第228話 暴動の海賊
マラッカ植民市でのイギリス商館とオランダ商館の争いで、オランダ商館に拉致されていたイギリス人被害者は救出され、裁判でオランダ商館は追放と決まった。
街の警備兵が監視する中で撤収の準備が始まったオランダ商館。
そんな様子を遠巻きに眺めるエンリ王子たち。
アーサーが「このまま大人しく撤退・・・とは、ならないよね」
「あの事もあるし・・・」とエンリも・・・。
エンリは警備所長に伝え、街の住民たちの動きを警戒するよう指示する。
突然、オランダ側の反撃が始った。
撤収作業中の館内で、東インド会社社員たちが警備兵に襲いかかり、館内で召喚されたゴブリンや魚人たちが、これに加わる。
「始まったか」と険しい表情を見せるエンリ王子。
彼が仲間を連れて警備兵たちに加勢しようとした時、街の警備隊から知らせが来た。
「大変です。街でゴイセン海賊率いるミン人移住者が暴れています」
警備隊長は言った。
「この街の商売を独占させるためにミン人以外の商売を禁止し、ゆくゆくはジャカルタ全域を支配して、彼等に経済を任せる・・・というミン人マフィアとオランダ側が密約を結んだというのは本当だったんですね。用意は出来ています」
「ですが、ゴイセンの奴らは強敵ですよ」とエンリ王子。
「皆さんはそちらに回って下さい。商館はこちらで何とかします」と警備隊長。
市民兵が出動するが、ウィル団長が率いる海賊兵団に圧倒されている。
その一方で、街の至る所でミン人暴徒が少数の海賊に率いられて、団長の指令を受けて、市内各所を襲う。
そんな報告を受けて、エンリは指令を下した。
「別動隊の奴らはファフが空から叩いてくれ。ニケさんは指示を頼む。俺たちは指令を出してる幹部の奴らを倒すぞ」
暴れているゴイセン軍団のど真ん中にタルタが鋼鉄砲弾で飛び込み、混乱した所にジロキチ・若狭・カルロが斬り込む。
彼等が幹部たちと切り結ぶ乱戦の中、タルタが部分鉄化でウィル団長と斬り合う。
タルタは闘いながらウィルに「いい加減、会社の犬なんて止めたらどうだよ」
「世の中を知らない若僧が」とウィルは・・・。
剣を振るう4人を囲む海賊たちの群れにアーサーのスケルトン軍団が突入。
その先頭で魔剣を振るうエンリとジパング刀で海賊と切り結ぶサコン。
「あなた達はいつもこんな戦いを?」
そう戦いながらサコンが言うと、エンリは「まあな」
スケルトンの背後からはリラとタマが魔法攻撃で支援。
やがて配下の多くを倒されたウィルは残りを連れて撤退。
「他の所ではどうなってる」
エンリが通信魔道具でニケに状況を確認する。
ニケは「火事になるから炎は使えなくて、通りに降りて蹴散らしてるんだけど、手が回らない」
海賊を先頭に立てた暴徒が各地で市民兵を押していた。
ミン人に商売を独占させるという話を知ったマラッカ人たちが、ポルタ人市民とともに鎮圧に加わる。
だが彼等は、暴徒たちを背にした海賊の戦闘力に圧倒されている。
そんな状況を聞いて、アーサーは「一頭の獅子が率いる百頭の羊は一頭の羊が率いる百頭の獅子を駆逐するって訳ですね」
エンリは「だったらこっちも・・・」
ドラゴンの背に乗ったエンリたちの仲間が、一人づつ各所で戦っている場に飛び込む。
タルタが、カルロが、若狭が、ジロキチが、エンリが、飛び降りた所の暴徒の先頭に居る海賊を倒す。
そして残ったアーサー・リラ・タマは、ドラゴンの背からその他の暴動現場を回って魔法攻撃。
まもなく市街の暴動は鎮圧された。
「残ったのはオランダ商館だけだ」とエンリは気勢を上げた。
街の警備兵たちは、召喚された魔物を使ったオランダ側によって商館から排除されていた。
魚人とゴブリンが周囲を固める商館を、市民兵たちが包囲している。
警備長官が、商館に立て籠もる社員たちに呼びかける。
「大人しく投降しろ。ミン人を使った暴動は鎮圧された。周りに味方は居ない」
商館からは「それはどうかな」とオランダ商館長が・・・。
街の城壁の正面門上の櫓から報告が来た。
「大変です。港の沖合に大艦隊が」
植民市の沖合からゴイセン海賊艦隊が迫っている。
「何故だ。艦隊としては港に入れないのに」
そう焦り顔で言う警備隊長に、エンリは言った。
「けど、個々の船は入れるからね。個別にここまで来て、沖合で結集したんだろうな」
エンリが正門上の櫓に駆け付けた時、艦隊の前面にリバイアサンが出現した。そして艦隊から上陸兵が押し寄せる。
「とにかく防衛戦だ」とエンリ王子。
砦の門の櫓に立って攻め寄せる海賊軍に市民兵の小銃隊が一斉射撃。
ファフはドラゴンに変身して、アーサーが転送した剣と楯を持ってリバイアサンに斬りつける。
城壁にとりつくゴイセンの海賊をジロキチと若狭が追い落とす。
城壁を登って来る海賊たちをリラの魔法攻撃が払い落し、エンリは炎の巨人剣で城門に群がる敵を薙ぎ払う。
その時、マラッカ城下から現地人の軍団が現れ、オランダ側の軍勢に攻めかかった。
その背後にナーガとガルーダ。
援軍の到着に「ようやく来たか」と胸を撫でおろすエンリ王子。
「マラッカ王国の正規軍ですね」とリラ。
エンリは「マラッカ王に警告したのさ。オランダ人はミン人を手なづけて、支配に使ってこの国を奪う気だってね」
タルタが「俺たちも商館に突入しようよ」
オランダ商館では乱戦になっていた。
市民兵がゴブリンたちと戦っている。
「加勢するぞ」
そう言ってジロキチたちが斬り込み、ゴブリンたちをなぎ倒して建物の奥に突入。廊下に居る敵を次々に仕留める。
「幹部はまだ中に?」
制圧が進む中でそう問うエンリに、警備所長は「三階の幹部室は既に占拠したのですが」
するとサコンが「エンリ王子、中の様子は俺が・・・」
「もしかして脱出ルートとか?」
そう問うエンリに、サコンは「俺、ここの警備員でしたから、建物の間取りは解ってます。幹部が支配のためのデータを持って逃げ出す算段をしている筈です」
エンリは「奴らは今、どこに」
「幹部室の裏に隠し部屋がある筈です。そこから真っ直ぐ降りた所から馬小屋に通じています」とサコン。
ニケが薬瓶を馬小屋に投げ込む。
商館長を乗せた暴れ馬が飛び出し、商館長を振り落として走り去った。
落馬した商館長を警備兵たちが取り囲む。
「そこまでだ」と魔剣を突き付けるエンリの隣に居るサコンを見て、商館長は言った。
「サコン、裏切ったのか」
サコンは「シチゾーは友達だった。あんたが俺に彼を裏切らせた」
悔しそうに歯噛みする商館長に、エンリは言った。
「商館長、同行願います。一連の犯罪行為については、厳しく追及させて頂く」




