第303話 十人の勇士
部下とともに海賊団を組織して家出したフェリペ皇子を追って、オケアノス西側に辿り着いたエンリ王子と仲間たち。
彼らは、シーノ帝国のタカサゴ島侵攻に加担させられそうになっていたナハ王国から、シーノの軍を駆逐する。
その最中、ナハ国の北のジパングで、ポルタ商人追放の命令が出た事を知った。
エンリ王子たちがナハ島を立とうとした日、ポルタ商人の船がナハ王の宮殿を訪れた。
彼等はエンリの滞在を知って、彼の宿舎へ・・・。
「まさか、こちらに来ておられたとは、地獄に仏とはこの事で・・・」
そう涙目で言う商人たちに、エンリは「ジパングに代わる拠点が欲しいってんだろ? 歓迎はされると思うが。にしても、ジパングから追い出されるような事でもやったか?」
すると商人の一人が「それはまた後で・・・。とりあえず、こちらの王への謁見に同席して貰えると助かります」
「そのつもりだが・・・」と言って、溜息をつくエンリ。
客室でポルタ商人たちをナハ王に引き合わせるエンリ王子。
歓迎するナハ王。
「よく来てくれました。ジパングと取引出来ないなら、是非ともナハ商人をお使い下さい。いざという時は我々が仲介役として、必ずお役に立ちましょう」
「いや、まだあそこと取引出来なくなると、決まった訳では無いのですが」
そうエンリが言うと、ニケはナハ王に「ってか、嬉しそうですね?」
ナハ王は慌て声で「そそそそそそそんな事は・・・。いい具合にポルタ商人を追い出して貰えれば自分達が中継貿易で利ザヤをガッポガッポできるチャンスとか、全然思って無いですから」
「いえ、こちらは何も言ってませんけど」と言って、エンリは溜息をつく。
そしてエンリは言った。
「けど、中継貿易ってそういう事ですよね。だから、出来るだけ直接交易して、中間搾取の居ない取引が出来るのに越した事は無い」
するとポルタ商人の一人が「大丈夫。エンリ王子はジパングの天下を統一した秀吉様とは、お友達ですから」
「そういう人間関係のズブズブを期待されてもなぁ」
そう言ってエンリが溜息をつくと、別のポルタ商人が「何言ってるんですか。トップビジネスの成功は君主が挙げるべき最大の功績ですよ」
「トランプ帝国のキングがやってるピッグディールみたいな事を、期待されてもなぁ」と言って、エンリは更に溜息。
そして、エンリは思った。
(けど、自由な交易は必ずプラスになる。それを一番よく解っているのが、あの人なんだが)
客間を退席して控室に戻ると、エンリは商人たちを追及した。
「で、一体何があった?」
「それが、我々にもさっぱり・・・」と商人の一人が・・・。
「急なお達しで何が何だか・・・」と、更に別の商人が・・・。
彼等を見て、エンリは思った。
(こいつ等、何か隠してるな)
ポルタ商人たちの船とともに、ナハを出立するエンリたちのタルタ号。
秀吉の拠点のある大阪の港に向かう。
船の中で、仲間たちを集めて作戦会議。
「ともかく秀吉さんに会おう」
そうエンリが言うと、タルタが「すんなり会ってくれるかな?」
ジロキチが「権力者に一旦敵視されると厄介だぞ。家来が壁を作って、会う事すら難しくなる」
アーサーが「まあ、どこぞの半島国みたいに、子供時代からヘイトを刷り込まれて敵視政策とって遂には条約まで破った・・・って奴らが、当たり前の反発が来たからって、反撃の矛先をかわそうと、騙すつもりで話し合いとか言って来ても、会う事自体が無意味どころか害しか無いんだけどね」
「けど、秀吉さんはそうじゃないと思う」とリラが言った。
「本当に理由に心当たりは無いのか?」
そうエンリに問われて「いえ、全く・・・」と不自然に視線を逸らす、ポルタ商人たち。
「とりあえず、会えないなら潜入すればいいだけの話ですよ」
そう、カルロがお気楽な口調で言うと、エンリは「簡単に言ってくれるよ。それに俺たちは、ユーロ人ってだけで目立つからなぁ」
すると若狭が「けど、ここにジパング人が三人も居るけどね」
上陸して市街へ。
ジロキチ・若狭・ムラマサと、猫の姿のタマの他は隠身を使い、とりあえず宿屋を見繕う。
隠身を使っている六人を残して、三人と一匹で宿屋の中へ。
「お部屋はいくつ、ご用意しますか?」
そう宿の人に問われると、三人は額を寄せて、ひそひそ声で・・・。
「男女だから二部屋でござるか?」
そうムラマサが言うと、ジロキチが「いや、一緒でいい」
「けど、全部で十人も居ますよ」
そう若狭が言うと、ジロキチは「ここは敵地だ。一部屋の方がまとまって動ける」
三人で頷き合う。
そしてジロキチは宿の人に「では、一部屋で」
通りに居る仲間に合図を送り、全員で中に入る。それを見ていた二人の男が居た。
男の一人が「あれ、隠身を使ってたよね?」
もう人が「隠れてたの、全員バテレン人だぞ」
そして彼等は顔を見合わせて「ロヨラ会の手の者に違いない。殿に知らせよう」
女中に案内された三名の後を、魔法で姿を消した六人がついて行く。
彼等とすれ違った二人の女中が、怪訝顔でひそひそ・・・。
「さっき、変な気配がしなかった?」
「あの三人の後ろに、何か居るみたいな・・・」
「あの人達の背後霊かな?」
「それとも、何かに憑りつかれてるとか?」
「怖いわよね」
部屋に案内されて、六人は隠身を解いて一息つく。
女中がお茶を持って来る。六人は慌てて隠身で・・・。
「ごゆっくり、どうぞ」と言って女中が退席。
「あー、びっくりした」
そう言ってアーサーが隠身を解くと、ムラマサが「心臓に悪いでござるな」
するとファフが「かくれんぼみたいで楽しいよ」
「子供は気楽だよなぁ」
そうタルタがあきれ顔で言うと、彼女は「ファフ、何百年も生きてるもん」
そしてエンリは呟いた。
「けど、何か大事な事を忘れてるような・・・」
「どうやって潜入するかって事ですか?」
そうアーサーが言うと、エンリは「いや、もっと切実な、明日まで生き残るために必用な問題があるような気がするんだが・・・」
間もなく夕刻を過ぎて、女中が三人分の夕食を持って来る。
お膳を並べながら、一人の女中が言った。
「何か、変わった事はありませんでした?」
「変わった事って?」
そう若狭が言うと、女中は「他の女中が、お化けが居るんじゃないか・・・なんて噂してまして」
「本当ですか?」
そう言ってジロキチが青くなる。
お膳を置いて女中が部屋を出ると、ジロキチがおろおろ声で「どうしよう・・・。そうだ、ゴーストなら光属性だ」
そう言ってジロキチは、四本のうちの一本の刀を抜いて「真白、お前だけが頼りだ」と言って、すりすりする。
「いや、そういう気配は無いけど・・・」とアーサーは困り顔で・・・。
「それよりご飯にしようよ」
そうファフが言うと、タマが「けど三人分しか無いわよ」
「あ・・・・・・・・・・」
仲間たち唖然。そして一様に脳内で呟いた。
(明日まで生き残るために・・・って、この事だったのか)
「俺たちの分は?」
そうタルタが涙目で言うと、ファフが「買い出しに行こうよ」
ニケが「けどもう夜で、お店はみんな閉まってるわよ」
カルロが宿の厨房に忍び込む。
間もなく宿の人が騒ぎ出した。
「使用人の賄いのご飯が消えた」
「おかずが無い」
「やっぱり何か居るんだよ」
エンリたちが、カルロがくすねてきたおにぎりとおかずを食べて、一心地ついた頃、宿を二人の僧侶が訪れた。
「この宿に妖怪の気配を感じたのですが、心当たりは有りませんかな?」
そう僧侶の一人が言い、「それって・・・」と言って顔を見合わせる宿の人たち。
彼等は宿の主人と使用人から話を聞くと、主人に言った。
「危ないので、宿の人はしばらくここを離れて下さい」
二階の部屋に居るエンリたちも、間もなく危険を察知した。
カルロが窓の外を見て「通りに五人、張り込まれてますね」
「誰か来るよ」と若狭。
ジロキチが「凄い殺気だぞ」
六人が再び隠身で姿を消しつつ武器を構える中、二人の僧侶が部屋に乗り込んで来た。
そして僧侶の一人が「我々は妖怪退治の者です。ここに魔物が潜んでいます」
「本当ですか? 何とかして下さい」
そうジロキチが縋るような目で言うと、若狭が彼の袖を引っ張って「あの、ジロキチさん、それって・・・」
そして二人の僧は、鋭い目つきで部屋を見回す、
「その男は妖刀の化身、そっちは化け猫、姿を消している者が六人!」
そう言って左手で印を結んで短い呪文を唱え、右手で数珠を持って部屋の一画を指して「喝!」
「きゃっ」
そう叫んだリラの隠身が破れ、エンリとタルタとともに姿を現わす。
「そっちにも三人居るぞ。確保だ!」
窓から三人の忍者が飛び込んだ。
ジロキチが二本の刀で、物凄い速さで切りかかる忍者の刀を防ぐ。
カルロがナイフで、タルタが部分鉄化で、残る二人の忍者と切り結ぶ。
僧侶の一人が、細い鎖で繋がった、いくつもの棒状のものを懐から出し、その端の鎖を引くと、棒は繋がって一本の薙刀になった。
振り下ろす僧侶の薙刀の重い一撃を、エンリの大地の魔剣が受け止めた。
激闘の中、カルロが煙玉を投げ、全員が窓から通りに飛び降り、待ち構えていた五人の武士と斬り合いなる。
部屋に乗り込んだ忍者と僧侶も、通りに飛び降りて斬り合いに参加。
二本の刀を持つジロキチと、短い忍刀とくないで互角に渡り合う忍者。
もう一人の忍者が火遁の術で炎を浴びせつつ斬りつけるのを、部分鉄火で防ぎつつ戦うタルタ。
三人目の忍者と二本のナイフで切り結ぶカルロ。
一人の侍が陰陽の呪文を唱えて繰り出す式神狼の群れを、スケルトン軍団で迎え撃つアーサー。
その背後から構えるニケの短銃を、一人の侍が銃でねらい撃ち、ニケの短銃が弾かれる。
ニケは投げナイフで銃を持つ侍に反撃。
エンリは風の魔剣と一体化し、妖刀を持つ若狭とともに武士たちと切り結ぶ。
その背後でリラが放った氷の散弾は、全て侍たちの刀が弾き返す。
タマが猫の体で跳ね回り、攻撃魔法を連射して侍たちの攪乱を試みる。
魔法を使うリラを背に庇って戦いながら、エンリは脇に居るアーサーに「こいつら手強いぞ」
そして彼は、切り結ぶ相手の二刀使いに向けて叫んだ。
「お前等は何者だ?」
「我等、真田幸村様に使える者。お前達、ロヨラ会の配下だな。秀吉様を暗殺など絶対にさせない」と言う、相手の二刀使い。
「それは誤解だ」
そう言うエンリに、二刀使いは「信用出来るか」
エンリは号令した。
「ファフ、撤退だ」
ファフはドラゴンに変身し、全員その背に乗って空へ・・・。
「どうしますか?」
ファフの背でそう言うアーサーに、エンリは「騒ぎになった以上、警戒されるから潜入は困難だ。このまま一気に秀吉さんの居る城に・・・って、城はどこだ?」
「あそこ」
リラがそう言って指した方向を見て、エンリは「あれって、信長さんが戦ってたお寺のあった・・・」
するとニケが、いきなりテンションMAX状態になって「見てよ、屋根が金よ金」
アーサーは溜息をついて「いや、あれは土くれの瓦に薄く塗っただけ」
「とにかく乗り込もう」
そうエンリが言うと、ファフが「追って来るよ」
二羽の大烏がドラゴンに接近。先ほどの敵が五人づつ乗っている。
大烏の頭上で座禅を組んだ僧が両手で印を結び、短い呪文を唱える。
「天王なる光にて怨敵退散」
両手の印から発した一条の光を、アーサーの防御魔法が防ぐ。
もう一羽の烏の頭上に居る忍者が両手で印を結ぶ。
「風手裏剣」の掛け声とともに、幾つもの風の塊が撃ち込まれるのを、エンリが風の巨人剣と一体化した素早さで弾き返す。
その時、烏の上に居た侍の最年長らしき男が叫んだ。
「攻撃は中止だ。幸村様からお達しがあった。あれは敵では無い」
男はアーサーに念話を送った。
「疑いは晴れました。秀吉様と我が主君が、城の最上階でお待ちです。私は真田幸村様の家臣で、穴山小介と申します。我等、幸村様をお守りする真田十勇士」




