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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第229話 香辛料の要塞

マラッカ植民市で対立していたイギリス商館の職員を拉致し、拷問にかけて襲撃計画の罪を着せようとしていたオランダ商館は、その罪を暴かれて追放された。

そして、植民市自体を乗っ取ろうとして起こした暴動も、鎮圧された。

オランダ東インド会社の商館は植民市から消えた。

会社としてのジャカルタでの交易からの撤退表明も出され、争いは終結したかに見えた。

だが・・・。



植民市で観光気分に浸りながら、宿舎でダラダラと過ごしつつ、あれこれ言うエンリと仲間たち。

そんな中でオランダ東インド会社の話題が出る。


「オランダは胡椒交易から撤退したんだよね?」とアーサー。

するとニケが「けど、変なのよね。オランダによる胡椒の扱いは殆ど減っていないのよ」

「インドでもスパイスは採れるけどね」とエンリ。

カルロが「どこかに別の拠点があるとか」

「まあ、商館なんて無くても交易は出来るけどね」とタルタ。



その時、マラッカ王の家来がエンリの元を訪れた。

「王国の配下の地方領主からの報告ですが、アンボイナ島の住民との連絡が途絶えたというのです。オランダ人との間での争いと、何か関係がある可能性があると王は心配しておりまして」


「つまり我々に・・・」

そうエンリが言いかけると、その家来は「別に皆さんにお願いしている訳では無いのですが、オランダという敵がまだどこかに居て、皆さんに害を成すかも知れないと王は心配しておりまして、とりあえずお知らせしておこうと。別に皆さんに解決を求めている訳では無いのですが」

エンリは溜息をつくと「解りました」

「行って頂けますか」と身を乗り出すマラッカ王の家来。


アーサーはあきれ顔で「解りやすい人たちだなぁ」



マラッカ海峡は、半島とその南にあるスマトラ島の間に位置する。

スマトラ島の東に点々と続く島の列。その島の中にあって、香辛料の産地の一つ。それがアンボイナ島だ。


タルタ号の甲板から海の向うに見える島。

「あれがアンボイナ島だね」

そう能天気な声を上げるタルタ。アーサーが望遠鏡で島を見て、島の異変に気付いた。

「何だあれは。島全体が巨大な結界に覆われているぞ」


更に近づいて観察し、アーサーは言った。

「あれは入れそうにないですね」

エンリは表情を曇らせて「もしかしてゴイセンに占領されているって事かな? 中はどうなっている?」

「これ以上近づくと警戒されますよ」とアーサー。

リラが「私が海中から近付いてみます」

「俺も乗せてくれるか」とエンリ王子。



エンリは人魚の姿になったリラの背に乗って海中を進み、海面から顔を出して望遠鏡で島を観察する。

海岸に東インド会社の社員らしき人物と、鎖に繋がれた現地人が居た。

「占領して現地人を働かせているんだ」とエンリは呟く。



船に戻って仲間たちに話す。そして、あれこれ相談する。

エンリは「とりあえずマラッカ王に報告しよう」

「けど、これって俺たち、丸投げされてるよね。報告する意味あるの?」

そう疑問を呈するジロキチに、エンリは言った。

「勝手に処理していいのかも知らんが、王には別に聞きたい事がある」



アンボイナ島を離れてマラッカ王国へ向かうエンリ王子たち。

王宮に行って報告すると、マラッカ王は言った。

「オランダ人が島の民を奴隷に?・・・。由々しき問題です。彼等を助けて貰えますか」


そしてエンリは王に尋ねる。

「それなんですけど、あの島は丸ごと結界で覆われていて、それには膨大な魔力が必要です。皆さんはシンガポール島で、同じような結界を使っていましたよね。あれはどうやったのですか?」

「地下から得た炎の魔素を転換したものです」とマラッカ王。


「炎ですか?」

そう怪訝顔で聞き返すエンリに、マラッカ王は言った。

「このあたりの大地は炎の魔素が地下に沈む場所で、その流れに乗って周囲から集まって来るのです」

アーサーは「アイスランドでは球体地面の中心から湧き出た流れがあったけど、それと逆ですね」


「その結界を外から止める方法は?」

そうエンリが訊ねると、マラッカ王は「あれは中からしかコントロール出来ないのです。魔力そのものに干渉する手段でも無い限りは・・・」

「魔力そのものに・・・ですか?」とエンリは呟く。



エンリたちは再び現地に向かい、アンボイナ島の近くに停泊して作戦を練る。

あれこれ話す中で、アーサーが言った。

「彼等はあそこで胡椒を採って交易に使っているんだよね? だったら、運び出すための船の行き来はある筈です」


しばらく島を監視するが、船の出入りする様子は無い。

進展しない監視にみんなが苛立つ中、「もしかして海中じゃないのかな?」とタルタが言い出す。

「潜水艦かよ」とエンリ。


リラが魚の使い魔を放つ。やがて使い魔は潜水艦を察知した。

「やっぱり海中で島の外と荷物のやり取りをしているのか」

そうエンリは呟き、使い魔に追跡させる。


沖合にオランダ東インド会社の船が停泊している。そこに潜水艦が浮上し、荷物を移す。

リラは「あの潜水艦の帰りの便で船底に取り付いて潜り込めます」

エンリは「よし、やってくれ。それと俺は保険をかけるために別行動をとる」



エンリはファフのドラゴンに乗って、近くの港へ。

ファフが船に戻ると、リラが人魚になって全員をロープで引いて海中を進み、潜水艦の船底に取り付く。


「海中ならファフのドラゴンでも行けたんじやないの?」と、海中を進みながら、ニケが言う。

アーサーが「けど、大きくて目立つからね」

島に近付き、海中に延びたシールドの一部が開いて、潜水艦と一緒にシールドの中へ。

深い入り江の海中を進むと、入り江の奥に港がある。


港の手前で潜水艦から離れ、人気の無い海岸に上陸した。

彼等は服を乾かすと、密林の中を港に近付く。



港の背後は街になっており、多くの建物が並ぶ中、何人もの現地人が鎖に繋がれで歩かされていた。

東インド会社の制服を来た男が「キリキリ歩け」

そんな様子を見て、タルタが「あれって弱ってる人が転んで鞭で打たれるのを仲間が庇うんだよな」

「そんなお約束な」と若狭があきれ顔。


ふらふら歩いている一人の現地人が、力尽きたように倒れる。

「サボってるんじゃない」と監督役の社員が怒鳴る。

倒れた人の後ろを歩いていた現地人が、彼を庇って「この人は病気なんです。どうかご慈悲を」


そんな様子を見て、タルタは「ほらね」

「けど可哀想。どうにかしなきゃ」とリラ。

「夜中に襲撃かけて乗っ取るとか」とジロキチ。

カルロが「相手は軍隊ですよ」

「俺たちで潰せるだろ。ドラゴンだって居るし」とタルタが能天気な事を言う。


そんな仲間たちを制して、アーサーが言った。

「先ずは状況の把握だよ」

「何チームかで手分けしよう。それで各チームに隠身を使える人を配置する」とジロキチ。

「誰が使えるんだ?」とタルタ。

「アーサーとタマは使えるよね?」とカルロ。

若狭が「私は使えます。魔法戦闘に必須なので」

「リラは?」

そうアーサーが訊ねると、リラは自信無さそうに「どうにか・・・」

カルロが「なら、リラさんには俺が付きますよ。見つかっても逃げ足には自信があるんで」

「なら、タマとタルタ。ジロキチと若狭とムラマサだな」とアーサー。

「残りのファフとニケさんはアーサーだね」とファフが言った。



各自、隠身で姿を消して街に散る。

そして夜中、街外れに見つけた空き小屋に集合し、情報を報告し合って街の見取り図を作る。

若狭が「ここに現地人の収容所があります」

タルタが「このあたりにゴイセン海賊団と社営陸軍の兵営だ」

アーサーが「ここが倉庫でここに司令部」


ニケがテンションMAXで言う。

「それより見た? ここ、胡椒の人工栽培に成功してるわよ。西方大陸のアマゾナで何年もかけてうまくいかなかったのに。この技術を西方大陸や南方大陸に持ち込んで、未だに高級品な胡椒を大々的に栽培して、お金ガッポガッポ」

「って事は、ここの人たちは栽培を強制されてる労働力って訳だ」とジロキチ。


「それにしても騒がしいわね」

タマがそう言うと、リラが「すみません、途中で見つかっちゃいまして」

カルロが「大丈夫、俺が得意の逃げ足で・・・」

「まいた訳ね?」

そうアーサーが確認すると、カルロが「それが、まいてもすぐ見つかっちゃって」

ジロキチが「そりゃ、ここに居るのは鎖に繋がれた現地人と制服着たオランダ東インド会社の社員だけだものな」

「それで、港に逃げて海に飛び込んで人魚になって何とか」とリラ。

「それで、そんなにずぶ濡れなのかよ」とタルタ。

「これぞ所謂・・・」

カルロが言おうとしたその言葉を、ニケが遮って「水もしたたるいい男・・・なんてマンネリ化した台詞とか、まさか言わないわよね?」

「な・・・何の事かなぁ」と、カルロは慌ててすっ呆ける


「けど、どーすんだ。侵入者が居るとバレて警戒されてるぞ」

そうタルタが言うと、カルロは「そうなると思って、くすねて来ました。東インド会社の制服」と言って、衣服の包みを出す。

「それもずぶ濡れでござるが」とムラマサ。



水魔法で制服を脱水するリラ。

制服が乾くと、全員、その制服に着替える。

そしてニケが「あと、島を覆ってる結界の魔道具装置を壊さなきゃ」

「多分、この街には無いと思うぞ。きっと島の真ん中の山の上だ」とアーサーが言った。

ジロキチが「それは使い魔に探させたらどうかな。場所が解ればファフのドラゴンで一っ飛びだ」

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