留めた。
目晦ましの光魔法はアーサーが妨害魔法で阻止。廊下に逃げた一人を伊佐の薙刀が斬り付け、会士は階段を転げ落ちた。
窓から通りに飛び降りた数名は、待ち構えていた侍たちに斬られた。
転移魔法で逃亡を図った者は、向かいの店に待機していたリラが探知し、エンリが風の魔剣で仕留めた。
通りを逃げて逃走しようとした者は、ニケと筧の鉄砲が仕留め、隣の店に逃げ込もうとした者も、待機していた侍に斬られた。
宿の内外に転々と転がる会士たちの遺体を見て、エンリは呟いた。
「これで終わったのかな?」
「そうだといいですけどね」とアーサー。
だが・・・・・。
遺体を確認すると、名簿にあった者より、二人ほど多い。
襲撃を指揮した幸村とエンリが、大阪城の御座所で秀吉に報告する。
「人数にズレがあったという事は・・・」
そう幸村が言うと、エンリが「つまり、名簿に漏れがあったという事になりますね」
「という事は、まだ居る可能性も・・・」と幸村は深刻そうに呟く。
「秀吉様、どうかお気をつけ下さい」
そう言ったのは、秀吉の脇に控えていた、十代半ばほどの女性だ。
「その方は?」
そうエンリが問うと、彼女は名乗った。
「淀と申します。いつぞやは両親を助けて頂きまして」
エンリは五年前の記憶を辿り、そして「もしかしてお市さんの?」
「あの茶々です」
そう言う彼女を見て、エンリは思った。
(自分の側室にしちゃった訳か。いいのかなぁ)
寄り添う淀の頭を撫で、秀吉は上機嫌に・・・。
そして「今宵は宴だ。女たちも呼んで、パーッとやるぞ」
すると、襖がガラリと開いて、現れた一人の女性が「殿、またそのような」
秀吉は焦り顔で「ねね、これはな」
「異国からの客人の前で、我がジパングの恥を晒すような真似は、お止め下さい」
正妻のねねに小一時間説教される秀吉。
それを見てエンリは思った。
(信長さんの時も、あんなだったなぁ)
池田屋襲撃の後始末が終わり、宿となっていた真田屋敷でエンリたちが一息ついていると、秀吉の家来の一人がエンリを訪ねてきた。
エンリが何人かの仲間たちと居る所に案内されて来た彼の顔に、エンリは見覚えがあった。
「古田織部さん・・・でしたね?」
エンリがそう言うと、古田は「憶えて頂けて何より。それで、秘宝とやらはどうなりましたかな?」
「見つけましたよ」
そうエンリが答えると、古田はハアハアしながら「何だったのですか? 是非、見せて頂きたくて・・・」
「あなたの方向性とは違うと思いますけど」
そう言ってエンリは、世界地図を取り出した。
「これは・・・」
そう呟きながら古田は、感嘆の表情でそれに見入る。
「この価値が解りますか?」
そうエンリが言うと、古田は「素晴らしい。世界の遥か向こうに、こんな偉大な価値が・・・」
エンリは得意げに力説した。
「世界の海に乗り出して確認した、これが大地の真の姿です。これが示す航路に乗れば、世界のどこにだって行ける」
「この複雑にして繊細なライン」
そう斜め上な事を言う古田に、エンリはテンションが二段階ほど下がった声で「そっちですか?」
だが古田は、そんなエンリの気分に構う事無く「これは原本なのですか?」
「いえ、複製ですけど・・・。がっかりしました?」
そうエンリが答えると、古田は「この細く、かつ、くっきりとした線。これは筆で書かれたものではありませんね?」
「銅板に防蝕幕を貼って、鉄筆で引いた傷を薬品で浸食して出来た溝にインクを入れて版とする、エッチングという技術です」
そうエンリが解説すると、古田は「つまりエッチな・・・」
「それ、源先生が既に使ってるギャグですよ」と、あきれ顔のエンリ。
「ですが、エッチな絵画を印刷物で安く多量に・・・というのは、実はジパングだってあるのです」
そう言って古田が出したのは、鮮やかな多色摺りで描かれた、男女のあられもない姿。
「歌麿という絵師によって描かれたものです」
「何と大胆な構図と色使い。そして、モザイクを排したリアルな表現」
そう呟きながらカルロは、感嘆の表情でそれに見入る。
「ジパング人男性のナニって、こんなに大きいの?」とエンリも見入る。
「これが馬並みというやつか」とタルタも見入る。
アーサーは困り顔で「いや、単に誇張してるだけかと思うんだけど」
「そして、それを受け入れる女性のナニも」とエンリ。
「これが馬並み娘というやつか」とタルタ。
アーサーが「それは違うと思う」
「けど・・・」
「こんな世界の反対側に、偉大なお宝本の文化が。クールジパング最高。ウィーアーhentai」
そう言って盛り上がる男性陣の後頭部を、ニケがハリセンで思い切り叩いた。




