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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
257/562

第257話 宝石と球根

トルコの地方領主フェルハト王子の領地を奪って拠点化しようとしたロシア暗殺集団ワグネルの野望は、エンリ王子たちによって阻止された。



ワグネルの武力行使によって破壊された街の復興は翌日も進んだ。

瓦礫の撤去と壊れた家の再建で、忙しそうに働く人々。

フェルハト王子が、つるはしを振るって瓦礫の山を削る。

そんな彼の姿を見て、あれこれ噂するエンリ王子たち。


「あの王子が肉体労働かよ」とタルタ。

「甘やかされてるだけの人じゃ無いって事ですかね」と若狭。

エンリが「そういえばあのつるはし、ニコラウスピッケルって呼んでたね」

彼は、宙を飛んで来たつるはしを振るって戦ったフェルハトの姿を思い出す。

そして「やっぱり、何かの宝具なんだろうね」



エンリたちは、一休みするフェルハト王子の所に行って、つるはしについて尋ねる。


フェルハトは答えた。

「これは私の先祖の一人が修道院跡で見つけたもので、不思議な力があるのです」

「立ち入り禁止だった所を調査して秘宝を発見したと?」

そうエンリが確認すると「子供の頃に冒険のつもりで入って、後でしこたま叱られたと聞きます」

残念な空気が漂う。


「それで、不思議な力って?・・・」

そうリラが訊ねると、フェルハトは「宙を舞ってひとりでに動く事が出来る」

「グングニルの槍と同じね」とニケ。

そしてフェルハトは「それと、掘削に使うと異様に作業がはかどるんです。先祖は、自ら民に混じって用水の補修でつるはしを振るって、その特性を発見したと聞きます」

エンリはチューリップの伝説を思い出す。

そして「フェルハトが用水を掘ったって、全部が嘘じゃなかったのか」


 

エンリ達がこの地を去る時が来た。

フェルハトは別れの宴を開く。二人の王子が膝を交えて語り合った。


街の人たちに混じってわいわいやる、四人のフェルハトの婚約者を見て、エンリは言った。

「あの四人って、本当にあなたの好みなんですか?」

フェルハトは「変わってるって言われますが、みんな解ってくれます。蓼食う虫も好きずきって」

リラは思わず身を乗り出して「本当にそうですよね。私もエンリ様に恋をしてお傍に仕え、愛して頂きました。それで、何で変態お魚王子なんて好きになるのか? って言われますけど、みんな解ってくれます。蓼食う虫も好きずきって」


飲み物を盛大に噴くエンリ王子。

フェルハト王子は怪訝顔で「あの、変態お魚王子って何ですか?」

エンリは慌てて「何でもない」

「気になるんですけど」

と、あくまで追求しようとするフェルハトの肩に手を置いて、エンリは「実はポルタの国家機密で、けして人に漏らしてはいけないんです」


するとタルタが「あれって国家機密だったの?」

ジロキチが「ボルタの人はみんな知ってるけど」

カルロが「魚に欲情するお魚フェチなんてただの個性だって王子、いつも言ってるよね?」

「事実陳列罪は死刑な」

顔を赤くしてそう言うエンリに、アーサーは「そんな法律ありませんよ」



エンリは溜息をついて「ってか何で俺の話になるんだよ」

「こっちの王子様の筋肉フェチの話ですよね?」

そんなカルロの軽口を聞いて、エンリは「失礼だろ。ってかそれが本当なら・・・だけど。けど、フェルハトさんってシリンさんの事が好きなんだよね? 本当は普通並みに、こういう子が好みなんじゃないの?」


フェルハトは少しだけ真顔になって、言った。

「アラビアの教えでは何故、一度に四人まで結婚出来るか解りますか?」

カルロは「ハーレムは男のロマンだからですよね?」

「そういう話じゃないと思うぞ」とエンリ。


フェルハトは「アラビアの預言者には、もっと何人もの妻が居たそうです。けど、みんな40過ぎの売春婦だった人でした。そういう行き場の無い女性を妻として迎える事で救うのが、余裕のある男性の役目なのです」

「じゃ、あの4人も?」

そう言って顔を曇らせるニケに、フェルハトは「迎えてくれる男性が居なかったのです」


若狭が「そういう自己犠牲はどうかと思うけど。それで、本当に好きな子が小間使いとか・・・」

すると美少女シリンが「けど、私は幸せです」

フェルハトも「ここのみんなが私を愛し、私はみんなを愛する。あの4人もシリンも、その一人なのです」

「けどなぁ・・・・・」と口ごもるエンリの仲間たち。



宴が終わり、後片付けが始まる中、ニケがエンリに言った。

「ねぇ、王子。ここの人たちって、みんなが一人を愛して、その一人がみんなを愛するって、お約束として設定されてるだけなんじゃないのかな?」

アーサーも「嘘臭い気もするよね。その一人がみんなの中の一人一人に、何が出来るんだろうって」

ファフも「あの聖者も結局何もしなかったもんね」

タルタが「罪を許すって言ってもなぁ・・・」

リラが「カステリオンさんが言ってた"寛大"ってそういう事なんですよね。それってどんな意味があるのかな?」


エンリは暫し思考を巡らせると「怒らないって楽だよね。何に対してもみんなが怒らなければ、みんなが楽になれる」

「けど、怒らなきゃいけない事は必ずありますよ。相手の寛大さに付け込んでやりたい放題やる奴が居る。そうしたくて寛大を要求する奴とか」とアーサー。

そしてエンリは言った。

「それに、赦し・・・って"赦す相手"に対して優位に立つんだよね。だから、捏造で相手を加害者呼ばわりして、赦す立場を自称する。相手は報復されないから無害だと思って見過ごす。それで、赦した側だと思い込んだ奴が上から目線で、あれこれ理不尽な事を要求する。歴史の捏造に関して嘘を嘘と指摘するなとか」



出立するエンリ王子たちを見送る館の人たち。

別れ際にニケがフェルハトに言った。

「ところで、ブルーストーンってここの特産品なんですよね?」

「あれも、先祖が用水路を掘削する時発見したのです」とフェルハト。

「あの用水の底から?」

そう問うニケに、フェルハトは事もなげに「少し深く掘れば、原石はいくらでも出て来ますよ」


ニケは物欲しそうな目で「分けて貰えませんか?」

「好きなだけどうぞ」

そう言って、大きな袋一杯の原石をニケに差し出すフェルハト王子。

「王子様大好き」

そう言って嬉しそうにフェルハトに抱き付くニケを見て、エンリたちはあきれ顔で「この女は・・・・・・・」



ポルタに戻ると、早速ニケは宝石商ギルドに、大きな袋に一杯の原石を売りつけに行った。

ギルドのマスターはその原石を調べると、ニケに「20枚ですね」


ニケ唖然。

そして食ってかかりそうな勢いで「こんなにあるのよ」

マスターは溜息をついて「どんなものでも大量に出回れば値崩れを起こします」

「産地から採れたものを現地の領主から直接仕入れたのよ」と食い下がるニケ。

「それが、トルコじゃここ最近、一般からの持ち込みがやらたあって、供給過剰になって、こっちにも大量に流れているんです。なのでどこも在庫がだぶついて価格崩壊状態でして」とマスター。

「持ち込んだ一般人には、それなりの代価を払っているわよね?」とニケ。

「指輪とかブローチとか、宝飾細工込みですからね。けど、これはそういう細工も無いし、しかも研磨もしてない原石ですから、二束三文にもなりますよ」とマスター。


ニケは溜息をつく。そして思った。

(金貨20枚かぁ。けど、あの王子が大盤振る舞いして、ただでくれたものだし、仕方ないわね)


「では代金を」

そう言ってマスターが差し出した二十枚の硬貨。

それを見てニケは「ちよっと待ってよ」

マスターは「銅貨20枚ですが、何か?」



エンリの執務室で愚痴を言うニケ。

「あれだけ苦労して得た報酬よ。大きな袋にぎっしりの宝石よ。それが銅貨20枚とか、子供の小遣いじゃあるまいし」

エンリはあきれ顔で「苦労はみんなでやった事だし、そもそもそれ、報酬じゃないだろ」


「こういう時は綺麗なお花で心を和ませるといいですよ」

リラはそう言って、窓際にあった鉢植えをニケの前に置いた。

「何よそれ」

目の前の植木鉢に咲いた美しい花を見て、ニケはそう言って口を尖らす。

「チューリップの球根をたくさん貰って来たんです」とリラ。


ニケは溜息をつくと「私は花より団子の人なんだけど。そんな見かけだけなお土産に何の意味があるのよ」

「宝石だって見かけが綺麗だから価値があるんだろ」とエンリ王子。

ニケは言った。

「宝石は金持ちのシンボルよ。花屋の看板娘なんて貧乏弱者女で同情集める立ち位置じゃないのよ。ブルジョア強者セレブだったら宝石商の金髪イケメン店主でしょうが。そういうステータスがあってこそ、弱者の正義なんて偽善者気取りが許されるんですからね」

「何の話だよ」とあきれ顔で突っ込むエンリ。


アーサーも「それにニケさん、ジャカルタの密林に珍しい花が咲いてるとか言ってなかったっけ?」

「私、そんな事言ってたっけ?」とニケ。

そんなやり取りを聞いて、エンリは(あれってどんな話だっけ)と脳内で呟く。

そして記憶を辿った。



ニケが執務室を出ると、エンリは言った。

「なあ、リラ、その球根幾つか貰えるかな?」

「いいですけど、誰かにプレゼントですか?」

そう怪訝顔でリラが言うと、エンリは「もっと実のある話さ。リラ、それとアーサー。ポルタ大学に行くぞ」

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