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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第03話 王子の船出

人魚姫リラは人化の儀式で、人にも人魚にもなれるスキルを手に入れた。

エンリ王子は夢中で彼女を愛したが、隣国の姫との縁談も勝手に進み、王子はスパニアのイザベラ姫と結婚して、イザベラは王太子妃となった。



婚姻の夜、イザベラ妃はエンリ王子の傍らに仕える人魚姫を見て言った。

「その子、魔法で人化した人魚よね?」

エンリは「すまない。私には人と違う性癖があるんだ。お魚フェチと言うらしい」と、結婚したばかりの妃に自分の性癖について語った。

するとイザベラは「いいのよ。どうせ政略結婚なんて形だけだし、王様なんて飾り物よ」

「そうだね。王家に生まれたら、本当に自分のやりたい事なんて出来ない」と物憂げな顔で王子は答えた。

「あなたには本当にやりたい事はあるの?」とイザベラ妃。


エンリは遠くを見るような眼で、言った。

「魚のたくさん居る広い海を冒険したい」

「だったら、政治は私に任せて、冒険に出たらどうかしら」

そう言って妃は、付き人として本国から連れて来た一人の若者を呼んだ。



若者を見てエンリが「彼は?」と尋ねる。

「海賊よ」とイザベラ妃。


その若者は語り出す。

「俺はある島で不思議な果実を食べて、特別な力を手に入れた。この広い海にはいろんな不思議がある。そしてそのどこかに、偉大な財宝、"ひとつながりの大秘宝"と呼ばれるものが眠っている。それを手に入れれば全ての海を支配できる海賊王になれるという。それを探し出して、海賊王に俺はなる!」


「どうかしら」と妃は言う。

「全ての海を支配・・・かぁ」と、エンリは目を輝かせた。

そんなエンリを見てリラは「王子様、私もお供します。私はいつでも人魚の体に戻れます。海の上ならきっとお役に立てます」と筆談の紙に・・・。



エンリ王子は冒険の旅に出る決意をした。

共として名乗りを上げたのは、海賊の若者と城の魔導士、イザベラの護衛だった手練れの剣士、そして人魚姫リラ。



エンリを含めた五人は、その夜、エンリの部屋で冒険の旅に向けたパーティ結成の小さな宴を設けた。

酒とつまみを前に、テーブルを囲む五人。


「これから我々は"ひとつながりの大秘宝"を求めて冒険の海に乗り出す」とエンリ王子。

「つまり海賊団の結成だな」と海賊は気勢を上げた。

「これって海賊団なのか?」と剣士。

「宝さがしと言えば海賊だろ」と海賊の若者。


エンリ王子は「まあいいや。とりあえず自己紹介と行こうか。俺はエンリ」

「知ってる。お魚王子だろ?」と剣士。

「変態お魚フェチ」と海賊。

エンリは「変態言うな。これは個性・・・まあいいや」



「私はリラ。実は人魚です」と人魚姫リラは筆談の紙に・・・。

「それも知ってる」と海賊。

「王子様に恋をして魔女から人間の体を貰いました」とリラは筆談の紙に・・・。

「この変態王子に恋?」と剣士。

「だから変態言うな」とエンリ王子が口を尖らせた。

「変わってるって言われます。けどみんな解ってくれます。蓼食う虫も好きずきって」とリラは筆談の紙に・・・。

「それ、褒めてないと思うよ」とアーサー。



次に海賊の若者が「次は俺だ。タルタだ。イタリア人の海賊団に居て地中海で暴れ回っていたんだが、スパニア海軍の大艦隊に囲まれて、捕まって仲間はみんな縛り首になったが、俺は異能のおかげで死ななくて、隙を見て逃げようと思ってたら、そのまま牢に入れられて」

「間抜けな話だな」と剣士。

「ほっとけ。それでそこで食っちゃ寝してたら、噂を聞いたイザベラ姫が面白がって護衛にスカウトしたって訳だ」とタルタは言った。



そして剣士が「じゃ、次は俺だな。俺はジロキチ。東の果てのジパングの出でな。仕えていた主が戦乱に疲れて、南のアユタヤという国に移住したのさ」

「まともだな」とアーサー。

「ところがその主人が一年も経たずに・・・」とジロキチ。

「病死か?」とタルタ。

「違う」とジロキチ。

「戦死か?」とエンリ。

「それも違う。現地で娶った側室との初夜で腹上死」とジロキチ。

「おいおい」とエンリはあきれ顔。

「まあ、年だったからなぁ」とジロキチ。

「何歳だったんだ?」とアーサー。

「七十過ぎてた」とジロキチ。

「爺さん無理し過ぎだろ」とタルタが苦笑。


「それで浪人になってた所を異教徒のグループに拾われて」とジロキチが言いかける。

「商人団か?」とアーサー。

「違う」とジロキチ。

「傭兵団か?」とエンリ。

「それも違う」ジロキチ。

「冒険者ギルドのパーティか?」とタルタ。

「いや、異世界ゲームじゃないんだから。曲芸団だよ」とジロキチ。

「曲芸かよ」とタルタ。

ジロキチは「それであちこち廻って、イタリアで公演してた所を、お忍びで見に来てたイザベラ姫が面白がって護衛にスカウトしたって訳だ」



そして最後にアーサーの自己紹介。

「じゃ、次は俺だな。俺はアーサー。イギリスの出で、ロンドン時計塔の魔法学校で勉強して、ポルタの宮廷魔導師の募集があったんで応募して」

そんなアーサーにタルタが「お前、つまんない奴だな」

「悪かったな」とアーサーが口を尖らせた。



冒険の旅に出る船を調達しようという事で、エンリ王子たちは航海局に出向いた。

「船に乗って冒険の旅に出たい。遠洋航海の出来る船を用意してくれ」と窓口で局員に命じるエンリ王子。

局員は「私たちでは何とも。長官に直接ご命令下さい」


航海局長官の執務室に乗り込む。

「遠洋航海の出来る船を用意しろと言ったら、長官に話せと言われたんだが」とエンリ王子。

「政務局長官にお命じ下さい」と航海局長官。


政務局に出向く

「遠洋航海の出来る船を用意しろと言ったら、政務局長官に話せと言われたんだが」とエンリ王子。

「宰相の判断を仰ぎませんと」と政務局長官。


宰相の執務室に乗り込む

「遠洋航海の出来る船を用意しろと言ったら、宰相に話せと言われたんだが」とエンリ王子。

「お父上のジョアン王の許可をとって下さい」と宰相。


アーサーは溜息をついて、エンリの耳元で言った。

「王子、これって、"たらい回し"って奴じゃないですか?」



エンリは父王に面会した。

謁見室に行くと、航海局長官と政務部長官と宰相も揃って、待ち構えていた。

「王子、どうかお考え直し下さい。海は危険がいっぱいですぞ」と航海局長官。

「あなたは次期国王ですぞ」と政務局長官。

「御身に何かあっては一大事」と宰相。

「という訳だ。お前は城に留まって、国政を預かるための勉強に専念しなさい」とジョアン王は言った。



エンリはイザベラ妃に、事の次第を離す

イザベラは言った

「年寄りの言いそうな事ね。いいわ。私がお父様を説得してあげる」


イザベラはジョアン王に面会した

「王子から話は聞きました。彼の身の安全が第一なのは解りますが、少々過保護過ぎではないでしょうか。獅子は我が子を千尋の谷に落とすと言います。子は親の保護から離れて、試練を乗り越えてこそ一人前となります。まして、一国を預かる王ともなれば猶更です」

「なるほど、よく解った。王子が冒険の旅に出る事を許可しよう」とジョアン王は言った。


ジョアン王はエンリを呼んで、言った。

「エンリ王子よ。王としてお前に試練を与える。千尋の谷へ身を投げて這い上がって来い」

エンリは「嫌です」


ジョアン王はイザベラを呼んで、言った。

「王子は嫌だと言っているが」


イザベラはエンリ王子に問い質す。エンリは言った。

「俺は海に行きたいのであって、山で修行したいんじゃない」

「あれはただの、物の例えよ」とイザベラ妃。


二人で王と話そうという事になり、エンリ王子とイザベラ妃で王に面会した。

王は言った。

「解った。行くがよい、我が息子よ。ところで航海許可の手続きが必要なのだが、交易商という事になるのか?」

「いえ、海賊です」とエンリ王子。

「駄目に決まってるだろーが!」とジョアン王。



話を聞いて、タルタが愚痴を言った。

「これって海賊に対する差別じゃないか?」

「いや、海賊って略奪者だからなぁ」とジロキチ。


するとアーサーが「ってか海賊というのは正式な職業名じゃないですよ。無許可でやってる奴は別だけど、正式には私掠船です。外国船から奪って交易を妨害し、自国商人に航路を独占させるために許可するんです」

「だったらそれを申請したらどうだ?」とエンリ。


「許可はあくまで非公式に裏でやる事ですからね。大っぴらにやったら戦争になります」とアーサー。

「どうやって手続きするんだ?」とエンリ。

「みんな肩書は交易商ですよ。元々海賊は商業取引で相手が支払いを拒んだ時に実力で取り立てる所から始まったんです」とアーサー。

「結局、交易商ってことになるのか」とエンリ王子。



国王から交易商として許可を貰い、船を調達し、水や食料を用意した。

準備が終わって、エンリたちはイザベラ妃の部屋へ。

「明日、出立する」とエンリ王子。

「頑張ってね」とイザベラ妃。


その時、宰相が来てイザベラ妃に言った。

「王太子妃さま、報告があるのですが・・・」

政務局長官も来て「王太子妃様、御機嫌麗しゅう」

それを見てアーサーは思った。

(随分と家来たちを手なずけているな。もしかしてこの人、この国の実権を乗っ取るつもりなんじゃ・・・)


そんな中でエンリ王子が「それからイザベラ、一つだけ心残りがあるんだが」

イザベラ妃は「(ギクッ)な、何かしら」

「城の水槽の魚たちなんだが」とエンリ。

「あ・・・それね。私が面倒見てあげるわ」と妃。

エンリは「そうか。それは助かる」



みんなで城の廊下の水槽を見る。

「珍しい魚ばかりですものね」とイザベラ。

「みんな可愛い奴等なんだ」とエンリ。


イザベラは「この魚なんか美味しいのよ。これなんかソティ―にすると最高で」

エンリは慌てて「ちよっと待て」

「これは唐揚げが・・・」とイザベラ。


その時、人魚姫リラが「あの、海に返してあげたらどうでしょう」と筆談の紙に・・・。

「そうだな」とエンリ。

「逃がしちゃうの? 美味しいのに」とイザベラ。

「いや、食べないから」とエンリ。



翌日、イザベラ妃は港へ見送りに来た。

城の家来たちに、城にあった水槽を港に運ばせている。


エンリ王子は魚たちに語りかけた。

「お前たち、狭い所に閉じ込めて、済まなかったね」

魚たちは水面に顔を出し、口をパクパクと・・・


「何か話しかけているのかな?」とエンリ。

「みんな王子様の事が大好きなんですよ」とリラは筆談の紙に書いて、エンリの手を握る。

「解るのか?」とエンリはリラに・・・。

リラは「私、半分は魚ですもの」と筆談の紙に・・・。

「そうだったね」とエンリ。


そんな会話を耳に、アーサーは思った。

(いや、餌を欲しがってるだけなんじゃないかと思うが)


「この子たち、きっと、どこまでも船について来ると思います」と人魚姫リラは筆談の紙に・・・。

「そうか?」とエンリ王子。

「海の上でも寂しくないです」とリラは筆談の紙に・・・。

「そうだね」とエンリは一言。



家来たちが一斉に水槽を掲げ持つ。

エンリ王子は水槽の魚たちに言った。

「さあ、お行き。お前たちはもう自由だ」


水槽の魚たちを海に放ち、魚たちは一目散に波の向こうに消えた。


残念そうな声でアーサーが言った。

「本当に行っちゃいましたね」

エンリは「いいんだ」と一言。

「王子様、私が居ます」とリラは筆談の紙に・・・。

「そうだね」とエンリ。



船に乗り込もうと橋板を踏みながら、エンリ王子はアーサーに言った。

「なぁ、犬は三日餌をやったら恩を忘れないって言うよね」

「犬は魚よりは人間に近いと思いますよ」とアーサーは答えた。

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