第238話 イチャイチャと手料理
美人コンテストに集う八人の美女と、彼女達の申請者。そして審査員と観客たち。審査は本人アピールを終えた。
次の審査はデモンストレーション。
司会がアナウンス。
「では、皆さんが男性をどんなふうに癒すのか、申請者の方と一緒に実演して頂きましょう」
申請者たち唖然。
「つまりみんなの前でイチャイチャしろと?」とアーサー。
エンリも「俺たちにも何かやらせるのかよ。聞いてないぞ」
籤引きで順番を決める。
そして司会が「では先ずラフタさん、お願いします」
犬耳娘のラフタは正座し、ナオフミはその膝の上に横向きで頭を乗せる。
そしてラフタはナオフミの耳を、耳かきでホジホジ。
その様子を見て、審査員たちがあれこれ・・・。
「膝枕で耳掃除ですか」
「定番ですね」
「何とも羨ましい」
二番目にいきなり順番が回って来たタマとタルタ。
「次にタマさん、お願いします」
その司会のアナウンスを受けて、タルタがタマの耳元で「どーすんだ、先越されたぞ」
「大丈夫よ。タルタ、正座して」
そう言ってタマはタルタに正座させると、タマはタルタの膝に頭を乗せた。
タルタは耳かきでタマの猫耳をほじほじ。気持ち良さそうなタマ。
「これは萌える」と、思わず身を乗り出す審査員。
膝枕の上で仰向けになったタマの喉を撫でるタルタ。女の子の姿で気持ち良さそうに喉を鳴らすタマ。
タルタが猫じゃらしをぱたぱた。それにじゃれつくタマ。
「これは萌える」と、更に身を乗り出す審査員。
次にバニー。
安楽椅子に座り、グラスを傾けるヘフナー氏の背後から身を寄せ、彼の胸元に手を回すバニー。
その様子を見て、審査員たちは・・・。
「セレブだ」
「酒と薔薇の日々」
「女を侍らせる悪役のボス」
秋姫は正座して、横になったベルがその尻尾を抱き枕に。
気持ち良さそうなベル。
「モフモフな尻尾の狐娘ならではの癒しですなぁ」と審査員たち。
ボンテージスーツを着たダークエルフのディードが、パンツ一枚で縛られて四つん這い状態のモウカリマッカをハイヒールで踏む。
「豚のようにお鳴き」
そう言って鞭を鳴らすディードに、モウカリマッカは「はい女王様。ブヒブヒ」
ドン引きする観客。ドン引きする審査員。
観客に混じって指を咥えて見ている宰相が「いいなぁ」と呟く。
テーブルに向かい合って座るリリスとアーサー。
テーブルの上にはドリンク入りのグラス。そしてストローが二本。
「本当にやるの?」
そう小声で言うアーサーに、リリスは「恋人アピールの定番ですよ、先生」
「俺、先生じゃないんだが」と困り顔のアーサー。
二人、顔を寄せて一緒にストローを咥える。
審査員たちは・・・。
「リア充がよくやる奴ですね」
「アクセサリー男を見せびらかすという・・・」
いよいよ人魚姫の番だ。
観客たちを前にリラは小声で「王子様、私は何をすればいいのでしようか」
エンリは「リラは何をしたい?」
「私が・・・ですか?」
そう怪訝顔で問い返すリラに、エンリは言った。
「誰かに見せる事なんて考えなくていい。お前自身が俺と居て気持ちいいと思える事をやればいいんだ。イチャイチャってそういう事だろ? それを見せろと、あいつ等は言ってるんだ。最強は何時だって本当の事さ」
リラは「何でもいいですか?」
エンリは「お前がやりたいのなら、何だっていいぞ」
「どんな事でも?」と念を押すリラに、思わず焦り顔でタジタジになるエンリ。
エンリは椅子に座り、その膝の上にリラが座る。そしてリラの頭を撫でるエンリ。気持ち良さそうなリラ。
観客席に居るファフは呟いた。
「リラさん、いいなぁ」
最後のアンリエッタは、カサノバとダンスを踊った。
観客席の女性たちはうっとり。
そして「すてき・・・」と呟く。
審査員たちは二人のダンスを見て呟いた。
「こいつ等、萌えってやつを解ってない」
司会が次の審査についてアナウンス。
「次の審査は料理対決です。女子力と言えば先ず、これです。皆さんが男性の胃袋をどう掴むか」
ステージ上に調理設備と食材が用意されて、それぞれの手料理を披露する。
籤引きで順番を決め、最初の秋姫は懐石料理。
審査員があれこれ言う。
「これは見事な」
「様々な料理を少しづつ盛り付け、いろいろな味を楽しめる、まさに世界遺産ジパング料理の真髄ですね。で、中身は・・・」
油揚げの炒め煮、油揚げの生姜焼き、油揚げの胡麻和え、そして稲荷寿司。
秋姫はドヤ顔で「大豆は畑の肉と呼ばれています」
「本物の肉の方が良かったんじゃ・・・」と審査員は残念顔。
ラフタはフレンチ。
「世界三大料理の一つですからね」とドヤ顔のラフタ。
「けど随分質素」
そう突っ込む審査員に、ラフタは「前菜ですから。それで誰が実食を? 食べ終わらないとメインディッシュが出せないんですが」
「そういう手順は要らないから」と困り顔の審査員。
「では次は兎娘のバニーさん」
その司会のアナウンスで出された手料理を見た審査員は「お酒のつまみみたいなんですが」
バニーは「お酒のつまみです。メインはこちら」
カクテルを注いだグラスがピラミッド状に積まれている。
「いや、お酒じゃなくて料理を・・・」
そう突っ込む審査員にバニーは「料理じゃお客様は酔えません。酔わせないと金払いが良くならないじゃないですか」
ディードの手料理はサラダ。
「森で自然とともに生きるエルフの食文化こそ至高」
そう言ってディードは菜食主義を延々と語り出し、観客も審査員もドン引き。
リリスが女子会弁当を出す。
卵焼きに鳥の唐揚げにミートボールに海老天にマッシュポテト。
リリスは解説する。
「友達に自分の女子力を見せつけるおかず交換は、女の子としてトップの座を賭けた最大の戦場です。けしてコンビニの総菜を詰めた訳じゃありませんから」
調理台の隅には総菜パックの殻が積まれている。
タマが出したのは握り寿司。
「世界遺産ジパング料理の代名詞で、国際語にもなっていますね」と審査員。
タマはドヤ顔で「ネタはマグロの大トロです。スシポリスの検定も認めた最高級品です」
「いや、スシポリスってデマだから」と一人の審査員が困り顔で・・・。
別の審査員が「それより、そのマグロは何の上に載ってるの?」
「最高級な鯛の切り身ですが、何か」とタマはドヤ顔。
「いや、寿司は米を握ったシャリの上に切り身を乗せるんだが。それはただの刺身の二段重ねだよ」と、更にもう一人の審査員。
次はいよいよ人魚姫の番。
リラの手料理は魚の煮つけ。
審査員たちは唖然顔。
そして「魚をぶつ切りにして出汁で煮た・・・何だか男料理みたいなんですが」
リラは言った。
「実はこれ、エンリ様に初めて食べて頂いた魚料理なんです。王子様は魚を愛するが為に魚を食べられなくて、けど航海の途中で魚しか食べるものが無くなって、何も食べずに衰弱する王子様に、何とか食べて頂こうと作ったんです」
「いい話だなぁ」と一人の審査員が・・・。
もう一人の審査員が「けどそれって、ただののろけだよね?」
そして最後はアンリエッタ。
申請者席からカサノバが彼女に声をかけた。
「アンリエッタ。手料理の鉄人の技を見せてあげなさい」
彼女の・・・自立機械人形の左右の二の腕の細長い格納蓋が開いて包丁が出て来る。
両肩から何本ものアームが出現。アームの先にはフライパンにお玉に胡椒瓶に・・・。
そして、両手と何本ものアームを目にも止まらぬ速さで・・・。
「すげー」と審査員たちは感嘆の声を上げた。
そして一人の審査員が「いったい何を作ってるのかな?」
アンリエッタのオムライスが完成した。
ケチャップでハートを描き、謎の呪文を唱えるアンリエッタ。
「美味しくなぁれモエモエキュン」
観客全員、前のめりでコケる。
全員が調理を終え、いよいよ実食。
「では特別審査員として、ジパングの遠月料理学校理事長ミセス薙切。彼女は"神の舌"と呼ばれる異能を持ち、常人では見分ける事の出来ない食味の違いを識別するグルメ会の超人・・・」
そう、司会のアナウンスが解説する中、観客たちは「そんな人が」と呟く。
そして司会のアナウンスは続いた。
「・・・はスケジュールの都合で来れなくなったので、代りに"仏の舌"と呼ばれる異能を持つ春月県立大学後援会長ミスター米沢に来て頂きました」
和服を来た老人が登場。
司会が「ではミスター米沢、お願いします」
「うむ」
実食台に並ぶ八人の手料理。審査員米沢はその一つに箸をつけ、口に運ぶ。
固唾を飲んで見守る八人の美女。八人の申請者。審査員席の男性たち。そして観客たち。
審査員米沢は目を閉じて噛締め、そして目を大きく見開いて叫んだ。
「美味いぞーーーーーーーー!」
巨大化する審査員米沢。大地が裂け大波がうねり、世界は閃光に包まれる。
そしてその感動の衝撃波により、彼の衣服は避けて全裸となる。
「これは伝説のおはだけ」と呻く審査員たち。
審査員米沢は他の手料理に箸をつける。
そして再び目を大きく見開いて叫んだ。
「これも美味いぞーーーーーーー」
並ぶ手料理に次々に箸をつける審査員米沢。
「あれも美味い、これも美味い、みんな美味い」
唖然とする観客たちの前で司会がマイクを執った。
「解説しよう。仏とは人が修行して悟りを開くことで得たステータスであり、その境地に至ると、どんなものを食べても極上の味と感じるのである」
「つまり味オンチって事?」と申請者席のタルタ。
「いいのかよ」と申請者席のアーサー。
「いーんじゃね。みんな仲良く高得点。平和が一番だよ」と申請者席のエンリ。
アーサーは言った。
「じゃなくって、これって元ネタが読者の殆ど居ない素人が書いたネット小説だぞ」
エンリは「それは言わない約束だよ」




