第215話 オークと人間
教皇庁の支援を受けて攻め込んだヴェスヴィオ公の軍を破ったエンリ王子たちとポルコ海賊団、そして反乱奴隷たち。
その戦いの中でポルコは、キングオークの姿を現わした。彼は人化魔獣だったのだ。
戦いが終わった館の跡地。戦場の片付けが始り、ジーナが操縦する飛行機械も着陸する。
そしてポルコは人の姿に戻る。
ポルコの手下たちが彼の所に来て、あれこれ言う。
「団長って・・・」
「ジーナさんは知ってたの?」
ポルコは「知ってたも何も、俺はジーナを主として人化したんだぞ」
彼女の祖父、賢者ピッコロが、レオナルドの発明した飛行機械の改良板を設計すると、孫娘のジーナを連れてこの地に移住し、その制作に取り掛かった。
実験を重ねていた時、無人の状態で宙に浮く試験機を一匹のキングオークが見ている事にジーナは気付いた。
ジーナがキングオークに話しかけると、彼は言った。
「それで空を飛ぶのか?」
「そうよ。完成すればね」とジーナは答えた。
「俺でも飛べるか?」
そう問われたジーナは「そんな大きな体では無理ね」
キングオークは「人化の魔法というのがあると聞く。それで人間になれば、空を飛べるか」
「空を飛びたいの?」
そう問われて、彼は「飛べない豚はただの豚だ」
「人化というのは人間を主と仰ぐのよ。私の使い魔になる?」とジーナ。
「お前を主として、それで空を飛べるなら」
それがポルコだった。
ジーナは祖父に頼んでポルコに人化の魔法をかけて貰った。
ポルコのテストパイロットとしての、また開発費稼ぎのための肉体労働のアルバイトの日々が始まった。
一緒に飛行機械の制作を進め、遂に機械は空を飛んだ。
そしてジーナとポルコの周囲に多くの人が集まる。
そんな時、ヴェスヴィオ公が剣闘士奴隷たちを連れて、十字軍復興の軍を上げるため、この地に来た。
ヴェスヴィオ公はピッコロに軍用飛行機械の制作を要求し、ピッコロはそれを拒んで殺された。
その時、ジーナはポルコに言った。
「お願い、ポルコ。祖父を助けて。その代わり、あなたの願いを一つだけ叶えてあげる」
ポルコが駆け付けた時、ピッコロは既に殺されていた。
ポルコは公爵の軍と戦い、彼の仲間や奴隷たちも参加して、公爵とその部下をこの地から追い出した。
そして、ジーナが約束として何を望むかと問うた時、ポルコは言った。
「自由が欲しい」と・・・。
「そんな事が・・・」
話を聞いて唖然とするカルロ、エンリと仲間たち、そして海賊たち・・・。
「それで、決闘はどうする?」
そうポルコの手下たちに問われて、カルロは「もちろんやります」
すると、ヤンが言った。
「あの、カルロ。念のために確認するけど、決闘で賭けるのって、もしかして勝ったらジーナさんと結婚するとか思ってた?」
「違うの?」とカルロ、怪訝顔。
ヤンは「じゃなくて、ジーナさんの代わりに戦って、勝ったらポルコ団長がジーナさんと結婚を」
カルロ唖然。そして「何じゃそりゃーーー」
ジーナは言った。
「私、ポルコが好きなの。なのに、願いを叶えてあげるって言った時、ポルコったら、私じゃ無くて自由が欲しいって言ったのよ。酷くない?」
「じゃ、お前等が今までポルコと決闘して負けたのって・・・」
そうカルロが海賊たちに問うと、彼等は声を揃えて言った。
「だってジーナさんに幸せになって欲しいだろ」
カルロはあきれ顔で「何なんだよ、ここの奴らは」
ジーナは「決闘、止める?」とカルロに・・・。
だが、カルロは「やる。俺、ポルコに言いたい事がいっぱいあるんだ」
2基の小型の飛行機械が用意される。一方は作り直したポルコの赤い機体。
ポルコとカルロは、双方の機体に乗り込む。
上部の回転翼が高速回転し、宙に浮く。
どんどん上昇しながら距離を保ち、向かい合って同時に銃の引き金を引いた途端、ポルコの機体はカルロの目の前から消えた。
「回り込まれる」
カルロ、急旋回して背後に回ったポルコ機を正面に捉える。
ポルコ機はまたカルロの前から姿を消し、カルロ機の背後に現れて銃撃。
カルロは急旋回。
カルロは呟いた。
「相手の背後に回った側が勝つんだよな。後ろには銃が無いから。だけど、これなら・・・」
カルロは思い出した。
(回転軸が一つだと反動で振り回されて機体がぐるぐる回る)
ポルコ機が目の前から姿を消した。
(背後に回ったな。だったら・・・)
カルロは二つのレバーの一方を一瞬落とす。
回転羽根の二つの回転軸の一方が回転速度を落とし、強く回転し続ける方の回転羽根の反動で機体が振り回され、半回転して背後を向いた。
カルロは背後に回り込んだポルタ機を目の前に捕え、二人は同時に銃の引き金を引いた。
二つの飛行機械は同時に銃弾を受けて、相打ちとなった。
墜落した二つの機体から出て来るポルコとカルロ。
「まだやるか?」とポルコ。
「当然」とカルロ。
そして二人は殴り合いを始める。
殴り合いながら、カルロは言った。
「何で彼女を求めない」
ポルコは「欲しいならお前が手を出したらどうだ」
「あんないい女が自分に惚れたってのに放置とか、イタリア男の主義に反する」とカルロ。
「惚れられたからって手を出すのは男の美学に反する」とポルコ。
カルロは「そんなプライド、犬の餌にでもしちまえ」
ポルコは「せめて豚の餌と言え」
「彼女は大人気だ」とカルロ。
「女はトロフィーじゃないぞ」とポルコ。
カルロは「彼女がお前に惚れてるから、みんな我慢してるんだ」
ポルコは「奴らに惚れてる女だって居る」
「上に居る奴が動かないと、みんな動けず迷惑する」とカルロは言った。
「そんな人間の都合など知った事か」とポルコは言った。
ポルコのパンチを、カルロは持ち前の素早さで軽くかわし、カルロはポルコにパンチを繰り出す。
だが頑丈なポルコに、カルロのパンチは全く効かず、三日間戦い、疲れ果てて同時にダウン。
二人は泥のように眠り、ジーナの膝枕の上で目を覚ました。
ポルコが目を覚ました時、自分の顔を覗き込むジーナの涙が、自分の顔を濡らしている事に気付いた。
「ポルコ、そんなに私が嫌いなの?」とジーナが呟いている。
そんな二人を見て、リラが言った。
「ポルコさん。私、エンリ王子に恋をして人化の魔法を受けました。けど、王子は人魚の姿でも私を受け入れてくれた」
「ってか王子は変態・・・」
そう言いかけたタルタの後頭部を、ニケはハリセンで叩いた。
そしてリラは「人は誰かを好きになります。王子は最初、私に振り向いてくれなかった。けど、私が正直に本当の気持ちを伝えたら、その気持ちを愛してくれたんです」
「そうだっけ?」
そう言ったジロキチの後頭部を、ニケはハリセンで叩いた。
ポルコは言った。
「ジーナの気持ちは嬉しい。俺もジーナは好きだ。けど俺にはもう嫁が居るんだ」
「はぁ?・・・」
メスのオークが出て来てポルコに寄り添う。
メスオークの足元に何匹ものオークの子ども。
ポルコは「俺の嫁だ」
「な・・・」
ジーナ唖然。カルロも唖然。
「お前等、知ってたの?」
そうカルロが周囲の海賊たちに尋ねると、彼等は「メスのオークだとは思わなかったけどね」
とんでもなく残念な空気の中、ポルコは言った。
「俺は空を飛びたかったから人化を受けた。人間になりたかった訳じゃない。飛べない豚はただの豚だ」




