表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
242/562

第242話 外交の革命

幼いルイ王子のホモ化を防ぐために王子の幼馴染を・・・というアンヌ王妃の強い後押しで、フランスは全ユーロに向けて、五歳のルイ王子の婚約者を大々的に募集した。


この募集を見て、各国の有力者たちは、あれこれ噂する。

「さすがに五歳児の縁談とか早すぎだろ」

「これって政略結婚だよね」

「それ以外の何があるんだ?」

「だとすると、下手な貴族じゃ問題外だよな」


同年代の幼児を子に持つ多くの王族や貴族が尻込みする中、これに喰いついた者が居た。

ドイツ帝国のメッテルニヒ宰相である。



メッテルニヒはテレジア女帝に進言した。

この縁談に応じる事を勧めるメッテルニヒに、テレジアは「フランスは今まで散々敵対してきた国教会同盟の国ですわよね」

「だからです。我々の教皇庁の保護者としての立場は、イタリアのヴェスビオ公の一件以来、完全に実を失いました」とメッテルニヒ。

テレジアは「マキャベリ学部長は国教会を包囲する体勢が整っていると言っていますが」


メッテルニヒは言った。

「ジュネーブは反国教会運動を放棄しましたよね。あのマキャベリが望んでいるのは教皇庁の復権ではなく、イタリアの統一ですよ。それに、国教会三国は、けして一枚岩ではありません」

「それに亀裂を生じさせるために、末娘のアントワネット姫をルイ王太子に?」

そう言うテレジアにメッテルニヒは「不倶戴天の敵だった両国が一転して味方となる。これは外交の革命です」



メッテルニヒ宰相は極秘でフランスを訪れ、リシュリュー宰相と会見した。


「よりによってテレジア女帝の娘とルイ王子を・・・ですか?」

そう疑問顔で問うリシュリューに、メッテルニヒは「仲直りのために、これまでの対立関係を清算するのです」

リシュリューは「つまり、過去を水に流して未来志向で・・・と?」


そして双方声を揃えて「つまりそちらが過去の加害を真摯に謝罪反省すると」

それに対して「はぁ?」と双方声を揃えて・・・。


メッテルニヒは「いや、加害者はあんた達だろ」

リシュリューは「違うだろ。うちは被害者」

「フランスのせいでドイツは分裂した」とメッテルニヒ。

「それは自分達の無能の結果で、にも拘わらず、皇帝とか言って我々に上から目線で主人面を」とリシュリュー。

メッテルニヒは「皇帝の地位は自分達の問題でもあるからと、ジャカスカ介入して来たのはあなた達ですよ」

リシュリューは「教皇庁の保護者と称して、宗教で介入したのはあなた達ですが」



双方、溜息をついた。

「こういうの止めませんか?」

「確かに不毛ですね」

「両国ともユーロの中で様々な他国との問題を抱えている。対立国を抱える事は他国との関係においてネックとなります。解消しておいた方が得策ですよね」


「ってなふうに脅して、和解の条件として不利な立場を押し付けようとしても、通用しませんからね」とリシュリュー。

「それはお互い様でしょう。実際にお互いが抱える敵対国家って何でしたっけ?」とメッテルニヒ。

リシュリューは「ドイツ皇帝家としてはプロイセンがありますが、フランスにはそういうのはありませんから」

「あのプロイセンがフランスに牙を剥かないと?」とメッテルニヒ。

「奴の関心はドイツ国内ですよ」とリシュリュー。


「そう言われてデンマルク公がどんな目に遭ったかお忘れですか? それに、国教会同盟といっても、あなた達はイギリスとケベックの問題を抱えていますよね?」

そう主張するメッテルニヒを見て、リシュリューは(こいつ、英仏関係の離間を狙ってるな?)と脳内で呟く。

メッテルニヒは(プロイセン牽制に加担する対価をふっかけて、皇帝の肩書を掻っ攫うつもりだろう)と脳内で呟く。

そして双方脳内で(狸め!)と・・・。



そしてリシュリューは脳内で呟いた。

(だが、とりあえず敵は減らしておく方がいい。これからの敵は教皇派だけではない。それに彼等の凋落は止められない所まで来ている。もはや脅威になる事は無いだろう。国内の教皇派をおとなしくさせるという利点もある)


リシュリューは言った。

「いいでしょう。ユーロの平和のために、この話、受けましょう」

「それで、そちらに入られた後の姫殿下の地位の安全についてなのですが」とメッテルニヒ。

「というと?」

そう言って疑問顔を見せるリシュリューに。メッテルニヒは「これまでの敵対関係を鑑みて、この縁談を快く思わない勢力が少なからず居る筈です。排斥の動きが起こる事を警戒すべきかと。こちらとしても皇帝陛下の幼い御息女を遠い異国に・・・」


リシュリューは困り顔で「いや、人質をよこせと言ってる訳じゃ無いんだから」

「結婚ですよね? 新婚早々、別居生活をさせようと?」とメッテルニヒ。

「いや、そんなに急がなくても婚約者として・・・」とリシュリュー。

メッテルニヒは「これ、婚約者の募集だったのですか? けどこの募集書類・・・」


募集書類に曰く。

「ルイ王太子の結婚相手募集」

場は残念な空気に包まれた。


「つまり文通でもやらせながら愛を育んでもらい、幼馴染としての関係を、と・・・」

そう説明するリシュリューにメッテルニヒは「ですよねー。あは、あはははははは」



だが、暫しの沈黙の後、メッテルニヒは言った

「けど、あの年で遠距離恋愛させて、幼馴染としてちゃんとした男女カップルになりますかね?」

「確かに。父親みたいになると、次の世継ぎを作るのに、また一苦労だからね」とリシュリューも頷く。

「やっぱり近くに居て成長を共にするのが幼馴染かと」

そう言うメッテルニヒに、リシュリューも「確かに」


そしてメッテルニヒは「だったら、早々に既成事実を作られた方がいい」

リシュリューは疑問顔で「既成事実って、五歳の幼児に何をやらせるつもり?」

「何って何を?」

「だからナニを」

そんな間抜けな問いにメッテルニヒは「じゃなくて結婚に年は関係無いという話かと」

「あー、そういう事ね?」

そう納得するリシュリューに残念そうな視線を向けて、メッテルニヒは「何だと思ったの?」



そしてメッテルニヒは言った。

「それでテレジア陛下も心配されているのだが、これまでの敵対関係から、反発する人達が少なからず居るのではと」

「だから和解のために謝罪と賠償で自分たちの心の傷を癒せとか? 応じると加害者と自ら認めたのだから道徳的優位を認めて言いなりになれとか?」とリシュリュー。

「この前の謝罪は誠意が足りないからやり直しとか?」とメッテルニヒ。

「歴史捏造案件をバンバン言い出して、事実と違うと指摘すると、あの謝罪は口先だけだったのかとか?」とリシュリュー。

「挙句にあの和解は脅されて強制されたものだから無効とか?」とメッテルニヒ。


リシュリューは溜息をついて「そんなの、どこぞの半島国だけだと思うが」

メッテルニヒも「ですよねー。あんな国を基準に考えちゃ駄目ですよ。オンリー・イン・コ〇アと言いますし」

そしてメッテルニヒは話を続ける。

「ともかく、そういう憎悪の対象となった幼いカップルに対する、排斥の陰謀の恐れがあるという事です。それがルイ王太子に及ぶって事も」

「けど彼は国王夫妻の一粒種ですよ」とリシュリュー。

メッテルニヒは「王弟殿下がおられますよね?」


「確かに宮廷内の勢力争いはどこの国でも複雑ですけど、だからどうしろと?」

そう言って溜息をつくリシュリューに、メッテルニヒは言った。

「東の国ジパングで500年前にこんな話があったそうです。シラカワという君主がフジワラという権臣を抑えて王権を回復したのですが、世継ぎのホリカワという子息が陰謀で排除されるのを防ぐため、自らが元気なうちに位を譲り、摂政のような立場で権力を維持したと」


「つまり、形の上で先手をとって即位させろと」と言ってリシュリューは思案顔を見せる。

メッテルニヒは「今のルイ陛下には、王の父親の立場で政治を続けて頂く。王となった幼いルイ殿下には誰も手出し出来なくなるかと」

「なるほど。前向きに検討させて頂くとしましょう」とリシュリューは答えた。



話し合いがまとまり、メッテルニヒは帰途についた。

彼は馬車の中で、フランス訪問の直前に交わしたテレジア女帝との会話を回想する。


「それで、フランス側の勢力をどう切り崩すのかしら」

そう問うテレジア女帝に彼は答えた。

「フランス国内にも姫の敵は現れるでしょう。どこの国も、自国の立場を重んじる市民の支持で、国内派の勢力が強く、彼等は外国を警戒します。ですが、この話を持ち出したのは王太子の母親のアンヌ王妃です。彼女は国内派のリシュリューと敵対する一方で、美人故に国民の人気が高い。彼女が王太子カップルの保護者となって、国母として影響力が強まれば、彼女を利用して国内派を押え、フランスを我等の手中に落とす事が可能となります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ