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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第277話 皇子の船旅

アマゾナの港でエンリ王子の命を受けた植民市の警備隊の追及により、補給を受けずに出航したヤマト号。



海上を進む船の甲板から海を眺めるヤマト。背後には不安と期待の混じった表情で彼女を見る、フェリペと部下たち。

彼女の背に換装された機械背嚢から突き出た砲に、大きな銛がはめ込まれ、銛と繋がったロープが甲板に・・・。


「来ます」

そうヤマトが言った次の瞬間、海面で盛大に潮が吹き上がる。

機械背嚢の砲が火を噴き、発射された銛が水面に姿を見せた鯨に命中。

甲板の巻かれたロープがするすると海に引かれて、血を流しながら泳ぐ鯨を捉えている。

やがて力尽きた鯨が、甲板に引き上げられた



「ヤマト号鯨解体ショーへようこそ。先ず、襟首の所に大包丁を入れて、皮とその下の脂肪を剥ぎます。その下から見えてくる赤肉が美味しいんですよ」

そんなヤマトの能天気なトークに、フェリペとその部下たちが、やんやの喝采を送る中、薙刀のような大きな刃物を器用に振るって鯨を捌くヤマト。


「ヤマトさん、何でも出来るんだね」

そうリンナが感心顔で言うと、ヤマトは自慢顔で「40種の資格技能がプログラムされてますから、派遣社員として働けば時給銀貨三枚は稼ぐ事が・・・」

「それで稼いで王族生活の資金として献上して頂こうかしら」とメアリ王女が図々しい事を言う。

「残念ながらメンタルモデルとして船を離れられないので、上陸して派遣先に行くのは無理かと」

そう答えるヤマトに、メアリは忌々しげに「使えないわね」

マゼランがあきれ顔で「こういう人が王になると国民は大変だよね」


するとチャンダが「けど、いいのか? これ」

「捕鯨が残酷だとかいうのは危ないカルト教団の台詞だから」

そうマーモが言うと、チャンダは「じゃなくて、漫画やアニメならまだしも、ドラマがネタなんて誰に通じるんだよ」

マゼランは慌てて「それは言わない約束だよ」



食堂のテーブルに鯨料理が並ぶ。

大和煮に竜田揚げに脂身汁に赤身の刺身。

それを食べながら、あれこれ言う団員たち。


「アマゾナで食料を調達し損ねたからなぁ」

そうヤンが言うと、ルナが「次の港で調達すればいいんじゃ・・・」

「どの港にも手が回ってる筈だよ」とマゼランがぴしゃり。

三人の女官は膨れっ面で「上陸できないじゃん」

「当然だろ」


ルナが「ぬいぐるみは?」

リンナが「化粧品は?」

ライナが「"週間私の騎士様"最新号は?」

マーモは溜息をついて「とりあえず生き残るのが先決だろ」

「けど水と燃料は?」

そうシャナが言うと、マゼランは「川のある所に上陸して調達するさ。エンリ様が世界に乗り出した時も、そうしていたんだ」



テーブルいっぱいの鯨料理で腹を満たすと、全員で甲板に出た。

団員たちの前にフェリペと、その隣にマゼランが立つ。

そしてマゼランは団員たちに言った。

「これから行く先々で戦闘があると思う」

「剣の腕なら負けないぞ」とチャンダ。

「海賊として実戦経験がありますから」と、ヤンとマーモ。

「フレイムヘイズは無敵だぞ」とシャナが胸を張る。


マゼランは本題に入る。

「それで、魔法を使える人ってどれくらい居るのかな?」

するとメアリ王女が「私はそれなりに使えるわよ。五年間暇だったからね」

「そういう時に知識の習得をしておくものだよね」と、ヤンとマーモが感心顔で言うが・・・。


「じゃなくて、私をあんな所に送ったあの女に、仕返しするためよ」

そのメアリの台詞に、フェリペは不思議そうな顔で「あの女って誰?」

「もちろんあの憎いエリ・・・」

そう言いかけたメアリ王女の口を慌てて塞ぐ、三人の女官。

そしてライナが「皇子様は気にしなくていいんですよ」



「それで、得意な魔法は?」

そうマゼランが問うと、メアリはドヤ顔で「呪いよ」

「うわぁ」と全員ドン引き声。


メアリは呪いの儀式の実演を始め、藁で作った人形を取り出した。

「これに呪う相手の髪の毛を入れて、こうするの」

そう言うと彼女は、マストに藁人形を当てて五寸釘を打ち込む。

「いーちまーい、にーまーい・・・」


そんなメアリを見ながらリンナが「釘なら一本二本じゃないのかな?」

「お約束って奴だろ」とチャンダ。

「多分、いろんなのが混ざってると思う」とマゼラン。

そしてメアリの実演は続き・・・・・・・。

「きゅうまーい・・・、しくしくしく、恨み晴らさでおくべきかぁ」



儀式の実演を終え、ドン引き顔の団員たちの方を振り向いて、メアリは解説を始める。

「こうすると、呪った相手は、人形の釘の刺さった所が侵されて、やがて死に至るのよ」

「けど、よく相手の髪の毛なんて手に入りましたね?」

そうルナが質問すると、メアリはドヤ顔で「それが、本国から遠く離れた小島だったもので、相手の髪の毛が手に入らなくて、代りに相手と血の繋がった実の姉の髪の毛を・・・」

「それって・・・」


メアリ王女、いきなり苦しみ出す。

「む・・・胸が痛い」

チャンダは慌ててメアリに言った。

「すぐ呪いを解除して下さい。東洋では"人を呪わば穴二つ"って言って、呪いは呪った本人にも害を及ぼすんです」

「ってか、これってただの自爆だろ」とマゼランがあきれ顔で呟く。



沿岸に中規模の河口が見えた。

マゼランが全員に号令。

「ここで水と薪の補給するぞ」


この手の作業に慣れたヤンとマーモの主導の元で、ボートに水樽を積んで、川で汲んだ水を船に運び、木を切って薪を作る。

「鹿を獲ってきたぞ」

そう言って鹿を担いだマゼランとフェリペが森から出て来る。

ライナがはしゃぎ声で「今夜はここで一泊しようよ」

「キャンプみたいで楽しいね」とフェリペも嬉しそう。



その頃、南下していたエンリの船では・・・。

「エンリ様、フェリペ皇子の船が停泊しました」

魚の使い魔からの情報を得て報告する人魚姫リラ。


「補給だな」とエンリは呟く。

ニケが地図を広げ、停泊地点の直近の川を指して「ここで水と燃料を積み込むでしょうね」

アーサーが「彼等なら、キャンプ気分で一泊って所でしょうね」


エンリ王子が号令を下した。

「よし。気付かれないように離れた所に上陸して、徒歩で接近して確保するぞ」



そしてフェリペたちは・・・。

日が暮れる中、解体した鹿の肉を焼き、焚火を囲んでわいわいやるフェリペと部下たち。


勘違いだらけの父親の冒険談を語るフェリペ。

海賊時代の自慢話を語るヤンとマーモ。

愚痴を延々と語るメアリにみんなドン引きする。



フェリペが疲れて眠り、チャンダが見張りに立つ。

フェリペの横で寝転んで、小声でおしゃべりする三人の女官。


ライナが「フェリペ様って可愛いわよね」

「けど君主よ」とリンナ。

「子供よね」とルナ。

するとライナは「年は関係無いわ。主と侍女のロマンスって素敵でしょ?」

「それで妃にでもなると?」

そうリンナが言うと、ライナは「そうなったら今度は騎士たちと禁断のロマンス」

「いや、ちょっとそれは欲張り過ぎよ」とルナ。

ライナはドヤ顔で「騎士物語の定番よ」


するとリンナが「そうよね。皇帝は最強のステータスよ」

「けど幼い子供よ」とルナ。

「10年後には私たちと同じになるのよ」とリンナ。

「いや、違うでしょ。私たちも年をとるのよ」とライナが突っ込む。

「若い燕じゃないのよ。最強のロマンスだわ。そして更に十年経てば大人の男に」とリンナ。

「その時、私たちは何歳?」とライナが突っ込む。

リンナはドヤ顔で「女は30にならないのよ」

「あのねぇ!」


「ってかルナは子供子供って連呼してるけど、フェリペ様にそういう気持ちは無いの?」

そう言って矛先を転じるリンナに、ルナは言った。

「何言ってるのよ。子供最強じゃない。可愛いは正義よ」

ライナはあきれ顔で「そういえばこいつ、ガチなショタコンだっけ」



その時、見張りに立っていたチャンダが叫んだ。

「起きて下さい!」

跳ね起きるマゼランとシャナ。

「敵か?」とシャナは低い声で言いながら、刀に手をかける。

「囲まれています」とチャンダは姿勢を低くする。



暗闇の中からエンリ王子の声が響いた。

「フェリペ。キャンプは終わりだ。宮殿に戻るぞ」

「父上・・・」

そうフェリペは呟いて、ロキの仮面を手に取った。


そして「メアリ王女。セントヘレナ島に戻って頂きます」とエンリの声。

「嫌よ。彼は渡さないわ」

そう叫んでフェリペの左手を掴むメアリに、暗闇からエンリのあきれ声が「あなたって、そーいう趣味でしたっけ?」

「大きなお世話よ。あの女の鼻をあかすチャンスなのよ」

そう叫ぶメアリの言葉を聞いて、フェリペは不思議そうに「メアリ、あの女って?」

「皇子は気にしなくていいのよ」と困り顔のメアリ。

エンリはあきれ声で「滅茶苦茶歪んでる気がするんだが」

「とにかく、ここは通して貰います」とマゼランは声の聞こえる方に向って叫ぶ。


「確保しろ!」

そのエンリの号令とともに、周囲の暗闇から飛び出すエンリの部下たち。



剣で斬りかかるマゼランとチャンダを両手の刀で余裕で押しまくるジロキチ。

タルタはシャナの灼熱の刀を部分鉄化の左腕で受け止め、右手の剣で切り付ける。

カルロはヤンとマーモを当て身で気絶させる。

メアリが連打するファイヤーアローをアーサーが防魔の短剣で防ぎ、メアリを金縛りの呪文で拘束。


「フェリペ、こっちに来い」

そう言って詰め寄るエンリを前に、フェリペは「父上、見て欲しいものがあります」と言って右手の仮面を掲げた。

「またロキ仮面かよ」と、うんざり顔で言うエンリ。

だが、アーサーはフェリペの手にある鉄の仮面を見て、真っ青になった。

「王子、それは本物です」

「何だと?」


フェリペが仮面をかぶる。

「止めろ。それをかぶると体を乗っ取られるぞ」

フェリペは変身ポーズをとって叫んだ。

「闇のヒーロー、ロキ仮面参上」


頭を抱えるエンリを他所に、フェリペはロキ仮面の得意技を叫ぶ。

「仮面分身」

出現した無数の鉄の仮面が宙を舞い、ジロキチに、タルタに、カルロに襲いかかる。



エンリは絶望的な気持ちをねじ伏せ、風の魔剣と一体化した素早さで、襲い来る仮面をかわしながら、仮面をかぶったフェリペに向けて叫んだ。

「ロキ、俺の息子を返せ!」

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