第233話 無敵の色事師
その日、エンリ王子は執務室でのハンコ突きから逃げ出して、アーサーの研究室へ・・・。
「アーサー。しばらく匿ってくれ」
見ると、先客としてマーリンが来ていた。もしやイチャラブの最中かと慌てるエンリ。
「もしかして邪魔だった?」
「そういう訳じゃないんだけど・・・。ってか、エンリ王子には居て貰った方が都合がいいかも」
そうマーリンは言って、エンリを引き留める。
すると今度はリリスが研究室へ。
「アーサー先生、お弁当を作って来たんですが・・・って、マーリンさん、また私の先生を狙って? いい加減、泥棒猫は卒業して下さい」
そうヌケヌケと言うリリスに、マーリンは「私の方が彼との付き合いは長いのよ」
アーサーは困り顔で溜息をつくと、無駄な修羅場の鎮静化を図る。
「マーリンは魔法研究で相談に来たんだよ。エンリ王子だって居るだろ?」
リリスは膨れっ面で「お昼時間は恋人たちの二人っきりのランチタイムですよ。それに私だってポルタ大学の魔法学部を卒業して魔導局に採用されたプロですから」
「君は事務員採用だろ。それと、いい加減俺を先生と呼ぶのは止めてくれ」
そう困り顔で言うアーサーに、リリスは「素敵じゃないですか。教師と女生徒の偲ぶ恋」
「変なドラマの見過ぎだ」
そう言ってアーサーは溜息をつくと、マーリンを相手の話に戻る。
「それで用件って?」
マーリンは「魔法に関して相談があるの」
それを聞いてアーサーが「本当に魔法研究の話で来たのか」
「さっきのは私を黙らせる当てずっぽうですか?」
そう言って口を尖らすリリスに、エンリは「まあまあ。恋愛事の泥沼問題の話じゃ無いのは本当なんだから」
そして本題に戻る四人。
「で、どんな魔法?」
そう問うリリスに、マーリンは「あなたが術式構築したチャームの呪文なんだけど」
「結局、恋愛事の泥沼問題の話じゃないですか」と口を尖らせるリリス。
「で、どんなイケメンを落とそうって?」
そう問うエンリに、マーリンは「あの千人切りのカサノバよ」
その時・・・・・。
「辻斬りでござるか?」
そう言いながら研究室に入って来るムラマサ他二名。
エンリは三人を見て「何でムラマサ? それにジロキチと若狭さんまで」
「ここは息抜き部屋だろ?」
そう真顔で言うジロキチに、アーサーは「違うから」
「それと千人切りってのは、辻斬りじゃなくて・・・」
そうエンリが言い終わらないうちに、リリスが「行く先々で追放されてる人よね」
「やっぱり犯罪者でごさるか」とムラマサ。
エンリは溜息をついて「違うから」
「けど不倫は犯罪よね」とリリス。
みんなでムラマサに千人切りの意味を説明する。
そしてジロキチがマーリンに「要するにあのヤリチンを落とそうと?」
アーサーが「彼は強敵だよ。なんせやたらモテまくってる最強のイケメンだもんな」
「けど、ヤリチンなら来る者拒まずで、一回くらいは相手してくれるのではござらぬか?」とムラマサ。
「レベルが違うんだよ。何せ、ユーロ中の美女を誘惑して回る奴だぞ」とエンリ王子。
「じゃ、イザベラさんも?」
そう若狭が言うと、エンリは溜息をついて「あの人が絶世の美女だってのは、スパニア諜報局が流した流言飛語だから。彼女の姉はみんなそうだよ。掃いて捨てるほど居る皇女を片付けるためのね」
リリスが「でもアンヌ王妃は実際、美人だよね」
「だから、奴がフランスに来た時は三銃士の奴らが必死にガードして・・・」
そうエンリが言いかけると、若狭が「暴力沙汰に?」
エンリは笑いながら「三人まとめてフルボッコにした所で嫌気がさして撤退したそうだ」
「何せ奴は魔法戦でかなり強い」とアーサー。
「けど、よく諦めたよね。狙った獲物は逃さない人だって聞いたけど」とリリス。
「別にアンヌ王妃を狙ってフランスに行ったんじゃなくて、国教会に改宗したんだよ。彼はあれでも聖職者の資格を持ってるからね」とアーサー。
「なるほど。国教会は恋愛自由だものな」とジロキチ。
「それでフランスを出てポルタに?」とリリス。
そんなとりとめの無い会話を、一通り続ける中、エンリは「マーリンさん、そんな奴を本気で落とすつもり?」
マーリンは「私じゃ無いのよ。彼の恋人が何人も来て、彼を取り戻すのを手伝ってくれって。それで媚薬を使ったけど駄目だったの。そういうのに対抗策をとってるらしくて」
「だったらチャームの魔法も、対抗策で効かないんじゃないの?」とエンリ。
「彼自身相当な魔導士だからなぁ」とアーサー。
そしてエンリは「とにかくその、彼を取り戻したいって女性と話をしてみようよ」
「で、つまりマーリンさんは、自分が彼女達の代わりにそのヤリチンを落とそうと?」とジロキチ。
マーリンは口を尖らせて「だから違うって。私を何だと思ってるのよ」
「けどイタリアで前科があるからなぁ」とエンリ王子。
依頼者という三人の女性に合うエンリ王子たち。
なし崩し的に話を聞きつけた他の仲間も加わって、コーヒー店で落ち合う。
いきなり説教モードに突入するエンリ。
「あのさ、ヤリチンなんて女を落とすのがゲームってつもりでやってる奴らだよ。落としたら興味が薄れて次に行くってのが前提だろ。そんなのに執着するのは空しいと思わない?」
一人の女性が「そういう事を言う男性ってモテないと思います。たとえ間違っていても女性に共感して味方になってくれるのが、女性と接する時の基本ですよ」
エンリは溜息をついて「俺、モテたいと思ってないし」
するとリラは「王子様には私が居ます」
「リラ」
「王子様」
互いに手を執り合って二人の世界に入るエンリとリラに、アーサーは溜息をついて「そういうのは後にして」
エンリは我に返ると、残念顔でその女性に「ってかさ、言ってる人のモテるモテないの・・・って、この問題の本質が何かって事と無関係だろ」
女性は「そんな理屈はどうでもいいんですよ。恋愛は感情です」
「自分の感情が全てだ、なんてのはただの我儘だよ。世界は理屈で動いているんだ。誰かの我儘を押し通して道理を引っ込めるって、まともな人間じゃ無いし、そんな人を誰が本心から好きになる? カサノバだって・・・」とエンリ王子。
すると、もう一人の女性がエンリに「彼はそんな女性の我儘を受け入れてくれます。恋愛ってそういうものですよ」
「無理すれば苦しくなる。それを君は望むの? そんなのだから嫌われたんじゃないの?」
そう追求するエンリの言葉で、涙目になる三人の女性。
残念な空気の中で女性陣のきつい視線がエンリに集中。
若狭が「そういう正論はそれくらいにしません?」
タマが「こういうの、説教ジジイって言うわよね」
ファフが「主様、怖い」
「俺が悪いのかよ」と膨れっ面になるエンリ王子。
そんな中でアーサーは女性たちに「そもそも彼のどこが好きなの?」
タルタが「確かに彼はイケメンで」
カルロが「お金も才能もあって」
エンリが「会話も面白くてセンスも良くて」
「そんなに自虐的にならなくていいです」と女性の一人が・・・。
「どういう意味だよ。俺たちあいつと競ってる訳じゃ無いから」と膨れっ面になるエンリ王子。
「彼、言わなくても察してくれます」と女性の一人が・・・。
「飲みたくなったらお酒を注いでくれる」と別の女性が・・・。
「眠たくなったらベッドに連れて行ってくれる」と、更に別の女性が・・・
そして三人、声を揃えて「まるでUFOから来た人みたい」
「そういう古いネタは要らない」と困り顔のエンリ。
そんな彼らに若狭は「けどそれ、女性の男性に対する一般的な要求ですよ」
カルロも「女性にはそんな接待を受ける価値があるんです。女は誰でもスーパースター、Oh、ギャル!」
「そういう古いネタも要らない」と困り顔のエンリ。
「ってか今日びのギャルって、ただのガールの発音変形じゃなくて、ネガポジ化粧に犬夜叉爪のキモ連呼女だよ」とアーサー。
エンリは溜息をついて「ってか、そんな自己評価過剰な女は要らない」
するとタルタが「つまり要は男にエスパーになれって事だよね?」
「テレパス能力かぁ」とジロキチ。
カルロが「ネットの向うで討論してる相手の経済力透視する能力があるんだととか」
ニケが「それ言ってる人達、自分達がそういう類の国籍透視の被害者だとか言ってるけど」
「俺たち何の話をしてたんだっけ」と首を傾げるエンリ。
ムラマサが「カサノバが宇宙人かもって事でござる」
「いや、彼は友愛とか言って外交ぶち壊して半島国のヘイトスピーチに媚びたりしないから」とアーサー。
「けど、世界の女に博愛主義ですよね?」とカルロ。
「じゃなくてエスパーオーダーの話だ」とエンリは溜息。
するとタルタが「けど彼、魔導士だから読心魔法でも使ってるんじゃ」
「あ・・・」
残念な空気が漂う。
そしてエンリは「とととととにかく、こういうファンタジー設定前提の恋愛論とか駄目だろ」
一呼吸おいて冷静さを取り戻すと、エンリは三人に言った。
「そもそも君達って、彼が付き合った千人の中の一人なんだよね? 独占出来なくて当然だって覚悟で付き合ったんじゃないの?」
すると・・・・・・・・・・・・・。
「私たち、彼を独占しようなんて思ってません」と一人の女性が・・・。
エンリは唖然顔で「そうなの?」
一人の女性が「彼は女性と別れて別の女性に所に行っても、友達として優しくしてくれます。だから彼をずっと独占出来なくたっていいんです」
「時々は手紙もくれるし」と、もう一人の女性。
「会いに行けば優しくしてくれたんです」と、更にもう一人の女性。
エンリは溜息をついて「千人の元カノ相手にそれは人間技じゃないぞ」
「そんな苦行なハーレムなんて要らない」と、タルタも溜息をつく。
アーサーは疑問顔で「けどさ、女性としては、そういうのもアリなの?」
「で無きゃアイドルという存在は成立しないよ」とエンリ王子。
そして女性の一人が言った。
「今までは誰も彼を独占しなかった。けど、あの女が現れて、彼は私たちみたいな過去の恋人との繋がりを断ち切りました。誰も独占できなかった彼を、あの女が独占したんです」
「ようするに嫉妬って訳?」とジロキチ。
「けど、昔の女って今はもう他の恋人や夫が居るんだよね?」
そうカルロが言うと、その女性は「そういう踏ん切りのつかない人だって居るんです」
「その今の恋人って?」
そうリラが言うと、女性の一人が「アンリエッタという自律機械人形です」
「人間じゃない奴に嫉妬してるのかよ」
そうタルタがあきれ顔で言うと、ジロキチは刀の一本を抜いて真顔で言った。
「いや、その気持ち、おれは解る。この真冬たちが俺の恋人だと言ったら、人間でも生物でも無いと言われて散々馬鹿にされたよ」
女性の別の一人が「それはそれで気持ち悪い」
残念な空気の中、若狭は言った。
「それに、ジロキチさんの今の恋人は私ですよね」
アーサーは溜息をついて「それで王子、彼をどうする?」
「これ、俺たちでどうにかなるの?」とタルタは疑問顔で・・・。
「そもそもどうにかって、どうするの?」とエンリも疑問顔で・・・。
すると、ニケが目に同情の涙を浮かべ、右手に目薬の小瓶を持って、彼等に訴えた。
「何人もの女の子が恋に悩んでいるのよ。どうにかしてあげたいと思わないの?」
エンリは溜息をついて「もしかしてニケさん、この人たちからお金貰った?」
「そんな訳無いじゃないのよ。私を何だと思ってるの?」と言って口を尖らせるニケ。
すると一人の女性が「あの、金貨50枚じゃ足りなかったでしょうか」
エンリは残念顔で「ニケさん?」
そんなエンリにリラは言った。
「私、王子様に恋をした時、気持ちを解って貰えるまでは、すごく辛かったです」
「姫」と、リラの手を執るエンリ。
「王子様」
「姫」
互いに手を執り合って二人の世界に入るエンリとリラに、アーサーは溜息をついて「そういうのは後にして」




