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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
225/562

第225話 解放と節制

エンリ王子たちは、ジュネーブ派によって弾圧された賢者セルベートを救出し、ジュネーブの街で神権政治による圧政を敷いていた大賢者カルビンの独裁を倒した。



街の人たちは傀儡の魔法から解放され、その場に倒れて眠った。

街の人たちに紛れていたアーサーが仲間たちと合流する。


アーサーはエンリを目覚めさせる。

エンリは魔剣をベヘモスの体から抜き、炎の巨人剣に切り替えて、ベヘモスの首を切り落とす。

その巨大な体は消滅し、カルビンは元の姿に戻った。


「あれって、何だったんですか?」

そう訊ねるアーサーに答えて、エンリは仲間たちに説明した。

「生き物の体の大部分は水で、水は音を通すからな。俺は水の剣と一体化する事で、自分が聴いた人魚の歌を水を通して魔物の体に直接流し込んだのさ」



街の人たちは理性を取り戻して目を覚まし、兵たちは武器を捨てた。

そしてエンリたちは、倒れて眠っているカルビンの額に第三の眼がある事に気付く。

それを見てアーサーは「魔眼だね」

「かなり衰弱しているわね」とニケが診断する。

セルベートは言った。

「魔眼は普通では召喚できない者を召喚し、普通では使えない術を使います。それは精霊の世界を見る事が出来るからなのですが、自分の魂を削るものでもあるんです。だから長くは生きられない」



やがてカルビンが目を覚ました。

「私は敗れたのだな。魔眼の副作用により死が迫っている。その前に神の国をこの目で見たかった」

そう言うカルビンに、エンリは「あんなの天国じゃない」


カルビンは言った。

「私は魔眼により神の声を聞いたのだ。それによってあの書を書いた」

「それであの監獄みたいな市政かよ。そんなのが天国だとか言うのが神様なものか」とエンリ。

「ですよね。そう名乗る知性ある魔的存在は掃いて捨てるほど居ます」とアーサー。

「それは、後世の者が判断する事だよ」

そう呟いて、大賢者カルビンはこの世を去った。


後に残ったカルビンの部下の長老たち。

カステリオンは彼等に「あなた達はどうするのですか?」

「私たちは過ちを犯したのでしょうね。各国に送り込んだ工作網を解体して、規則や罰則で市民を縛る事も止めます。ですが、彼の教えは守っていくつもりです」と長老たち。

「娯楽禁止とか?」

そうエンリが言うと、彼等は「それは程度の問題かと」



長老たちが戦いの後始末を始めると、カステリオンはエンリに問うた。

「カルビンの滅びは神が定めた運命・・・とは、あなたは思わないのですよね?」

エンリは「それを成した意思があるとすれば、それは神ではなく、彼が否定した人間性そのものだと思います」

「彼は寛容では無かった。最後に人を救うのは寛容だと私は思います」とカステリオン。

それに対してエンリは言った。

「寛容って、許すって事ですよね? それって上から目線の発想ですよ。人と人は対等で無くてはならない。そして世の中には許してはいけない物もある。それは誰かを害そうと望み、害し続けている意思です。それに対する寛容は誰かを害する物です。それを目的としてリベラルは"過去の処理を終えた問題に対する報復と称して他民族を害するという、否定しなければならない意思"に対する寛容を要求する事で、不当な憎悪を擁護するのです」



街の人たちが目を覚ますと、長老たちはカルビンによる支配が終わった事を彼等に伝えた。

そして、新しい市政が模索される事になった。


「で、あんた達は教派とかはどうするんだ?」

そうエンリが街の人たちに問うと、彼等は言った。

「正直、ああいう生活は真っ平です。けど、規則とか止めるんなら信者は続けます」

「何でさ」とエンリが問い、彼等は答える。

「お金が貯まったんです」

「金貨なんて初めて触った」

「頑張って働いて節約すれば、お金ガッポガッポ」


そんな彼等を見て、タルタはあきれ顔で「懲りない奴らだなぁ」

「何だかなぁ」とエンリの仲間たち。


するとタマがエンリに「それより王子、猫との約束、忘れて無いわよね?」

「何だっけ?」

そうエンリが言うと、タマは「協力したらマグロの切り身をお腹いっぱい食べさせるって」


エンリは「そうだった。って事で、ジュネーブ市の予算で猫のご馳走、よろしく」と長老たちに・・・。

街の人たちは口を尖らせて、言った。

「いや、先ず人間が先だろ。俺たち散々我慢してきたんだから」

「そうやって嵌めを外すから貧乏になるんだ」と長老たち。

エンリは渋る長老たちの肩を叩いて「まあ、一日くらいいいじゃん。明日からまた節約すりゃいいんだから」



その日のジュネーブでは、街をあげてのドンチャン騒ぎとなった。

大皿に山盛りの切り身に舌鼓を打つ猫たち。

市民たちも久しぶりのご馳走。仲間同士で輪になってトランプに興じる若い男女。

自家製のパイやケーキを持ち寄る女性たち。

酒を酌み交わしてわいわいやる男性たち。

楽器を奏で、ダンスに興じる。猥談や恋バナで盛り上がり、何組ものカップルが生まれる。


そんな彼等を見て、リラが「楽しそうですね」

「街の人たち、良かったですね」と若狭。

「けど、明日からまた禁欲の日々なんだろうなぁ」とジロキチ。

アーサーが「規則で縛る訳じゃ無いから。どの程度我慢するかは自分で財布と相談して決める事だよ。自分の運命を動かすのは神様じゃなくて自分自身だ」

「けど、やはり倹約は必要でござろう」とムラマサ。


エンリは言った。

「まあ、人が働いて作れる量には限度があるからね。豊かさには限界がある。けど、布みたいに全部機械で大量に作れるようになれば、その気になればいくらでも豊かに使える筈なんだよね。それでも使わず節約しつつ頑張って量だけ作っても、売れ残るだけだよ。そんな時代が来たら新しい考え方が必要になる。そしてその考えを創るのは、絶対に宗教なんかじゃ無い」

「けど、倹約する人としない人が居て、倹約しない人は貧乏になるわよね」とニケ。

「貧富の差って訳かよ。だから同じように節約を?」とエンリ。

ニケは「じゃ無くて、無分別に浪費する奴を煽って、カモにするのよ」

仲間たちは困り顔で「おいおい」


カルロが「逆に、家族が金持ちだと倹約しなくていい立場なんだ・・・って事で、気前よく金を使うのがステータスになる」

「ステータスなんて必要か?」とタルタ。

カルロは「必要ですよ。だって女性にモテるじゃないですか」

「結局それかよ」と仲間たちは残念顔で言った。

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