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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第261話 海賊王の条件

エンリ王子に連れられてスパニアの宮殿に戻ったフェリペがマキャベリの授業を終えて、エンリの仲間たちとわいわいやっていた頃・・・。


イザベラとエンリは、授業を終えたマキャベリと向き合っていた。

紅茶と茶菓子を前にしていたが、これがただのティータイムで無い事を理解出来ないマチャベリでは、もちろん無い。



先ず、エンリが口火を切る。

「ウクライナとイタリアでの騒ぎについて・・・」

イザベラはエンリの足を思い切り踏んだ。

そして彼女はエンリの耳元で「この人が直球で聞かれてホイホイ本音を言う訳無いでしょ」


イザベラは、改めてマキャベリに向き直ると「我がスパニアが進むべき道について、学部長はどうお考えかしら」

「一つ言えるのは、教皇庁はもはや脅威ではない・・・という事ですね」とマキャベリ。


エンリは「つまり放置しても問題は無いと?」

イザベラは「というより、彼等の地盤を容赦なく奪って良いと?」

「それで信仰心の篤いイタリア人の反発を招かないのでしょうか?」とエンリ。

マキャベリは「各国の民が自らの国の自立を求める中で、イタリア人だけが例外で居るとお思いですか?」



「つまり、教皇庁という存在は消滅すると?」

エンリがそう問うと、マキャベリは答えた。

「消滅はしないが、調整役として各国の間を取り持つだけの存在になるでしょうね。それともう一つの役割は、海外への布教です。国教会同盟はユーロを主導します。ですが、肝心の国教会は国家の保護の元に安住し、信教の自由という緩い認識の中で、海外に出向いて布教するような険しい道を歩く僧侶は居ないでしょう」


「それに代わる布教という訳ですか?」とエンリ。

「植民地の民と本国を繋ぐ役目・・・という事になるかと。各国における教会組織は、その国の代弁者として教皇庁に影響力を行使する事になるので、繋がりは維持される。その意味で、イタリアはいざという時、助けて恩を売るだけの価値はあり、かつ敵に回すと厄介な存在にもなり得るでしょうね」とマキャベリ。


「どういう時に敵に回す事になるのでしょうか」とエンリ。

するとイザベラが「イタリアの自立を脅かす時、という事ですわよね」

それを聞いて頷くマキャベリを見て、エンリは思った。

(それが、この男の目的・・・という事か)



「イタリア自身が周囲を支配する・・・という事は有り得ないと、そうお考えでしょうか」とエンリ。

「我々に覇権者たる野心が無い、と言っても、誰も信じないでしようね。けれども、かつてのルネサンスの中で、イタリアはユーロの文明を主導しました。もしそんな野心がある者が居たら、あのチャンスを逃さなかった筈です」とマキャベリ。

「けど、新たな文明で人々を引き付ける力は、他者を従える軍事力とは違いますよね」とイザベラ。

マキャベリは「そうですね。軍事力のようなハードパワーとは異なる高度な学術と知識。即ちソフトパワー。しかしそれは、ハードパワーを持つ人の心を直接動かす事で、ハードパワーを動かす力となり得ます」


「今まで保護者として振舞って来たドイツ皇帝は?」とエンリ。

「あれはプロイセンに地位を乗っ取られて消滅しますよね?」とイザベラ。

するとマキャベリは「いえ、彼等なりの存在意義はあります。それは、ハンガリーを通ってオッタマへ向かうという事です」

イザベラは「けど、オッタマはもう脅威ではありませんよね?」

「だからですよ。あの地をロシアが手に入れようと南下している。このままあの地がロシアに併呑されたら、ロシアが地中海に出て、このイベリアにとっての脅威になり兼ねない」とマキャベリ。


エンリは言った。

「つまり地中海という平和の海を守る立場として、イタリアとイベリアは一蓮托生という事ですか?」

マキャベリは「解って頂けましたかな?」

「ですが、イタリアに影響力を持ちうる国として、フランスがありますよね」とイザベラ。

「そこなのです。イギリスとフランスは、今後のユーロ文明の柱となり得る。あの国が本気でユーロ全域に覇権を求めて平和を乱す事の無いよう、国教会同盟でしっかり手綱を握っていて欲しいのです」とマキャベリ。


イザベラは言った。

「西方大陸は、何時まで我が国の領土であり続けるとお思いですか?」

「何時まで・・・ですか? どうすれば・・・ではなく」と、マキャベリは意外そうに言った。

「永遠に繋ぎ止めておく事が可能と?」

そう問うイザベラに、マキャベリは言った。

「それは、世界から国境を無くせば平和になるというのが嘘か本当か・・・という命題と同じですね。この大地が広大な宇宙に浮かぶ球体だとして、"その宇宙から地上を眺めれば国境など見えないのだから世界は一つ人類皆兄弟だ"などと言うのは、どこぞの宇宙飛行士スポコンの世迷言だけで十分かと」

「そういう危ない話は止めにしません?」と困り顔のエンリ。


マキャベリは更に言った。

「国家は社会を運営する道具なのだから、"市民にとって必要不可欠なものは国家ではなく社会だ"という詭弁は成り立ちません。市民にとって社会が必要なら、それを運営する国家もまた必要というという事になる。その社会が多くの人が共に暮らすものであるなら、国家とは王ではなく、その"共に暮らす国民"です」

「・・・」

「まさか自分達の立場が否定されたと怒ったりしませんよね?」

そう問うマキャベリに、エンリは困り顔で「まさか」

「あなたが言う、"商人の持ちたる国"とは、そういう事です」とマキャベリ。

「・・・」


「そして、それはその主体たる国民が、外国人でも"世界市民"でも無く、"自国民"としての意識と自覚を持った民で無ければならないと。それがユーロの文明の価値観の柱となる。そしてその価値観は、ユーロ人が進出した地に根付くでしょう。ならば、西方大陸の民も独立を望む事は必然です」とマキャベリ。

「私たちはあの地との繋がりを失うのでしようか?」とイザベラ。

「いえ。別の繋がりを持つ事になるでしょうね。それは例えば、かの地に根付くであろうスパニアの文化」とマキャベリは言った。



エンリ王子たちがポルタに戻った後、フェリペはエンリの仲間たちが言った言葉を噛締めていた。


そして家庭教師の授業の合間、控えているマゼランに言った。

「なあ、マゼラン」

「はい」

「僕はいつか父上みたいに海賊団を率いて世界に冒険に出る。そのために必要なのは、仲間を集める事だと思うんだ」

そう切り出したフェリペに、マゼランは「なら、家来たちから・・・」

フェリペは「通り一遍の奴じゃ駄目だ。いろんな所に行って、いろんな奴を仲間にするんだ」


「先ず、どんな仲間を見つけますか?」

そう問われて、フェリペは言った。

「ファフ姉様みたいなドラゴンが欲しいな。



魔法の家庭教師に質問するフェリペ。

「先生、教えて欲しい事があります」

「何ですか?」


何時になく、目の前に居る生徒が、やる気を見せている・・・と勘違いして嬉しそうな教師に、フェリペは問うた。

「ドラゴンと友達になるにはどうしたらいいの?」

「・・・」

唖然とする教師にフェリペは「先生もドラゴンの事、知らないの?」

教師は慌てて「そそそそんな事はありませんよ。ただ、大人にならなければ・・・・・」


「子供じゃ駄目なの?」

そう不満そうに言うフェリペに、教師は言った。

「お酒は二十歳になってから、ですよね。大人になって酒場に行き、お酒に酔って帰る途中、たまにメイド志望の人化ドラゴンに出会ってお持ち帰りする事があると聞きます」



剣術の教師に質問するフェリペ。

「先生、教えて欲しい事があります」

「何ですか?」


何時になく、目の前に居る生徒が、やる気を見せている・・・と勘違いして嬉しそうな教師に、フェリペは問うた。

「ドラゴンと友達になるにはどうしたらいいの?」

教師は自信に満ちたドヤ顔で「剣術を極めてドラゴンバスターを使えるようになる事です」


フェリペは「そうすればドラゴンが家来になるの?」

教師は更に自信に満ちたドアップ顔で「ドラゴンより強くなって、ドラゴンは不要になります」



歴史の教師に質問するフェリペ。

「先生、教えて欲しい事があります」

「何ですか?」


何時になく、目の前に居る生徒が、やる気を見せている・・・と勘違いして嬉しそうな教師に、フェリペは問うた。

「ドラゴンと友達になるにはどうしたらいいの?」

教師は言った。

「ドラゴンの歴史を勉強して、あらゆる知識を網羅した歴史の大家になる事ですね」


「先生は歴史をいっぱい勉強して大家になったんですよね?」とフェリペ皇子。

教師は「もちろんです。先生は何でも知っていますよ」

「それでドラゴンと友達になれたの?」とフェリペ皇子。

「・・・・・」



マゼランに愚痴るフェリペ。

「結局、どの先生に聞いても、みんな知らないんだね」


マゼランはしばらく考え、そして言った。

「人間に聞いても駄目かも知れませんね。ドラゴンはファンタジー生物だから、ファンタジーな人に聞かないと」

「ファンタジーな人って?」

そう問うフェリペに、マゼランは「例えば妖精とか」



フェリペは、マゼランとチャンダとともにトレドの街へ行き、泉の妖精の所へ・・・。


「フェリペ様、今日はどんな御用でしょうか」

そう言いながら泉の水面に現れた妖精に、フェリペは言った。

「実は父上みたいな海賊団をつくって冒険したいんだけど、欲しいものがあるんだ」


「魔剣ですか?」

妖精のその言葉に、フェリペは思わず身を乗り出して「魔剣が貰えるの?」

妖精は「あれは初代王のアルフォンス様に私が差し上げたものなんですけど、残念ながらあれ一本しか無いので」

「そうか。残念だなぁ」


そう言って帰ろうとするフェリペを、マゼランが引き留める。

「あの、フェリペ皇子。用事はそれじゃなくてドラゴンなのでは?」

「そうだった。ドラゴンの友達が欲しいんで紹介して欲しいんだ」

そう、思い出したように言うフェリペに、妖精は言った。

「生憎ドラゴンに友達は居ないのですが、ドラゴンの友達の友達なら・・・」


マゼランは「皇子。友達の友達はみんな友達です」

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