第231話 アンボイナの陥落
オランダ東インド会社に占領されて胡椒の強制裁判農園となっていたアンボイナ島へ潜入したエンリの仲間たち。
エンリが別行動をとる中、十人の仲間たちは奴隷化された住民たちを救うべく、島の様子を調べて襲撃作戦を練る。
腹ごしらえのため入った社員食堂で正体を見破られた彼等に、ゴイセン海賊団のウィル団長直属部隊が迫る。
「またお前等かよ」
タルタがうんざり顔で言うと、ウィル団長は言った。
「で、お前はまたあの鋼鉄砲弾って奴で来る訳か? ドレイクはあれを受け止めたって言ったよな。そのくらい俺たちにだって出来る」
ウィル団長は部下たちに合図すると、全員アメフトのプロテクターを身に着け、真ん中でウィルが大きな楯を構えた。
何人もの部下が固まって彼を支える。
そして「さあ来い」
タルタはあきれ顔で溜息をつくと、「鋼鉄砲弾」の掛け声とともに飛翔しながら鉄化。
彼はウィルたちを飛び越えて、その背後の部下たちを吹っ飛ばして着地すると、ウィルたちの真後ろから再び鋼鉄砲弾。
吹っ飛ばされるウィル団長と部下たちは叫んだ。
「卑怯だぞ!」
タルタはうんざり顔で「何のスポーツだよ」
ウィルは気を取り直して「もうすぐ他の部下たちと兵営に居る社営陸軍が来る。お前等は終わりだ」
「それはどうかしら」と、建物の影から出て来たタマが言った。
「タマ、どこに行ってたんだよ」
そうタルタが言うと、タマは「ここの猫たちが協力してくれたわ。飼い主が奴隷にされて餌を貰えなくなるのは死活問題だからね」
兵営のある方角で火の手が上がり、幾つもの爆発音が響く。
ウィル団長に兵営に居る部下から連絡。
「現地人が集団で脱走して暴動を起こしました。兵営でも火災が発生して、消し止めるまで持ちこたえろとの事で・・・」
「何やってるんだ。司令部に連絡しろ」と、ウィルは通信魔道具の向うの部下に向って吠える。
そして彼は、通信魔道具で司令部に連絡するが、応答が無い。
「向うも当分動けないと思いますよ」と、建物の影から出て来たカルロが言った。
「カルロ、どこに行ってたんだよ」
そうアーサーが言うと、カルロは「本部のあちこち爆破して火を付けてやったんですよ」
見ると、本部の方でも火の手が上がっている。
ウィル団長は、悔しそうに歯噛みをしながら部下に言った。
「おのれ。兵営に戻って消火やってる奴らと合流して立て直すぞ」
すると「立て直しなんて出来ないと思うぞ」
その声がした方向を見上げると、空を飛んで来る絨毯に乗ったエンリ王子。そしてアラジンとアリババ。
ウィル団長は、更に悔しそうに歯噛みをしながら「また厄介な奴らが・・・。とにかく戦略的撤退だ」
「エンリ王子」
そう叫んで、地上に降りた三人の所に駆け寄る仲間たち。
リラが嬉しそうにエンリに飛び付く。
エンリは「援軍を連れて来た。マラッカの正規軍と、こいつらもな」
「たまたまマラッカのアラビア商人の依頼で来てたんで」とアリババが言った。
アーサーは「じゃ、ファフは結界装置を壊したんですね?」とエンリに・・・。
するとエンリは怪訝顔で「いや、結界はまだ生きてるぞ。俺たちはサンクリアン王子の助けで結界の一部を無効化したんだ」
「あの火山の精霊の・・・」
そう呟くアーサーに、エンリは「ここの結界の魔力源は地下の炎の魔素だって言ってただろ。それって火山と同じだよね。だから彼なら結界を無力化できると踏んだのさ。ところでファフはどうした?」
そう問われてアーサーは「島の中心にある結界装置の破壊に向って、リバイアサンと戦ってる筈です」
エンリはアラジン・アリババと顔を見合わせる。
「不味いぞ。結界装置は地下から魔力を得ている。リバイアサンもそこから魔力を得ている筈だ」とエンリ王子。
エンリは仲間たちに、上陸して来るマラッカ軍との合流を指示すると、アラジンとアリババとともに絨毯の飛行魔道具に乗って、結界装置のある山に向った。
山頂の少し下で、巨大な蛇の下半身の、手に剣と杖を持つ巨人が、空中のドラゴンにファイヤーボルトを連射している。
ドラゴンは左手に持つ楯で必死に防いでいる。
「大丈夫か? ファフ」
そう絨毯の上から呼びかけると、ドラゴンは「魔法が強くて近付けないの」
「俺に任せろ」
そう言うとアラジンはジンを召喚。
ジンはアラジンを肩に乗せ、リバイアサンの火炎魔法を弾き返しながら、山を駆け上がる。
リバイアサンが右手の剣を翳してジンに斬りつけようとする。その剣をドラゴンが剣で受け止め、二体一の取っ組み合いが始る。
エンリとアリババは顔を見合わせて「今のうちに結界装置を破壊するぞ」
山頂の小屋に向けてアリババが雷魔法を打ち込む。
小屋は木っ端微塵となり、島を覆う結界は消滅。
そしてリバイアサンの姿は消えた。
空飛ぶ絨毯の上に戻ったアラジンが言った。
「リバイアサン、何で消えたんだ?」
「ここの魔力に依存してたって事か?」とアリババ。
エンリが「というより、装置を壊されて、ここを守る意味が無くなったって事じゃ無いのか?」
「って事はまた出て来るかな?」とアラジン。
「恐らく」と言って、エンリは港の方向を見る。
人間の姿に戻ったファフと一緒に、絨毯で飛んで空から街に戻る。
港にはマラッカ王国の艦隊が入港しており、東インド会社の本部庁舎建物は焼け落ちていた。
その様子を空から見て、アラジンは「戦闘は一応片付いたようだな」
「本部建物跡の背後の台地に砦があるだろ。あそこに立て籠もって抵抗しているようだな」とアリババが言った。
焼け落ちた本部庁舎跡の前に、マラッカ王国軍。エンリの仲間たちとともに、解放された現地人たちも集まって来る。
エンリたちが乗った絨毯がマラッカ軍の本営前に降り立つ。
本営前にはシンドバットとサンクリアンも居た。
向うの現地人たちの中に居た仲間たちも、空飛ぶ絨毯が降りるのを見て駆け寄った。
マラッカ軍を指揮する将軍はエンリに言った。
「結界装置の破壊には成功したようですね。こちらも街の解放は完了しました」
仲間たちもエンリの元に来て、あれこれ言う。
タルタが「シンドバットも来てたのかよ」
「当然だ。俺たちは三人でチームだからな」とシンドバット。
「この人がサンクリアン王子でござるか」と、ムラマサが彼を見て言う。
「おや、皆さん。見ない顔の女性が二人も。しかも今流行りのケモ耳に大和撫子とは」
そう言いながらポーズを決めるサンクリアンを見て、タマが怪訝顔で「この人、何で踊りながら会話してるの?」
リラが「すっかり王子様キャラですね」
そんなサンクリアンにエンリが「言っとくけど彼女達、一応既に相手が居るんで」
するとサンクリアンは「お気になさらず。私も今は人間より精霊のお相手に忙しい。何しろ彼女達は情熱的ですから」
将軍はサンクリアンを見て、エンリに「この辺は火山が多いので、噴火しそうになると、彼にそこの精霊を宥めて貰っているのです」
「で、奴らは、あの台地の砦に・・・」とエンリは台地の上を見上げる。
砦を包囲して、攻城戦が始まる。
「おとなしく撤退しろ」と呼びかけるマラッカの将軍。
だが、砦側の指揮官は櫓の上から叫んだ。
「断る。ここを死守するのが会社から与えられた使命だ。話し合いなど無意味」
そんな指揮官にエンリが「哀れだな。オランダに居る幹部は現地の事など知らない。現状を把握しなければ合理的に行動出来ない。解らず屋の幹部のために無駄死にとは」
「我々は打開する力を与えられた」と砦側の指揮官が叫ぶ。
砦に居た魔導士ホッブスが呪文を唱え、リバイアサンが召喚された。
「またそれかよ」と溜息をつくエンリ。
だが、砦側の指揮官は「それだけではないぞ」
砦に居た別の魔導士が呪文を唱え、ビヒモスが召喚された。
アーサーが驚き顔で「あれってジュネーブ派の奴らの召喚獣ですよね」
エンリは言った。
「なるほど、そういう事か。あの二体は陸と海を支配するとされた一対の神獣だ。たかが海賊がその片割れを使役するとか変だと思ってたが、オランダはジュネーブ派だからな」




