第26話 鋼鉄の真相
南方大陸を迂回してアラビアの海に入ったエンリ王子たちの船は、オッタマ帝国海軍に包囲されて危機に陥った。
それを救った魔女のセイレーンボイス。
人魚姫リラと魔女は、寝落ちした仲間たちを起こす。ファフもようやく目を覚ました。
状況を聞いたエンリたち。
「助かったよ、魔女さん」とエンリ。
「ところで、敵はどうしよう」とアーサー。
エンリは「面倒だ。目を覚ますと厄介だし、ファフ、焼いてしまえ」
「了解」
そう言うはファフはドラゴンになって、炎で敵船を次々に焼き払う。
そんな中でエンリが「とにかく港へ向かおう。この船も危ない」
「港まで保ちませんよ」とアーサー。
タルタが「敵の船を一隻頂いて行こう」
するとリラが「敵の船、燃えてますけど」と筆談の紙に・・・。
エンリは慌てて「そーだった。ファフ、焼き払い中止」
辛うじて残った船を奪って脱出するエンリ王子たち。
戦場の海域から離脱し、港を目指す航路に乗って落ち着くと、エンリはアーサーに言った。
「敵兵を無駄に殺さぬようにって、こういう事だったのか」
そしてエンリ王子は魔女に話しかける。
「にしても魔女さん」
「マーリンよ」と魔女が名乗る。
「それが魔女さんの名前?」とエンリ。
「そうよ。お久しぶりね、アーサー。時計塔以来かしら」
と、マーリンはエンリに答えると、傍に居るアーサーに話しかける。
「人違いかと」とアーサーは慌てて明後日の方を向いた。
「アーサー、知り合いか?」とエンリはアーサーに・・・。
マーリンは「一緒に魔法を学んだクラスメートよ」
「思い出したくもない」とアーサー。
アーサーの曝露話を披露する魔女マーリン。
「俺は君のせいで女性不信になったんだ」と、ふて腐れた表情のアーサー。
「もう女なんか好きになるもんかぁ・・・とか?」とジロキチ。
「悲惨な青春だな、おい」とタルタ。
「ほっとけ」とアーサー。
「けど、私には好意をもってくれたんですよね?」とリラが筆談の紙に・・・。
「いや、姫は王子のことが」とアーサー。
「だからお友達になったんですよね」とリラが筆談の紙に・・・。
するとニケがリラに「お城で財宝に手を出したのを庇ってもらったとか?」
「ニケさんじゃないんだから」とエンリ。
リラは筆談の紙で「何で解ったんですか?」
「そうなの? けど財宝って」とエンリはリラに・・・。
「魔道具ですけど。この念話の」とリラが筆談の紙に・・・。
「姫だったのかよ。一つ紛失したって大騒ぎになってたぞ」とエンリ。
「ご・・・ごめんなさい」とリラが慌てて筆談の紙に・・・。
アーサーも慌てて「いや、これは声を出せない姫が王子に想いを伝えようとしたもので」
「それでアーサーさんが相談に乗ってくれて」とリラが筆談の紙に・・・。
タルタはアーサーに「お前、いいやつだな」
「けど、意識を集中しないと思った事がダダ洩れになるって、教えて貰えなくて」とリラが筆談の紙に・・・。
「あ・・・忘れてた」とアーサー。
「おかげで近辺の魔物に王子様への想いを全部聞かれちゃって、すっごく恥ずかしい思いを」とリラが筆談の紙に・・・。
アーサーはリラに「悪かった。ごめんなさい」
「アーサー最低」とニケ。
「いや、わざとじゃ」とアーサー。
「事故で済むと思ってるの?」とマーリン。
アーサーは「王子って魔力無いから、魔道具で念話する事も出来なくて、代わりのやり方考えるのに気を取られて、筆談思いついたのも俺なんだからね」と弁解する。
「ファフはどう思う?」とニケがファフに振る。
「アーサー・・・有罪」
そう言ってファフが両手で×のポーズをとると、上から多量の水が落ちてアーサーずぶ濡れ。
そんな馬鹿騒ぎが一段落すると、エンリ王子は「ところでマリーンさんのその技」と、オッタマ艦隊を眠らせた魔法について尋ねた。
マーリンは「セイレーンボイスよ」
「凄いですね。敵を全部眠らせるとか」とエンリ。
「全体攻撃だよな」とジロキチ。
「おかげで助かりました」とリラが筆談の紙に・・・。
するとマーリンはリラに「何言ってるの。これ元々、あなたの能力なのよ」
「そうなんですか?」とリラが筆談の紙に・・・。
「人魚の声が持っているスキルよ。人間の体と交換したんじゃない」とマーリン。
「私にそんな力が。それがあればもっと王子様のお役に立てます。返してもらう訳にはいきませんか?」とリラが筆談の紙に・・・。
「取引が成立した以上は私のものよ」とマーリン。
「けどさ、人化したらそれっきりの型落ち魔法で全体攻撃の強力スキルを交換とか、相手が知らないのをいいことに商売アコギ過ぎだろ」とタルタが言い出す。
「価値を知らないのが悪い。取引の損得は自己責任よ」とマーリン。
「けど等価交換って言ってませんでしたっけ?」とリラが筆談の紙に・・・。
「一週間のクーリングオフ期間はとっくに過ぎてるわ」とマーリン。
そんな中でニケが「ところで、もうすぐ港だけど」
船は港が見える位置まで来ていた。
その時、1隻の武装船が接近。そして武装船は大声でエンリ王子たちの船に・・・。
「そこの船、停船しなさい。こちらはオッタマ帝国海上警察」
武装船を見てタルタが「面倒な奴等に見つかったな」
「鋼鉄の砲弾で黙らせてやれ」とエンリはタルタに・・・。
「了解」
タルタはそう言うと、相手の船に向けて跳躍して鉄化し、自らを砲弾と化して一撃で沈める。
そのボルタの得意技を見て、マーリンは目を丸くした。
タルタが船に戻ると、マーリンは「あの、今のは」とタルタに・・・。
「俺の異能で、鋼鉄の体になれる」とタルタ。
「それ、錬金術じゃない?」とマーリン。
「そうなの?」とタルタ。
マーリンは言った。
「失われた賢者の術よ。どこでどうやって手に入れたのよ」
「変な木の実を食べた」とタルタ。
「それ、賢者の木よ。どこに生えてたの?」とマーリン。
「ギリシャだよ」とタルタ。
「案内しなさい!」とマーリン。
ニケも目の色を変えて言った。
「ちょっと待ってよ。錬金術って、鉄を金に変える、あれ?」
「元素はその状態のあり方によって様々な金属になるの。その在り方を操って別の金属に変化させるのが錬金術よ。賢者の石という媒体を使うんだけど、その研究課程で生まれたのが賢者の木なの。実在していたなんて」とマーリン。
「レオナルド先生も研究してた」とニケ。
マーリンはニケに「あなたも宇宙の真理に関心が?」
「お金にしか興味無かったんじゃ・・・」とタルタがニケに言う。
ニケは「失礼ね。自然界の仕組みを解明してその根源に迫るのは人類全ての夢よ。知的好奇心は人間の本質なのよ」
「そういえば、緯度経度の計測法を考えて世界地図作るとか、音の反射から海の深さ計るとかも」とアーサー。
「ニケさん天才」とタルタ。
「哲人賢者ニケさん」とジロキチ。
ニケは「そして錬金の秘術を極めてどんどん金を作ってお金をガッホガッポ・・・って、みんな、どうしたの?」
「結局それかよ」と、がっかり声のタルタ。
「俺の感動返してくれ」とジロキチ。
一息ついて落ち着くと、マーリンはタルタに言った。
「とにかく、その賢者の木まで案内を頼みたいんだけど」
「とは言っても本国から依頼された仕事があるし」とアーサー。
するとエンリは「いや、南方大陸の迂回ルートを見つけて、異教徒の海に辿り着いたんだから、後は奴等が開拓した交易路に乗るだけだろ」
「ここからポルタを通ってギリシャは、航路が解ってれば簡単よ」とニケ。
「そーいやマーリンさんはどうやってここに?」とエンリがマーリンに・・・。
「スパニア諜報局の依頼でオッタマに潜入したのよ。魔導士仲間の人脈を伝って、オッタマの大魔導士に渡りをつけて、ついて来たら、あんたらと海戦になってたんだもの。まあ、目的の魔導書は頂いたし・・・」とマーリン。
「大魔導士って、さっきの艦隊に居た魔導士かよ」とタルタ。
「彼らに頼めばギリシャまでは直線ルートよ」とマーリン。
「頼めばって、さっきの海戦でやつら壊滅したのと一緒に海の藻屑では」とアーサー。
それを聞いてマーリンは焦り、言った。
「そーだった、私、どうやってポルタに返ればいいのよ」
そんなマーリンにエンリ王子は言った。
「一緒に乗せていってやるよ。その見返りに姫の声を返してもらうって事でどうかな? ついでにその賢者の木までの案内もつけて」




