第296話 南洋の反乱
フェリペ皇子たちは、エンリ王子の追跡を逃れ、メアリ王女の落ち着き先を求めて、島々を統括する水のある島に上陸し、そこの王の歓待を受けた。
フェリペたちの、王の島での生活が落ち着いた頃、王の家来たち数人がマゼランたちの住居を訪ねた。
「あのメアリという方は、国から追われているのですよね?」
マゼランは「いずれ、本国から追手が来ます。それでもし、皆さんに迷惑がかかるようなら、我々はここを去ります」
すると、王の家来たちは意外な事を言った。
「それには及びません。我々も協力します。その代わりにお願いがあるのですが、王を倒すのに協力して貰えないでしょうか」
マゼランは驚き、そして「国がうまくいっていないのですか?」
家来の一人が言った。
「我々は支配下の島から派遣された代表です。島々が連合を組んで、水の乏しい故郷の島への援助を受けてきました。その依存関係の中で、王は我々への支配を強めています」
「その重しを取除きたいという訳ですね?」とチャンダ。
「それで追手とは、どのような相手なのですか?」
そう、もう一人の家来が訊ねると、マゼランは「一隻の船で人数も僅かですが、強力な戦闘力と奇策で様々な強大な敵を打ち破って来た人達です」
そしてチャンダが「この島の防備はどうなっていますか?」と、王の家来たちに尋ねる。
王の家来に案内され。小舟に乗って島の周囲を巡るマゼランとチャンダ。
「断崖絶壁という訳では無いのですね?」
そうチャンダが言うと、王の家来は「接近すれば解りますよ」
沿岸に近づくと、浅瀬が森になっている。水面から多くの木の幹が伸び、枝葉を広げている。
その不思議な光景に、暫し唖然とするマゼランとチャンダ。
「あの木はいったい・・・」
そうマゼランが言うと、王の家来は言った。
「マングローブですよ。岸に近付こうにも、小舟では密集した木々に遮られて近付けない。歩いて浅瀬を渡ろうとしても、泥に足をとられる。岸に辿り着いても凹凸が激しく、人の足で通り抜ける事は不可能。謂わば天然の防柵です」
マゼランとチャンダは島に戻ると、仲間たちと共に、サルセード将軍以下の主要な軍人たちと作戦会議。
「なるほどな。エンリ王子を迎え撃つ事は容易という事か」
そうサルセードが言うと、マゼランは「王宮を乗っ取る事は可能でしょう。ですが、元々のこの島の住民は王の側です」
すると参謀が「味方は王館の家来とか移住者の他、島々からの応援が来るそうです」
サルセード将軍は言った。
「よし。この期に乗じて、ここをスパニアの属国にするぞ。よろしいですね? 皇子」
「いいのかなぁ」
そう、小声で呟くフェリペを見て、マゼランは言った。
「それと、住人を殺すのは可能な限り避けて下さい。抵抗する者も出来るだけ気絶で済ませて欲しい」
そして遂に、王の家来たちが蜂起した。
抵抗する王側の衛兵は、マゼランたちと陸戦隊が制圧し、島の住人たちは鉄砲を向けられて手を上げた。
王と娘のラバは側近たちと密林に逃げ、陸戦隊に弓矢で抵抗。
そんな中で、港から艦隊の留守役の水兵から報告。
「サルセード将軍。味方の島々からの援軍が・・・」
「そいつらが居なくても、島の制圧はほぼ完了したぞ」
そうサルセードが"今更かよ"といった顔で言うと、報告に来た水兵は「それが、一緒にエンリ王子のタルタ号が・・・」
サルセード唖然。
そして「何ですとー・・・・・!」
「反乱を起こした奴らはスパニアという東の軍事国家に騙されているのだと・・・」
焦り顔でそう言う水兵に、サルセードは口を尖らせて「いつものあの人の口車だ」
「それが、西方大陸でのスパニア人の残虐行為の映像を見せられて、完全に王側に・・・」
そう言う混乱状態の水兵を横目に、サルセードは部下たちに言った。
「とにかく艦隊で迎え撃つ」
一緒に居た反乱派の王の家来の一人は「奴ら、たくさんの筏で上陸して来ます」
「マングローブの生えた岸からは上陸出来ない筈だ」とサルセード。
「そうでした。けど、彼等は元々味方で、上陸して我々に加担する筈だったのに」と言って、王の家来は歯噛みする。
「とにかく四隻で出撃だ」
そうサルセードが言うと、王の家来たちは「我々も小舟で筏船隊の相手をします」
タルタ号率いる筏船隊とヤマト号率いる反乱側の小舟船隊が、島の沖合で対峙する。
砲撃はタルタ号に集中し、アーサーの防御魔法がそれを防いだ。
サルセード将軍は各艦に激を飛ばす。
「撃ちまくれ。あの船さえ沈めてしまえば我々の勝利だ」
その時、タルタ号から拡声の魔道具でエンリの声が響いた。
「こちらポルタ国王太子エンリ。君達は完全に包囲されている。今すぐ投降しなさい」
それに対してフェリペは「悪いけど父上、島はほぼ僕たちの陸戦隊が占拠したから」
マゼランも「それに、ここの海岸は浅瀬に密集した森のせいで港以外からの上陸は不可能です」
すると、エンリ王子は言った。
「その陸戦隊なんだが、ファフに乗って上陸したリラのセイレーンボイスで、全員眠って貰ってるんで、あの島にあなた達の居場所はありません」
サルセード達は「何ですとーーーーーーーー!」
「そんなのハッタリだ」
そう、王の家来の一人が言うと、タルタ号から、彼にとって聞き覚えのある声が響いた。
「いや、ハッタリでは無いぞ」
王の家来たち唖然。そして「王よ、何故そこに?」
甲板に姿を見せた島の王が「彼等のドラゴンで救出された。スパニアの兵士はみんな拘束された」
「そんな・・・」
「反乱は重罪だ。お前達は全員処刑」と、王は小舟側に居る家来たちに宣告。
更に王は、筏側に居る、島々から来た人たちにも「彼等の口車に乗り、筏を仕立てて我々の島の占領を計ったお前達も同罪だ」
筏の上に居る人たちは涙目で「そんな、私たちはあなたを助ける側に回ったのに」
すると、エンリ王子は言った。
「そういうの、止めませんか?」
島の王は「彼等は我が島の水で何度も命を繋いできたのだ」
エンリは王に反論して「これからは真水を得る魔道具で、その必要もありません」
「それは・・・」
「そーだーそーだ。俺たちはもう王の島に頼る必要は無い」と、小舟の上に居る家来たちは気勢を上げる。
すると、エンリは彼等に「そういうのも止めませんか?」
反乱側の家来の一人が「我々は王の島から支配を受け、乏しい中から貢物を差し出してきた」
「けど、この島に頼っているのは水だけですか?」とエンリ王子。
「それは・・・」
エンリは更に言った。
「木材だって、あなた達の島には不足していますよね? 島どうしの争いは王が裁いてきたから、暴力沙汰を抑えてこれた。互いに依存しているんです。支配を強めたのが不満なら、それを改めればいい。それで手打ちって事にしませんか?」
双方の現地人たちは、互いに顔を見合わせ、一様に「そうですね」
そして王は言った。
「解りました。皆がそれで納得するなら、今回の事は水に流しましょう」
「それで、島に居る私たちの仲間を騙して反乱をそそのかし、侵略を企んだスパニア人は、どうなるのですか?」
筏側の一人がエンリにそう問うと、エンリは向こう側のヤマト号に問うた。
「そうなのか? マゼラン」
マゼランは困り顔で「いや、俺はあの人達に、王を倒すのに協力して欲しいと頼まれたんですけど」
すると、先ほどの筏側の人が「いや、スパニア人が彼等を騙したと言ったのはエンリさん、あなたですが」
エンリは涼しい顔で「それは嘘です」
筏の上に居た人達、唖然。
そして一斉にエンリに向って「あんたなぁ!」




