第288話 突入の総督府
イザベラに変装してホセ総督を騙し、リマの総督府を味方につけて守りを固めるメアリ王女。そしてフェリペ皇子と仲間たち。
エンリ王子たちはリラ人魚に引かれて海中からリマの街に潜入した。
その夜、エンリはカルロとアーサーを連れて街に出た。そして総督府の建物が見える場所へ・・・。
「あれが総督府の建物ですね」
そう言って建物を指すカルロに、エンリは「中はどうなっている?」
大工ギルドで手に入れた建設時の設計図を広げる三人。
「メアリ王女とフェリペが居るのは、どのあたりかな?」とエンリ。
カルロは「客間とかですかね?」
アーサーが看破の魔法を使って、建物の中を透視する。
「居ました。あれは上の階の奥の一画ですね」
そう言うと、自分が見たものを設計図と照らし合わせるアーサー。
そして地図上の一画を指す。
「このあたりが賓客の滞在エリアという事なんだろうな」とエンリ王子。
更にアーサーは、別の一画を指して「このあたりに兵が詰めていますね」
エンリはその地図の正面玄関を入った所を指すと「突入したら、先ずこのホールで戦闘になる・・・と、向うは考えるだろうな」
そして・・・・・・・・。
その夜、港の外で警戒している軍船が、港に向かう一隻の船を見咎めた。
接近して警告を発する。
「そこの船、現在、入港は禁止中である。今すぐ引き返せ」
すると、その船の甲板に居る男が「入港禁止はスパニアとポルタの船だけと聞いたが」
「船籍はどこだ?」
そう問う軍船側に、船の男は「イギリス船のビーグル号だ」
軍船の士官は大声で言った。
「とにかく非常事態なので、この港に関しては全ての船の入港が禁止されている」
「それは誰の命令かしら?」
そう言って現れた一人の女を見て、士官は唖然。
「あなたは・・・」
街の上空では、もっと大きな騒ぎが起きていた。
ホセ総督とフェリペたちが居る会議室に、総督の部下が飛び込んで、報告。
「大変です。上空にドラゴンが出現しました」
「城壁の外から飛来したのか?」
そう問う総督に、部下は「それが、突然現れたように見えたと・・・」
会議室の窓から望遠鏡で、上空を飛ぶドラゴンを観察するマゼラン。
「剣と楯を持って、背中に十人の人影」
フェリペが喜び勇んだ声で「父上たちだ!」
「アラストール!」
そのシャナの呼びかけで、彼女のペンダントが光を放ち、ドラゴンに変身しつつ総督府の窓の外へ。
「僕たちも行くぞ」
そう号令するフェリペに、マゼランは「殿下とメアリ王女はここに残って下さい。彼等の狙いはお二人です」
だがフェリペは「嫌だ。せっかくの冒険だぞ。それにロキ仮面の力が無いと、勝てないよね?」
「それは・・・・・」
更にフェリペは「僕は闇のヒーローだ。表のヒーローと戦ってこそのロキ仮面だぞ」
マゼランは「解りました。けど無茶だけはしないで下さいね」
イザベラ帝に変装したメアリと三人の女官は館に残り、フェリペたちは六人で館を出た。
上空では二頭のドラゴンが空中戦。
兵たちは館の正面広場に集まり、城壁や港を固めていた兵と魔導士も、そこに合流して布陣を整える。
そして、空中で戦う二頭のドラゴンを見上げ、彼等が地上に降りるのを待つ。
なかなか降りてこないドラゴンに、焦れたスパニア軍の参謀は、隣に居る隊長に献策。
「攻撃魔法で援護しますか?」
だが隊長は「下手に撃つと味方のドラゴンに当たるぞ」
ファフとアラストールは、飛行しながら互いに炎を吐く。
ファフの剣を、鱗と頑丈な爪で防ぐアラストール。
アラストールの攻撃魔法を楯で防ぐファフ。
そんな混乱の中で空を見上げるマゼランは呟いた。
「変ですね。あれだけの空中戦なのに、十人も人間を乗せたままだなんて。あれだと、何時振り落とされても、おかしくない」
「それに十人って・・・」とチャンダも・・・。
「父上の海賊団は十人だよ」
そうフェリペが言うと、チャンダは「けど、ナスカに行った時、ニケさんは居なかったですよ」
「そういえばタマさんも・・・」とマーモも・・・。
全員、首を傾げて「どうなってる?」
更に望遠鏡でドラゴンを観察したマゼランは、気付いたように叫んだ。
「あれは人形ですよ。あのドラゴンは陽動だ!」
エンリたちは四人づつ二組に分かれ、それぞれアーサーと若狭の隠身魔法で身を隠して、館に潜入した。
建物内を外の騒ぎに気を取られた総督の兵や部下が行き来する中、姿を隠して貴賓室に突入するが、誰も居ない。
「どうなってる。フェリペとメアリ王女はどこだ?」
そうエンリが言うと、アーサーが「いや、こんな騒ぎの中で自室でまったりは、さすがに無いですよ」
「そりゃそーか」
残念な空気が漂う。
「アーサー、今彼女がどこに居るか、解るか?」とエンリ王子。
アーサーは看破の魔法で建物内を探る。
「会議室ですね。総督や将軍や幹部たちと一緒です」
「よし、乗り込むぞ」とエンリは号令。
再び隠身魔法で身を隠しつつ、会議室前へ。
隠身を解いて姿を現わすと同時に、会議室のドアを蹴破って室内に突入。
そして、総督たちに主人顔で指図している、イザベラに変装した女性に向けて「メアリ王女、お前の・・・」
そう彼が言おうとしたが、メアリは一瞬早く「エンリ王子、あなたの悪事もそこまでです」
エンリ、困り顔で「いやそれ、俺の台詞なんだが」
そんなエンリの台詞を無視して、メアリは彼を指して「彼がスパニア王権簒奪の黒幕です。捕えなさい」
エンリは頭痛顔でホセ総督に言った。
「そいつは偽物で、正体はイギリスから脱走したメアリ王女だ。スパニア宮殿が乗っ盗られたなんてのはデマだ。イザベラは今も宮殿に居るぞ」
だがホセは「それは作り話だと、話は聞いています」
エンリは溜息をつくと「聞く耳持たんと言うなら仕方ない。タルタ、ジロキチ、やってしまえ」
部屋に居る多くの兵、そして廊下から駆け込む兵たちとの、壮絶な斬り合いが始まる。
束になってかかってくる兵たちを、四本の刀で圧倒するジロキチ。
瞬足で兵たちの間を駆け回って、二本のナイフで切り付けるカルロ。
部分鉄化で敵の剣を防いで片っ端から殴り倒すタルタに、妖刀を振るう若狭。
エンリは風の魔剣と一体化した素早さで、群がる兵を切り伏せつつ、メアリを追い詰める。
その時、ファフの陽動に気付いたフェリペたちが会議室に駆け付けた。
「父上、僕たちが相手です」
そう叫ぶフェリペに、メアリは「来てくれたのですね、我が子よ」
「フェリペ・・・」
剣を抜いて自分と向き合う我が子を見て、エンリはそう辛そうに呟く。
だが、もっと辛そうな声を上げたのは、状況を把握出来なくなっていたホセ総督だった。
彼はエンリを指してフェリペに「皇子、彼はスパニアを乗っ取った敵なのですよね?」
「そ、そうなんだ。僕の母上は・・・」
そのフェリペの言葉を遮るように、エンリは厳しい父親の眼差しで、彼の息子に言った。
「フェリペ、俺の目を見ろ」
「父上・・・」
そう辛そうに呟くフェリペに、エンリは「嘘をついてはいけないと、教えたよね?」
「それは・・・」
そう辛そうに呟くフェリペに、エンリは「ちゃんと俺の目を見ろ。あれは本当にお前の母親か?」
「・・・」
俯くフェリペに、エンリは「正直に言いなさい。嘘は泥棒の始まりだぞ」
そんな父親に、フェリペは言った。
「けど、父上はブエノス子爵の館で、彼の勘違いに便乗して、嘘をつきましたよね?」
「それは・・・」
そう辛そうに呟くエンリに、フェリペは「嘘は泥棒の始まりなんですよね?」
「それは・・・」
そう辛そうに呟くエンリに、フェリペは「僕の目を見て答えて下さい」
とんでもなく残念な空気の中、アーサーは、五歳の息子にやり込められてタジタジ顔のエンリに、残念そうな声で言った。
「あの、エンリ王子、俺たち何やってるんでしたっけ?」
その時、総督の部下が会議室に報告に来た。
「ホセ総督、港外に視察に出ていたイザベラ女帝が戻られました」
「はぁ?」
メアリ唖然、エンリ唖然。
そしてホセ総督を始めとする、その場に居る全員が唖然。




