第274話 大地の真理
イギリスの政治犯としてセントヘレナ島に収監されていたメアリ王女を連れ出したフェリペたちマゼラン海賊団。
だが、セントヘレナ島襲撃が彼等の仕業である事が、メアリ王女のエリザベス王女に対する自慢通話により速攻でバレた。
彼等は追われる身となって海外に逃走。
それを追跡し連れ帰る役目は、フェリペの父親であるエンリ王子が担う事となる。
ポルタ大学海賊学部造船科。
試作した魔導艦のドッグからフェリペたちがなかなか出てこない事に気付いた教授たちが、ドッグに行く。
既に注水して水に満たされたドッグの海への扉が開いていて、完成したばかりの魔導艦は消えていた。
教授たち唖然。
一人の教授が「船、持ち逃げされちゃいましたけど」
「どーすんだ、これ」と別の教授が・・・。
更に別の教授が「子供の悪戯にしては行き過ぎだぞ」
その時、エンリ王子から連絡。
「フェリペ皇子がイギリスの流刑地からメアリ王女を連れ去って逃走した。見つけたら確保して、すぐ連絡してくれ」
教授たち唖然。
「どうしよう。大失態だぞ」
全員、青くなって顔を見合わせる。
しばらくの沈黙の後、教授の一人が言った。
「魔導艦なんて最初から無かった。ここからは何も持ち出されてない」
別の教授は彼に「現実逃避かよ」
更に別の教授が「露見したら俺たち、ただじゃ済まないよね」
すると一人の教授が言い出した。
「それに、エンリ王子は魔導艦の事を知らない」
「いや、報告は既に出してるぞ」と、別の教授が・・・。
すると先ほどの教授が「けど王子はそれ読んでるのかな? あの王子の事だ。報告はきっと未決済書類に埋もれて、五年くらいは書類の山の中だ」
教授たちの表情に明るさが戻った。
「なるほど。その頃には、ほとぼりが冷めてる」
そう一人の教授が言うと、他の教授たちは声を揃えて「そうだよね。あは、あははははははは」
まもなくポルタの海岸沖合で、無人の船が発見された。
それがスパニアの港から逃走したフェリペたちの船だという事は、まもなく確認された。
この問題は、表向きは海難事故として処理され、イザベラはメアリ王女が救出者とともに消息を絶ったとイギリスに伝えた。
だが、もちろんエリザベス他関係者は誰も信じず、エンリ王子たちタルタ海賊団は、どこかで調達した別の船に乗り換えて海外に逃亡したであろうフェリペ一行を追跡すべく、ポルタの港を出航する準備に入った。
その頃、ユーロ南西の海上には、五歳のフェリペ率いるマゼラン海賊団が乗る、あの魔導艦ヤマト号の姿があった。
スパニアから乗ってきた船からは、水や食料、その他の装備の積み替えは終えている。
そして約十名の乗組員の前で気勢を上げるフェリペ皇子。
「僕たちはこれから世界に向けて冒険の旅に出る。父上はきっと僕たちを連れ戻しに来る。けど、僕たちは世界を股にかけた海賊だ。どんな危険にも負けない仲間が居る。そして僕は闇のヒーロー、ロキ仮面だ。さあ行こう。僕たちはもう自由だ」
エンリは未決済書類の山をそっちのけに、仲間たちと作戦会議。
「外国に行くって事は、西方大陸かな?」
そうジロキチが言うと、エンリが「あそこはスパニアの領地だから、イザベラの手配書が回ってるぞ」
「多分、南方大陸から東へ向かうと思います。大洋では西風を受けて東回り航路が基本ですから」とアーサー。
ニケが「大陸の近くでは陸風が吹いたり海風が吹いたりするけどね」
「でも俺たちもオケアノスで西風に乗って海を渡ったよね。ユーロが北にある割に暖かいのも、海から吹く風のおかげだ」とエンリ王子。
「けど、何で世界中で西風が吹いてるのかな?」とタルタが言い出す。
全員、首を傾げて「何でだろ」
タルタが思い付いたように、言った。
「あれじゃないのかな。本当は風が吹いてるんじゃなくて、俺たちが乗ってる大地が動いてるんだよ。走ってる馬車の窓から顔を出すと、前から風が吹くのと同じで」
カルロが「確かに。球体大地は凄い速さで太陽の回りを回って、動いているんだものな」
「なるほど、それなら世界のどこでも同じ方向から風が吹くのは道理でござるな」とムラマサ。
するとエンリが「いや、ちょっと待て。大地が球体って事は、ここから見て東って、球体大地の反対側から見たら西だぞ」
「確かに」と全員頷く。
「けど、大地は確かに太陽の周りを一日で一周してるんだよね?」とタルタ。
「一日で?」
ニケがそう問い質すと、タルタは「だって、そのせいで夜と昼があるんだろ?」
するとニケは「違うわよ。一年で一周よ」
「そうなの?」
ニケは言った。
「前に、夏と冬があるのは太陽軌道の関係だって言ってたわよね。球体大地の南北軸が太陽の周りを回る回転軸とずれて傾いているせいで」
「って事は、一日の昼と夜って・・・」
そう若狭が言うと、ニケは「一日周期の別の回転があるのよ。球体大地自体がコマのように回転しているの」
「回転って事は地面は、どこでも同じ方向で動いているから、どこでも同じ西風が吹いてもおかしくない」とアーサー。
「なるほど、そういう事か。つまり地面はどこも同じく西に向かって走る馬車と同じ」とジロキチ。
ムラマサが「前方向の西側から風が吹いているように感じると・・・」
するとエンリが「いや、ちょっと待て。大地は本当に西に向かって回転しているか?」
「違うの?」
そうタルタが言うと、エンリは「だって太陽は東から登るぞ」
「って事は大地は東に向かって回転している?」と若狭。
ニケも「確かにそうなるよね?」
「何でだろ」と全員、首を傾げる。
「ニケさん、さっきの話って、誰かから聞いたの?」
そうエンリに問われ、ニケは「大学の天文学部のコペルニクス教授からよ」
「だったら教授に聞くのが早い」
ポルタ大学天文学部のコペルニクス教授の研究室へ。
エンリ王子たちに問われて、教授は答えた。
「それは地上地面の移動速度の問題ですね」
「移動速度って?」
コペルニクス教授は言った。
「大地の回転で地面が移動する速度は場所によって違うのです。そして風、つまり大気も同様に動いていて、地面が早く動く所では大気より早いから東風に、遅い所は大気が早く動いて西風になると」
「ちょっと待て。大地は一体となって動いているんじゃないの?」
そう疑問を呈するエンリに、コペルニクスは「そうですよ。一日で一回転するので動く時間は同じです。けど、動く距離は違う」
ニケは思い付いたように言った。
「そうよ。南と北の中間の軌道面の所では、大地の中心からの距離を半径とした円周が移動距離になるわ。けど本当は、大地の回転軸から地面までの距離を半径とした円周が移動距離よ」
「中心じゃないの?」
そうタルタが問うと、ニケは「例えば、回転軸が地面と交わる北や南の極での移動距離はどれくらいになる?」
アーサーが「自分を中心に回ってるだけだから移動距離はゼロだよね」
「つまり北や南に近付くほど移動距離は短く、移動速度は遅くなる。だから西風になると」とニケ。
「すると東風が吹くのは?」
そうエンリが問うと、ニケは「北と南の中間ね」
「つまり、日光が強くて暑いアマゾナとかインドのあたりという事か」とアーサー。
「そこに行って東風に乗ればオケアノスを東に行ける」とタルタ。
コペルニクスは言った。
「私たちはこの西風を偏西風、東風を貿易風と呼んでいます。これは熱い地方に住んで海を渡る民が付けた名前なんです」
「フェリペ皇子たちは、これを知ってるのかな?」
そうアーサーが呟くと、エンリは言った。
「知ってると思う。あいつ等の中にチャンダが居たよね? 奴はインドの出だ」
そしてタルタは「きっと奴らは俺たちがそれを知らずに東に向かうと思ってるよね?」
エンリは仲間たちに号令を下した。
「あいつ等は俺たちの裏をかくつもりで西方大陸からオケアノスを目指すだろう。俺たちもそのルートでフェリペを追うぞ」
また、しばらくアップロードを休みます。再開は後ほど・・・。




