第25話 アラビアの艦隊
エンリ王子たちは南方大陸の南端を抜けた。
ついに東のアラビアの海に入ると、意気上がる仲間たちにとって、気がかりなのは、あのベルベド老人の預言だった。
甲板作業を終えて一息ついた王子たちが、その話題で盛り上がる。
「ドラゴンに手を出す者って何だろうね?」とアーサー。
「ドラゴンってファフの事だよね?」とタルタ。
「ロリコン不審者でも出るのか?」とジロキチ。
「危ないなぁ」と三人が口を揃える。
「どんな奴だろう」とアーサー。
タルタが「三十台後半で太って眼鏡かけてキャラ物のTシャツ着て"お嬢ちゃん一人?お兄さんと遊ばない?ハアハア"とか」
「危ないなぁ」とジロキチ。
タルタが「そういえば王子もロリコン・・・」
エンリは苛立ち声で「違うから」
「危ないなぁ」とアーサー。
エンリ「違うって。それに俺は太ってもいないしキャラ物のTシャツも着てない」
「王子様には私が居ます。どうか犯罪にだけは走らないで」と人魚姫は筆談の紙に・・・。
「あのなぁ」とエンリ王子は口を尖らせる。
そしてアーサーは言った。
「それと、"敵兵を無駄に殺さぬように"ってどういう・・・」
「ただの人道主義者アピールだろ? 預言者なんて名乗る人にはよくある話さ」とジロキチ。
「けど壺売ったりするタイプとは違うよね?」とタルタ。
「ところでニケさん、何作ってるの?」
そう言って王子が視線を向けた先では、小さな樽型の容器をたくさん並べて、火薬と導火線の箱を脇に、せっせと工作に励むニケ。
「爆雷よ。ヴェルダの街で大砲と、火薬をしこたま手に入れたでしょ? あの火薬を樽に詰めて、中に点火装置しかけて敵船を爆破するの。人魚姫が水中で仕掛ければかなり有効な武器になるわ」とニケが言った。
「安全なんだろうな?」とエンリ。
「試してみる?」とニケ。
そして航海が続く。
ニケは南方大陸の海岸線が北に向かうポイントを確認。
「ここからは異教徒の海だな」とエンリ。
「港があるぞ。入港して水と食料を調達しよう」とアーサー。
「やっとまともな飯が食える」とタルタ。
入港して上陸し、街に入る。
酒場に入ると客が何人か。タルタは彼等を見て「異教徒の人だね?」と話しかける。
酒場に居る人はタルタに「異教徒の人かい?」
そんな会話を聞いてジロキチは「ややこしいな」
「しょうがない。奴等にとっては俺たちが異教徒だ」とアーサー。
カウンターに座って酒と食べ物を注文する。
隣に男が座って声をかけてきた。
「あんたら、ユーロから来たんだろ?」
「まあな」とエンリが答える。
「ここにはどうやって来た?」とその男。
「蛇の道は蛇って奴さ」とエンリ。
男は言った。
「まあいいや。このへんの海は初めてだろ。このあたりは岩礁が多くて危険だ。水先案内人を雇わないか?」
エンリたちは額を寄せて相談。
「どうする?」とタルタ。
「確かに岩礁は危険ね」とニケ。
エンリは男に「よし。頼もう。報酬は目的地に着いたらでいいか?」
「オッケーだ。俺はアリババ」とその男は名乗った。
「俺はエンリだ」と王子も名乗る。
水と食料を調達し、アリババを乗せて港を出たエンリ王子たち。
タルタがアリババに話しかける。
「なあ、あんたは海賊だろ」
「まあな」とアリババ。
「船はどうした?」とタルタ。
「色々と訳アリでね」とアリババ。
アーサーがアリババに話しかける。
「お前、魔法が使えるだろ?」
「お前も魔法使いだな?」とアリババ。
「どんな魔法を使う?」とアーサー。
「今度、ゆっくりとな」とアリババ。
エンリ王子がアリババに話しかける。
「いい海だな」
「回りに三つの大陸がある。西にアフリカ」とアリババ。
「南方大陸のことか?」とエンリ。
「東にインド」とアリババ。
「胡椒とか木綿とか手に入るんだよな?」とエンリ。
「産物がみんな違う。だから交易が栄える。何より平和だ」とアリババ。
「海賊が居るのにか?」とエンリ。
アリババはエンリに言った。
「俺たちだって普段は交易商だ。平和だって悪い奴は居る。そいつらを退治したり、さらに東を目指したり」
「楽しそうだな」とエンリ。
「だから余所者には来て欲しくない」とアリババはぽつりと言った。
それを聞いてエンリは顔を曇らせる。そして言った。
「余所者って俺たちの事か?」
その時、ニケが前方から接近する船の一団に気付いた。
望遠鏡で覗きながら「あれ、何かしら」とニケ。
「船団だな」とアーサー。
タルタが「ありゃオッタマの艦隊だぞ。右にも、左にも、後ろにも・・・って囲まれてるじゃん」
「どうする?」とジロキチ。
エンリ王子は「ドラゴンで蹴散らしてやる。ファフはどうした」
「寝てますよ」と、甲板の隅で眠っているファフを見ながら人魚姫リラが筆談の紙に・・・。
アーサーが眠り込んでいるファフの様子を魔法探知で診断。
そして「スリープの魔法だ。かなり手が込んでる。こりゃ当分目を覚まさんぞ」
「誰がこんな・・・」とニケ。
「そういえば、アリババはどこに行った?」とエンリが気付く。
リラが見つけて「あそこ。何かに乗って空飛んでます」と筆談の紙に・・・。
ニケが空中のアリババを望遠鏡で覗いて「絨毯だ。飛行の魔道具よ」
「ドラゴンに手を出す者ってあいつだったのか」とアーサー。
「アリババってロリコンだったの?」とタルタが間抜けな事を言う。
「違うだろ。オッタマのスパイだったんだよ。俺たち嵌められたんだ。砲撃が来るぞ」とジロキチ。
「とにかく応戦だ」とエンリが叫んだ。
オッタマ帝国の海軍に四方から包囲された王子たちの船。
右の敵にはタルタが鋼鉄の砲弾で応戦。敵船の間を次々に飛び移りながら破壊していく。
左の敵には人魚姫が水中から爆雷攻撃。船底に仕掛けた爆雷で敵船が次々に沈む。
だが、どちらも多数の軍船を擁する船団相手で焼石に水だ。
後ろの敵にはニケが大砲で応戦。百発百中だが、大砲は一門しか無い。
アーサーは正面艦隊の敵魔導士と魔法戦。
ファイヤーボールで何隻か沈めたものの、敵魔導士は何人も居て攻撃魔法をかけて来る。アーサーは防御魔法で手一杯になる。
そして敵艦隊からは雨のように砲弾が降って来た。
王子は炎の巨人剣を使ったが敵艦隊には届ない。左右からの砲弾を防ぐため、魔剣の炎で両側の海面を払って水蒸気の煙幕を張った。
ジロキチは遠距離戦では刀は役に立たない。
舵を任されて砲弾を避けようとジグザグに舵を切ったが、やがて何発も砲弾が命中。
「この船はもう駄目だ」とジロキチが叫ぶ。
エンリは「タルタと人魚姫を呼び戻そう。脱出するぞ」
アーサーは信号魔弾で二人を呼び戻す。
「どうやって脱出する?」とタルタ。
「私が人魚になって、みんなを水中で運びます」と人魚姫が筆談の紙に・・・。
「あれ、あるよな? 水中で呼吸できる奴」とエンリ。
「それでどこへ?」とアーサー。
「敵船を1隻乗っ取ってやろうぜ。海賊の流儀だ」とタルタ。
「オッケー・・・って、あれ?」
そう言いかけたエンリ王子と仲間たちの異常に気付く人魚姫リラ。
「みんな、どうしたの?」と書かれた筆談の紙を持って、おろおろする人魚姫。
仲間たちは強烈な睡魔に襲われ、バタバタと倒れて寝落ちする。
敵の砲弾は止んでいた。そして謎の歌声が聞こえている事に気付いた人魚姫。
やがて、船に一人の女が上がってきた。
彼女を見てリラは「あなたはポルタの魔女さん」
その声を魔道具の念話で受け取った彼女は「久しぶりね、人魚姫リラ」
「あの、これっていったい・・・」とリラ。
魔女は言った。
「セイレーンボイスよ。歌声で人を眠らせるの。敵も全員眠ってるわ」




