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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第248話 幸運の首飾り

イギリスから来たリチャードの身の上に同情したアントワネット姫が、ルイ王子から貰った首飾りを譲ってしまう。

その首飾りが、数日後に迫った婚約者お披露目の儀に必要な王室の秘宝だったとして、返して貰おうと、オスカルとアンドレはリチャードの居るロンドンへ。



ファフのドラゴンに乗って、オスカルとアンドレは海峡を越えてロンドンに到着。

アンドレが「とりあえず、どうする?」

「ファフ、お腹空いた」と、人間の姿に戻ったファフ。

オスカルが「パリからここまで飛んだのだから、腹も減るだろう。飯にするか」



酒場に入って、ご飯を食べながら今後の行動についての話を始めるオスカルとアンドレ。

貰ってきたロンドンの地図を広げる。

その地図をあちこち指しながら、オスカルが「バッキンガム公の屋敷はここなんだが、どう行けばいいんだ?」

アンドレが「そもそもここはどこだ?」

店の人に地図上の店の位置を訊ね、あれこれ話す。



暫しの時が過ぎて席を立つ二人。

「そろそろ出よう」

店主が揉み手で「では、お勘定を」と言って請求書を・・・。


金額を見て二人は唖然。

いつの間にかファフの前にお皿の山。

「これ、全部君が食べたの?」とアンドレはファフに・・・。

ファフは満腹顔で「ドラゴンは体が大きいから、ご飯はたくさん必用なの」


二人はそれぞれ財布を出して所持金を確認。

そして「どうしよう。お金が足りないぞ」

「払えないなら体で払って貰いますからね」と、店主が額に青筋を浮かべた怖い顔で言う。

「仕方がない。これも任務のためだ」

そう言って服を脱ぎ始めるオスカルを見て、アンドレは慌てた。

「あの、オスカル。体で払うってのは、皿洗いとか薪割りの事だと思うんだが」



アンドレを店に残し、オスカルはファフを連れてバッキンガム公の屋敷へ。

屋敷に到着し、バッキンガム公に訳を話す。

そして、屋敷の二階のリチャードの部屋へ。

リチャードが箱を出して、オスカルに「これがそうですが、本当にそんな大切な宝物なのでしょうか」



その時、窓を破って一人の男が部屋に飛び込み、リチャードが持っていた箱を奪う。

「私は義賊、黒騎士。民を救うため、この首飾りは頂いて行く」

そう言い捨てて男は窓から飛び降り、通りの向うへ走った。


「大変だ。取り返さなくては」

そう言いながら二階の窓から飛び降りようとしたオスカルを「ここは二階ですよ」と言ってバッキンガム公が止める。

「ファフ、飛べるか?」

そうオスカルに言われてファフは「任せて」


ファフは窓から飛び降りて、空中でドラゴンに変身。オスカルはその背に乗って、通りの上空へ。

通りを逃げていく黒騎士を見つけ、オスカルはその前に飛び降りた。

そして「それは返して貰うぞ」

「させるか」



オスカルと黒騎士、互いに剣を抜き、激しい斬り合いの末、オスカルは黒騎士を倒した。

縛り上げて路地裏に連れ込んで尋問する。

「何故、こんな事をする。アントワネット姫の婚姻を妨害して、フランスとドイツ皇帝との和平を壊そうとする者の差し金か」


黒騎士は言った。

「俺は民を貧しさから救う義賊だ。そんな貴族の都合など知らん」

「義賊とかいう奴らは、奪ったものの一部をばら撒くだけの偽善者だ」と彼を批判するオスカル。

黒騎士は「その一部を待ち望む民の苦しみをお前は知っているのか? 十分な麦を買えない民が何を食べているか、お前は知るまい」


「何を食べているというのか」

そうオスカルに問われて、黒騎士は「麦粉に土を混ぜて食べるのさ」

「そんな物が・・・」

そう言って絶句するオスカルに、黒騎士は「当然、体にいい訳が無い。消化器系を壊して、病で死んでいく」


オスカルは思った。

自分には知らない事が多過ぎる。だが、だからと言って、彼の行為が許される訳は無い。



オスカルは黒騎士を縛った縄をほどく。

驚き顔で自分を見る彼に言った。

「二度と盗みをしないと誓え」


「民の声に耳を塞げと言うのか」

そう言い返す黒騎士に、オスカルは言った。

「仮に貧民が、お前が盗んだものを与えられて、その日の糧を得たとする。だが、次の日の糧はどうする? その次の日は? 飢えた者に麦や魚を与えても、そんなのはただの一時しのぎだ。だったら魚ではなく釣り竿を与える事を考えるべきではないのか?」


黒騎士は俯く。

そして「具体的に何をすればいいんだ?」

オスカルは「そんなのは自分で考えろ。お前は掴まって処刑される覚悟で、こういう事をやっているのだろう。それだけの覚悟があるなら、何だって出来る筈だ」


黒騎士は首飾りの箱をオスカルに返して、彼女の前から去った。



オスカルが通りに出ると、向うからバッキンガム公とリチャードが来る。

「賊は?」

「逃げられた。だが首飾りは取り戻しました」

そう言ってオスカルが首飾りの箱を出すと、リチャードは言った。

「けどそれ、本当にフランス王室の宝なんですか? だってそれ、ドングリですよ」

「はぁ?・・・・・・・・・・」


オスカルが箱を開けると、中にあるのは、ドングリに穴を開けて糸を通した代物。

「何じゃこりゃー!」



オスカルは通話の魔道具で、パリの王宮に連絡した。

そして応対に出た女官は言った。

「宝物の首飾りをアントワネット様が人にあげたというのは、間違いでした。リチャードさんにあげたのは、王宮の裏の林でルイ殿下と遊んでいる時に作って貰ったドングリの首飾りだそうです」


オスカル唖然。

そして通話を切ると、彼女は天に向かって叫んだ。

「人騒がせ過ぎだろ!」


とんでもなく残念な空気の中で、リチャードは言った。

「それ、持って帰って下さい。殿下から貰った思い出の品なら、姫が持っているべきです」

「解りました。それと、お金を貸して貰えますか。酒場で、このドラゴン娘の食事代が払えなくて、アンドレが人質になっているんです」

そうオスカルは残念顔で言って、お気楽な表情のファフに視線を向けた。



茶番が終わってパリに戻るアンドレとオスカル。

近衛隊長としてオスカルが与えられた官舎で、アンドレが夕食を作る。


「いい加減、料理くらい憶えろよ」

そう小言を言うアンドレに、オスカルは「性に合わん。それにここは酒場も多くて、外で飯を食べるのに困らない」

アンドレは残念顔で「そこに部下を連れて奢って、給料が足りなくなるんだよな」

「仲間とわいわい楽しいだろ」とお気楽な事を言うオスカル。

「材料だって俺が買ってるんだからな」

そうアンドレが言うと、オスカルは「その分、ここに住んでアパート代が浮くだろ。



アンドレと食卓を囲んで、食べながらオスカルは言った。

「このパン、土とか混ざってないよな?」

アンドレは「黒騎士が言った事なんて気にしたら、食が進まないぞ。腹が減っては戦は出来ない」


「けど、我々が食べる分、貧民の食べる分が減るんだよね?」

そうオスカルが言うと、アンドレは溜息をつき、そして語った。

「そういう話じゃない。彼等は食べ物があっても高くて買えないんだ。昔の民はライムギをオートミールにして食べていた。人口の大部分は農民で、自分が食べる穀物は自分で育てた。けど今は、穀物だって売り物だ。売って儲けるために畑を耕す農民が、都市の貧民向けにライムギなんて安い物を作ると思うか?」

「高く売れて儲かるものを作るだろうな」とオスカル。


アンドレは「小麦の白パンは美味しいから普及する。高く売れる小麦しか売られていないから、貧民もそれを買わざるを得ない。だから十分な量が買えない。我々が食わなければいいという話じゃないんだ」

「けど彼等は、姫殿下の贅沢のせいだと思ってるんだよね?」とオスカル。

「実際、王族も貴族も贅沢をしているんだけどね」

そう言って溜息をつくアンドレ。

溜息をつくオスカル。



重苦しい空気の中で食事を続ける二人。

そんな空気を変えようと、オスカルは話題の転換を試みる。

「にしても黒騎士の奴ら、首飾りの事をいったいどこから聞きつけたのかな?」


「誰かが他人が聞いている所でうっかり口にしたとか?」とアンドレ。

「けど俺たち、騒ぎが起こってすぐ取りに行ったんだよね?」とオスカル。

「宮中の女官の中にスパイとか?」とアンドレ。

オスカルは「反ドイツ派の陰謀ならともかく、ただの盗賊だぞ」

アンドレは「とすると、他人が聞いている所って・・・」

オスカルは「通りの玄関先とか門の前とか・・・あ・・・」


二人、声を合わせて「バッキンガム公の屋敷の前」


小さくなるオスカル。

「あなたは考え無しに行動し過ぎです」とアンドレ。

「すまん」

そう言って、もっと小さくなるオスカル。

オスカルはアンドレに小一時間説教された。



アントワネット姫の王太子婚約者としてのお披露目の式典の日が来た。

五歳の姫君の晴れ舞台だ。

王宮の大広間。エンリ王子ら、外国からの賓客を含む多くの参列者の前に、アンヌ王妃に手を引かれ、階段から降りて来るアントワネット姫。

階段の下には子供用の礼服を着た、五歳のルイ王太子。


豪華な子供用ドレスと豪華な装飾品。

中でも人目を引くのが、あのフランス王家に伝わる秘宝の首飾りだ。

そして、あの事件で姫の元に戻ったドングリの首飾りも・・・。


参列する来賓たちに混じって、エンリとその仲間たちも、アントワネット姫を見て、あれこれ言う。

アーサーが「あれが例の、殿下から作って貰ったっていう・・・」

「ドングリって、子供の遊び道具の定番だよね」とジロキチ。

リラが「可愛らしい話ですね」

「癒されるなぁ」とタルタ。


するとエンリが「俺も昔、散々やったよ。それで酷い目にあったけどね」

「何があったんですか?」と若狭。

エンリは懐かしそうに語った。

「拾った沢山のドングリを机の引き出しに入れておいたのさ。後で引き出しを開けたら、小さな白い芋虫がうじゃうじゃ」

「げ・・・・・」と一同、声を揃える。

「虫がドングリに卵を産むんですよね。孵化すると中身を食べて成長して、殻に穴を開けて出て来る」


そんなアーサーの解説を聞いて、ふとカルロが「あのドングリ、大丈夫かな?」

エンリたち、不安になって、互いに顔を見合わせる。



その時、アントワネットは首筋に何か、もぞもぞしたものを感じた。

見ると、幾つもの首飾りのドングリに穴が開いていて、中から次々に小さな芋虫が顔を出している。

芋虫はそこから転げ落ち、彼女のドレスの胸元へ・・・。


胸元を蠢く芋虫の感触に、五歳のアントワネット姫の表情が引きつり、大広間に幼い悲鳴がこだました。

彼女は失神し、場は大騒ぎとなる。おろおろする五歳のルイ王太子。


そんな騒ぎにエンリたちも唖然。

タルタが「どーすんだ、これ」

「俺たち、外国人だし」とお気楽な事を言うエンリ王子。



式典は中止となり、姫は奥に運ばれた。

その後、アントワネット姫は一週間、ルイ王太子に口をきかなかったという。

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