第298話 群島の暴風
イギリスの流刑地からメアリ王女を救出して逃亡したフェリペたちを追って、西へ向かうタルタ号のエンリたち。
南洋の王の島での反乱を鎮めた後、拘束したフェリペたちとサルセード将軍の兵たちに、島王の娘ラバの機転でまんまと逃げられた彼等は、更にフェリペたちを追う中、オケアノスの西に到達する手前で、ジパング海賊の船と出会った。
何やら殺気立っている船の様子を見て、エンリは「何かあったんですか?」
「タカサゴ島に集結してシーノの侵攻に備えよと、号令がかかったんですよ」
そう答える海賊に、エンリは「シーノは海を渡る海軍は弱いと聞きますけど」
「それが、強力な海軍力を味方につけたそうでして」
その海賊の言葉に、エンリと仲間たちは反応した。
海賊船が去った後、仲間たちと額を寄せ合って、あれこれ話すエンリ。
「味方についた海軍力って、まさかフェリペたちか?」
「軍船四隻だけどね」とタルタ。
「けど最新鋭の軍船だし、サルセード将軍は強いぞ。おまけに陸戦隊付きだ」とアーサー。
「それに、ヤマト号は魔導船で、ドラゴンも居るわよ」とニケ。
「あのシーノが奴らを取り込んだって・・・、洗脳されたって事かな?」
そうアーサーが言うと、エンリは激高し、まくし立てた。
「冗談じゃない! 一衣帯水で世界を神から任された中華帝国とか言ってる、国家丸ごと中二病集団だぞ」
カルロも「愛国教育とかいうので国民数億が洗脳済みの、サティアンとかいう洗脳施設とか、モータクサン語録なんてのを丸暗記させられて"学習するぞ"を延々連呼するとか」
ジロキチも「皇帝が黒電話みたいな刈上げ頭で、各家で御真影とかいう肖像を一日五回三跪九叩頭とかいう作法で礼拝するとか」
若狭も「街で五毛とかいう宣伝工作隊が徘徊してて、学習組とかいう密告警察の密告網とか・・・」
「とにかく、俺のフェリペをそんな奴らの信者にされてたまるか。今すぐ救出しに行くぞ」とボルテージMAXのエンリ王子。
「どこに?」
そうタルタが言うと、エンリは「決まってるだろ。シーノだよ。乗り込んで炎の巨人剣で火の海にしてやる!」
「そういう危ない発想は止めて」と、困り顔のアーサー。
リラが「先ず、情報収集のためにタカサゴ島に行きましょう」
「それに、あそこを侵略する手駒になるって事は、子供の仕出かした事は親の責任ですよ」
そうジロキチが指摘すると、エンリはボルテージ急降下。
そして「・・・・・・絶対行かなゃ駄目?」
タカサゴ島に上陸し、皇帝庁舎に入ったエンリたちを、鄭成功、そして皇帝と大臣たちが迎えた。
応接室に通されるエンリと仲間たち。
「よく来てくれました。シーノとの戦いで味方をして貰えるのですよね?」
そう言って歓迎する皇帝に、エンリは言った。
「その前に、ここに攻め込むため彼等が味方につけた強力な艦隊について知りたい。あの頭目は実は私の息子でして、なので私が責任を持って処理したい」
「あの国の王とそんな縁が?・・・」
そう大臣の一人が言うと、エンリは「いや、王と言っても、あいつはまだ皇太子で、即位もしていない。しかも五歳なんだが」
大臣たちは互いに顔を見合わせて「ナハ王ってそんな子供だっけ?」
そして鄭成功は言った。
「強力な艦隊といっても、殆ど商船や漁船でして。けど、とにかく数が多い。何しろ、多くの島が海上を互いに行き来して、日常的に船を使う人たちですから」
エンリたちは互いに顔を見合わせて「何だか話が噛み合わないような気がするんだが」
「それで、彼等はどこに?・・・」
そうエンリが問うと、鄭成功は「この島の北にある島々を統括している、ナハという国ですよ。ジパング海賊の向うを張って、ジパング・中華・ジャカルタにかけて活動していた通商国家でして」
エンリ王子たち唖然。
そして「フェリペ皇子関係無いじゃん」
「つまり、ポルタみたいな国って事か?」
そうタルタが言うと、鄭成功は「元々平和的な国なんですけどね。シーノがあそこの海上輸送力に目を付けて、遠征軍を送り込むのに協力しろと。それで今、それに応じようという動きに、反対派が抵抗していまして」
「つまり、その国内に味方もいるって事ですか?」とアーサー。
「元々ミン帝国の属国ですから」と、大臣の一人が・・・。
「つまり、大陸の支配者が交代して、古い国に義理立てする勢力と、新しい国に尻尾を振る勢力に分かれてるって事ですか?」
そうエンリが言うと、皇帝は「何しろ彼等は、我々のお陰で繁栄して来たのですから」
その時ニケは、きつめの口調で指摘した。
「そういうのはどうかと思うわよ。通商は目端さえ効けば利益は商人の実力次第よ。それを売ってやったとか言って恩着せするのは筋違いだわ。あなた達、お金儲けをナメてるんじゃないかしら」
「ニケさん、失礼だぞ」とエンリは彼女を窘めるが、皇帝は言った。
「いえ、言いたい事は解ります。ですが彼等は過去のミン帝が独占的に貿易を任せて来たのですよ。朝貢という名目でね」
「そういえば朝貢って、貢物を持って下手に出れば、お返しがしこたま貰えるとか」
そうエンリが呟くと、鄭成功は言った。
「中華といえど必要な輸入品はあります。それを中華の権威のため、貿易の全てを朝貢で賄おうと、私貿易を禁じてきました。それで貿易業者が海賊化したのが我々ですが、不足する輸入品をナハ国からの朝貢で賄おうと、多くの朝貢船を許可して来たのです」
「けど必要な輸入品って、そのナハ国の産物って訳じゃないですよね?」とエンリ。
「ですから中華の産物を下賜品として与え、それを彼等がジパングやジャカルタに輸出して、そこの我々に必要な産物を輸入させ、それを朝貢品として差し出させると」と鄭成功。
「それじゃ、いろんな財貨の取引を独占出来る上に、下賜品はご褒美割り増しでお金ガッポガッポ・・・」
ニケはそう呟くと、いきなり商売人モードに入り、揉み手しながら皇帝に擦り寄った。
「皇帝陛下、その役目は是非、お金の申し子たるこのニケに・・・」
皇帝はタジタジ顔で「いや、私たちはもう中華でも帝国でも無いんで、そういうのはやってないから」
「で、抵抗派ってのは独立したいんじゃなくて、どっちの主人に忠義を尽くすかっていう、その主人の一方があなた達?」
そうエンリが言うと、皇帝は「可愛い国なんです。宗主国様宗主国様と言って犬みたいに尻尾を振って、どこにでもついて来て」
「そういうのってウザくありません?」
そうエンリがあきれ顔で言うと、アーサーが「けど王子、フェリペ皇子に関して同じ事言ってましたよね?」
「・・・・・・・」
エンリ王子、仲間たちと額を寄せて「で、どうする?」
「どうするって?」
そうタルタが聞き返すと、エンリは「どうやらフェリペたちとは無関係みたいだし・・・」
そんな彼等の内輪談義を他所に、皇帝は言った。
「ではエンリ殿、よろしくお願いします」
「何を?」
そう怪訝顔で聞き返すエンリに、皇帝は「いや、ナハ国の話ですよ。責任を持って処理して頂けるんですよね?」
「あ・・・・」




