第287話 総督の街
メアリ王女を救出して逃走したフェリペ皇子と、彼を追うエンリ王子。
西方大陸で出会ったハチドリ魔獣のフィーロを母親と再会させるため、二人は休戦し、協力して、封印されていた彼女の母の巨大神獣ナスカを解放する。
だがその直後、イザベラ女帝に変装していたメアリ王女は、リマのスパニア総督を騙してその軍を引き込み、再びフェリペは部下たちと共に、エンリの元を去った。
リマの総督府で、ホセ総督がイザベラ女帝に成り済ましたメアリ王女に現状を説明。
「エンリ王子に与する反徒たちに占領された本国からの通信は全て遮断し、スパニアとポルタの船を入港禁止との命令を出しました」
「港はポルタの植民市ですが?」
そうメアリが質すと、ホセは「この大陸はスパニア領で、彼等は土地を借りている立場です」
「エンリ王子たちの消息は?」とメアリは質す。
ホセは「懸命に捜索しています」
「父上はどんな手で来るかなぁ。きっと総督軍なんて思いもかけない奇想天外な手を使うんだろうなぁ」
そんな事を言う、わくわく顔のフェリペに、マゼランは困り顔で「遊びじゃないんですから」
するとフェリペは「父上は言ってたよ。"人間の本質は遊び"だって」
その頃、エンリ王子たちは現地人の家に潜伏していた。
出された食事を食べながら、タルタは能天気な声で「このタコスって、なかなかいけるね」
「この、具を包んでるパンみたいなのって?」
そう料理について若狭に訊ねられた、その家の人は「トウモロコシの粉を焼いたものです」
エンリはあきれ顔で「居候なんだから少しは遠慮しろよ」
「遠慮してるぞ。だから三杯目はそっと出す」
そう、相変わらずの調子で言うタルタに、エンリは「そういうのを遠慮とは言わないんだが」
その時、玄関からリラが大きな籠を持って入って来た。
「お魚、とって来ました」
「いつも済まないねぇ」
そう能天気に言う、その家のおかみさんに、リラは「いえ、食べた分は働かないと」
「ファフならもっとたくさん獲って来れるけど」
ファフがそう言うと、エンリは困り顔で「ドラゴンが出歩くのは目立つから止めて」
「済みません、大勢で居座っちゃって」
そう、アーサーがその家の人に済まなそうに言うと、家の人は「ナスカの人たちとは付き合いが長いですから」
そして間もなく、カルロが玄関から入って来た。
「周囲の様子を見て来ましたが、かなり警戒が厳しくて。軍も動員してあちこちに検問があって、現地人も身動きとれないようですね」
「リマには入れそうか?」とエンリ王子。
カルロは「完全に出入りは停止しています。普通に外部から入るのは無理ですね」
ムラマサが「切りまくって強行突破するでござるか?」
「そんな乱暴な」とエンリ。
ジロキチが「適当な軍営を襲撃して馬を奪って強行突破」
「連絡されるぞ。突破できたとしても、フェリペ達に逃げられては元も子もない」とエンリ。
アーサーが「闇に紛れて潜入しますか? 隠身の魔法を使って」
「向うにも魔法を使う奴らは居るんだ。訓練した魔導兵に見破られると思うぞ」とエンリ。
ファフが「ファフのドラゴンで一っ飛びはどうかな?」
「向うにもドラゴンは居るからなぁ」とエンリ。
タルタが「俺たちは海賊だ。ニケさんに連絡して迎えに来て貰って、港から入るってのはどうよ」
「いや、海上に軍艦が数隻居る。入港は無理だろうな」とエンリ。
リラが「私がみんなを連れて海中から行くというのは?・・・」
真夜中、ニケが数人の水夫を指揮するタルタ号が、連絡を受けて沖合で待機。
闇に紛れてその家を出て海岸へ。
全員がリラの引くロープに掴って海中を進んでタルタ号へ。
「お疲れさん。陸地ではどうだった?」
そうニケが仲間たちに言うと、ファフが「面白かったよ。ハチドリのお友達が出来たの」
そしてタルタが「でもって、フェリペたちはリマへ行ったよ」
ニケは「スパニアに引き渡したのね。任務完了ね。報酬はいくら貰えるのかしら」と、目に$マークを浮かべて言う。
「いや、メアリ王女がイザベラに化けて、ここの総督府を配下に」とエンリ王子。
「な・・・」
「俺たちはスパニアを乗っ取ろうとしてる悪者って筋書きで、ここの軍から追われる身だ」
そう説明するエンリに、ニケはあきれ顔で「何やってるのよ」
するとファフが「けど、ハチドリのお友達、いい子なんだよ。足が金なの」
「凄いじゃないの」
そう言って盛り上がるニケを見て、アーサーは「やっぱり喰いつくよね」
ニケは「片足くらい貰わなかったの?」
全員溜息をついて「この女は・・・」と呟く。
そしてファフは言った。
「それ、悪い王様がやる事だよ。それでね、その子のお母さんに合わせてあげたの。お母さん、大きな金のハチドリなの」
ニケはいきなり真顔になって「エンリ王子」
「何だよ」
「その魔獣と仲間になったのよね? 紹介してよ。今会わせて。すぐ会わせて」
テンションMAXでそう言ってドアップで迫るニケ。
エンリは「却下だ。タルタの時みたいに、削り取って売る気だろ」
ニケは「いいじゃない。減るもんじゃなし」
「いや、減るから」
エンリ王子はニケに詳しい状況を説明し、今後の方針を決めた。
船は北上してリマの港へ接近した。
「これ以上近づくと見つかるわよ」
緊張した声でそう言うニケに、リラは「ここからは私が皆さんを運びます」
「ファフが潜った方が早いと思うの」
そうファフが言うと、エンリは「ドラゴンは目立つから止めて」
真夜中、リラが引くロープに全員掴まって海中を進み、港の出口を封鎖する鉄鎖の下を潜って港内へ。
そして兵が警戒する中、四人一組で隠身の魔法で身を隠し、岸壁から陸に上がった。
その頃、総督府では・・・。
ホセ総督がイザベラ女帝に化けたメアリ王女に状況を説明していた。
「警備はどうなっているかしら?」
そう問うメアリに、ホセは「城門は閉鎖して、一般人を含めて当面は出入り禁止となっております。城壁には魔導士を配置して、隠身で入ろうとする者を見張らせており、蟻の這入る隙もありません」
「港は?」
「入口に鉄鎖を張って入港禁止です」とホセは答える。
メアリは「御苦労。これからもお願いしますね」
そんなメアリにホセは言った。
「ですが、これを何時まで続けるのでしょうか。これでは食料を運び込む事も出来ず、市内の蓄えにも限度があります」
メアリは「本国では、私に忠誠を誓った者が首都を奪還する手筈を整えています。もう少しの辛抱ですよ」
説明を終え、宛がわれた貴賓室へ引き上げるメアリに、マゼランは言った。
「あの、メアリ王女。その手筈って・・・」
メアリは「そう言っておけば、ここは当分安全よ」
「それで、この後、どこに?・・・」
そうマゼランが言いかけると、メアリは「当分滞在するわよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「だって五年ぶりの王女らしい生活よ。召使に囲まれて豪華な晩餐に化粧にドレスに楽士。家来たちに囲まれて酒池肉林。これが本当のわ・た・し」そうドヤ顔で言うメアリに、全員あきれ顔で「駄目だこりゃ」と呟く。
するとフェリペが言った。
「大丈夫だよ。あの父上がこれくらいで諦めるもんか。どんな手で来るかなぁ。楽しみだなぁ」
マゼランは困り顔で「そういうゲーム感覚も要らないんだけどなぁ」
そして、エンリ王子たちも、リマの街で宿屋にありついていた。
「災難でしたねぇ」
食事の用意をしながら、そう言う宿屋の主人に、商人の風を装うエンリは言った。
「まいりましたよ。商品を売り終えて街を出ようとしたら城門閉鎖だもんなぁ」
「騒ぎが収まるまではうちでのんびりして行って下さい。宿代さえ払って貰えれば、いつまでだって・・・」と、揉み手状態の主人。
「外から人が入らないんじゃ、宿屋も大変でしょう」
そう若狭が言うと、宿屋の主人はホクホク顔で言った。
「それはもう。けど、うちには八人も来て頂いて、実に有難い。他の宿屋はどこも死活問題ですからね。これであいつ等が大損して店を畳んでくれたら、うちはお客さんを独占できてお金ガッポガッポ」
その場の全員あきれ顔で「ニケさんみたいな人だな」と呟く。
その時、偵察に出ていたカルロが戻って来た。
「どうだった?」
そうエンリが訊ねると、カルロは「街には兵士がうろうろしていて、集団で動くのは危険ですね」
エンリは「街中の検問の位置は?」
「こんなふうに」
そう言って、メモ書きされた地図を広げるカルロ。
「何故か、魔導士の姿は見当たりませんでしたね」とカルロ。
アーサーが「城壁で俺たちが入るのを見張っているんでしょうね」
「だったら隠身で総督所に近付く事は可能じゃないのか?」とジロキチ。
カルロは「兵の数がハンパじゃないです。それに、そすがにそっちには魔導士も居るでしょうね」
「いっそファフで急襲するのは?」
そうタルタが言うと、アーサーは「向うにもドラゴンが居るぞ」
「駄目かなぁ」
そうファフが残念そうに言うと、エンリは意味ありげな表情で「いや、駄目でもないと思うぞ」




