第285話 復活の母鳥
マゼラン海賊団を率いるフェリペ皇子は、仲間たちとともに救出したメアリ王女を連れ、エンリ王子の追跡の逃れて西方大陸を行く中で、ハチドリ魔獣のフィーロと出会う。
その封印された母親、神獣ナスカと引き合わせるべく、エンリはフェリペたちと休戦し、一緒にフィーロの母親が封印されたナスカ村へ。
村の背後の高台の平原で発見された巨大な地上絵こそ、神獣ナスカの封印であった事を知る。
長老の家で発見された魔導書の、解読された部分を手掛かりに、アーサーは封印の魔素を読み、開封の術式を組む。
そして・・・。
「とりあえず術式の試作が出来ました」
そうアーサーが報告し、喜ぶフェリペとその部下たち。
ハチドリのフィーロが「これで母さんに会えるの?」
「良かったね、フィーロ」とフェリペがフィーロの翼を握る。
そしてマゼランが「とにかく試してみようよ。不完全な部分があったら、反応を見て補えばいい」
「暴走とかしないよね?」
そうエンリが言うと、ジロキチが「ジパングには、こんな諺があるんだ」
「どんな?」
「後は野となれ山となれ」
そのジロキチの言葉に、エンリは困り顔で「それ、メチャクチャヤバい意味だと思うんだが・・・」
台地の草原の地上絵の所へ行き、地上絵がはっきり見えるように、その周囲の草を刈る。
そして開封の儀式開始。
地上絵に向き合う形で鳥の黄金像を置き、地下室から出てきた杖で、地上絵の上に光跡で大きな魔法陣を描く。
そして現地の古代文字が示した呪句を詠唱。
しばらく儀式を続けると、アーサーは言った。
「弱いけど、明確な魔力の鼓動を感じます。けど、パワーが足りないですね」
リラが目を閉じ、その場に充満する魔素を感じようと試みる。
そして彼女は「これ、何かの触媒が必要なのでは?・・・」
「触媒ですか?・・・・・」
そう言って考え込むアーサーを前に、リラは再び目を閉じた。
そして「たくさんの何かと極少ない何か・・・」
後ろで見ていた三人の女官が額を寄せ合う。
ライナが「少ないけど大事なものって?・・・」
リンナが「ハチドリなら花の蜜?」
ルナが「だったらお砂糖だよ」
三人は、ハチドリの地上絵の嘴の先端に砂糖を撒く。
そしてアーサー、儀式を再開。
「どうかな?」
そう確認するエンリに、アーサーは言った。
「当たりですね。魔力の鼓動が強まっています。あとは・・・」
「たくさんの何かって奴だよね? 何だろう」
そうエンリが言って考え込む。
そるとリラが「伝説では、水を吐いて火事から森を守ったんですよね?」
リラは水魔法で雨を降らせる。
すると・・・。
まもなくアーサーは魔力の流れの変化を感じた。
「どうやら当たりのようです。魔力の鼓動が強まって・・・封印構造の変化が始ります」
「母さん、出て来るんだね?」と、嬉しそうなフィーロ。
場が水の気に満たされ、それが幾何学的な流れを描く。
水の気が生命力に変換され、地上絵の周囲に一斉に草が伸びる。
「せっかく草刈りしたのに」
そうファフが残念そうに言うと、アーサーは「これは水気から木気が生じているんです。五行相生といって、五種類の気は互いに産み合う」
「とすると、次は炎か?」とエンリ。
「炎はエネルギーです」とアーサー。
生え揃った叢の上に、炎のような赤い光がゆらめく。光は熱を帯び、幾何学的な流れを描く。
その熱により、生えた草は燃え上がり、その炎が一筋の流れとなって、地上絵の上の魔法陣に吸い込まれた。
「次は何だ?」
そう問うエンリに、アーサーは「土です」
地面に細かいひび割れが起こり、ある所は沈み、ある所は浮き上がって、無数の小さな塔のように盛り上がる。
「何か出て来るぞ」とマゼランが叫び、全員、身構える。
アーサーは「次は金です」
黄金に輝く巨大な何かが、ひび割れた地面の下から浮上した。
それは黄金に輝く、羽を広げた嘴の長い巨大な鳥。
その壮大な光景に、その場に居る全員は息を呑み、そして呟いた。
「これがハチドリの神鳥ナスカ」
フィーロは全力で、それに呼び掛けた。
「母さん!」
だが、浮上した巨大黄金ハチドリに、その声は届かない。
そしてそれは苦しそうな声を上げた。
「ここは誰? 私は何時? 今はどこ?」
アーサーは、出現したナスカを見て「かなり混乱してるみたいですね」
そしてナスカは唸るように言った。
「私が守るべき人々は? 森の動物たちは? みんな殺された。彼等に・・・・」
黄金の巨大ハチドリは咆哮し、それは狂気を帯びてゆく。
怒りのオーラが膨らみ、それは長大な嘴を開く。
「やめて、母さん」と叫ぶフィーロ。
エンリは焦りの声で「いかん、アーサー、防護障壁だ」
ハチドリは炎を吐き、アーサーは防護障壁を展開して、必死にこれを防ぐ。
「防魔の短剣があるだろ」
そうタルタが言うと、エンリは「あれはアーサー本人に対する攻撃を消すんだ。彼を認識しない魔法には効果は無いぞ」
エンリはファフに「あいつを止めろ」
号令を受けてドラゴンに変身するファフ。
シャナは胸のペンダントに「アラストール、頼むぞ」
ペンダントがドラゴンに変身する。
巨大ハチドリに向き合う二頭のドラゴンを見て、フィーロは叫んだ。
「お願い。母さんを傷つけないで」
「けど・・・」
そう困惑顔を見せるエンリたちに、フィーロは決意の声を上げた。
「母さんは私が止めるから」
そんなフィーロにフェリペは「だったら僕を乗せて飛んで」
仮面をかぶったフェリペはフィーロの背に乗り、一人と一匹は巨大黄金ハチドリの目の前へ・・・。
「仮面防壁」
ロキ仮面のフェリペの掛け声とともに出現した無数の鉄の仮面が、密集して縦横に並んで防壁となって炎を防ぐ。
巨大ハチドリのナスカは水を吐いた。
仮面の防壁は水圧でじりじりと押される。
「あれはもたないぞ」とエンリは焦りの表情で呟く。
ナスカは闇を吐く。
闇は仮面の隙間から洩れ、フィーロは口を開けてその闇を吸い込んだ。
「止めろ。あんなの吸い込んだら命を削られるよ」
そう叫ぶフェリペに、フィーロは「いいの。これは母さんの痛みだもの。私が受け止めなきゃ」
エンリは空に居るドラゴンに向けて叫んだ。
「ファフ、あいつの近くに俺を乗せて飛べ。俺に考えがある」
「どうするんですか?」
そうアーサーが問うと、エンリは「ベルベドが言ったんだ。闇には闇の理があるって」
エンリはファフのドラゴンの背に乗り、ナスカとフィーロが向き合う脇へ。
そしてエンリは闇の巨人剣を抜き、ナスカが吐く闇に突き立てて、闇と剣との一体化の呪句を唱えた。
「汝闇の精霊。光とのつがいたる慈悲の女神。汝の名は太陰。天と向き合い万物を産みて育てる宇宙の対極。我が闇の剣とひとつながりの宇宙となりて、汝の愛する幼な児を見つけよ。母性あれ!」
ナスカを覆った怒りのオーラは消え、その目の赤い光はおさまる。
そしてナスカは、目の前を飛ぶハチドリ魔獣に気付いた。
「あなたは・・・フィーロなのね?」
「母さん・・・・・・・」
宙を飛びながら向き合う、ハチドリ魔獣の母と子。そして場は再び平穏を取り戻した。




