第230話 潜入の海賊
オランダ東インド会社に占領され、住民が奴隷化されて、胡椒の強制栽培農園となっていた、ジャカルタのアンボイナ島。
マラッカ王に住民の解放を依頼されたタルタ海賊団は、別行動のエンリ王子を除く十名で、島を覆う結界を掻い潜り、ここに潜入した。
翌朝、東インド会社の制服を着た十名は、潜入工作再開の気勢を上げた。
「これよりこの島を占拠した奴らを一掃し、現地人を救出ため、我々はオランダ東インド会社の拠点を急襲する」と号令を下すアーサー。
カルロが「具体的には?」
「先ず倉庫だよね」とタルタ。
「いや、奇襲ってのは抵抗する敵の武力を潰すんだから兵営だろ」とジロキチ。
「現地人を助けるんだから収容所ですよね」とリラ。
「司令塔を抑えるのがセオリーだろ。だから会社の本部」とアーサー。
リラが困り顔で「どうしますか? 王子様・・・って別行動だっけ」
タルタが「そもそも何で王子は別行動?」
「何でだろ」と全員首を傾げる。
ファフが「上の人は安全な所から兵たちを叱咤して死地に送るんだって主様が言ってた」
「それって悪役のボスのパターン」とアーサーが困り顔。
ジロキチが思い付いたように「じゃ無くて、応援を呼んでるって事だろ?」
「けど、結界で外からは攻め込めないですよ」と若狭。
「その結界装置を潰すのが私たちの役目でしょーが」とタマ。
「そーだった。先ず結界装置を襲撃だ」と仲間たちは声を揃えた。
「どこにあるでござるか?」とムラマサ。
アーサーは「使い魔で捜索中」
「駄目じゃん」と全員残念そうに溜息をつく。
「とりあえず、他の所を攻略しようよ」とカルロが言った。
ジロキチが「なら兵営」
リラが「収容所ですよね」
アーサーが「本部だろ」
タルタが「いや、倉庫だ」
「ってか何で倉庫?」と若狭はタルタに・・・。
ジロキチが「そうか、武器を抑える」
ニケが「いや、貯め込んだ胡椒よね。それを持ち帰ってお金ガッポガッポ」
タルタは溜息をついて「じゃなくて先ず食料だろ。俺たち昨日から何も食べて無いぞ」
「そーいや腹減った」とジロキチ。
「腹が減っては戦は出来んでござる」とムラマサ。
するとニケが「ってかさ、折角制服着て奴らに紛れてるんだから、社員食堂に行こうよ」
東インド会社の社員向け食堂へ。
テーブルに座って注文を・・・。
店の人が注文をとりに来る。
「何になさいますか?」
「粉っぽいカレー」とタルタ。
「具の少ないラーメン」とジロキチ。
「お寿司、サビ抜きで」とタマ。
タルタがあきれ顔でタマに「いや、少しは遠慮しろよ」
タマは「猫のご馳走って言ったら切り身よ」
「シャリ残してネタだけ食う気かよ。ってか何でサビ抜き? 言っとくが、わさびテロなんてデマだぞ」とタルタ。
「じゃ無くて、猫は辛いものが食べられないのよ」とタマ。
店の人はファフに「そちらのお嬢ちゃんは?」
「お子様ランチ」とファフ。
十人それぞれ好き勝手言い、注文が揃った所で店の人が確認。
「ではカレーとラーメンとお子様ランチと・・・って、ちよっと待て。お嬢ちゃん何歳? 児童福祉法で子供の雇用は禁止されてるんだが・・・、本当に君、社員?」
そう疑いの目を向けられたファフは「けど現地人は子供も鎖で繋いで働かされてるよね?」
店の人はドヤ顔で「現地人奴隷に人権は無い。キリッ!」
カルロが困り顔で「いや、悪役にそういうの求めても無駄だから」
アーサーは、いきなり涙目になって店の人に訴えた。
「見逃して下さい。実はこの子は現地人で、親が過労で死んで僕が保護して匿ってるんです」
店の人は残念そうな目でアーサーを見て「お前・・・」
「病気で死んだ妹の代わりに、この子の癒しが無いと俺、生きていけない」とアーサーは、更なる涙目で訴える。
「お前・・・、妹萌えゲームマニアか?」と店の人。
「お兄ちゃん、大丈夫だよ」と悪ノリするファフ。
「ってか、それも犯罪だよね?」と店の人は思いっきり残念そうに・・・。
ジロキチがアーサーを庇って「現地人奴隷にして強制栽培制度やってる所でその理屈は無いかと」
タルタが「異世界転生物でヒロインが奴隷なんてザラだし」
カルロが「可愛いは正義だよ。ロリコンだって同性愛と同じ特殊性癖の一つだよね?」
店の人は溜息をつくと「まーいいや。けど、後でちゃんと手続きしろよな」
出されたものを食べる十名の仲間たち。
食べながらタルタが言った。
「ところでアーサーってロリコンだったんだ」
「ファフが居ないと生きていけないんだよね?」と、ファフは楽しそうにアーサーに・・・。
アーサーは慌てて「あれはこの場を誤魔化すお芝居だろーが」
食事が終わり、ニケがみんなから代金を集めて支払いを清算。
店の人の「毎度あり―」を背に、彼等は社員食堂を出た。
「さて、腹が膨れた所で、襲撃開始と」とアーサーが言うと・・・。
ジロキチが「じゃ、兵営を」
アーサーが「いや、本部だろ」
リラが「収容所では?」
その時、店の人が顔色を変えて出て来て、彼等を呼び止めた。
「あの、お客さん、ちょっと待ってくれますか? このお支払い・・・」
「もしかして足りなかった? ニケさん!」と仲間たち、声を揃えてニケに視線を集中。
ニケは焦り顔で「誤魔化して無いわよ。私をそんな目で見ないでよ」
そんな彼等の内輪もめを他所に、店の人は言った。
「これ、オランダのお金じゃなくてポルタの銀貨ですよね? ここでは社員は給料を紙幣で貰って、ここの施設では紙幣しか流通しないんだけど、お前達、何物だ?」
アーサーたちが唖然とする中、わらわらと湧いて出る警備兵。
「仕方ない。蹴散らすぞ」
そうアーサーが仲間たちに呼びかけ、ファフがドラゴンに変身する。
警備兵たちはドラゴンを見て「不味い。撤退して本隊と合流だ」
だが、警備兵たちが撤退しようとした時、アーサーが使い魔からの情報を察知した。
「使い魔が結界装置を発見したぞ」
そうファフに言って、アーサーは念話で位置を伝える。
「じゃ、行って壊してくるね」
そう言ってファフ、戦闘放棄して翼を広げ、空を飛んで島の中心を目指す。
仲間たち、慌てて「ちょっと待て。こいつらどーすんだよ」
警備兵たち、唖然。
そして兵たちは指揮官に「ドラゴン、逃げちゃいましたけど」
指揮官は言った。
「あれは逃げたんじゃない。結界装置を破壊する気だ。至急、本部に連絡しろ」
睨み合うエンリの仲間たちと警備兵の一団。
「ファフが居なくなっちゃったけど」
そうカルロが言うと、タルタが「あんな奴ら、俺たちだけで十分だ」
警備兵たちの指揮官は号令を下した。
「かかれ!」
その時、ドラゴンが戻って来た。
「やっぱり撤退だ」
そう指揮官は叫び、退却していく警備兵団。
戻って来たファフのドラゴンに、アーサーは「助けに来てくれたのか?」
「じゃ無くて、リバイアサンが出たの。ドラゴンの剣と楯をお願い」とファフ。
アーサーはドラゴンの剣と楯を召喚する。
「じゃ行って来るね」
そう言って、剣と楯を持ったファフは、ドラゴンの翼を広げる。
アーサーは「いや、俺たちも・・・って、行っちゃったよ」
飛び去るドラゴンを見ながら、アーサーは言った。
「とりあえず俺たちで、どこを襲撃しようか」
その時、彼等の背後で「おい、お前等」と、ドスの効いた怒鳴り声が響いた。
ゴイセン海賊団のウィル団長とその手勢が現れた。




