表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
285/562

第285話 復活の母鳥

マゼラン海賊団を率いるフェリペ皇子は、仲間たちとともに救出したメアリ王女を連れ、エンリ王子の追跡の逃れて西方大陸を行く中で、ハチドリ魔獣のフィーロと出会う。

その封印された母親、神獣ナスカと引き合わせるべく、エンリはフェリペたちと休戦し、一緒にフィーロの母親が封印されたナスカ村へ。

村の背後の高台の平原で発見された巨大な地上絵こそ、神獣ナスカの封印であった事を知る。


長老の家で発見された魔導書の、解読された部分を手掛かりに、アーサーは封印の魔素を読み、開封の術式を組む。

そして・・・。



「とりあえず術式の試作が出来ました」

そうアーサーが報告し、喜ぶフェリペとその部下たち。

ハチドリのフィーロが「これで母さんに会えるの?」

「良かったね、フィーロ」とフェリペがフィーロの翼を握る。


そしてマゼランが「とにかく試してみようよ。不完全な部分があったら、反応を見て補えばいい」

「暴走とかしないよね?」

そうエンリが言うと、ジロキチが「ジパングには、こんな諺があるんだ」

「どんな?」

「後は野となれ山となれ」

そのジロキチの言葉に、エンリは困り顔で「それ、メチャクチャヤバい意味だと思うんだが・・・」



台地の草原の地上絵の所へ行き、地上絵がはっきり見えるように、その周囲の草を刈る。

そして開封の儀式開始。

地上絵に向き合う形で鳥の黄金像を置き、地下室から出てきた杖で、地上絵の上に光跡で大きな魔法陣を描く。

そして現地の古代文字が示した呪句を詠唱。


しばらく儀式を続けると、アーサーは言った。

「弱いけど、明確な魔力の鼓動を感じます。けど、パワーが足りないですね」


リラが目を閉じ、その場に充満する魔素を感じようと試みる。

そして彼女は「これ、何かの触媒が必要なのでは?・・・」

「触媒ですか?・・・・・」

そう言って考え込むアーサーを前に、リラは再び目を閉じた。

そして「たくさんの何かと極少ない何か・・・」


後ろで見ていた三人の女官が額を寄せ合う。

ライナが「少ないけど大事なものって?・・・」

リンナが「ハチドリなら花の蜜?」

ルナが「だったらお砂糖だよ」



三人は、ハチドリの地上絵の嘴の先端に砂糖を撒く。

そしてアーサー、儀式を再開。


「どうかな?」

そう確認するエンリに、アーサーは言った。

「当たりですね。魔力の鼓動が強まっています。あとは・・・」

「たくさんの何かって奴だよね? 何だろう」

そうエンリが言って考え込む。

そるとリラが「伝説では、水を吐いて火事から森を守ったんですよね?」


リラは水魔法で雨を降らせる。

すると・・・。



まもなくアーサーは魔力の流れの変化を感じた。

「どうやら当たりのようです。魔力の鼓動が強まって・・・封印構造の変化が始ります」

「母さん、出て来るんだね?」と、嬉しそうなフィーロ。


場が水の気に満たされ、それが幾何学的な流れを描く。

水の気が生命力に変換され、地上絵の周囲に一斉に草が伸びる。

「せっかく草刈りしたのに」

そうファフが残念そうに言うと、アーサーは「これは水気から木気が生じているんです。五行相生といって、五種類の気は互いに産み合う」

「とすると、次は炎か?」とエンリ。

「炎はエネルギーです」とアーサー。


生え揃った叢の上に、炎のような赤い光がゆらめく。光は熱を帯び、幾何学的な流れを描く。

その熱により、生えた草は燃え上がり、その炎が一筋の流れとなって、地上絵の上の魔法陣に吸い込まれた。

「次は何だ?」

そう問うエンリに、アーサーは「土です」


地面に細かいひび割れが起こり、ある所は沈み、ある所は浮き上がって、無数の小さな塔のように盛り上がる。

「何か出て来るぞ」とマゼランが叫び、全員、身構える。

アーサーは「次は金です」



黄金に輝く巨大な何かが、ひび割れた地面の下から浮上した。

それは黄金に輝く、羽を広げた嘴の長い巨大な鳥。

その壮大な光景に、その場に居る全員は息を呑み、そして呟いた。

「これがハチドリの神鳥ナスカ」


フィーロは全力で、それに呼び掛けた。

「母さん!」


だが、浮上した巨大黄金ハチドリに、その声は届かない。

そしてそれは苦しそうな声を上げた。

「ここは誰? 私は何時? 今はどこ?」


アーサーは、出現したナスカを見て「かなり混乱してるみたいですね」

そしてナスカは唸るように言った。

「私が守るべき人々は? 森の動物たちは? みんな殺された。彼等に・・・・」



黄金の巨大ハチドリは咆哮し、それは狂気を帯びてゆく。

怒りのオーラが膨らみ、それは長大な嘴を開く。

「やめて、母さん」と叫ぶフィーロ。

エンリは焦りの声で「いかん、アーサー、防護障壁だ」


ハチドリは炎を吐き、アーサーは防護障壁を展開して、必死にこれを防ぐ。

「防魔の短剣があるだろ」

そうタルタが言うと、エンリは「あれはアーサー本人に対する攻撃を消すんだ。彼を認識しない魔法には効果は無いぞ」

エンリはファフに「あいつを止めろ」

号令を受けてドラゴンに変身するファフ。

シャナは胸のペンダントに「アラストール、頼むぞ」

ペンダントがドラゴンに変身する。


巨大ハチドリに向き合う二頭のドラゴンを見て、フィーロは叫んだ。

「お願い。母さんを傷つけないで」

「けど・・・」

そう困惑顔を見せるエンリたちに、フィーロは決意の声を上げた。

「母さんは私が止めるから」

そんなフィーロにフェリペは「だったら僕を乗せて飛んで」



仮面をかぶったフェリペはフィーロの背に乗り、一人と一匹は巨大黄金ハチドリの目の前へ・・・。

「仮面防壁」

ロキ仮面のフェリペの掛け声とともに出現した無数の鉄の仮面が、密集して縦横に並んで防壁となって炎を防ぐ。


巨大ハチドリのナスカは水を吐いた。

仮面の防壁は水圧でじりじりと押される。

「あれはもたないぞ」とエンリは焦りの表情で呟く。


ナスカは闇を吐く。

闇は仮面の隙間から洩れ、フィーロは口を開けてその闇を吸い込んだ。

「止めろ。あんなの吸い込んだら命を削られるよ」

そう叫ぶフェリペに、フィーロは「いいの。これは母さんの痛みだもの。私が受け止めなきゃ」



エンリは空に居るドラゴンに向けて叫んだ。

「ファフ、あいつの近くに俺を乗せて飛べ。俺に考えがある」

「どうするんですか?」

そうアーサーが問うと、エンリは「ベルベドが言ったんだ。闇には闇の理があるって」


エンリはファフのドラゴンの背に乗り、ナスカとフィーロが向き合う脇へ。

そしてエンリは闇の巨人剣を抜き、ナスカが吐く闇に突き立てて、闇と剣との一体化の呪句を唱えた。

「汝闇の精霊。光とのつがいたる慈悲の女神。汝の名は太陰。天と向き合い万物を産みて育てる宇宙の対極。我が闇の剣とひとつながりの宇宙となりて、汝の愛する幼な児を見つけよ。母性あれ!」


ナスカを覆った怒りのオーラは消え、その目の赤い光はおさまる。

そしてナスカは、目の前を飛ぶハチドリ魔獣に気付いた。

「あなたは・・・フィーロなのね?」

「母さん・・・・・・・」


宙を飛びながら向き合う、ハチドリ魔獣の母と子。そして場は再び平穏を取り戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ