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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第243話 男装の麗人

フランス王太子ルイの妃となるため、ドイツ皇帝テレジアの末娘、若干五歳のアントワネット姫のパリ行きが決まってまもなく、テレジア女帝近衛隊長オスカルは、特命を受けるべく女帝に呼び出された。

彼女は代々武官を務める貴族の末娘であったが、家督を継ぐため男として育てられ、父親から厳しい軍人訓練を受けて育った、生粋の武人である。


 

彼女が入室すると、テレジア女帝の傍らに五歳の幼女が居た。

「フランスのルイ王太子の元に嫁ぐ事になった、私の末娘のアントワネットよ」とテレジア女帝。

「嫁ぐといっても・・・」

そう怪訝顔を見せるオスカルに、女帝は言った。

「向うにも事情があってね。これまで敵国だったフランスとの関係を修復するための政略結婚ですのよ」

「ですが、敵対していた我が国との関係を快く思わない勢力も居る筈です。彼等の憎悪の対象として姫殿下の身に危険が及ぶ事も・・・」とオスカル。

「だから、近衛隊長のあなたに護衛として、ついて行って欲しいの」

女帝にそう命じられ、オスカルは「承知しました」


幼いアントワネットは彼女を見て言った。

「あなたが男装の麗人で有名なオスカル隊長ね?」

「いや、麗人だなんて」と照れるオスカル。

「いろいろ噂は聞いているわ。タカラバコ劇団であなたのお話を題材にした演劇が大ヒットしたとか」

そうアントワネットに言われ、更に照れるオスカルは「いや、お恥ずかしい」

「男性剣士顔負けの剣の達人とか」とアントワネット。

「それほどでもありますけど」と、ますます照れるオスカル。

「女子力ゼロの男女とか」とアントワネット。

「・・・・・」



残念な空気の中で凹むオスカルを見て、女帝は「それとオスカル隊長。部下として同行させる者が居るわ。入りなさい」

一人の若い男性が入室する。


「諜報局から派遣されたアンドレです」と男性は名乗る。

「つまり、陰謀から姫を守る役目という訳ですね?」とオスカルは彼に・・・。

「"黄昏"というコードネームで呼ばれています」とアンドレ。

オスカル、思わず身を乗り出して「妻役と子供役の協力者を仕立てて敵国の学校に潜入工作したという」

「それは漫画やアニメの中だけですから」とアンドレは残念顔で言った。



近衛隊長としての残務処理を終えるオスカル。


全員女性の近衛隊員たちは、声を揃えて言った。

「隊長、行っちゃうんですか?」

オスカルは「後の事はよろしく頼む」


「寂しなります」と一人の隊員が・・・。

「お姉さま、行かないで下さい」と、更にもう一人の隊員が・・・。

「姫殿下をお守りする大切な使命なんだ。解ってくれ」とオスカル。

隊員たちは声を揃えて「ですが、私たちネコ一同、これから誰をタチとすれば」

「お前達」

「隊長」


そんな様子をあきれ顔で眺めつつ、アンドレは呟いた。

(何なんだ、このノリは)



務め慣れた近衛兵営に別れを告げるオスカル。

薔薇の花舞い散る中で集団でハグするオスカルと部下の女性たち。

そんな彼女達に困り顔で清掃業者の人が言った。

「あの、どうでもいいけど、花びらを散らかすのは止めてくれません? それ、誰が掃除するんですか?」


騎馬で兵営の門を出るオスカルは、見送る親衛隊員たちに別れを告げた。

「私はこれから姫殿下を守り、陰謀渦巻く戦場へと旅立つ。我々は軍人。いつ戦場で散るとも知れぬ命だ。だが恐れない。その時が来たなら、薔薇として美しく散ろう」

「隊長」

去って行くオスカルを見送りながら、隊員たちは合唱。

「ブロンドの髪ひるがえし、青い瞳のその姿、ペガサスの翼にも似て、我が心ふるわす」


そんな彼女達のノリに、ドン引き顔でアンドレは呟いた。

(勘弁してくれ)



帝都を出立するアントワネット姫の一行。

五歳の姫と、お付きの女官や侍従たち。外交官兼教育係のメルシー伯率いる家庭教師が数名。

馬車を先導する護衛隊の先頭に、並んで進む騎馬のオスカルとアンドレ。


馬を進めながらアンドレが「あの、オスカル隊長」

「何だ? 部下アンドレ」

アンドレは疑問顔で「隊長って、軍人として陛下に仕えるために男の恰好をしているんですよね?」

「そうだが」

「けど、部下の親衛隊員って全員女の姫騎士でしたよね?」

そう言うアンドレに、オスカルは「陛下は即位の時にフリードリヒの嫌がらせを受けて以来、大の男嫌いだからな」

「その割には子供ポロポロ産んでますけど」とアンドレ。

「退屈な宮廷生活で他にやる事が無いからな」とオスカル。


アンドレは「やる事って・・・まあいいや。で、隊員が全員女なのに、隊長が無理に男の恰好って、意味あるんですか?」

暫しの残念な沈黙の後、オスカルは「・・・男装の麗人、かっこいいだろ?」



一行はパリに到着。

メルシー伯が宮殿でフランス宮内局を訪れ、一行はルイ王夫妻に謁見。


「大使として赴任しました、メルシーと申します」

儀礼に則り、膝まずいて挨拶の弁を述べるメルシー伯に、ルイ王は「新たな関係を築くに当って、色々と大変な事もあると思うが、よろしく頼む。困った事があったら何でも言って欲しい」

「恐れ入ります。こちらが王太子様の妃となるアントワネット姫です」と、先ずアントワネット姫を紹介するメルシー伯。

「アントワネットと申します」

そう挨拶する幼女を見て「何て可愛らしい」と嬉しそうなアンヌ王妃。


メルシー伯は一行の個々のメンバーを紹介。

間もなくオスカルの順番が来て、メルシー伯は「王太子妃付の親衛隊長、オスカルです」

「オスカルと申します」

そう名乗るオスカルに、ルイ王は「君は女性かね?」

「はい」

「軍服が実に似合っている。男性でないのが残念だ」

そうルイ王に言われ、オスカルは釈然としない気分で「はあ・・・」

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