第284話 封印の地上絵
メアリ王女を救出して家出したフェリペ皇子率いるマゼラン海賊団。
彼等が西方大陸で、エンリ王子の追跡を逃れる中で出会った、黄金の足を持つひよこのモンスター、フィーロ。
その封印された母親を解放してフィーロと再会させるべく、エンリ王子はフェリペたちと休戦し、母親モンスターが封印されたナスカ村を目指した。
「あれがナスカ村ですよ」
そう雇われ御者が指す方向に、現地人の家が立ち並び、その背後に高台。
村に着いて御者に報酬を渡す。
酒場で情報収集。
酒と軽食を注文しつつ話を聞く。
「ハチドリの魔獣について、何か聞いた事は無いか?」
そうエンリが問うと、酒場の主人は怪訝顔で、彼等の背後に居る人間大のハチドリを指して「そこに居るのがそれなんじゃ・・・」
「私の母さんなの」
そう言って涙目で迫る人間大ハチドリのフィーロに、タジタジとなる酒場の主人。
「昔、ここで魔獣が封印されたらしいんだが」
そうエンリが言うと、主人と他の客たちは、互いの顔を見合わせて「そんな話、あったっけ?」
アーサーが「大昔の聖地みたいな所って無いの?」
「それなら裏の台地の草原が、そんな場所だって聞いたが」と酒場の主人。
「そこにフィーロの母さんが・・・」とフィーロが呟く。
「ハチドリに関して何か聞いた事は無いか?」
そうエンリが問うと、一人の客が言った。
「そういえば、こんな言い伝えを聞いた事がある」
その客が語るハチドリの伝説に曰く・・・。
昔、山で大きな山火事があった。
火の勢いは強く、動物たちが先を争って逃げる中、一匹のハチドリが小さな体で火事の所に飛んできては戻る・・・を繰り返した。
よく見ると、長い嘴を閉じた中に川の水を含ませ、それを火事の炎に振りかけて消そうとしていた。
動物たちは言った。
「そんな僅かな水で、とても火は消せない。危ないから、あなたも逃げなさい」
するとハチドリは「誰も火を消さなければ、火事は広がる一方です」
「あなたのような小さくて非力な者に、何が出来るでしょうか」
そう説得する動物たちに、ハチドリは言った。
「けど、誰かが火を消すために動かなければ、火は燃え続けます。たとえ一人でも抗う者が居れば、誰も抗わないよりは、少しでも火事を遅らせる。一滴の水でもたくさん集まれば、きっと私たちの森を守れる」
動物たちはハチドリに協力して水を運び、ついに火事を消し止めた。
語り終えた伝説について、エンリとフェリペの仲間たちがあれこれ言う。
「それがフィーロの母さん?」
そうフェリペが言うと、タルタが「けど、ただのハチドリだろ?」
「伝説だからね」とエンリ王子。
酒場での食事を終えると、かつての聖地だったという場所へ。
村の背後の高台に登ると、そこには平坦な草原が広大な広がりを見せていた。
あたりを見回して、「何も無いよね」とフェリペ。
タルタが「神殿の跡とか無いのかなぁ」
ヤンが「朽ちたんじゃないかな? 木造だったとか」
「この大陸のあちこちに文明の遺跡があるけど、大抵は石造りだけどね」とアーサー。
ふとシャナが足元を見て「これ、何かな?」
地面を見ると、草原の草の根本の細長い場所に、白い土が顔を出している。
細い溝が白い土で埋められたようになっていて、それが真っ直ぐに向うまで・・・。
カルロが「道路に引く白線みたいだな」
タルタが「赤信号をみんなで渡る所?」
エンリは困り顔で「いや、違うと思う」
ライナが「けど、確かに白線だよね?」
「解った。ここはワタラーの競技場だよ」とジロキチが言い出す。
「何? それ」
そう若狭が首を傾げると、ジロキチは「白線を引いた所以外を踏まずに地面を駆ける競技だよ。毎年全国から参加者が集まって、去年の優勝者はジパングの荒川橋の下村から来た・・・」
エンリは困り顔で「そんな陸上競技は無いから」
「けどこれ、どこまで続いてるのかな?」
そうリンナが言うと、マゼランが「上空から見れば解るんじゃないかな?」
ファフがドラゴンに変身し、エンリとリラ、アーサーがその背に乗って空へ。
フェリペはハチドリのフィーロの背に乗り、一緒に空へ上がる。
草の陰から見える白い部分が何かの形となって、彼等の眼に捕えられた。
「見てよ、あれ、地上に描かれた絵だよ」
そうフェリペが言ってはしゃぐ。
「地上に白い線を引いて、とても大きな絵を描いたんだ」
そうエンリが言うと、リラが「あの石板に書かれたハチドリの絵と同じ」
「アーサー、これって・・・」
そうエンリに問われて、アーサーは言った。
「間違いありませんね。これが神鳥ナスカの封印ですよ」
「あれが母さん・・・」とハチドリのフィーロが呟く。
それと並んで飛んでいるファフが「主様、封印を解こうよ」
「けど、何故あれが封印されたか。場合によっては、暴れて禍を成す事だってあるかも知れないぞ」
そうエンリが言うと、フィーロは「母さんはそんな事はしないよ」
エンリたちは、ナスカ開封の手掛かりを求め、村の長老の家を訪れて、話を聞いた。
長老は語った。
「かつて私たちは神の使いを祀る民だったと聞きます。けれども、山から降りてきた部族に征服され、異なる神を祀る征服者は、我々の儀式を禁じたそうです」
「その征服者がナスカを封印したって訳か」とエンリは呟く。
「あなた達が祀っていた神の使いがもし復活したら、どうなるでしょうか」
そうアーサーが問うと、長老は「崇拝を禁じた征服部族の国も滅び、開封を妨げる者は居ません。復活するなら、見てみたい気もします。ですが、儀式も途絶え、祀り方を知る者も、もう居ません」
するとフィーロが「お祀りなんて要らない。母さんにはフィーロが居るもの」
エンリは決断した。
「封印を解こう。そして、どこかで親子で平和に暮らして貰うんだ」
平原に残る魔力の構造を探るアーサー。
地面に残る地上絵の白線に手を当てて、魔素を読み取る。
フィーロとフェリペ、そして三人の女官が見守る。
「アーサーさん、何か解りますか?」
そうライナが訊ねると、アーサーは言った。
「この魔素は、これを祀った人達の痕跡ですね。手掛かりがあれば開封の術式を組めるかも」
アーサーは村に戻って、長老に尋ねる。
「封印の術について、何か手掛かりになりそうなものはありませんか?」
長老は「昔の術者が使った道具なら、地下室に残っているかも知れません」
みんなで長老の家の地下室を漁ると、魔法の杖が出てきた。
それを見てアーサーは「普通に杖だよね」
「封印の手掛かりになりそう?」
そうエンリに問われてアーサーは「杖はいろんな事に使うからなぁ」
黄金の鳥の像が出てきた。
それを手に執ってアーサーは「魔素は感じるんですが・・・」
「手掛かりとしては、どうかな?」
そうエンリに問われてアーサーは「どうだろう」
古い魔導書が出てきた。みんなの期待が高まる。
「これに儀式とか書いてるよね?」
そうエンリが言うと、アーサーは「けど古代文字ですよ」
タルタが「魔導士なら読めるだろ?」
「古代文字と言っても、いろいろですよ。ここの魔導は、我々のものと系統も違いますし」とアーサー。
「長老さんは読めないの?」
そうフェリペが長老に振ると「私は呪術師ではありませんから」
「どうにか解読出来ないかなぁ」
そうエンリが呟くと、リラが「この中に神獣の名前も書いてありますよね?」
するとアーサーが、思い付いたように、言った。
「そうか。それが手掛かりになるかも知れません」
アーサーは魔導書をめくり、たくさんある古代文字を分類する。
分類した文字を紙に書き並べ、魔力を込めて言葉を詠唱した。
「汝の名はナスカ」
いくつかの古代文字が反応した。
反応した文字を書き連ねる。
「これがナスカの名前を示す文字列かぁ」
女官の女の子たちが興味深そうに、その文字列を眺めると、「他でも試してみようよ」
アーサーは別の言葉を詠唱した。
「汝の名はフィーロ」
別の古代文字が反応した。
「胃袋の中に固有結界って、空間魔法だよね?」とマゼランが言い出す。
「だったら・・・」
そうアーサーは呟くと、魔力を込めて「汝空間を統べる者」と詠唱。
また、いくつかの文字が反応した。
「足が黄金・・・って、絶対意味があるよね?」と若狭が言い出す。
「我、黄金のオーラを纏う」
そうアーサーは、魔力を込めて詠唱。
また反応する文字があった。
「四大元素って、魔術の基本だよね?」とヤンが言い出す。
アーサーは、大地・風・炎・水で試してみるが・・・・・・。
その結果を見て、アーサーは「風だけ反応しないね」と首をひねる。
ルナが「他の反応の仕方は黄金と同じなんですよね?」
「って事は、地・火・水・金・・・・・・」とリンナが呟く。
するとチャンダが「もしかして東洋の五行じゃないの?」
「もしそうなら、あと一つは木ですよ」とアーサー。
木で試すと反応する文字があった。
「この調子で、他の文字も解読出来るんじゃないかな?」
そうエンリが言うと、アーサーは「手掛かりがあれば・・・ですけどね」
エンリは暫くの間、思考を巡らす。
そして長老に「古くからの神話とか無いの?」
「それでしたら・・・」
長老が語るいくつかの神話を、アーサーが魔力を込めた呪句として詠唱する。
紙に書き並べた古代文字が次々に反応した。
神話のどの部分で、どの古代文字が反応したかを記録する。
こうして、かなりの文字の意味が判明した。
「これで、かなり解読が可能になります。足りない部分を我々の知識で補いましょう」
そうアーサーが言うと、マゼランは「けど、呪文とか魔法陣とかもあっただろうね」
「だったら・・・」
アーサーは、地下で発見された鳥の黄金像に古代文字のイメージを投射した。
黄金像の中に眠る魔素が反応し、呪文の音声イメージが浮かぶ。
地下で発見された魔法の杖に古代文字のイメージを投射。
杖に眠る魔素が魔法陣のイメージを浮かび上がらせた。




