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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第251話 悲恋のチューリップ

その日、レオ海賊団はオッタマ帝国諜報局の依頼で、ロシアの暗殺工作拠点の一つを襲撃する仕事を請け負っていた。

レオ海賊団はスパニアが擁する私掠船団の一つで、地中海で活動している。

アラビア人の交易活動は、その主な標的だ。

しかし近年、ロシアの海上覇権を目論む活動の活発化により、これに対抗するためのアラビア側との協力関係も生じていた。

マゼランが海賊としての修行のため参加しているのも、この海賊団だ。



暗殺団のアジトへの突入を前に、レオ団長は部下たちに言った。

「ワグネルという傭兵に注意しろ。奴は不死身だ」

「まさか」と部下たちは呟いて、互いに顔を見合わせた。


物陰に隠れ、暗殺団のアジトの様子を伺う。

入口に見張りが二人が居る。

魔導士がゴーストの使い魔で見張りの注意を引く。

隙をついて見張りに金縛りの魔法をかけ、駆け寄って仕留める。

そして突入の準備。

三人の団員がアジト周囲で、脱出者を見張るため配置に付く。



残りで突入開始。

団長の合図とともに、ドアを開けてウィンドボンバーの攻撃魔法を放り込む。爆発とともに建物内に突入。

倒れている十数人に止めを刺すため一人がその場に留まり、残りで何組かに別れて奥の部屋に突入。


一番奥の部屋にマゼランがレオ団長とともに突入した。

部屋に居た三人の男のうちの一人の額をレオ団長の短銃が撃ち抜き、残る二人に剣を翳して襲いかかる。

激しい戦いの末に彼等を倒す。

他の仲間も奥の部屋へ。

「団長、片付きました」


「よし、撤収するぞ。その前に・・・」

レオ団長はそう言って、自分が剣で倒した男を見る。

「こいつがワグネルか。不死身と言うが、念のため」

短銃で倒れている男の遺体の額を撃ち抜き、首を刎ねる。

「では行くか」


彼等が背を向けたその時、その首の無い遺体が立ち上がり、床に転がった首が呪文を唱えた。

レオは咄嗟にマゼランを突き飛ばした。

マゼランは窓から外に放り出される。

そして宙を舞いながらマゼランは見た。建物が火を噴き、木っ端微塵となるのを・・・。



「つまり、ロシアの特殊工作隊がオッタマの地方領主に喰い込んで、拠点を確保しようとしてるって訳だ」

甲板上でマゼランから説明を聞いたエンリ王子が、そう確認すると、マゼランは言った。

「これを許せば、ロシアはあの国を内側から食い破り、海上支配を黒海から地中海に及ぼして、ゆくゆくは地中海出口のスパニアが危険となります」

「だったら、オッタマ皇帝に警告するのが筋だろ」と疑問を呈するエンリ王子。

「我々スパニア海賊の動きを公の元に晒す訳にはいかないんです」とマゼランは答える。

「そんなに手強い相手なのか?」

そう問うアーサーに、マゼランは「確かに、奴は不死身です」


エンリたちタルタ海賊団の、例の如くイザベラ女帝の依頼を受けての行動である。

同行するマゼランの案内で、オッタマの都に面した海峡を通り、黒海へ・・・。

目的地はロシアの暗殺団が拠点を得ようとしている地方領主の館のある街。

港に上陸して馬車で陸路を行き、高原を進む。



目的地に近付く。

岩山が聳え、広い平坦地には麦畑に牧場に花畑。豊かな水を湛えた水路が流れている。

街に入ると美しい花が至る所に植えられていた。

「綺麗な花ですね」

そうリラが言うと、エンリも「さっきの花畑に咲いていた花だね」


やがて領主の館に着くと、館の庭にもたくさん植えられて咲いていた。

花壇の世話をしている使用人に尋ねる。

「あの花は?」

「チューリップですよ」と使用人は答えた。



使用人は、チューリップにまつわる伝説を語った。


ある村にフェルハトという青年が居た。

彼は領主の娘シリンと恋仲になった。領主は娘とフェルハトとの結婚を許そうとしなかった。

必死に家族を説得するシリンとフェルハト。

そして根負けした領主はフェルハトに結婚の条件を出した。それは領地の畑を潤す水路を引く事。

フェルハトは遠方から水を引く水路を必死で掘り、もう少しで完成すると言うとき、シリンが亡くなったと嘘の情報を告げられた。

ファルハドは三日間泣き続けた挙句、水路を掘る為に使ったつるはしを空に投げた。

つるはしは落ちてフェルハトの頭に突き刺さり、彼は死んだ。

その時に彼が流した涙は青い宝石となり、その流した血から真っ赤なチューリップが生まれた。



そして使用人は言った。

「シリンはその時、フェルハトの子を身籠っていたそうです。その子孫が今の領主様です。フェルハトが掘った水路は、みんなを豊かにしました。けれども彼は恋を妨げられ、悲惨な最期を迎えたんです。だからその分、その子孫は幸せにならなくてはいけない」

「けど、それは先祖の手柄であって、今の王子の手柄じゃないよね」と、疑問を呈するエンリ。

するとカルロが「王子のその魔剣も、先祖が手に入れたものですけどね」

「それは言わない約束だろ。それに、俺はこいつを使いこなすために頑張ったんだからな」とエンリは口を尖らす。

アーサーが「最初は剣術もからっきしで、全然使えなかったですからね」

残念な空気の中、落ち込むエンリ王子。

 


「という訳で、王子様、お客様がおいでになりました」

使用人がエンリたちを案内し、館の人たちにそう告げる。


領主のフェルハト王子登場。

短く膨らんだ袖の上着にちりばめられた沢山の青い宝石。頭に青い宝石をちりばめた金の冠と、各指に二個づつの大きな宝石を嵌めた指輪。下半身はキュロットにストッキング。

絵本に出て来る王子様スタイルを思いっきり派手にしたような出で立ちの若い男性だ。


「ようこそ我が領地へ。私がーー、ここをーー、収めるーー、フェルハトー王子ー、でーーすーーーーーー」

大袈裟な身振りで踊って歌いながら会話するフェルハト王子を見て、エンリと仲間たち唖然。

エンリがいささか頭痛顔を見せつつ呟く。

「随分気合の入った王子様キャラだな、おい」

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