第262話 ドラゴンの友達
フェリペ皇子は自分の海賊団を立ち上げるため、仲間探しを始めた。
先ずはドラゴンを仲間にと、マゼランとチャンダを供に、トレドの泉の妖精の情報でスパニア北部沿岸のアストリアに来た。
泉の妖精が語る、ドラゴンと共に暮らすという水の妖精の話を回想する。
「水の妖精なんだけど、シャナという子で、ケレブレというドラゴンと暮らしているらしいの」
そう言う妖精に、フェリペは「友達なんだよね?」
「同じ水の妖精だから。けど、そのドラゴンの眷属として妖精になった子で、元は人間で妖怪ハンターだったらしいよ」と泉の妖精。
そんな話を聞いてマゼランは「詳しい事は本人に・・・って訳か」と呟く。
アストリアの街で聞き込み。
三人で酒場に入り、ミルクと軽食を頼みつつ、店の主人から話を聞く。
ドラゴンに関して語り始めた店の主人。
「ケレブレってのは怖いドラゴンで、昔は人を食べたそうだ。人間の恋人が出来てから人を食べなくなったっていうけどね」
「その恋人って、シャナという女の子?」とマゼラン。
店の主人は「とても綺麗な子で、ドラゴンは一目ぼれだったそうだ」
「人身御供みたいにしてドラゴンの所へ?」とチャンダ。
店の主人は「というか、しつこい男に言い寄られて逃げて来たそうだ」
「どこに居る?」とマゼランが訊ねると、近くの席に居た海賊風のマッチョが言った。
「止めておけ。男が近づくとドラゴンは嫉妬に駆られて殺してしまうそうだぞ」
チャンダが「丸くなって人を食べなくなったんじゃ・・・」
「食べなくはなったが、前より危なくなったそうだ」と店の主人。
「女なら大丈夫なのか?」とマゼラン。
店の主人は「百合関係を妄想してもっと危なくなるとか」
フェリペが「実際に殺された奴は居るの?」
「そんな危ない所に行く奴はいないさ」
そう言って首を竦める店の主人に、マゼランは言った。
「そうか。だが、実は我々は、ドラゴン退治の騎士なんだ。うっかり近づいて人死にが出るといけないので、俺たちが退治してやる」
教えられた場所へ行くフェリペと二人の従者。
海が見える崖の上に、大きな洞窟の入口があり、水が流れ出ている。
その洞窟の前で、石焼き芋を焼いている女の子が居た。
「君がシャナか?」
そう問うマゼランに「お前達は?」
小柄で長髪な十代前半の少女。妙に醒めた感じの表情に、ぶっきらぼうな口調。
フェリペがすかさずボースをとって「僕は闇のヒーロー、ロキ仮面」
マゼランは困り顔で「あの、皇子。ヒーローは正体を明かしてはいけません」
「そうだった。僕はスパニア帝国皇太子、フェリペだ」
そう言って改めて名乗るフェリペに、女の子は「つまりロキ仮面の正体はフェリペ皇子という事か」
フェリペは「何故解った? ヒーローの正体は誰にも知られちゃいけない秘密なのに」
「そういう間抜けな会話は終わりにしませんか?」と困り顔のマゼラン。
「それで私に何の用だ?」
そう改めて問うシャナに、マゼランは「君というより、ここに居るドラゴンに用があるんだが」
「ドラゴンというのはアラストールの事か?」
そう言うと、彼女は洞窟に呼び掛ける。そしてドラゴンが出てきた。
「シャナ、友達かい?」
「何だか保護者目線な奴が来たんだが」と呟くマゼランとチャンダ。
ドラゴンはシャナに「君にボーイフレンドとは珍しいな。しかも三人も」
「こいつ等はアラストールに用があるそうだ」と、シャナはフェリペたち三人に視線を向ける。
「あの、ここに居るケレブレって・・・」
そうマゼランが言うと、ドラゴンは「私ですが、何か? ケレブレというのは種族名で、アラストールというのは彼女がつけてくれた名でして」
チャンダが「一目ぼれって聞いたけど」
「いや、私はロリコンじゃないですから。あくまで保護者というか、ほら、彼女って妹みたいじゃないですか」とアラストール。
マゼランが「つまり妹萌えゲームマニア?」
アラストールは困り声で言った。
「そういう発想で人を見るの、止めません? いや、彼女は命の恩人で、私が間違って焼けた石を食べてしまって熱で苦しんでいたのを見て、水に入って冷やせばいいと教えられて、それで助かったんです」
「それであなたはここの・・・」
そうチャンダが言うと、アラストールは「洞窟に湧く泉の守護者です。キリッ」
「水の守護者だったら自分で気づくと思うんだが・・・。それで何で焼けた石なんて食べたんですか?」とマゼラン。
「洞窟の前で彼女が石焼き芋を焼いていて、美味しそうだったんで、一つ貰って食べようとしたら、間違って石の方を食べてしまいまして」とアラストール。
「間抜けな話だな」と三人は呟く。
「それで、彼女をしつこく追いかけてきた奴を追っ払ったって聞きましたけど」
そうチャンダが言うと、シャナは「あいつの事かな? やたら顔がデカくて面の皮の厚い・・・」と言って、アラストールと顔を見合わせる。
「居るよねー、そういうキャラ」と声を揃える三人。
「プロポーズされたの?」とフェリペ。
シャナは「ってか、仕返しに来たとか言ってたけど」
「居るよねー。女に振られて逆恨みする男って」と声を揃える三人。
するとシャナはアラストールと顔を見合わせて「あれってオスだったのか?」
「もしかしてガチレズ?」
そう怪訝顔で言うマゼランに、アラストールは「ってか、モンスターですよ。飛行能力があって防御無敵で人を喰う」
マゼランが「どこかで聞いたような話だな」
「何て奴なの?」とフェリペ。
シャナは答えて「フライングヘッドって言ってた」
「顔がデカいというより顔だけの奴じゃん」とマゼラン。
シャナは「西の大陸に行った時に化物退治を依頼された相手なんだけど」
チャンダが「それで戦った相手に惚れられたと?」
シャナは言った。
「っていうか、出て来るのを待ってたら、お腹が空いて、石焼き芋を焼いて食べてたら、あいつが出て来て、美味しそうだから一つよこせって言われて、それでいいぞって言ったら、あいつ、間違って焼けた石を食べて」
「つまり自滅かよ」とチャンダはがっかり声で・・・。
マゼランも「ってか、それで仕返しとか、ただの逆恨みじゃん。惚れて追いかけてきた訳でも無いし」
するとアラストールが「けど、芋と間違えて自分で石を食べるとか、間抜けな奴ですよね。あははははは」
「いや、あんたもそれ、やったんだよね?」と三人声を揃えてアラストールに・・・。
「あ・・・」
残念な空気の中、落ち込むドラゴン。
この時まだ彼等は、かつてエンリたちが秘宝を目指して西方大陸西岸に辿り着いた時に、そのフライングヘッドという怪物が、爆雷を背負って鉄化したタルタによって、口の中から破壊されて倒された事は、知る由も無かった。
やがて、気を取り直したアラストールは「ところでシャナ、石焼き芋かい?」
「アラストールも食べるか?」とシャナ。
「一つ頂こう」
そう言ってドラゴンが爪先で焚火の中から摘み出したものを見て、シャナは指摘した。
「それ芋じゃなくて石だぞ」
「あ・・・」
「懲りない奴だなぁ」とあきれ顔のマゼランたち三人。
そんな彼等にシャナは「お前達も食べるか?」
「折角だから」と、焚火の中から焼けた芋を取り出す。
それを食べながらフェリペが「焼き芋だね」
「焼き芋ですね」とマゼラン。
「四人で食べるとあっという間だね」とマゼランは、芋の無くなった石焼き芋の跡を見て、言った。
「食べ足りない」と言い出すチャンダ。
「俺たちも弁当を持って来たんだが、食べます?」
そうマゼランに言われてシャナは「折角だから頂こう」
みんなでマゼランが用意していた丸いパンを食べる。
それを食べながらシャナは言った。
「これは美味しい。外がカリカリで中がモフモフ。何という食べ物なんだ?」
「メロンパンですよ」
そう答えたマゼランにシャナは「こんなもの、どこで手に入るんだ?」
マゼランは「スパニアの都に行けば、いつでも」
「ところで私に用があったのでは?」
そう問うアラストールに「そうだった」と、本来の目的を思い出す三人。
フェリペは巨大なドラゴンのアラストールに言った。
「君、僕の部下にならないか? 海賊団をつくって海に出て冒険したいんだ」
アラストールは「私はシャナの行く所なら・・・」
するとシャナは「お前達と一緒に行けばメロンパンを食べられるのか?」
「もちろん」
「なら、仲間になろう」
食べ物に釣られて海賊団入りを承諾したシャナに、マゼランが心配顔で言った。
「けど海賊ですよ。こんな女の子には危ないのでは?・・・」
「戦いなら、私はプロだぞ」
シャナはそう言って、手元にあった刀を抜く。
すると、その刀身は灼熱の炎に包まれ、彼女の髪と瞳は赤い炎の気を放つ。
「私はフレイムヘイズ族の戦士シャナ。妖魔トモガラを狩る妖怪ハンターだ」
「シャナさんって水の精霊って聞いたけど」
そうフェリペが言うと、アラストールは「私が水の守護者の資格で霊格を付与したのです。それで妖精の姿でずっと一緒に。元は人間なので水を離れても大丈夫です」
シャナは僅かな身の回りの荷物をまとめると「それでどこに行くんだ?」
「先ず、宮殿に戻って叙任だよね」と、嬉しそうに言うフェリペに、マゼランは巨大なアラストールを見て、言った。
「それよりドラゴンの姿だと、目立って厄介な事になりますよ」
「大丈夫。私には変身能力がある」
アラストールはそう言うと、ペンダントに変身し、シャナはそのペンダントを首に下げた。
三人の従者を背に、五歳のフェリペ皇子は「ドラゴンの仲間、ゲットだぜ。もっと仲間を集めて、僕たちの海賊団の結成だ」




