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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第294話 神様の名前

オケアノスを西へ逃走するフェリペ皇子を追うエンリ王子たちは、途中の島でフェリペたちの情報を得るため上陸した。

フェリペたちは一足先にその島に上陸して、水不足に苦しむ現地人のために、海水を真水化する魔道具をもたらしていた。

彼等が去った後、現地人たちはフェリペを神の使いとして、その父親のエンリとともに像を作って祀っていた。



そして彼等がそのエンリの像に付けた呼び名に、エンリは頭を抱えた。

その呼び名は、何と「天のお父様」・・・・・。


それを聞いて爆笑しているエンリの仲間たちを、怪訝そうに見る若い呪術師。

「皆さん、どうされたのですか?」

エンリは無理に平静を装おうと、わざとらしく「いや、何でも無いです」

そして小声で呟く。

「こーいう事になってるだろうって、予感はしてたんだよなぁ」


そんなエンリを見て、タルタが「けど、王子が"天のお父様"って・・・」

ニヤニヤしている仲間たちに、エンリは小声で「俺は犯罪カルトの詐欺師じゃないぞ」


そんな彼等の反応を見て、呪術師は不思議そうに「あの、どうかされましたか?」

エンリは慌てて「いや、何でもない」

そんなエンリに呪術師は「もしかして、あなたは」

エンリは慌てて「他人の空似だ」

呪術師は「他人って誰の?・・・って、そう言えば天のお父様の像にそっくり。あなたはもしや」


仲間たち全員、更にニヤニヤ状態。そしてエンリは冷や汗顔で脳内で呟く。

(どーすんだ、これ)



エンリは突然、わざとらしく苦しみ出して見せる。

「あ・・・頭が痛い。何かが俺の中に・・・。これは、何かが俺に憑依しようとしているのか?」


そしていきなり真顔になると、呪術師に向き直った。

「使徒よ。我は汝の言う神である。この者を依り代として汝に天啓を与える。以降、我を"天のお父様"と呼んではいけない。あれはとても縁起の悪い言葉だ」

「あなたの奥方をマザームーンとお呼びするのは?」

そう呪術師が言うと、エンリは語気を強めて「駄目、絶対! それと、先祖の祟りがどーのとか言って壺を売りに来たり、紙切れを買えば天国に行けるとか言う奴は詐欺師だから信じちゃ駄目、絶対! あと、"お前達はエバ国家だからアダム国家たる自分達に奉仕しろ"などと言う奴の国は侵略国家だから、速攻追い返しなさい」


呪術師は明るく元気な声で「解りました、天のお父様!」

「だから違うって」と、うんざり声を隠せないエンリ。

「失礼しました。で、これから貴方を何と呼べば?・・・」

そう呪術師に尋ねられて、エンリは「あ・・・」


エンリは小声で、隣に居るジロキチの耳元で「どうしよう、何と呼ばせれば・・・」

ジロキチは噴き出しそうになるのを堪えながら「いや、あなたはエンリ王子じゃなくて、王子に憑依した神様なんですよね?」

「あ・・・」

そしてエンリは脳内で呟く。

(どうしよう。ちゃんとした名前・・・)

そしてエンリは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「"カッコイイ大王"と呼びなさい」

そうヤケ気味の声で語るエンリに、呪術師は「解りました。カッコイイ大王様」

そしてエンリは大袈裟な語り口で呪術者に言った。

「それでは、我はこの者の体から立ち去る。この者はあくまで通りすがりの一般人で、我とは無関係である。では、さらばだ」



エンリ、目を開けて、わざとらしく回りを見回す。

「ここは誰? 私はどこ?」

そんなエンリに呪術者は「あなたは神の依り代となって、神の憑依を受けていたのです」

「そうか。とにかくそういう事だ。では、さらばだ」

そう言って、呪術師の家を出るエンリ。そして彼の仲間たち。


歩きながら、周囲の仲間たちの残念な視線がエンリに集中している。

「けど、カッコイイ大王って・・・」

ニケがそう言うと、ジロキチも「呪いの温泉で水に濡れると謎のパンスト魔獣になる特異体質を持ってしまった悲劇のキャラじゃないんだから」

エンリは溜息をつくと、「いいだろ。他に思いつかなかったんだから」

  


翌日、アーサーがアンチソルト魔道具の複製作りの仕上げを終えた。


彼が宿に戻って一息ついていると、何やら島が騒然とした雰囲気に包まれていた。

エンリたちが外を見ると、人々が心配そうな表情で、真水の魔道具の小屋に集まっている。

「どうしたんですか?」

そう問うエンリに、住人たちは「真水が出なくなってしまったんです」


アーサーが魔道具を調べ、そして言った。

「魔力切れですね。魔石に魔力を貯める仕様になっているんです」

「補充してあげたらどうかな?」とリラ。



リラとアーサーが魔石に水の魔力を補充するが・・・。

「まだ貯め込めますが、私たちの魔力では、これが限界です」

そうリラが言うと、アーサーが「これだと、またそのうち魔力切れになるでしようね」

「そもそも魔力ってどこから来るんだっけ?」

そうエンリが問うと、アーサーは「精霊の世界から・・・だよね」

「だったら・・・」


エンリは水の魔剣を抜き、その切っ先で魔石に触れた。

そして呪句を唱えた。

「汝、水の精霊たるイデア住いし結晶の宇宙。マクロなる汝、ミクロなる我が水の剣とひとつながりの宇宙たりて、我等に連なる精霊の宇宙より尽きざる実在を受け取れ。魔素供給」


精霊の世界から魔剣を通って水の魔素が魔石に注がれ、魔石は魔力で満たされた。

そしてエンリは言った。

「これで当分は大丈夫だ。それと、あの呪術師見習いに魔力供給のやり方を教えておいた方がいいだろうね」



その頃・・・・・・。

ヤマト号は別の島に上陸していた。


ヤンとマーモが島に設置するためのアンチソルトの魔道具の制作を始め、セルナード将軍があれこれ指図する。

「ここはこうした方がいい。こうすれば魔力消費を減らせる」

そんな彼等を見ながら、マゼランは島の長老に尋ねた。

「このあたりの島って、みんなこうなんですか?」

「珊瑚の砂で出来た島ですから。土地が低くて雨雲が上を通り過ぎて雨が少ないうえに、地下水に海の水が混じるんですよ」と長老は語る。

魔道具の制作が終わり、ヤンが人々に使い方を説明する。


「助かります。何とお礼を言えば良いやら」

そう言って頭を下げる長老に、何時の間にかそこに居たメアリ王女。

「うんと感謝なさい。女神様とお呼び。ほーっほっほっほ」


そう上から目線で高笑いするメアリを島の住人たちは見て、その横で溜息をついている従軍神官に尋ねた。

「あの方は女神様なんですか?」

従軍神官は言った。

「あれは王族に生まれたってだけの、ただの残念女ですから、本気にしないで下さい。神は天に居て我々を見ておられます」


「けど、海にも大地にも神は居るのですよね?」

そう住人の一人が言うと、従軍神官は「未開の人たちは、いろんな神が居ると思っていますが、本当は、世界を創った父なる唯一神が居るだけなのです」

「では、神ごとに違う儀式や呪文は?」

そう別の住人が言うと、神官は「必要ありません」と、きっぱり。



そんな問答を聞いて、あれこれ言うフェリペの仲間たち。

チャンダが「いいのかな? あれ」

「父上は唯一神なんて他の民族の宗教と同じただの空想で、どれが本当かなんて無いんだって言ってたよ」とフェリペ。


そんなフェリペたちの会話を他所に、マゼランは長老に尋ねた。

「普通に水の得られる島は無いのですか?」

長老は言った。

「火山のある島なら山に雨が降って川が流れています。そういう島に、いざという時は我々は助けを求める。我々の保護者となる島です」

「その島はどこにありますか?」とマゼランは長老に尋ねる。



マゼランはフェリペに報告する。

「皇子、どうやら水があって長期滞在の出来る島があるようです」

「そこに居ればメアリ姉様を守る事が出来るんだね?」と、喜ぶフェリペ皇子。

そんなフェリペを見て、あれこれ言う島の人たち。

「あのお子様、あの人達の中で一番偉そうに見えるんだが・・・」


島の住民はチャンダにフェリペについて尋ねると、彼は答えた。

「彼は我々の主ですよ。我々は彼に率いられて、ここに来たのです」

「あんな子供が・・・」と住人の一人が・・・。

「あの方のお父様って?」

と、もう一人の住人が訊ねると、チャンダは言った。

「海賊王ですよ。世界の海を統べる偉大な方です」


それを聞いて、島の人たちは呟いた。

(つまりあの子供は、我々を水不足から救うために天が遣わされた御子という訳か)

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