第272話 残念な王女
即位を控えたエリザベス王女と幼いフェリペ皇子が恋に落ちた。そして二人はマーリンにそそのかされて、恋の駆け引きを初めてしまう。
年上のエリザベスに翻弄されるフェリペを応援する彼の仲間たちは、マーリンの誘いに乗り、当て馬役として遠島送りとなっていたメアリ王女を救出。
メアリはエリザベスに一泡吹かせようと、この誘いに乗った。
メアリ王女を連れ去ったのが自分達だとバレたとは夢にも思わないマゼラン海賊団の面々は、スパニアの港へ向かう中、船の食堂でメアリ王女と向き合っていた。
「改めて紹介するよ。僕の従者のマゼラン、チャンダ、シャナだ」
メアリは、フェリペに紹介された三人の従者を眺め、そしてシャナを見て「女の子よね?」
シャナは口を尖らせて「主、私この年増、嫌いだ」
「あのねぇ」とメアリも声を荒立てる。
困り顔のマゼランはシャナを庇うように「彼女、こう見えても手練れなんで」
だが、年増呼ばわりされたメアリは収まらず、シャナに「あなた、年いくつ?」
「200才は過ぎた所から数えてない」
そう答えるシャナに、メアリは「私より年上じゃないのよ」と突っ込む。
シャナの胸のペンダントとなっていたアラストールが解説した。
「彼女は私が妖精の格を付与したから、年はとらないのさ」
そんなアラストールを見て、メアリは身を乗り出す。
そして王族モードの命令口調で「しゃべるペンダントが実在するなんて。そんなアクセサリーを一介の従者が? 直ちに私に献上なさい!」
シャナはペンダントを庇うように握って「これはアラストールで私の保護者だ」
「装飾品に名前をつけて恋人にしてるなんて普通じゃないわよ」とメアリ王女。
アラストールは困り声で「いや、彼女は私が保護する娘のような存在なんだが」
「ロリコンな装飾品というのも普通じゃないわよ」とメアリ王女。
「だから違うって・・・」とアラストールは困り声で・・・。
続いて三人の女官がメアリに自己紹介。
「今日から王女様のお世話を致します、フェリペ様付き女官のライナ」
「リンナ」
「ルナです」
メアリ王女は権力者モードのドヤ顔で「よろしくね。私の立場、解ってるわよね?」
ライナは怪訝顔で「反乱の罪に問われた政治犯ですか?」
メアリ王女、ムキになって「じゃなくて王女よ王女。毎日お茶とお菓子は最高級品を。ベットは羽毛入りの最高級品で化粧品と香水は・・・」
「そういうセレブアピールは後にしてくれませんか」
そう困り顔で言うマゼランを無視し、メアリ王女は要求を追加して「それと、抱き枕にフェリペ皇子を」
フェリペ、困り顔で「僕、ここのオーナーで司令官なんだけど」
「じっくり大人の女性を教えて・あ・げ・る」
そう言ってフェリペ皇子に迫るメアリに、マゼランは困り顔で「くれぐれも犯罪にならないよう、五歳児に変な事を教えるのは控えて下さいね。それと、あなたは追われる身ですので、当面身分を隠して頂く必要があります。行動はこちらの指示に従って下さい」
メアリはフェリペを指してマゼランに「ここの司令官はこの子よね? 私はフェリペ君の従妹で年上だから彼の目上よ」
「つまりおばさん?」
そうフェリペに言われ、メアリはムキになって「おばさんは私の母だから。お姉さんと呼んでよ」
「二十歳過ぎたらおばさんだよね?」
そう突っ込んだチャンダに、メアリは「あのねぇ!」
そして彼女はフェリペの両肩に手を置き、言った。
「フェリペ君。母はあなたの母親の姉で、スパニア人だという理由で民から疎まれて、グローバリズムを嫌う人たちによって王妃の地位を追われた。つまり迫害された同胞なの」
「母と帝位を争って軍を率いて攻め込んだ侵略戦争の最先鋒って聞いたけど」とフェリペが突っ込む。
残念な空気が漂う。
「それでそっちの二人は?」と、メアリはヤンとマーモを見て・・・。
二人の大人男子が自己紹介。
「ヤンと」
「マーモです。海賊で、航海に関わる事は何でも・・・」
「つまり下僕ね」とメアリ王女。
ヤンとマーモは困り顔で声を揃えて「勘弁して下さいよ」
「最後にもう一人紹介するよ。ロキだ」
フェリペがそう言うと、彼の隣にロキが姿を現わす。
何も無い所に突然出現した彼を見て、メアリ王女唖然。
「何? 透明人間の護衛? つまりカメレオンアーミーね」
そんなメアリを見て、ロキは困り顔でフェリペに「主、この女大丈夫か?」
フェリペは鉄の仮面を出してロキを紹介して言った。
「彼はこの仮面に宿る精霊だよ。彼のおかげで僕は無敵のヒーローになれるんだ」
そしてロキも自己紹介として「ロキだ。ノルマンの神話に出てくる、れっきとした神様だぞ」
そんなロキにメアリは「恋愛にご利益とかあるの? 全財産お布施しろとか言わないわよね?」
「あのなぁ!」とロキは口を尖らせた。
メアリが自室に戻ると、フェリペの部下たちは彼女についてあれこれ・・・。
そんな中でチャンダが言い出した。
「ところで、メアリ王女が我々の所に居るというのは、秘密なんだよね?」
「当然でしょ」とライナ。
「けど、当て馬って、エリザベス王女がメアリさんにフェリペ皇子を盗られるんじゃないかって、焦らせるための役目なんだよね?」とチャンダ。
「当然よね」とリンナ。
チャンダは「だったら、彼女がフェリペ皇子と一緒に居ると知らせずに、どうやって焦らせるの?」
「あ・・・・・」
残念な空気が漂う中、マゼランは「ととととととにかく、そういう作戦は後で考えよう」
船がスパニアの港に近付く。
舵を握るヤンが陸地を見て、マゼランに言った。
「そろそろ上陸なんで、メアリ王女には、正体がバレないよう変装して貰う必用があるのでは?」
チャンダが「彼女の服装なら、あの三人に任せたんですが」
マゼランとチャンダ、顔を見合わせて「大丈夫かよ」
「そろそろ支度は出来たかな?」
マゼランとチャンダは部屋をノックし、中へ・・・。
部屋の中では三人の女官が言い争っていた。
ライナが黒服と大きな帽子を持って「目立たないように黒づくめの魔女服を・・・」
ルナが白衣を片手に「大人の女性ならナース服でしょうが」
リンナが「定番はセーラー服よ」
「二十歳過ぎて着る服じゃないわよ」
そう批判するルナにリンナは反論して「元々水兵の服よ」
ライナが「ここはファンタジー世界なんだから魔法使いは定番でしょ」
そんな三人を見て、マゼランは頭を抱えた。
「仮装じゃなくて変装なんだが」
チャンダもあきれ顔で「ってかあれ、コスプレだよね?」
メアリも抗議声で「この子たち何とかしてよ。私の服装なのに本人の意見を全然聞かないのよ」
そう言う彼女を見て、マゼランとチャンダ唖然。
「メアリさん、その格好・・・」
いかつい軍服の上着に腿の部分のだぶついたズボンの膝近くまである黒ブーツ。頭には鍵十字マークの軍帽。そして手には鞭。
「何ですか? その怖そうな服装は」
そうチャンダが言うと、メアリは「部下を鞭で従える女王ですが何か」
マゼランは困り顔でメアリに言った。
「いや、悪の秘密結社の女幹部じゃないんだから、そういう目立つ格好は止めて下さい。特にその帽子。怖い所から抗議と称する脅迫状が殺到しますよ」
するとチャンダが「いや、そもそもそれ、頭のおかしな奴らのスタイルだから」
「防弾突撃隊とか言うチンピラグループが真似てたよね」とヤン。
「排斥したい相手の旗を、勝手にそのマークと同じとか、何の根拠も無く言い張るみたいな」とマーモ。
「抗議と称する脅迫状ってのは、そういう奴らの話だよ」
そうチャンダに言われ、マゼランは「そーだった。ところで俺たち、何でこんな話してたんだっけ?」
結局、メアリは三人と同じメイド服になる。
港に入り、船の係留作業のため残ったヤンとマーモ以外の全員で上陸。
港に接舷して上陸すると、岸壁には見慣れた面々が・・・。
「お帰りなさいフェリペ」と、こめかみをヒクつかせるイザベラ女帝を見て、唖然とするフェリペ皇子。
「母上・・・」
「お前、何やってんだよ」と、目一杯の困り顔で言うエンリ王子を見て、更に唖然とするフェリペ皇子。
「父上、何で?」
イザベラはフェリペの背後に居る彼の部下たちを見て、メイド服姿の大人女子を見つけ、そして言った。
「そっちに居るのは流刑中だったメアリ王女よね? イギリスのエリザベス王女から逮捕引き渡しの要請が来ているのだけれど」
「何で僕たちの事が?・・・」
そうフェリペが困惑顔で呟くと、エンリは「この王女様がロンドンに通話で自慢したんで、速攻でバレた。そうですよね? メアリ王女」
「じじじじ自慢話じゃないわよ」
そう慌て声で言うメアリ王女に、エンリは「けど通話はしたよね?」
「やっぱりそういう事か」と呟くマゼラン。
フェリペの部下たち全員の残念な視線がメアリに集中する。
「とにかく、おとなしく来て貰いますよ」とエンリ王子はメアリに・・・。
そしてイザベラは、彼女の幼い息子に言った。
「フェリペ、すぐ宮殿に戻りなさい。家庭教師の先生方がお待ちかねよ」
だが、フェリペは両親に宣言する。
「嫌です。エリザベス姉様は悪い家臣に騙されて、自分の血を分けたお姉さんをあんな所に閉じ込めて。メアリ姉様は戻れば刺客に殺されます。僕は愛する人のために彼女を守ります。大好きなエリザベス姉様を泣かせたりするもんか」
そしてメアリ王女も「私とフェリペ君は愛し合っているんです。たとえ親にだって二人の仲を裂く事なんて出来ません」
そんなメアリに、エンリはあきれ顔で「いや、フェリペが好きなのは、あんたじゃなくてエリザベス王女だろ」
フェリペ皇子は部下に号令を下した。
「とにかくここを突破して船に戻って逃げるぞ。マゼラン!」
「了解です」




