表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
270/562

第270話 流刑地の姫君

五歳のフェリペ皇子が即位を控えたエリザベス王女と恋に落ちた。

アドバイスと称して恋の駆け引きを説くマーリンにそそのかされ、セントヘレナ島に政治犯として収監されているメアリ王女を当て馬に使おうと、フェリペの周囲は暴走を始める。



フェリペ皇子と彼の仲間たちは、メアリ王女救出という目的を得て、彼らの海賊団の設立に向けて、計画は本格的に動き出した。

そして船出の日と決めた時が来る。


王宮の倉庫でフェリペは、八人の仲間たちを前に気勢を上げた。

「これから、僕の海賊団が初めて海に出る。フェリペ海賊団の始まりだ」


するとマゼランが言った。

「あの、それなんですけど、皇太子の名前で海賊を名乗るっていろいろ不味くありません?」

フェリペは暫し考える。

そして「父上の海賊団は、タルタが雇われ船長みたいな事をやって、海賊団の名前になってたよね」


「というか船長って海賊の経験者がやるの?」とリンナ。

ルナが「ヤンさんとマーモさん?」

ヤンとマーモは顔を見合わせると「いや、俺たちはスカウトされたばかりだし・・・」

「それに、何だか農機具みたいになっちゃいそう」とチャンダ。

するとライナが「マゼラン様って海賊の見習いだったんですよね?」

「見習いだけどね」とマゼラン。


フェリペは言った。

「マゼランは僕の右腕だ。マゼラン。今日から君が僕たちの船長だ」

「ところで船は?」とヤンが言い出す。

マーモが「救出したメアリ王女はどこで匿うの?」

「それと、しばらく都を留守にする事になるから、習い事なんてキャンセルだ」とフェリペ皇子。


「そうはいきません」

いつの間にか教育係と女官長が彼らの後ろに仁王立ち状態で彼らを睨んでいる。



フェリペは教育係に連行され、3人の女官見習いは女官長にこってり叱られた。

海賊団始動に向けて、改めて作戦を立てる彼ら。

マゼランは航海局から船を1隻借り出すための手続きをとり、メアリ用の隠れ家を用意する。

だが最大の難関は、フェリペのスケジュールをどう誤魔化すか。



フェリペとマゼランがイザベラ女帝に談判。


「母上、しばらく父上の所に遊びに行きたいのですが」

そうフェリペが言うと、イザベラは「なら王子に連絡を取らなきゃ」

マゼランが言った。

「いえ、エンリ殿下の誕生日をサプライズで祝ってあげたいので、秘密にしたいとフェリペ様が計画されまして」

「あなたのお父様も、お仕事が忙しいから」

そうイザベラに言われたフェリペは、計画通りの拗ね顔で「パーティグッズもこんなに用意したんだよ」


その場に並んだ鼻眼鏡に三角帽子にクラッカーに横断幕・・・。

その中の一つをイザベラは手に執って「この手錠は?」

「バースデーケーキを自分で食べられないようにして、リラ姉さんがあーんをしてあげるんです」とフェリペ皇子。

イザベラは溜息をついて「私、一応彼の正妻なんですけど。それに、彼の誕生日は今月じゃなかった筈だけれど」

フェリペが「海賊のお仕事で先送りになったんです」

マゼランが「これからは父親も子育てに参加する時代です。漫画やアニメでもイクメン物をせっせと作ってますし、これもポリティカルコレクティブという奴かと」


イザベラは溜息をついて言った。

「まあいいわ、久しぶりに父親に甘えてきなさい」

「それと、しばらくポルタに滞在する事になりますので」とマゼラン。

イザベラは「ちゃんと戻って来るのよ」



談判を終えて二人で女帝の部屋を出ると、フェリペは言った。

「ねえ、マゼラン。みんなで父上のお誕生日をお祝いするんだよね。今度は本物のロキ仮面を見て貰うんだ」

ロキが現れて「主よ、お前の父親はそれを嫌がると思うぞ」

「ってか、エンリ様の誕生日というのはただの口実で、ポルタには行きません」とマゼランは溜息。

「そんなぁ」



メアリ王女の居るセントヘレナ島に向けて、フェリペたちの乗る船が出港した。

そして・・・。



イギリスの流刑地となっているセントヘレナ島は、西の大洋のただ中にある。

そこで軟禁状態となっているメアリ王女。

十数名の衛兵は実質看守だ。


建物の入口の警備室で愚痴を言い合う数人の衛兵。

「退屈だなぁ」

「流刑地だもんな」

「俺たち、遠島送りになるような悪い事してないよね?」

「悪い事やったのはあの人」

そう言って衛兵の一人が、メアリの住む奥の部屋の方を見る。


「俺たち、とばっちりかよ」

そう言って彼が溜息をつくと、別の衛兵が「まあそう言うな。そのうち交代が来る」

「交代要員が居ればな」と、更にもう一人の衛兵が・・・。

別の一人が「希望する奴なんて居ないだろ」

「俺たちって、何でこんな所を希望したんだっけ?」と更に別の一人が・・・。


一人の衛兵が言った。

「忘れたのかよ。飲みニケーションとか言って酒飲まされて、外泊届とか言われて騙されて希望申請書かされた」

「そーだった。ここから出たら絶対仕返ししてやる」と別の一人が・・・。

もう一人が「シャバの空気が吸いたいなぁ」



「戻れるようにしてやろうか?」

聞き覚えの無いその声に、慌てて周囲を見回す衛兵たち。

「誰だ!」


風のように駆け込むマゼランとチャンダ。

警備室の衛兵たちに当て身を喰らわせ、気絶させる。


「向うは片付いたぞ」

そう言って警備室に入ってきたヤンとシャナ

「殺してないだろうな。後始末が面倒だ。シャナの刀は灼熱だから、嶺打ちでも焼死にかねない」

そうマゼランが言うと、シャナは「ちゃんと当て身で気絶させたぞ」



彼等は建物の奥へ進んで、他の衛兵たちを気絶させ、各部屋を次々に制圧。

警備を無力化すると、彼等は一番奥の部屋へ行く。

そこに一人の女性が居た。


マゼランが彼女に問うた。

「あなたがエリザベス王女の姉君、メアリ王女ですね?」

メアリは言った。

「マーリンから話は聞いているわ。それで、エリザベスと恋に落ちた皇子様って?」

「僕がフェリペ皇子です」

そう名乗り出るフェリペを見て、メアリは思った。

(こんな小さな子が・・・。けど、何で可愛らしい)


フェリペは憶えたての作法でメアリの手を執って「お迎えに来ました」

「あなたにとって私は何?」

そう問われて、フェリペは「大好きなエリザベス姫の血を分けたお姉様」

「そうよ。私とエリザはとても仲良しなの」とメアリ王女。

ヤンが「本当かな?」

「あの子は悪い家来に洗脳されて、反乱を起こして私の王太子の地位を奪って・・・」とメアリ王女。

チャンダが「そうだっけ?」

「私は、悪い家来が放った刺客に殺される運命なのよ」とメアリ王女。

マゼランが「違うような気がするんだが」


メアリはフェリペの小さな手を執って「フェリペ皇子。私を守って下さるかしら」

「もちろんです」

「何て頼もしい小さなナイト」

そう言ってメアリは、フェリペの小さな体を抱きしめ、そして言った。

「全部忘れさせてあげる」


そんな様子を見て、シャナは「いいのか? あれ」

「当て馬なんだよね?」とヤン。

「けど、それって当て馬自身がその気になるのが前提だよね?」とチャンダ。

「あの人が言ってるの、全部嘘だよね?」とヤン。

「けど、恋愛は騙してナンボだよね?」とマゼラン。


そんなフェリペの部下たちの好き勝手な台詞を他所に、メアリ王女は得意顔で脳内で呟く。

(私はずっとエリザベスに奪われ続けて来たわ。王太子の地位も名誉も宮廷生活も国民の視線も。マーリンは私を、あの子を煽る当て馬にするつもりなのよね。けどけど見てなさい。こんな小さな子をたぶらかすくらい、わけない話よ。エリザベス。これからあなたの一番大事なものを奪ってあげる。女は争ってこそ華。負けて落ちれば泥となる。けど、どんなに負け続けても、その全てを覆す逆転ステージがあるの。ライバルの男を奪え。これは女子会戦略の鉄則よ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ