第266話 皇子の初恋
フランスでルイ王子の新王としての即位の日取りが決まった。
僅か五歳での即位が決まった事に各国では様々な反響が見られた。
イギリスでは・・・。
王宮で、お茶を飲みながら、フランスでの新王の即位について、家来から報告を聞く、ヘンリー王父娘が居た。
「つまり世代交代という事か?」
そうヘンリー王が言うと、報告に来た家来は「いくら何でも早すぎでは・・・とも思いますが」
「ともあれ、これであの厄介な現王が引退して、これからは幼児を相手にすればよいと言う訳か」
そう呑気な事を言うヘンリー王に、エリザベス姫は言った。
「お父様、それは甘いですわよ。恐らく摂政として現王は政治を握り続けるつもりかと」
「つまり、看板だけ変えて中身は同じという訳か? 意味あるのかよ」とヘンリー王。
「黒幕がお神輿の影で国を操る。失敗しても自分に火の粉がかからないから、思い切った事が出来る。しかも、子供は何をしても"可愛いから許す"と言われて、大目に見て貰える。真の実力者は何時だって傀儡の影に居るわ」とエリザベス姫。
「シャドーガーデンとかいう組織みたいな?」とヘンリー王。
エリザベス姫は語った、
「国王の使命は国家を強くする事よ。そして、それは市民の求めに応じるものであるが故に正当性を持つのであれば、常に市民の視線に晒され監視される。常に王を監視する周囲の視線が厳しくなれば、敵はそれを詭弁で煽って、王を牽制する武器にする事も可能。それを逸らすために周囲の視線を集める傀儡は、一見、ひ弱で敵意を向けにくい愛されキャラこそ相応しい。傀儡を上手に使え! これは女子会戦略の鉄則よ」
「なるほどな。それなら我が国も・・・」
いきなり他国を真似ようと言い出すヘンリー王に、エリザベスはあきれ顔で「傀儡を、ですか?」
「新王の即位だ」とヘンリー王。
「けど今の王太子って私ですけど、この私に傀儡になれと?」
そう怪訝顔で言うエリザベスにヘンリー王は「愛されキャラだよな?」
「愛されキャラというのは、お馬鹿で無害そうな存在の事よ」と言って溜息をつくエリザベス。
「ロンドンの民から投書なのだが・・・」
そう言って、ヘンリー王は数枚の投書を読み上げる。
「エリザベス殿下の即位まだぁ?」
「オッサン王にはいい加減飽きた」
「JK女王様最強だよね」
「王様ランキングはエリザたんに一票」
「という訳だ」
読み終えて、そうドヤ顔するヘンリー王に、エリザベスは「ですが父上、私は父上に政治を任せるつもりはありませんから」
「それは頼もしい。ジョアン王みたいなスローライフって憧れだったんだよなぁ」とヘンリー王。
エリザベスは「あんなのの真似は止めて下さい。せめてハンコ突きはやって貰いますからね」
「そんなぁ」
エリザベスの即位が発表され、イギリスは沸き立った。
即位までのスケジュールが組まれ、いくつもの式典が計画される。
そして、各国からの来賓が訪れた。
エンリ夫妻もフェリペ皇子を連れて、ロンドンを訪れた。
王宮の応接室で王と面会するエンリ王子夫妻とフェリペ皇子。
ヘンリー王の脇にはエリザベス王女とドレイク提督。
「いよいよ即位ですわね」
そうイザベラに言われ、エリザベスは「スパニアに続きイギリスも。これからのユーロは女性君主の時代ですわ」
「ドイツのテレジア女帝も居ますけどね」とイザベラ女帝。
エリザベスは困り顔で「あんなのと一緒にしないで下さるかしら」
「ヘンリー王もついに退位ですか」
そうエンリ王子に言われ、ヘンリー王は「ポルタに続きイギリスも。これからのユーロはスローライフの時代ですな」
エンリは困り顔で「うちの父の真似だけは止めた方がいいですよ。それに父は退位する予定はまだ無い」
「それよりエンリ王子はまだ即位は?」
そうヘンリー王に言われ、エンリは「まだ嫌ですよ。国王を看板に立てての影の権力者って、かっこいいじゃないですか」
そんな両親の大人の会話を他所に、かしこまり状態なフェリペ皇子。
ヘンリー王がその五歳児を見て「そちらの子供がフェリペ皇子だね?」
「フェリペ、御挨拶なさい」と、母親らしい事を言うイザベラ。
「どうした? フェリペ。顔が赤いぞ」
そうエンリに促され、フェリペは「は・・・はい。本日はお日柄も良く、ふつつか者ですが」
エンリ、唖然顔で「何言ってるんだ?」
その時、幼いフェリペの思考と視線は、目の前のエリザベス王女に釘付けになっていた。
(エリザベス殿下、何て綺麗なお姉さん)
一方で、何やら五歳児を目の前に、ぼーっとなっているエリザベス王女。
「どうした? エリザベス」
そう父のヘンリー王に声をかけられて、はっと我に返る。
そして彼女は脳内で呟いた。
(何て可愛らしい。私にショタ属性なんて無かった筈なのに)
「あの・・・」と、フェリペとエリザベス、同時に声を発し、そして慌てる。
「どうぞ」とフェリペ。
「いえ、そちらから」とエリザベス。
「いえ、殿下から」と、またフェリペが・・・。
そして二人同時に「どんな異性がお好みですか?」
フェリペが「やっぱりJKは世界最強のブランドですよね?」
エリザベスが「乙女ゲームでは可愛らしい弟系に嵌りますわ」
そんなエリザベスを見てドレイク提督、おろおろ声で「あの、エリザベス殿下の好みって、マッチョで頼もしい大人の男性だったのでは?」
「母性本能は全ての女性の本質よ」とエリザベス王女はぴしゃりと言った。
面会が終わって王宮を去ると、心ここにあらずな様子のフェリペを見て、エンリは妻に言った。
「なあ、イザベラ。これって、もしかして初恋? こいつはまだ5歳だぞ」
「恋愛に年は関係無いって父上が仰ってましたわ」とイザベラ。
エンリは困り顔で「ああいう人を基準にしたら駄目だと思うが」
エンリ一家が去った後、王宮では・・・。
「なあ、エリザベス・・・」
そう言いかけたヘンリー王の言葉を断ち切るように、エリザベスは「縁談話が山ほど来ていますわよね? 全部断って貰えるかしら」
「そりゃいいんだが、あのフェリペ皇子の・・・」
そうヘンリー王が言いかけると、エリザベスは「恋愛に年は関係無いと、義祖父様が仰ってましたわ」
ヘンリー王は溜息をつくと「それ、カタリナの父親のスパニア元皇帝。あれはメアリの祖父でお前の敵側だろ」
「お父様だって若い母様と再婚されたのですわよね? 前の義母様と離婚までして」とエリザベス。
「それは・・・」
「お父様とお母様、十歳以上離れてますわよね?」と、エリザベスは父親に追い打ちをかける。
「それは・・・」
そしてエリザベスは止めを刺すように言った。
「まさか、"俺の娘は誰にも渡さん"・・・なんて娘の恋人に刀を抜いて斬りかかるような、漫画やアニメのマンネリギャグの真似はなさいませんわよね?」




