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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第286話 ナスカの平穏

ナスカはその部族にとっての神の使いとされた、巨大なハチドリの姿の精霊だった。

彼女は人々と、自然災害から彼等を守る守護者の契約を結んでいた。

だが、その契約では、人どうしの争いに対して中立を守る事が定められていた。

やがてアンデスを降りて敵の部族が攻めてきた時、侵略者の部族は、精霊の助力を得て魔獣を駆使した。

しかし、ナスカは契約に縛られ、自らの部族のため戦う事が出来なかった。

多くの民が殺され、部族は征服され、他の神を祀る征服者によってナスカは封印された。

彼女は自らが産んだ卵を一人の神官に託し、彼は山脈を越えた東へと逃れた。



「それが私?」

ハチドリ魔獣のフィーロは、エンリ王子たちによって封印を解かれた母親、巨大ハチドリ神獣ナスカと対面し、母親の語る自分の出生を知った。

「大きくなりましたね」

そう愛しそうに言うナスカに、フィーロは「母さん、会いたかった」


母子の対面を見届けたエンリは、地上に降り立った黄金色に輝く巨大なナスカに言った。

「これからどうしますか? またここの守護神に?」

ナスカは「そんなものになろうとは思いません。出来れば、人とともに平和に暮らしたい」

「けど、その姿だと・・・」

そう言って心配顔をするエンリを見て、ナスカは・・・。

「大丈夫です。フィーロ、手を出して」


ナスカとフィーロは互いの翼を交差する。

二羽のハチドリの姿は光に包まれ、その光はみるみる小さくなった。

そしてそこには、背に翼の生えた母と七歳ほどの娘の姿があった。



エンリたちは、二人を連れて村の長老の元に向かった。

歩きながら母親に甘える、幼女姿のフィーロ。

「良かったね、フィーロちゃん」

「ありがとう。フェリペ君」

フェリペたちと出会ってからの事を、母親にあれこれ話すフィーロ。

三人を囲んで盛り上がるフェリペ皇子の部下たち。


そんな母子の様子を見ながら、エンリはアーサーに「この二人、どう説明する?」

「封印を解いた神獣だって言っても信じないよね?」とアーサー。

タルタはお気楽な口調で「まあ、なるようになるさ」


だが・・・。



長老はナスカとフィーロを見て「この方がかつての我等の守り神様なのですね?」

「信じるんですか?」とエンリたち唖然。

長老は「だって天使様ですよね?」

タルタが「まあ、翼はあるけど」

「つまり、頭上の輪が壊れてしまって天界に戻れなくなって、回復するまでここに居て頂けるのですよね?」と一人で納得する長老。


「それって・・・」

長老の斜め上な誤解に困惑するフェリペたち。

だがエンリは「まあ、復活したハチドリ神獣だとか言うよりは信じて貰えそうだ」

アーサーは「よく聞く設定だし」


そんな長老にナスカは、「ここはあの後、どうなったのですか?」と、自分が封印された後の事について尋ねた。

長老は答えて言った。

「あの征服部族は他の部族との抗争で滅びました。その後、キンカ帝国という国の支配を受けたのですが、その国も海外から攻め込んだ人達に滅ぼされまして」

「結局、キンカ帝国、滅んじゃったんだね」

そうリラが言うと、長老は「今、海外からの征服者の拠点が北にあります」

「リマの総督府だね」とアーサー。

「彼等はここには攻めて来ないのかな?」

そうタルタが心配そうに言うと、長老は「キンカの残党が抵抗していますので」

「そんな事になってたのか」と遠くを見る目で呟くエンリ。



フェリペはフィーロを見る。そして呟いた。

「可愛い子だな。今まで周りに居た子とは違う。エリザベス姉様も綺麗だけど、同年代の子もいいな」

そして彼は彼女に言う。

「ねぇ、フィーロちゃん、僕のお嫁さんにならない?」


「おい、フェリペ、お前・・・」

そうエンリがあきれ顔で言うと、フェリペは「父上だって母上とリラさんが居ますよね?」

ライナがわざとらしい声で「エンリ様って二股かけてたんですか?」

リンナも「エンリ様、最低」

エンリは困り顔で女の子たちに「お前等、リラの事知ってたよね?」

リラは「私は王子様を独占したいとは思いません」


「けど誠意ってもんがあるだろ」

そう突っ込むタルタに、エンリは「お前だってレジーナさんとタマが居るだろーが」

ファフが楽しそうに「ねえねえ、こういうのって修羅場って言うんだよね?」

ヤンが「単にいじられてるだけに見えるけど」


「ってか本人の気持ちはどうなんだよ」

そうエンリが言うと、フィーロは「私、恋ってよく解らないけど、フェリペ君の事は好きだよ。フェリペ君はここに残ってくれるの?」

「僕はこれから世界を股にかけた冒険を続けるんだ。父上みたいにね」とフェリペ。

「フィーロはもうしばらく母さんに甘えていたいかな」とフィーロ。

「そうか。僕にも、守りたい人が居るから」

そうフェリペが言うと、マゼランが「そういえばメアリ王女は何処に行った?」

何時の間にかメアリの姿が消えている。



その時、一人の村人が慌て顔で駆け込んだ。

「長老、大変です。リマの奴らが・・・」

村の周囲には、村を取り囲むスパニア軍の一団が布陣していた。

そして村の入口に、兵や指揮官とともに、イザベラ女帝に変装したメアリ王女が姿を現わした。

「私を裏切り、スパニアを奪ったポルタ王子エンリ、おとなしく我が子フェリペを引き渡して投降なさい」


「またその作り話かよ」

そう言ってエンリは溜息をつくと、メアリの隣に居るスパニア軍の指揮官に言った。

「そいつはイギリスの流刑地から逃亡したメアリ王女の変装だ。俺はイザベラの依頼で、そいつと一緒に家出したフェリペと、イギリスの逃亡政治犯を連れ戻すために来ている」

すると司令官は「そのような嘘を広めて我々を騙すであろう事は既に聞いています」


「聞く耳持たないって訳かよ。仕方ない。蹴散らすぞ」と、エンリは号令を下す。

「ですが、このまま戦えば、この村を巻き込みます」とアーサー。

「私が彼等を退治しましょう」

そう申し出るナスカにエンリは言った。

「いや、あなたはあの姿を見せない方がいい。静かに暮らせなくなります」



エンリはスパニア軍に司令官に言った。

「投降しよう。だが、ここでは村に迷惑がかかる。村の入口の向うの草原まで引け」

「解った」


村の北の草原に布陣したスパニア軍。

エンリとフェリペ、そしてその仲間の約二十人が、彼等と向き合う。

「では先ず、武器を渡して貰いましょう」と司令官。

エンリは「確認するが、これであの村は無関係だ。彼等に絶対手出ししないと約束するか?」

「約束しましょう」



スパニア軍の陣から、兵が荷車を引いて来る。

その荷車にみんなの武器を乗せてスパニア軍の元へ。

そして司令官が「では次に、フェリペ様とその部下の方々をこちらへ」


「お前、俺がこのまま奴らに降参するとか思ってる?」

そう小声で言うエンリに、フェリペは「切り抜けますよね? けど、僕はメアリと一緒に行きます。このまま父上について行ったら、宮殿に戻る事になるんですよね? けど僕はもっと冒険を続けたい。父上、僕をつかまえられるか勝負しましょう」

「解ったよ」



フェリペとその仲間はスパニアの陣へ。

そして、エンリ達を多数のスパニア兵が取り囲む。

「もういいだろ。ファフ、ムラマサ」

そうエンリが号令すると、二人は「了解です」


ファフがドラゴンの姿になって周囲のスパニア兵を蹴散らし、みんなを乗せて翼を広げて飛び立つ。

荷車の上でみんなの武器と一緒に積んであったムラマサの妖刀が、人の姿に戻り、そしてみんなの武器を抱えた。

ファフはそのムラマサを掴んで空へ。



そしてエンリはスパニア軍に向けて叫んだ。

「俺たちを捕まえたくば、ついて来い」

フェリペは「負けませんよ、父上。アラストール、出番だ」


シャナのペンダントが龍の姿に。

アラストールのドラゴンを見て、エンリは部下たちに号令。

「あいつは魔法を使うぞ。ドラゴンの剣と楯を召喚。俺たちは地上に降りて、奴らを蹴散らすぞ」

だが、アーサーが「王子、奴らの大砲が」



スパニア軍の大砲が村に砲口を向けて、砲撃の体制へ。

「こうなったらあの村ごと滅ぼしてやる」とスパニア軍司令官。

「約束が違うぞ。村には手を出さない筈だ」

そう叫ぶエンリに、司令官は「そんな約束は無効だ」


アーサーは大砲に向けてファイヤーボールを放つが、スパニア軍の魔導士が防御魔法でこれを防いだ。

そして、大砲が村に向けて火を噴こうとした時、ナスカ村の上空に巨大な黄金のハチドリが出現した。

「彼等は私たちの恩人です。村を巻き込まないために自ら村を出ました。それでも私たちの村を襲うというなら、私があなた達を滅ぼします」

そう言うと、黄金のハチドリは高圧の水を吐いてスパニア軍を押し流した。

タルタが「あれが山火事を消したっていうハチドリの・・・」

エンリは「いや、山火事ってのはただの伝説だけどね」



スパニア軍は大きな被害を受けて、リマへ撤退した。

そして黄金のハチドリのナスカは人間の女性の姿に戻った。

「ナスカさんたち、平穏に暮らせなくなるんじゃないの?」

エンリが心配そうに、そう言うと、女性の姿のナスカは言った。

「いえ、この村も、いつかコンキスタドールに襲われるでしょう。戦う必用は必ず出て来ます」

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