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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
259/562

第259話 北方の人魚

ノルマン同盟の式典のため、リラを伴ってデンマルクのコペンを訪問したエンリ王子。

ノルマン王国からカール王子も参加し、式典は滞りなく終わった。



式典の日の夜、コペンの城で夜会が開かれた。


酒を酌み交わすデンマルク王とカール王子、そしてエンリ王子。

酒に酔ったカール王子は、デンマルク王の黒歴史を語り出す。

「同級生と一緒にこの城に呼ばれて、何かと思ったら、水槽の魚と結婚式を挙げるから神父役になってくれと・・・」

思わぬ所に同類が居たと、エンリは大喜び。


必至に曝露話にストップをかけようとするデンマルク王に、エンリは「あなたもお魚フェチだったんですか?」

「いや、先祖がそうだったってだけなんだが・・・」と口を尖らすデンマルク王。

「遺伝とか?」

そう未練がましく言うエンリに、デンマルク王は「無いよ」

エンリは「残念だなぁ」


「いや、勘弁してくれ。祖先が変態だと子孫まで変態呼ばわりとか」とデンマルク王。

「私も祖先がロリコンのせいでロリコン呼ばわりされていまして」とエンリ王子。

デンマルク王は「ロリコンならまだいい。お魚フェチだぞ。そんな有り得ない変態性癖の持ち主だとか、勘弁してくれ」

「私、その有り得ない変態性癖なんだけど」

そう言って落ち込むエンリ王子。



「ってか、だったら何で魚と結婚?」

そう訊ねるエンリに、デンマルク王は「水魔法が強くなるのではと」

「つまり、ただのこじつけだよ」と笑うカール王子。


するとエンリは、隣に居るリラに視線を向けて、言った。

「いや、そうでもないかも。リラは人魚だから強力な水魔法が使えるんだ」

リラを見て驚くデンマルク王。

「君は人化マーメイドなのか?」

リラは恥ずかしそうに「はい。海を愛するエンリ王子に恋をして、人になる魔法をかけて貰って王子に仕えました」


デンマルク王は真顔になると、リラに言った。

「だったら、後で見せたいものがあるんだ」



翌日、デンマルク王はコペン城の中庭に、エンリとリラを案内した。

そこには人魚の銅像があった。

それを見てリラは言った。

「これ、私の祖母です。昔見た彼女を描いた絵とそっくり」


デンマルク王は不思議そうな顔で「かなり昔の人なんだが」

するとリラは「人魚はエルフほどではないけど長命なんです。だから私も実は50才過ぎてまして。人間で言えばまだ女の子ですけど」

「初めて聞いたぞ」とエンリ。

「聞かれませんでしたから」とリラ。

エンリは合点がいったという顔で「けど、すると人魚の肉を食べれば永遠の命って、人魚が長命だった所からついた尾鰭か」


「それでこの像って?」

そうエンリが訊ねると、デンマルク王は言った。

「先祖が愛した人魚姫です」

「な・・・」

エンリは脳内で呟く。

(リラみたいなのが他にも居たんだ)



そしてデンマルク王は、彼の祖先と人魚の娘との恋の物語を語り始めた。

「彼女は先祖に恋をして、魔女と取引して人間の体を得て、魔女から魔法を教わっていた賢者アンデルセンの紹介で小間使いとして採用されたそうです」

リラは「私も小間使いとして、エンリ様の元に来ました」

「誰に紹介して貰ったの?」

そうデンマルク王に問われて、リラは「募集のチラシを見たんですが」


デンマルク王はあきれ顔で言った。

「そんなので雇ったらスパイが入り放題だぞ」

「そう言えば・・・」とエンリ王子。

「おいおい、ポルタ王国大丈夫か?」とデンマルク王。

「確かに」とエンリ王子。

デンマルク王は言った。

「"スパイ天国"とか呼ばれた何時ぞやのジパングじゃあるまいし、スパイ防止法くらい作った方がいいぞ。オランウータンみたいな反対派教授が歯を剥き出して"そんな法律作る奴は人間じゃない叩き切ってやる"・・・なんて叫んで鉄砲玉に改造銃持たせて送り込む訳じゃないだろ」

「そりゃまあ・・・って、そういう危ない話はいいから」



話を戻して、リラは尋ねた。

「それで、彼女はどうなったのですか?」

「王子だった先祖は彼女に強く惹かれたが、手を出す事は出来なかったそうです」とデンマルク王。


「人間の姿だから?」

そうエンリが言うと、デンマルク王は「いや、惚れられたからって簡単に手を出して、行く所まで行くってのは、恋愛創作物としてご法度ですよ」

「そんなの性道徳教育の中だけでいいよ。リアルじゃ絶対流行らないから」とエンリ。

「そりゃヤリチンの論理だと思うが」とデンマルク王。

「矯風会とかいう性嫌悪カルトのバアサンよりマシかと」とエンリ王子。

「そんな事言ってると、彼女が妊娠して逃げようとして刺されて首だけお持ち帰りされてボートで漂流エンドって目に遭うぞ」とデンマルク王。

「そういう危ない話は止めませんか?」と、リラは困り顔で・・・。


そしてデンマルク王は言った。

「というより、彼はお魚フェチを克服する特訓中だったのです」



デンマルク王の昔話は続いた。


世継ぎを残すために、人間の女性を愛して王妃を迎える必要に迫られた彼は、人魚だった彼女を愛する訳にはいかなかった。

彼は家来たちに諫められ、必死に人魚姫に距離を置いた。


そんな中で、人魚姫は言った。

「実はこの魔法には副作用があって、三か月以内にキスしてくれないと、私は泡になって消えてしまうのです」

「魔法を解く事は出来ないのか?」とデンマルクの王子。

人魚姫は一本の短剣を示して言った。

「一つだけ方法はあります。この短剣で王子の胸を刺して、その血で足を濡らせば、足は人魚の尾に戻ります」

デンマルク王子は「だったらそれで私を刺してくれ」

人魚姫は「王子様が死んだら私は生きていけません」


そして王子は一度だけならと、人魚姫にキスをした。



「それで彼女は泡にならずに済んだのですか?」

そうリラが訊ねると、デンマルク王は「それが、その後、四か月以内に抱いてくれないと泡になって消えると言われて・・・」

「結局、行く所まで行った訳ね」とエンリ王子。


残念な空気の中、リラは「それで泡にならずに助かったと」

「いえ、更にその後、五か月以内に結婚してくれないと泡になって消えると言われて、ついに彼は人魚姫を連れて駆け落ちしたと。そして二人きりで結婚式を挙げる直前に家来たちに捕まって引き離されて、彼女は泡になって消えたと聞きます」とデンマルク王。

「・・・」


そしてデンマルク王は言った。

「結局彼は、人間の姿の彼女を抱いた事でお魚フェチを克服し、王となった彼は政略結婚で迎えたノルマン公の姫との間に子をもうけた。私が今居るのは彼女のお陰なのです。そして彼は犠牲になった彼女のために、この像を建てたと」

「祖母様にそんな事が・・・」とリラは涙目で・・・。


「彼女は彼の元に来るために、人の姿を得た対価として、声を差し出した」とデンマルク王。

「私もそうでした」とリラは涙を流しながら・・・。

「想いを遂げないと消えてしまうというリスクを冒して」とデンマルク王。

「なんて強い愛の力」とリラは感動の涙を拭いながら・・・。


「しかも魚の尾を二本の足にするため刃物で裂いた痛みがずっと続くというのです」とデンマルク王。

「聞くだけで胸が痛みます」

そう言って涙で目を腫らしているリラに、デンマルク王は「ところで君は大丈夫なのか?」

「へ?」

「同じ魔法を受けたんだよね?」

そう不思議そうに尋ねるデンマルク王に、リラはきょとんとした顔で「痛い事はされませんでしたが」


「魔法技術が発達したからかな?」

そうデンマルク王が言うと、エンリは「マーリンさんが術式を改良したんだよ。あの人、凄い魔導士だものな」

リラも「悪い事言っちゃいましたね。人になったらそれっきりの型落ち魔法とか」



そんな会話を交わしながら、エンリの脳裏に引っかかるものがあった。

(何かがおかしい)


「ちょっと待て。お前の親って、そのお祖母さんから生まれたよね?」

そうエンリに問われたリラは、きょとんとした顔で「そうですが」

「その人が泡になって消えたとしたら、お前はどうやって生まれた?」とエンリ王子。

「・・・」


隙間風が舞い込む中、リラは思い出したように、それを語った。

「そういえばお祖母様、言った事があります。昔、人間の世界で王妃の地位をゲットし損ねたと」

デンマルク王唖然。「何ですとー!」


エンリ、あきれ顔で「つまり死んでなかったと。泡になって消えるって嘘か?」

デンマルク王、あきれ顔で「刃物で裂かれる痛みってのも?」

そしてリラも「お祖母様言ってました。恋愛の秘訣は同情を引く事だって」



とてつもなく残念な空気の中で、だがデンマルク王は、像の傍らにある小さな墓石に手を当てて呟いた。

「良かったね。あなたの人魚姫、死んでなかったんだよ」

「その墓は?」

そうリラが訊ねると、デンマルク王は「人魚姫を愛した先祖の墓さ」

「昔の人の墓にしては墓石が新しいけど」とエンリ。


デンマルク王は言った。

「昔は墓石の代わりに人魚姫が持っていた短剣が刺してあったんだ。それが錆びたんで作り直した」

「王様の墓なんだよね? それが短剣を刺しただけなんて」とエンリ王子。

「そうするように遺言があったんだよ。きっと彼女を犠牲にした自分を責めていたんだろうね」とデンマルク王。



しんみりした空気の中、リラは像を見て言った。

「おばあ様、若いころは綺麗だったんですね」

エンリはリラの両肩に手を置いて「お前も綺麗だ」

リラはエンリと向き合って「王子様」

「姫」

「王子様」

デンマルク王、困り顔で「そういうのは後にして」


二人の世界から引き戻されたエンリとリラ。

そしてエンリは言った。

「ところでこの像、さっきから気になってたんだけど、この人魚の尻尾、途中で360度に曲がってるのって、魚の尻尾にしちゃ有り得なくない? これじゃまるで、下半身に魚の着ぐるみ着た人間が膝を曲げて座ってるみたいだ」

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