第235話 美女たちの名乗り
千人もの美女を誘惑する色事師だったカサノバが、アンリエッタという自律機械人形一人を愛して、他の女性との関係を断った。
納得できない三人の彼の元カノの依頼でカサノバの元を訪れたエンリたち。
アンリエッタが最高の女性だと言うカサノバをニケは挑発し、美人コンテストで決着をつけようと言い出した。
執務室で仲間たちを前に、エンリは頭を抱える。
「本当にやるのかよ。美人コンテスト」
「当然でしょ」
そうドヤ顔で言うニケに、エンリは「ポルタ政府はタッチしないからな」
「危ない団体から抗議が来るから?」とアーサー。
エンリは言った。
「ってか、そもそも賞金を誰が出すんだよ。財務局の奴らは絶対予算渋るから、下手すると天下一武闘会の時みたいに、俺の小遣いからとか言い出しかねないぞ」
ニケは議会の商人議員たちの所に行った。
「美人コンテストですか?」
一人の商人議員が、そう怪訝顔で言うと、ニケは「東インド会社の運営者を募集した時みたいにやればいいのよ」
「応募者に鉄骨渡りを?」と、別の商人議員が・・・。
「それはいらないから」
「けど、危ない奴らが抗議に来ますよ。フェミナチ党とか鍵十字矯風会とか、"気に入らない奴をしばきたいよね"とか言って釘バットとポリコレ棒振り回して自作銃でテロをやらかす奴らとか」
ニケはドヤ顔で「そういう妨害を乗り越えて世界は前に進むのよ。テロに世界の進歩を止める事は出来ないわ」
「けど、進歩を遅らせる事は出来るって・・・誰の台詞だっけ?」と更に別の商人議員。
「ってか、単に、あなたがお金を儲けたいだけですよね?」
そう商人議員たちに突っ込まれて、ニケは「観光客が来るわよ。あなた達商人よね? インバウンドでお金ガッポガッポしたいと思わないの?」
実行委員会が組織され、美人コンテストの実施が発表されて、出場者の募集が始まった。
「で、何で男性が推薦人として申し込むのが前提なんだ?」
委員会の事務局で疑問顔で問うエンリに、委員の一人が答える。
「だってこれ、言い出しっぺは王子ですよね? つまり権力者が道楽で自分の恋人を自慢するためのイベントですから」
エンリは頭痛顔で「お前等、王太子を何だと思ってる。ってか言い出しっぺはニケさんだから。そもそもそれって、俺がリラを出場させるのが前提って事だぞ」
「出さないんですか?」
「出すかよ」と残念そうな委員にエンリは口を尖らせて言う。
「出さないんですか?」
「リラまで・・・。ってかそもそも、こんな半官半民イベントに王太子が自分の恋人出したら、絶対出来レースだって言われるぞ」
そう、物欲顔のリラと残念そうな委員たちに、エンリは溜息顔で言う。
すると委員の一人が言った。
「けど、これって元々、カサノバのアンリエッタさんと王子のリラさんと、どっちが上かって話から始まったんですよね?」
「あ・・・」
リラが物欲しそうな顔で「出るんですよね?」
「お前、出たいのかよ」とエンリは困り顔でリラに・・・。
「優勝すれば王子様に認めて貰える」
そう、すね顔で言うリラに、エンリは「俺はいつだって、お前を認めてる。お前は最高だ。みんながお前を認めなくたって、俺にとってはお前が最高だ」
リラは「人魚だから?」
「人化してない人魚であるお前の姉より、俺はお前が最高だ」と、エンリはリラの肩に手を置いて・・・。
リラはエンリの手を執って「王子様」
エンリはリラを抱きしめて「姫」
「王子様」
花びらの舞い散る二人の世界で、エンリは言った。
「こんなイベントに出る必要なんて無い。そう思うよね?」
「はい」
そんな中、勢いよくドアを開けて入って来たイケメン。
「カサノバです。美人コンテストの応募に来ました。エンリ王子、本選で正々堂々と決着をつけましょう」
彼はその場に居るエンリを見つけて能天気な声で挑戦状を叩き付けると、応募書類を書いて、意気揚々と引き上げた。
呆気に取られるエンリ王子に、委員たちとリラは声を揃えて言った。
「これ、引っ込みつきませんよね?」
そして・・・・・・・・。
執務室に居るエンリの元に、タマが文句を言いに来た。
「何で自分で応募出来ないのよ」
エンリはうるさそうに「商人議員たちの実行委員会に言えよ」
「権力者が自分の恋人を自慢するイベントなのよね?」
そう言うタマにエンリは困り顔で「それは、あいつ等が言ってるだけだ。ってかお前、出たいの? 言っとくが猫に投票権は無いぞ」
タマと一緒に来ていたタルタは「猫に投票権があったら、こいつにマスナス票を入れると思うぞ」
アーサーが「見かけを飾って見世物になったりしないとか言ってたよね?」
するとタマは「ケモミミが三人も出るのよ」
「ブームだもんな」とエンリ王子。
タマは不平を語り出す。
「しかも、犬だの兎だの狐だの・・・。ケモミミの基本は猫耳よ。あれは綿みたいなふわふわした惑星に住む"ちび猫"というロリキャラが元祖なのよ」
「そういう蘊蓄はいらないから」とエンリは迷惑そうに・・・。
カルロが「タルタに申請者になって貰ったらどうよ」
「嫌だよ、彼女自慢とか、そんな恥ずかしい事、出来るかよ」とタルタは迷惑顔で・・・。
若狭が「それにタルタさんだったら、タマさんよりレジーナさんかと」
「彼女がこんなのに出たりするかよ」とタルタ。
するとリラが「ミケ子の宣伝になるけど」
「なるほど、勧めてみるか」
そう乗り気になるタルタに、タマは「私の立場はどうなるのよ」
結局タルタはタマの申請者として応募した。
「レジーナさんが尻込みしたんだよ。猫カフェで客を呼ぶなら看板娘じゃなくて看板猫だよね・・・って」
「確かに一理ある」と頷く仲間たち。
すると、ファフがエンリの上着の裾を握って「主様、ファフを申請しないの?」
エンリは困り顔で「俺はリラの申請者だぞ」
ニケが「エンリ王子、私を申請してくれないかしら」
「俺はリラの申請者だぞ。・・・ってかニケさんも? 柄じゃ無いだろ」とエンリはあきれ顔で聞き返す。
「だって賞金が出るのよ」
そんなニケにエンリは困り顔で「結局それかよ。あんたの彼氏はスパルティカだろ」
「あいつがこんなのに応募する訳無いでしょ」とニケは言った。
翌日、スパルティカがニケに呼ばれて申請窓口へ。
「ニケが妊娠したと聞いて、イタリアから飛んできたんだが。ニケ、俺、頑張るから」
そんな熱血顔でニケの手を握るスパルティカに、ニケは「いいの。あなたに迷惑はかけられないわ」
「迷惑なんて事あるもんか」とスパルティカ。
「じゃ、婚姻届けを書いて」
そう言ってニケが差し出した書類を受け取って、スパルティカは「何枚だって書いてやる」
書類に記入するスパルティカ。
「これで俺たちは夫婦・・・ってこれ何だよ。美人コンテストの出場申込?」
ニケはその書類を引ったくって窓口に提出。
唖然とするスパルティカの肩を、ポンと叩いてエンリは言った。
「多分、妊娠って嘘だから」
「騙したのかよ。俺、こんな彼女自慢の見世物とか嫌だからな」
そう、まくし立てるスパルティカに、エンリは「結婚届とか言われて騙されて出したのがコンテストの申し込みなんて、まだラッキーだよ。外泊届と言われて騙されて傭兵隊に売り飛ばされる奴だって居るんだから」
スパルティカは困り顔で「俺、イタリア都市諸侯同盟の傭兵なんだが」
そんな騒ぎの中にリリスがアーサーを連れて来る。
エンリは彼を見て、心配そうに「アーサー どうした、目の周りの隈が酷いぞ」
アーサーは「リリスに付き合わされて居酒屋で・・・」
「朝帰りかよ」
そうあきれ顔で言うエンリに、アーサーは「外泊届はちゃんと書いたから」
「外泊届って・・・。アパート住まいのお前が、どこにそんなもん出すんだよ」と疑問顔のエンリ。
「あ・・・」
自分が書かされた書類の謎を指摘されて混乱しているアーサーの所にリリスが来て、嬉しそうに言った。
「アーサー先生、美人コンテストの参加申し込み終わりました。申請者としてよろしくお願いします」
申請された書類を見たアーサーは「それ、外泊届・・・。騙したのかよ」
リリスはドヤ顔で「美人コンテストですよ。優勝したら女子会のステータスとして最強じゃないですか」
ボエモンが申請窓口に連行されて来た。
そしてエンリを見て悲鳴顔で「エンリ王子、助けて下さい」
エンリ、唖然顔で「ボエモンさん、どうしたの?」
ボエモンを連行したのはジェルミとノミデス。
二人は口を揃えてボエモンに「ダーリン、私たちのどちらを推薦してくれるの?」
エンリは溜息をつくと「ジェルミさん、既婚者は参加できない事になってるんで」
「そうだっけ?」とアーサーは疑問顔。
がっかりするジェルミを見て得意顔のノミデスが「なら私が」
エンリは溜息をつくと「人間の女性しか参加できない事になってるんで」
疑問顔のアーサー、エンリの耳元で「王子、それ嘘ですよね?」
エンリは小声でアーサーに言った。
「いいんだよ。ボエモンみたいなモテヤリチンが特定の女を恋人宣言してこんな所に出したら、奴が手を出した他の女が暴れて大変な事になる」
フェリペ皇子が申請窓口に連行されて来た。
そしてエンリを見て悲鳴顔で「父上、助けて下さい」
エンリ、唖然顔で「フェリペ、どうした?」
フェリペを連行してきた幼い貴族令嬢たちが「フェリペ様、私たちの誰を推薦してくれるんですか?」
エンリは溜息をつくと彼女達に「悪いけど、年齢制限があるんで・・・」
こうして参加者が確定した。
参加者は犬耳娘、ウサ耳娘、狐耳娘、ダークエルフ。
そしてタルタが申請したタマ。
アーサーが申請したリリス。
エンリが申請した人魚姫リラ。
カサノバが申請した自律機械人形アンリエッタ。
以上の八名である。
執務室でリラ・アーサー・タルタとお茶を飲んでいる時に通知を受け取ったエンリ。
「あの、ニケさんは?」
リラにそう聞かれて「スパルティカが辞退したそうだ」
「辞退できたんですか? 聞いてませんよ」とアーサー唖然。
タルタが「よくニケさんが納得したよなぁ」
エンリはあきれ顔で「審査員を買収する費用が嵩んで、優勝しても赤字になるんだそうだ」




